71 〈幻夢(VR)〉で相槌を打つ
「それでは『試練』を始めよう」
グリームニルに付いて工房へと向かった俺は、準備を行うグリームニルを手伝いながら、言葉を待つ。
家の地下に広がる広大な空間は、グリームニルとドラゴン、【拡大】を使用した俺と、エメロード、マグダレナ、仔狼達が揃っても、まだまだ余裕がある。
「まずは『試練』についての説明だ。お主はこれから集めた素材を使い、一振りの武器を鍛えよ。種類は問わぬ。我はその相槌を打つ。我が伝えた業を振るい、お主の魂を刻み込め!」
なるほど、いよいよ試練の始まりということか。俺は集めてきた素材を再度取り出し、思案する。
師匠から「武器」という指定があったので、まずは鉱石からかな。俺は最初に〈融合鉱〉の中から、虹色に輝くものを取り出した。
今回手に入れた〈融合鉱〉の中でも、オリハルコン、グラムタイト、ヒヒイロカネが混じり合った、〈虹大馬士革鉱〉と呼ばれるものだ。更に、腰から〈西方の焔〉を抜くと、柄や鍔、拵えを丁寧に外していく。
「ふむ…? その剣をどうするのだ?」
「素材として鍛え直します」
俺の言葉に、グリームニルは眉を上げ、
「ほほう! 既にあるべき魂を鍛え直すというのか?」
と言った。俺は頷き、
「この剣は友に託された品であり、長い間苦楽を共にした相棒です。エルフの技術の粋が籠められた銘品ですが、〈流銀鈦〉という希少な合金とラルダマスカスとの合金、生み出すことができれば、それは他に類を見ないものに仕上がるかと。それに、この剣の『魂』はここにあります」
俺はそう言って、取り外した鍔の部分を指す。そこには古代エルフ語で装飾された台座に納められた、金緑石が輝いていた。
「見せて見よ。…『我を持ち、我と共に歩む同輩に輝かりし栄光を』か。エルフに伝わる祝詞だな。アレキサンドライトは天に輝く二つの太陽、そして月の輝きを表す。これはエルフたちにとっても大切な品。お主、余程見込まれたのだな」
目を細めたグリームニルの言葉に、俺はこそばゆい気持ちと共に、託してくれたレイアーティスとオフィーリアを想い、束の間の間、心地よい感情に身を委ねた。
「それで、どのように鍛えるのだ?」
「やはり、剣でいこうかと。鍔はこのまま使いたいですし、俺『専用』の剣として、少し考えていることがあります」
グリームニルにそう答えると、俺は準備を始める。まずは老竜に頼んで炉に火を入れてもらう。
グリームニルの下で常に惰眠を貪るこのドラゴンは、名をフレキゲルと言い、鍛造を行う上で重要な役目があるのだが、まずは素材を溶かし、鋳塊へと加工する。
フレキゲルの炎で火の入った炉の中では、膨大な熱を発する液体から、炎が立ち昇っている。あの液体は、〈水晶樹〉の蜜に、メルト・ワームの溶解酵素を混ぜ込んだ特別なものだ。
その蜜のプールに〈西方の焔〉の刀身と、〈虹大馬士革鉱〉を丁寧に沈める。蜜から立ち昇る甘い香りと、空気の焼ける香ばしい匂いが混じり合い、お菓子を作っているような気分になる。
この雰囲気には慣れないな、と思いつつ、俺は左手を変化させ、触手の様に伸ばすと、そのまま直接蜜の中へと差し入れ、直接攪拌を始めた。
熱さは感じるが、決して耐えられないものではない。蜜油の中で徐々に形を失う金属を、粘土細工のように捏ね回し、混ぜ合わせていく。
「なんと…」
流石のグリームニルも俺の行動に言葉を失う。そりゃそうだ。普通はこんなことをすれば火傷では済まない。溶解するに任せ、溶けた金属を型に流し込んで冷却することでインゴットにするのだ。
その後、鍛造することで不純物を取り除き、『混ぜ合わせる』のだが、今回は更に念を入れた形になるわけだ。
俺は「手」の感触だけを頼りに、攪拌作業を進めていく。やがて、完全に混じり合ったと思えた所で、触手を引き抜き、形を変えて方形の容器の様にすると、そこに完全に溶け、虹色のペーストとなった金属を流し込む。
「エメ、頼んだ」
俺の言葉に、エメロードはペーストに向かって範囲を絞り込んだ〈翠竜の吐息〉を吹き付ける。蜜が蒸発する気化熱により、急速に固まるペースト状の金属。それほど時を置かずに完全に固まり、元に戻した俺の左手には、出来上がったインゴットが虹色の輝きを放っていた。
「良し。次は鍛錬だ」
俺は出来上がったインゴットを、金床へと運ぶ。
この金床も特別製のもので、靭性も剛性も最高峰のアダマンタイトをベースにグリームニルが作り上げた合金製のものだ。
その表面は幾度となく使われているとは思えないほど滑らかで、まるで鏡のようである。
俺はインゴットを金床の上へと置き、
「フレキゲル、お願いするよ」
と声を掛ける。フレキゲルは半開きの瞼を開くと、インゴットに向かってブレスを放つ。
これがグリームニルの鍛造方法だった。普通の炎では溶かすこともできぬ、希少金属。それすら溶かす竜の息吹によって熱せられた金属を鍛えることで、グリームニルは武具を作り出してきたのだ。
「ヴァイナス、焼き入れ用の蜜がないではないか」
グリームニルは、俺が焼き入れに使う〈水晶樹〉の蜜を用意していないことを指摘する。初歩的な失敗を犯した俺に呆れた目を向けるが、俺は肩を竦め、
「冷却はエメにお願いするんです。先程の応用ですよ」
と答えた。その言葉に、再び見開かれるグリームニルの瞳。
そう、これが俺の導き出した答え。エメラルド・ドラゴンの吐息によって冷却すれば、蜜や油、水や雪を使うよりも遥かに早く冷却できる。
俺の答えに、グリームニルは感嘆の光を浮かべた瞳で俺を見つめ、ゆっくりと頷いた。
「それは考えなんだ。竜の吐息にて魂を燃やし、竜の吐息にて宥める。魂はより強靭に鍛えられ、強き刃となる。ヴァイナスよ、我は楽しみで仕方がないぞ」
グリームニルはそう言って笑みを浮かべると、愛用の大鎚を手に取った。今までは俺が相槌を打っていたのだが、今回は逆だ。俺は再び左手を変化させインゴットを直接掴むと、フレキゲルの炎によって赤熱したインゴットに鎚を振るう。
キィィィン
澄んだ音と共に、インゴットから火花が散る。グリームニルが絶妙の間合いで鎚を振り下ろす。部屋の中に規則的に響く槌の音は、夜が明けるまで続いていた。
鍛錬には3日を要した。グリームニルの相槌を以てしても、それだけの時間をかけたのは、偏に俺たちが鍛錬したこの金属が、類稀なる素材であるからだった。
それは、鍛錬をしている最中に告げられた一言だった。
「ヴァイナスよ、折角だ。他の鉱石も混ぜ込んでみんか?」
「え? 今からですか?」
既に鍛錬は始まっており、今からでは行程的に無理がありそうなのだが。
「なに、これから鍛錬をしても充分に間に合う。それよりも、鍛冶師としての『欲』が出てしまった。本来であれば、お主が集めた素材だけで造るのだが、今回は『特別』だ。当然、『試練』の難易度は高くなる。どうだ?」
グリームニルはそう言って口元に笑みを浮かべた。俺は迷わず頷いた。この機会を逃せば、二度とない好機に否やはなかった。
「やりましょう」
「それでこそ、我が弟子よ!」
グリームニルはそう言って笑い、早速奥の倉庫から、〈水晶鉱〉や〈蒼海鉱〉、果ては〈神金剛〉まで持ち出して、次々と炉に放り込んだ。そして、
「ほれ、早く掻き混ぜよ!」
と言われ、慌てて左手を触手に変え、攪拌する。先に作っていたインゴットも放り込み、混ぜ込んでいく。
触手に感じるのは、様々な金属が溶け混ざる不思議な感触。硬さも質感も違う金属が混じり合い、一体となっていく過程の変化は、他では味わえないものだった。
やがて完全に混じり合ったペーストをエメロードに冷却してもらい、インゴットとなった金属を鍛錬していく。
俺は鎚を振り下ろしたが、
キィィィィィィィン
という音と共に、鎚が弾かれてしまった。続いて振り下ろしたグリームニルの鎚も、同様に弾かれてしまう。
「これは、一筋縄ではいかんな…!」
グリームニルは嬉しそうに笑う。俺も歯ごたえのある相手に、自然と笑みを浮かべ、より一層の力を込めて鎚を振おうとすると、グリームニルに止められた。
「師匠?」
「ここは、我も本気を出そう」
グリームニルはそう言って、今まで使っていた大鎚ではなく、壁に飾られた戦鎚を手に取った。そして、
「フレキゲル」
と声を掛けると、フレキゲルは一声啼き、その姿は光となって戦鎚に吸い込まれていく。
グリームニルが戦鎚を構えると、鎚の部分が炎に包まれた。これは…!
「志を共にするものの力を借り、合一し、振るう。これぞ我が秘奥義也!」
グリームニルはそう言って相槌を打つ。戦鎚が打ち下ろされる度、炎が舞い上がり、鍛錬と共に熱が加えられる。
俺はグリームニルに遅れないよう鎚を振るいながら、「手」の中で形を変えていくインゴットに、沸き上がる喜びを抑えることができずに、笑い声を上げた。
こうして普段では考えられない程の鍛錬を経て、漸く刀身が完成する。ここでも俺の独自の方法を取った。
素延し、形を整えた刀身は、柄までが一体となっている一鋳型なのだが、この時、柄の上部を直接左手で握り込み、俺の掌にフィットするように加工したのだ。更に左手を「右手」へと変化させ、今度は下部を握りやすいように加工する。
これは片手で使う場合は右手で、両手で使う場合は左手が下にくるからだ。
今までは利き手の左手で使うことが多かったが、今は〈捻双角錐の掌〉になったので、形状を変化させることも多い。それに、左手で持つ武器は強化ができるので、比較して威力の低い武器を持った方が良いことが分かっている。
この剣はヒヒイロカネも使っているので、〈聖餐の拳刃〉と同じく、俺の成長に合わせて威力が増していく。そのため、片手の時は、右手で使った方が良いのだ。
当然、手袋や篭手を着けていれば握り具合は変化するが、それでも握り込む時の形は大きく変化しない。これでよりしっかりと握り込めるはずだ。
本来であれば、こんなことはできない。熱に対しても高い抵抗力を持つ、〈捻双角錐の掌〉だからこそできる芸当だった。
「お主は、本当に及びもつかないことを考えおる。この方法なら、お主の手に『最も』馴染む柄になるわい。正にお主の『魂』といえるな」
「それでは師匠、『試練』は合格ですか?」
「愚か者! ここで気を抜いては折角の『魂』が歪んでしまうわ! 成否など気にせず、己が力を全て込めるのだ!」
グリームニルの誉め言葉に、思わず聞き返した俺は、一喝されたことで気を引き締め直した。だが、自然と口の端に笑みが浮かんでしまう。そっと盗み見れば、グリームニルの口元にも笑みが浮かんでいる。
このまま一気に鍛え上げる!
そこからは、俺は脇目も振らずに鍛錬へと集中する。二頭の竜、そしてグリームニルと俺の四人五脚による鍛錬は、一昼夜が過ぎて尚、留まることなく槌音を鳴り響かせていた。
どれだけの時間が過ぎたのか、一心不乱に鍛錬へと勤しんでいた俺が、作業の終わりに気付いたのは、目の前で燦然と輝く、一振りの長剣を構え、掲げている時だった。
それは蒼く薄らと透き通る、不思議な刀身をしていた。刀身の中には虹色の光が、まるで血脈の様に流れている。
以前の剣に使われていた鍔の部分は、新たに施された象嵌や埋め込まれた宝石と共に、刀身と見事な調和を奏でていた。
「できた…!」
俺は剣を掲げたまま感無量となり、ただ一言、それだけを口にすると、そのまま剣を見つめ続けた。
「見事だ…! ヴァイナスよ、よくぞここまでの『魂』を鍛え上げた! 我の『鍛え』の中でも三指に入るこれだけの業、よくぞ成し遂げた。この『試練』、見事に成し遂げたぞ!」
グリームニルの喜びが混じった声に、俺はハッと剣から視線を逸らした。逸らした視線の先には、疲れ果て、折り重なるように眠るエメロードとフレキゲルの姿があり、その傍らには、黒馬の姿で横たわるマグダレナに寄り添う、スマラと仔狼たちの姿があった。
皆もありがとう。お疲れ様。
俺は心の中で感謝の言葉を述べる。彼らの協力がなければ、この剣を鍛えることはできなかった。報いるためにも、後で何か作ってあげたいな。折角鍛冶や細工の業を収めたのだし。
「それでヴァイナスよ。この剣の銘はどうするのだ? 最早依然の剣とは全く別物であるのだが」
「え? 別に〈西方の焔〉で良いのでは?」
「それでは剣の方も納得すまい。新たに『命』を授かったのだ。相応しき銘を与えねば、その『魂』も曇るというもの」
「剣が納得って、剣は剣でしょ…」
「何を言っておる。その剣には『魂』があるのだぞ。最早只の武器ではない」
え?
グリームニルの言葉に、俺は手の中の剣をまじまじと見つめた。こいつに命が宿っている?
「勿論、剣であることに変わりはないがな。一部の〈伝説品〉以上の魔具には、知性や意志、魂を持つものも存在する。お主の鍛えた武器は、正に『魂』を得たのだよ」
グリームニルの言葉を肯定するかのように、剣は刀身を明滅させた。そういえば、完成してから結構な時間が経つのに、掌から伝わる人肌のような温かさは、不思議に感じていた。
まさか、命の宿る剣は本当に生命を持つのか? 剣を見つめる俺に、グリームニルは、
「今はまだ自我らしいものは生まれておらぬ。だが、生物と同様に経験し、時が経てば明確な自我も出てくるだろう。場合によっては所有者に抗うようなものもおる。覚悟しておけ」
と言った。その言葉に思わず顔が引き攣った。折角作ったのに、剣に嫌われて使えないとか悲しすぎる。どうやって付き合っていけば良いのか…。
「あまり難しく考えることはない。お主の思うままにやれば良い。所詮、人は自らが思うように生きること以外できぬものよ。その生き様が意に沿わねば離れ、意に沿えば共にある、そういうものだ」
グリームニルの言葉に俺は頷く。確かに、考えていても仕方がない、か。どんなに強い武器でも、ゲームによっては『性質』の違いで装備することができなかったりするし、知恵ある(インテリジェンス)武器に助けられる、或いは振り回される話は、古今東西の伝説、伝承、物語の中でも枚挙に暇がない。
折角のゲームなのだし、この機会をポジティブに考えよう。俺は改めて剣を見つめ、
「世話になるよ。これから宜しくな」
と言う。剣はそれに答えるかのように明滅した。
「それでは、銘を決めてやれ。銘を決めたら、鍔元に刻んでやらねばな。…ふむ、お主の名、ヴァイナスはどう綴る?」
俺はグリームニルに問われ、キャラクター作成時に考えた、「Vinuth」の綴りを伝えた。これは響きだけでつけた造語なので、特に意味はない。
「なるほど、今は使われておらぬ古の言葉で『堕すること能わず(Vi un thuye)』とは。響きからもしやとは思っていたが、お主の親は中々の識者であるのだな」
え? 初耳なんですけど…。響きだけで適当に振った綴りが、そんな意味があるのですか?
「ならば、それに肖った銘の方が良いだろう。この剣はお主が鍛え、お主のために造られたのだから」
グリームニルは頷きながらその長い髭を扱いた。そして暫く瞑目すると、
「…同じく古きより伝わる言葉に『精進とは、陽の光に照らされ、月の光に導かれるもの也』と言うものがある。日夜を問わず努力する者は、天に輝く四つの陽月に見守られる、つまりは常に努力を怠るべからず、と言う格言だな」
などと言い出した。俺は何が言いたいのかが分からず、キョトンとする。
「ヴァイナス、お主の名は体を表していると思わないか? 目的に向けて努力を惜しまず、困難にも果敢に立ち向かっていく。お主が鍛えた剣だ。肖った名が相応しいだろう」
グリームニルはそう言ってニヤリと笑う。手放しの称讃に、俺は視線を逸らし、頬を掻く。俺としては出来ることをやっているだけなのだが…。
「そうさな、刀身に宿る燦煌、それを天空より遍く照らす陽月の光に喩え、〈肆耀成す(フィアリヒト・)焔〉と言うのはどうだ?」
グリームニルの言葉に、俺の手の中にある剣から、炎の様に光が立ち昇る。
これは、名前を気に入っている、ってことか…?
俺はしげしげと剣を見つめた。刀身からは光の焔が噴き出し、喜びを表しているようだ。
「そうか、名前を気に入ったのかい?」
俺は剣にそう尋ねると、刀身が一際強く煌めいた。肯定しているようだな。俺は頷くと、グリームニルへと向き直り、
「どうやら気に入ったようです。その銘、有難く頂戴致します」
と伝える。すると、グリームニルは嬉しそうに笑い、
「うむ、うむ。であれば、早速刻むとしようか!」
と言って、そそくさと道具へ手を伸ばす。俺は苦笑しつつ、水を差すのも憚れるので、グリームニルに合わせて準備を始めた。作業もあと少し。全てが終われば、いよいよ『試練』達成だ!
「まったく、何という剣だ! 自儘が過ぎるぞ!」
グリームニルが顔を顰めつつ、憤っていた。俺は苦笑しつつ、柄に滑り止めとなる、柄糸を巻き付けていた。グリームニルの憤りの原因は、〈肆耀成す焔〉にあった。
銘を決めたことに気を良くしたグリームニルが、銘を打とうとすると、突然〈肆耀成す焔〉が鋭い光を放ち、『威嚇』し始めたのだ。最初は意味が分からなかったのだが、俺が鏨を取ると、今度は柔らかな光を発し、まるで擦り寄るように感じた。〈肆耀成す焔〉の『態度』にグリームニルは激昂し、銘を打とうとするが、〈肆耀成す焔〉は頑として受け入れない。
その頑なな態度に、然しものグリームニルも諦め、俺はグリームニルの刺すような、恨めしそうな視線を背に受けつつ、〈肆耀成す焔〉が発する、柔らかで心地よい光に包まれながら、銘を打った。
「こ奴は本当にお主に懐いておるのう。我も鍛錬したうえ、銘も贈ったというのに…」
未だにブツブツと愚痴るグリームニルから視線を逸らし、黙々と柄糸を編み込んでいく。柄糸には、シェアトから貰った髪と、この『世界』に来てから伸ばしっ放しだった俺の髪を使った。邪魔なので、首の後ろで無造作に結んだ腰近くまで伸びた髪を、左手で肩口の所で切り揃え、束ねておく。
シェアトの金糸のような髪を束ねた編糸と、俺の銀髪を束ねた編糸を交互に編み込んでいく。青く透き通る剣に、金と銀のコントラストは良く似合っていた。
柄糸を巻き終わり、柄頭に装飾を兼ねた留め金をあしらい、とうとう〈肆耀の焔〉が完成する。
「できた…!」
俺は思わず呟いた。グリームニルも俺の声を聞き、近づいて来た。
「おお…。見事だ…」
グリームニルの感嘆の声に、〈肆耀成す焔〉も嬉しそうに光を放つ。次は収めるための鞘が必要なのだが、どうしたものか。
作ることは可能だが、俺には〈無限の鞘〉がある。軽くて便利なのだが、命を持つという〈肆耀成す焔〉を、他の武器と一緒に収めて良いものかどうか…。
「どうした? 完成したのに浮かない顔をして」
グリームニルに問われ、俺は考えていたことを伝える。
「ふむ、確かに他の武器と共に、というのは寂しい所であるな。とはいえ、取り回しを考えると、腰に何本も鞘を持つのは支障がある」
グリームニルはそう言って目を瞑り、思案を始めた。俺としても、折角自らで鍛えた武器なのだ。どうせなら特別な鞘も作ってみたいと思っている。
うん? 別に「鞘」に拘らなくても良いか?
そこで俺は、以前読んだ小説の中で、主人公が手首に填めた腕輪から剣を召喚していたのを思い出し、できないかと考えた。
「師匠、こういったものは創れますかね?」
俺はグリームニルに相談した。グリームニルは髭を扱きながら、
「できぬことはないが、折角の姿を見せぬのは勿体なくはないか? 鞘も拵えの一つ。刀身に見合ったものにするべきだぞ」
「それでしたら、両方作りますか。探索中は、どうしても長さが邪魔をする時がありますし、腕輪から召喚すれば、不意を突くこともできるので」
「そうだな。時と場合に合わせて衣装を変えるのも、特別な『格』を持つ武具には良くあることだ」
グリームニルの言葉に、俺は早速道具を用意する。疲労は極致に達していたが、ここまでやったんだ。一気に進めてしまいたい。
グリームニルにも伝わったのか、素材の吟味に入っている。俺達は休むことなく、〈肆耀成す焔〉を着飾る最後の仕上げへと掛かるのだった。




