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54 〈幻夢(VR)〉の街で腕試し

「良かったのか? ローズマリィの分はともかく、俺の装備まで」

「構わないさ。素材の殆どは自力で手に入れたものだし、テフヌトとの契約だから、料理を作って登録するだけだし」

「そうか。調味料が出来上がったら、俺も腕を振るうことにしよう」

 ゼファーはそう言って腕を鳴らす。俺はテフヌトに頼んで、ゼファー、ロゼ、ジュネのマジックアイテムを製作してもらうことにした。これからの探索を考えて、強化をできる時にしておかないと、困難が増すだけだからだ。

 とりあえず武具の強化からお願いしておき、他の装備品も順次増やしていく予定だ。

 テフヌトは料理人が増えたことで〈饗宴の食卓掛〉がより充実していくのが嬉しいらしく、マジックアイテムの作成に没頭している。〈妖精郷〉に戻ると必ずいるのだが、それで良いのか試練の守護者。

「それにしても、あのカタナは使いたかった…」

「仕方ないだろ、装備できなかったんだから」

 ゼファーは最近、ことあるごとに零す愚痴を吐き、俺は定型文と化した返しをする。



 ゼファーが言っているのは、俺が手に入れたアディオールのカタナのことだ。ズォン=カの皇族であるアディオールのカタナは、皇族以外の者が使用すると呪われると言われていたのだが、俺は問題なく装備することができ、スマラも特に呪いのようなものは感じなかった。

 そこで、カタナが使いたいと言っていたゼファーに譲ろうとしたのだが、ゼファーが手に取った瞬間、火花を散らして手が弾かれたのだ。

 痛みに呻くゼファーの姿に呆然とするが、気を取り直して俺が触れてみるが、特に変化はない。持つことも鞘から抜くこともできる。

 ゼファーが改めて持とうとするが、指先が触れた途端、火花が散るので慌てて手を引っ込めた。

「おいおい、これは何なんだよ」

「いや、俺も驚いている。普通に使えていたから、こんなことになるとは思わなかったよ」

「確かに、普通に抜き差ししてるからな…。ヴァイナス、お前ズォン=カの皇族なのか?」

 ゼファーの問いに、俺は首を振る。そんな設定はどこにもない。

「不思議ね。〈盗賊〉限定の装備とも思えないし…。そもそも限定装備ならスマラの〈鑑定眼〉で分かるでしょう?」

 ジュネは首を傾げつつ、スマラに問うと、

「そうね。態と隠されているのでなければ、識別できるわね」

 わざわざ隠すとは思えないけど。カタナを見つつ、スマラがそう答える。俺もそう思う。確かに切れ味強化の〈付与〉はされているが、それ以外の特殊な能力はないらしい。強いて言えば素材がヒヒイロカネであることぐらいだ。

「きっとあれだわ! ナンパ男には使えない呪いが掛かっているのよ!」

 ロゼの言葉に、ゼファーはガクリと首を落とす。ロゼ、容赦なさすぎ…。

「冗談はさておき、何でゼファーが使えないのかな? 所有者限定のエンチャントはされていないんだよな?」

「ええ、それは間違いない。理由はさっぱりよ」

 俺たちが首を捻っていると、リィアが俺の袖を引く。

「? リィア?」

『このカタナ、ヴァイナスと同じ雰囲気がある』

「俺と同じ雰囲気?」

 俺の問いに、リィアは頷く。どういう意味だろう?

「…あ、もしかして」

 ロゼが何かを思いついたようだ。

「ねぇ、もしかして、このカタナ国別管理なんじゃないかしら?」

 その言葉に俺はハッとする。確かにあり得る。

 オーラムハロムは全世界で同時にプレイできるVRMMOだが、管理に関しては国ごとに行われている。大本の管理システムはアメリカにあるのだが、細かい管理は国ごとに設置されたシステムで管理しているらしい。

 この国ごとのシステムに特徴をつけるためなのか、国別限定の装備と言うものがあるらしいのだ。使用できるのは、AGSが登録された国の者のみ。他の国で登録されたAGSの者には使用できない仕様だ。

 国別限定アイテムはその国の特色を出すものが多く、大半がマジックアイテムとなっている。確かにカタナは日本の武器だし、可能性は高い。

「そう言われてみれば確かに可能性は高い。カタナは日本の武器だしな」

「ってことは、俺はカタナを使えないってことか…?」

 ゼファーが泣きそうな情けない声を出す。サムライに憧れるゼファーとしては、アイデンティティーの崩壊に繋がるといっても過言ではないようだ。

「大丈夫だろ。このカタナは限定でも、他のものがそうだとは限らないし。そもそも、お前野(グランド)太刀(シャムシール)使ってるじゃないか」

 それだってカタナだぞ。俺の答えに、ゼファーは顔を上げる。

「そういえば、そうだったな。けど、やっぱり悔しいぞ」

 まぁ確かに。日本の特色を出すのにカタナは分かり易いし、他にも銘入りの名刀なんかは、国別限定アイテムで用意されていそうだ。村正とか正宗とか。

「俺、ムラサマブレードが使いたいんだけどなぁ」

「その名前なら、アメリカ限定装備でありそうだけどな」

 黎明期のアメリカ発祥のRPGで、MURASAMAと表記されていたものがあったらしく、当時は割と有名な話だったらしい。まぁジョークアイテムが好きなアメリカなら、作っていてもおかしくはないが。



「まぁ、あのカタナが使えない事実は変わらないんだから、諦めろ」

 取り敢えず話を切り上げるため、事実を突きつける俺の言葉に、再度首を落とすゼファー。可哀想なので、テフヌトに頼んで、カタナを作ってもらうか…。

 俺たちはその後も雑談を交わしながら、以前は目の前を通り過ぎただけだった、〈闘技場〉へとやってきた。俺が〈闘技大会〉への登録を行うためだ。ガデュス達も登録しようと思ったのだが、早速受けた依頼の関係で、参加が難しいので断念したのだ。

「参加できないのは心苦しいのですが、主殿の活躍を期待しております!」

 ガデュスはそう言って激励してくれた。俺はガデュス達も頑張れと声を掛け、リィアの買い物に付き合うというガデュス達と別れると、早速闘技場で〈闘技大会〉参加の手続きを行う。

 〈闘技大会〉は、受付さえ行えば誰でも参加できるイベントで、予選と本選とに分かれている。

 予選は全部で16のグループに分けられ、その中で上位8名が本選に参加できる。上位の資格は単純で、グループ内で戦闘を行い、戦闘を継続できる者が8名になった時点で、予選終了となる。

 選ばれた128名の本選出場者は、トーナメント形式で闘っていき、最後に残った者が優勝となるのだ。

 因みにルールはシンプルで、『降参』ありの実戦闘だ。武器は何を使っても良いし、魔法も何を使ってもOK。結果として相手を殺してもペナルティはないが、唯一『降参』を宣言した対象を殺してしまうと失格となる。

 範囲魔法を使う魔術師に不利なルールだが、予選では協力して闘うことも認められているので、うまく立ち回れるかどうかも予選突破のカギになるらしい。

 ある予選では、一対その他全員という闘いもあったらしいのだが、一人が全員倒して予選を突破したらしい。その人物はそのまま優勝したのだとか。そんな強者が現れたら、降参するしかないかもしれない。

 予選のグループはある程度均等に人数が配分されるが、参加者の人数によって大きく変わるため、もしかしたらその大会は、参加者が少なかったのかもしれない。

 そう思って確認すると、その人物の参加した大会は、盛況な大会の一つだったらしく、予選では100人以上を倒していた。…やっぱり降参だな。

 今回の大会も、参加者は既に千人以上いるらしいので、盛況な大会になると受付の人は笑っていた。今回はPCも数多く参加するだろうから、大会は例年以上にハードなものになりそうだ。

「予選のグループ分けはランダムだそうだから、同じグループになったら協力しようぜ」

 登録を終えた俺にゼファーがそう言って話しかけてくる。俺はニヤリと笑って、

「何故だ? 正々堂々闘おうじゃないか」

 と返す。笑顔のまま固まるゼファーを横目に、ロゼは上目使いで、

「私とは協力してくれる? 勿論、ヴァイナスが闘いたいっていうなら、全力を尽くすわ」

 と言ってきた。ジュネも、

「私としても協力したいところだけど、その辺りはあらかじめ決めておきたいところね」

 と言う。俺は苦笑して、

「冗談だよ。大丈夫、同じグループになった時には協力するさ。本選で対峙する時は、手を抜く気はないけどね」

 と言うと、三人はあからさまに安堵する。そんなに実力差があるとは思っていないのだが…。

「そういえば、マグは参加しないのか?」

「私はこっち」

 マグダレナがそう言って取り出したのは、騎獣登録証だった。マグダレナは俺にそれを渡しつつ、

「私はヴァイナスの騎馬として参加するの。登録お願いね」

 マグダレナの言葉に、三人の顔が引き攣った。確かに騎獣を使うこともルール違反ではないので、俺としては有難いが、マグダレナの実力を知る三人にとっては、只でさえレベルの高い俺が強化されることは、悪夢以外の何物でもないだろう。

「こりゃ、本選でヴァイナスに当たった時は、即『降参』だな」

「『蘇生』できるとはいえ、わざわざ死にたくはない…」

「こうなったら、ヴァイナスには優勝を目指してもらわないと」

 口々に俺には勝てないと零す三人に、俺は苦笑を返すしかなかった。マグダレナは早く早く、という風に俺の腕を取り、登録を促してくる。俺は頷くと、闘技場に備え付けの、使われていない厩舎へと移動し、マグダレナに人化を解いてもらう。黒馬になったマグダレナを連れて、騎獣登録を行う。

 騎獣と騎手を表すための大小揃いの布を受け取り、大きい布をマグダレナの首へと巻いてやる。もう一枚の布は自分の上腕へと巻きつけた。

 布を装備した時点で、受付の人が魔道具を使って印を刻んだ。これで、大会当日に騎獣を乗り換えたりといった不正を防ぐのだ。後は当日装備すればいいので、布を外し、腰鞄へと仕舞っておく。

 厩舎へと戻り、人化したマグダレナと共に、三人が待つ場所へと歩いて行く。

「ねぇ、これからどうするの?」

 影から姿を現したスマラが、俺の肩に乗りつつ聞いてくる。俺は頬を摺り寄せてくるスマラの喉を撫でつつ、

「そうだなぁ…。大会の開始は二日後だし、準備を兼ねて訓練しても良いんだが」

「今からやっても、大して変わらないでしょ? それよりも、買い物とかした方が良くない?」

「急いで必要な物ってあったか?」

「折角街に来たのに、嗜好品の類がまるで足りてないじゃない! お酒よお酒!」

 帝都だったら、良いお酒があるはず! そう言って俺の耳たぶを甘噛みするスマラに苦笑しつつ、俺は皆と合流し、スマラの願いを叶えるべく、美味しい酒を求めて、帝都の街へと繰り出すのだった。



 その後俺達は〈妖精郷〉に戻って訓練などを行いつつ、闘技大会当日を迎えた。会場である〈闘技場〉、〈闘技大会〉への参加者と、それを観戦するために集まった人々で溢れかえっている。

 今回の闘技大会は、二千名近い参加者が集まった。過去の大会と比べても、屈指の参加人数らしい。予選会場へと転移できるゲートの前には、腕に自信のある者たちが、予選の開始を今か今かと待ち構えている。

 〈探索証〉を身に着けた者も多い。探索者にとっても、この大会は是非とも参加したいもののようだった。

『結構やり手もいるわね。〈上位職〉の人もちらほらいるわ』

 影の中から、スマラが心話で伝えてくる。彼女は直接参加するわけじゃないが、どうしても近くで観戦したいと言ったので、影から出ないことと、決して手助けしないことを約束して、俺の影の中に潜んでいた。

『そりゃあいるだろうさ。そのうち何人が〈異邦人〉なのかが、気になるところけどな』

 俺の心話に、スマラは、

『〈上位職〉の中に〈異邦人〉は殆どいないわ。〈現地人〉ばっかり』

 と答える。俺は頷きつつ、周囲の様子をそれとなく観察する。PCの大半が俺たちと同じように低い等級の探索者であるだろうから、プレートから強さを図ることは難しい。それでも身のこなしを見ていれば、大体の強さは予想できる。

 大半の参加者は、5レベルに達しているかどうか、といったところだ。動きもそれなりだが、動きが硬い者も多かった。

 一方で〈上位職〉らしき連中は、分かり易く動きが良い。譬え魔術師であっても、駆け出しの戦士に比べて遥かに洗練されている。


 できるだけ、予選では強い人と当たりませんように…。


 俺は心の中でそんなことを願いつつ、ゲートの近くへと進む。10ヶ所に用意されたゲートの中の一つ、そこで予選の開始を待つことにした。俺たちはお互いの身体を支えてストレッチなどを行い、準備を整えていく。

 結局、ヴィオーラとは合流できなかった。リィアに確認すると、参加登録はしているようなので、大会が終われば合流できるだろう。もしかしたら、予選や本選で会えるかもしれないし。

 予選で当たったら、協力して本選を目指すか。そんなことを考えつつ、〈闘技大会〉の受付へと向かう。

 リィアたちは観戦席で観戦する予定だ。少々心配だが、今日は珍しくテフヌトが人化して一緒にいるので、大丈夫だろう。

 ガデュスは最後まで観戦したがっていたが、依頼を熟すために、泣く泣く出発していた。どうせなら、闘技大会後に傭兵団を結成すれば良かったと嘆いていたが…。

 因みに、誰が優勝するかの賭けも行われている。実際には、優勝するだけじゃなく、本選出場、一回戦突破、二回戦突破といった段階ごとに賭けることができ、予選の段階から賭けておく方が、配当が高くなるシステムだ。

 自身に賭けることもできるので、俺は取り敢えずゲン担ぎを兼ねて、自身の予選突破に賭けることにしたのだが、皆から言われて自身の優勝にも賭けさせられた。しかも上限一杯の金額、1000ゴルトで。

 確かにホワイトドラゴンの財宝で懐に余裕はあったが、上限一杯に賭ける必要はなかった気がする…。

 まぁ、賭けてしまったものは仕方がないので、頑張って優勝を目指すことにするか。折角のイベントだし、態と負ける気は毛頭なかったが。

 皆も自身の予選突破には賭けているようだ。ロゼとジュネは俺の優勝にも賭けていたが。やばい、こいつらも上限一杯に賭けてやがる。プレッシャーが半端ない。

『私も貴方の優勝に賭けたんだから、頑張りなさいよね!』

 スマラが影の中から、心話で激励してきた。お前まで俺にプレッシャーを掛けてくるのか…。

 予選のグループ分けは、不正を防ぐためもあり、全員が設置された10のゲートのいずれかを潜り終えた所で、無作為に転移された予選会場で闘うことになる。

 予選会場は、同じ造りのブロックで構成された都市のような形の場所で、俺たちは会場内に無作為で転移され、闘うことになる。人数が減り、予選突破者が決定すると、予選会場内に鐘が鳴って知らされる。

 帝都郊外の敷地に用意された16の予選会場の様子は、担当の魔術師が操る水晶( マジックアイテムで、特定の範囲の映像を映し、転送できる )から送られる映像を、観戦席から確認できる。

 どのシーンを映して送るかは担当者のセンスに任されており、上手い人は盛り上がりのある映像を送るので、人気があるらしい。

 一度転移してしまうと、予選が終わるまで外の様子は分からなくなる。他の参加者が次々とゲートへ姿を消す中、俺たちはゲートの前で拳を突き出し、

「それじゃ、頑張ろう」

「ああ。予選を突破しようぜ」

「皆無事に会いましょう」

「本選でね」

 軽く拳を打ち合わせ、ゲートへと進んで行く。皆がゲートへと消えた後、最後にマグダレナへと跨り、ゲートを潜る。これからの闘いを思い、身震いしながら、ゲートを包み込む光に身を委ねた。



 周囲の光が収まると、俺たちは殺風景な石畳の上に立っていた。マグダレナが油断なく周囲を伺う。

この会場では、すでに戦闘が始まっているようだ。そこかしこから、武器同士のぶつかり合う音や、魔法のきらめきが放たれている。

「さて、どうしようか」

「ヴァイナスに任せる」

「分かった。任された。取り敢えずは…」

 俺は振り向きもせず、腰から引き抜いたミゼリコルドを、抜きざまに投擲する。

 放たれたミゼリコルドは、背後から襲い掛かろうとしていた男の喉元へと吸い込まれていく。悲鳴を上げる間もなく、男は襲撃の勢いのまま、石畳へと倒れ込んだ。

「背後からなんて卑怯な奴ね」

「だが、死角の多いこの場所では有効な手だ。気を抜かずに行こう」

 気配を探れば、そこかしこから気配を感じる。転移したばかりのところを襲おうというのだろうが、今の攻撃を見て、襲い掛かってくる者はいなかった。

「兎に角、数を減らさないことには、いつまでも終わらないし、頑張って倒していくか」

 ミゼリコルドを回収し、マグダレナに跨ると、マグダレナに行き先を任せ、武器を構えた。左手に〈西方の焔〉、右手には〈聖者の聖印〉を持ち、戦羽織を身に纏う。蒼空のように染め上げられた羽織を彩る複雑な紫と橙の刺繍。あからさまに目立つ格好をした俺は、マグダレナと共に石畳を駆け抜けた。

 俺たちに向けて放たれる矢を切り払い、低級の魔法は〈聖者の聖印〉によって打ち消していく。マグダレナは漆黒の颶風となって戦いの場を駆け抜けていく。

 ある者は弾き飛ばされ、またある者は繰り出される剣閃に切り裂かれ、倒れていく。生半可な腕では、マグダレナに触れることすら敵わない。

 俺たちは道すがら出会う者を次々と斃しながら、目の前に迫る、開けた場所へと飛び込んだ。

 そこは主戦場となっている場所だった。参加者達が、時に協力し、時に己が力のみを頼りに刃を交え、魔法を繰り出す「戦場」と化していた。マグダレナは迷わずに戦場の中心へと飛び込んでいく。

 進む先で、突然炎の爆発が巻き起こる。爆風によって吹き飛ばされた者たちが周囲で呻き声を上げていた。

「はははっ! どうだ見たか! 僕は強い! お前らみたいな雑魚が何匹いようが僕には勝てないんだよ!」

 煙の向こうから、どこかで聞き覚えのある声が聞こえてきた。あれは…。

「ちょっと、無駄なこと言ってないで、次を唱えなさいよ!」

「五月蝿いな! 僕の強さを示す絶好の機会なんだ、邪魔するな!」

「どうでもいいから、早くしろ!」

 ドヤ顔の魔術師には覚えがある。確かゴルガスだったか…。先ほどの【火球】の魔法はゴルガスが唱えたようだ。威力が上がっているところを見ると、彼も成長しているようだ。

 エルフの神官とドワーフの戦士にも見覚えがある。こいつら、まだパーティ組んでたんだ。とっくに別れていたと思っていたが、意外と強い絆を持っているらしい。

 マグダレナは真っ直ぐにゴルガスたちへと進んで行く。ドワーフの戦士が慌てて構えを取る後ろで、口論していたゴルガスたちも慌てて詠唱を始める。

 マグダレナが到達する前に、ゴルガスたちの魔法が発動した。やはり腕を上げている。周囲の者を巻き込む形で発動した【火球】はしかし、〈聖者の聖印〉によって打ち消された。

「馬鹿な! 打ち消されただって!」

「本当に学習しないわね! あれだけ強化して使いなさいと言ったのに!」

「【倍化】が掛かっていたんだぞ! 防げる奴なんていなかったじゃないか!」

 どうやらエルフの魔法は【倍化】だったらしい。ちゃんと学習している。さっきの【火球】に比べて威力が増していたわけだ。もっとも、レベルを上げて使われなければ、【火球】の魔法は打ち消せるのだが。

「良いから、次を唱えろ!」

 ドワーフが雄叫びを上げながら手に持ったグレートアックスを振り被り、マグダレナを真正面から打ち据えようとする。悪いが、正直に付き合ってやる気はない。

 俺とマグダレナは【瞬移】の魔法を唱え、ゴルガスの背後へと転移する。訓練で繰り返し練習したおかげで、タイミングもバッチリだった。目標が消え、ドワーフが蹈鞴を踏みながらも、何とか体勢を立て直す。

 マグダレナの背に転移し、ゴルガスの背後を取った俺は、姿が消えた俺を探し、周囲を見回しているゴルガスに向かって〈西方の焔〉を振るう。気配を察したのか、振り返るゴルガスの目が俺たちを捉えた。

 その瞳に映る驚愕の色が消えないまま、振り抜かれた〈西方の焔〉がゴルガスの首を跳ね飛ばした。

 勢い良く跳んだゴルガスの首が、血のリボンで模様を描きながら宙を舞う。やがて糸の切れた操り人形のようにゴルガスの身体が頽れると、エルフとドワーフは呆然と俺を見上げていた。

「どうする? まだ闘うかい?」

 〈西方の焔〉を突き付け、マグダレナの背から俺が問い掛けると、

「「『降参(リザイン)』します!!」」

 エルフとドワーフの声がハモる。見ると周囲の者も次々に『降参』していく。頑張れば上位8名に入れるかもしれないのに、勿体ない。少々肩透かしを食らった俺だったが、まだ鐘は鳴っていない。主戦場以外で闘っている者がいるのだから当然なんだが、俺は無理に闘う気もなくなったので、周囲で呻いている者たちを簡単に治療してやることにした。

 傷の深い者から、【回復】の魔法をかけてやる。HPにして5点ほどだが、大半の者は火傷や切り傷が塞がり、血は止まっていた。とりあえずこれで死ぬことはないだろう。

 20人以上を治療し、彼らの感謝の言葉を受けながら、俺は周囲の様子を伺った。さっきから誰かにじっと観察されている気がするのだ。マグダレナも警戒している。

 不意に、俺の背中を悪寒が襲った。咄嗟に左手を翳すと、キィンと澄んだ音が周囲に響いた。左手を襲った衝撃に、体勢を崩しそうになるのを必死に堪える。

 左手に残る痺れを隠しながら、俺は衝撃の原因を探った。衝撃の原因、それは、どこからか放たれた一本の矢だった。

 周囲を警戒するが、襲撃者の気配はない。そもそも、矢の放たれた方向の、見える範囲に人影はなかったはずだ。よほど隠形に優れているのか、魔法で姿を消しているのか、でなければ、視認できない距離から狙撃したかだ。

 考えたくはないが、3つ目の場合、かなりの手練れということになる。腕に残る痺れからも、それだけの遠距離を射撃して、到達した矢の威力とは思えなかった。

 しかも、この射撃は挨拶代わりだと感じた。本気で狙えば、こんなものではない、という風に。


 強敵、だな。


 俺は油断なく周囲を警戒する。姿が見えない以上、こちらから手を出すことはできない。飛んできた方向からさりげなく遮蔽を取りつつ、様子を伺ったが、狙撃されることはなかった。やがて、大きな鐘の音が周囲に鳴り響く。上位8名が決定したのだ。

 俺は放たれた矢を拾い、クルクルと回すと、腰鞄に収めた。


 本選で当たる時は、お返しさせてもらう。


 再び光を放つゲートへ戻る中、俺は見えない狙撃手に対し、リベンジを誓うのだった。



 予選を終えた結果、俺たちは全員本選へ残ることが出来た。ゼファーも一人だったが、ロゼとジュネは一緒のグループだったらしい。協力して闘っているうちに、鐘が鳴ったそうだ。

「まずは予選突破だな。お疲れ様」

「そうだな。いや、何とかなったぜ。同じグループに赤プレートの探索者がいてな。その人が標的になってくれなかったら、正直ヤバかった」

「こっちも、2対2で闘っているところで鐘が鳴ったけど、鐘の音がもう少し遅かったら、私たちのどちらかが『降参』していたかもしれなかったわ」

 ゼファーの感想に、ロゼとジュネも頷いている。俺も頷きつつ、

「こっちも気になる相手がいたな。長距離から俺を狙撃した奴がいる。姿が見えなかったから、かなりの距離からの狙撃だ。本選で当たれば苦戦するだろう」

「流石に本選出場者は、弱い奴はいなそうだな。楽にはいかないな」

 俺の言葉に、ゼファーは肩を竦めると、そう締めくくった。俺たちは頷くと、そこで話を打ち切り、まずは本選に残ったことを喜んだ。

 その後、リィアたちと合流した俺たちは、明日から行われる本選に向けて、英気を養うのであった。


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