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51 幻夢(VR)〉の街で転職する

「ようこそ、儀式の間へ…っと、ヴァイナス?」

「ジュネ…?」

 部屋の中で微笑みを浮かべて待っていたのは、〈はじまりの街〉で〈盗賊〉の訓練担当官だったジュヌヴィエーヴだった。

「久しぶりね…ってそうでもないかしら?」

「いや、久しぶりだよ。半年近く会っていない。会えるとは思ってなかったから、驚いたよ。元気そうで良かった…」

 俺が笑顔を浮かべると、ジュネもニコリと笑う。

「ここに来たってことは〈上位職〉への変更でしょうけど、半年で〈上位職〉とはね。そっちの方が驚いたわ」

「イベントやクエストを熟していただけなんだが…。まぁ結果的にある程度強くなったのは確かだけど」

 ゼファーたちの話を聞いて、俺が比較的困難な探索(ハードモード)だったのは自覚している。俺としてはひたすらにイベントのクリアを目指していただけで、終わってみれば苦労したがこんなものか、と言った感じなのだが。

「そう、頑張っているみたいで安心したわ。さぞかし〈探索者〉のランクも上がったんでしょうね」

「いや、未だ10等級だが」

「…」

 ジュネはまじまじと俺を見た。正確には首から下げた〈探索証〉を。真新しい白プレートを見て、ジュネは大きく息を吐き、

「はぁ、最初から普通じゃないとは思ってたけど、10等級の探索者が〈上位職〉に変更に来るなんて初めてよ」

 信じられない。ジュネはそう言って肩を竦めながら首を振る。

 俺だって、好きで今になって探索者登録をしたわけじゃない。登録できる街に行けなかったんだから仕方がないじゃないか…。

「まぁいいわ。あんたなら〈上位職〉としての素養は充分でしょうし、さっさと変更しましょう」

「その前に、一つ良いだろうか?」

「何?」

 首を傾げるジュネに、俺は深々と頭を下げた。

「ありがとう」

「ち、ちょっと、いきなりどうしたのよ?」

「〈はじまりの街〉でジュネが俺に贈ってくれた革鎧の礼を言っていなかった。だから今伝えておこうと思って」

「な、何のこと? 私は知らないわよ」

 俺は頭を下げたまま言葉を続ける。

「革鎧を買った店の親父さんに聞いたよ。〈付与〉まで施された上質の革鎧を格安で売ってくれたのは、ジュネからの餞別だって」

「あの親父…」

 ジュネは舌打ちをする。内緒にしておきたかったのだろうけど、俺には関係なかった。

「お蔭で、こうして生き延びられているよ。ありがとう」

「た、大したことじゃないから、気にしないで!」

 俺はもう一度礼を言い、頭を上げると、目を逸らしつつも頬を染めて照れているジュネがいた。気の強そうな美人なんだが、可愛いところもあるじゃないか。

「それに、今のあんたにはもう必要ないものでしょう? そんな立派な鎧を着ているんだし」

「いや、あの革鎧は大事に使わせてもらってる。この鎧は作ってもらったものだけど、下地にはあの革鎧を使っているんだ」

 俺の言葉にジュネはこちらを向いた。まだ頬は赤いが、微笑んで、

「そう、気に入ってもらえて良かったわ。…それにしても随分印象が変わったわね。最初は分からなかったわ」

「別に意図して変わったわけじゃないんだがね。話せば長くなる」

「あら、それなら後でゆっくり聞かせてもらいましょうか。大丈夫、ここは外の世界に比べたら時間が早く進むから」

「そういえば、訓練した部屋もそうだったけど、ここもジュネの〈妖精郷〉なのか?」

 俺の言葉にジュネは驚いた表情をし、

「あんた、よく〈妖精郷〉なんて知ってるわね。あんなマイナーな〈才能〉、取る人は殆どいないのに…」

 悪かったな。殆どいない一人だよ。

「残念だけど、はずれよ。訓練施設もこの儀式の間も、時間を操作できる機能があるただの施設よ。私は〈妖精郷〉持ってないしね」

 ジュネの説明に、俺は頷いた。納得したところで、改めて儀式を行うことにする。

「それじゃあ、早速やってもらおうかな」

「分かったわ。それじゃそこの魔法陣の中に入って。希望は? 〈魔盗士〉ね。ならそっちの魔法陣よ」

 ジュネの指示に従い、俺は魔法陣の中に入った。すると魔法陣が発光し、エーテルが活性化したのが分かった。

「目を閉じてじっとしていなさい」

 俺は言われるまま目を閉じて、その場でじっと佇む。ジュネが何かを唱えると、一瞬瞼越しに魔法陣が強く発光したのを感じた。するとジュネが、

「はい、終わったわ」

 マジか! 手軽過ぎるだろ!

「もう動いて良いわよ。貴方は〈魔盗士〉になったわ」

 ジュネの言葉に、俺は目を開いて魔法陣から出た。とりあえず何か変化が起きたか確認をしてみるが、特に変わった感じは受けなかった。

「特に変化を感じないんだが」

「心配しなくても、ちゃんと変更されてるわよ。試しに何か魔法を使ってみれば? 危険なのは駄目よ」

 はい、これは餞別。ジュネがそう言って投げてきたものを受け取ると、シンプルな装飾の指輪だった。

「これは?」

「魂力の消費を抑える〈護符(タリスマン)〉よ。最低ランクだから大して減らすことはできないけど」

 ジュネの説明を聞き、有難く頂くことにする。早速指輪を填めると、何を使うか考え、ふと思いついたことがあったので、【瞬移】の魔法を使うことにした。呪文を唱え、【瞬移】の魔法を発動する。

 【瞬移】の魔法を使った俺は、ジュネの背後に転移すると、彼女の耳たぶに向かってフッと息を吹きかけた。

「ひゃん」

 と可愛い声を上げて、ジュネが小さく飛び上がる。振り向きざまに鋭く繰り出された蹴りを、ギリギリの距離で見切り回避する。

 ジュネは俺の悪戯に頬を膨らませていたが、フッと力を抜くと微笑んだ。

「【瞬移】も使えるのね…。この短い期間でどれだけ稼いだのよ」

「イベントで努力した見返りみたいなものだよ。かなりハードなイベントに強制参加が続いたからな」

 ジュネの言葉に、俺も肩を竦めつつ笑顔で答える。今【瞬移】を使った感触からすると、かなりSPの負担が減っているのが分かった。これならば、今までの魔法も倍以上使うことができそうだ。思わず笑みを浮かべてしまう。

「それに蹴りを躱した動きを見ても、充分に〈能力〉を使えているのが分かるわ。もう勝てなそうね」

「それはやってみないと分からないんじゃないか?」

 俺の言葉にジュネは首を振る。

「伊達に教官をやってないわよ。自分が敵う相手かどうかぐらい、動きを見れば分かる。〈器用〉だけじゃなく、他の〈能力〉も相当成長しているのが分かるもの」

 〈器用〉特化の私じゃもう相手にならないでしょう。そう言ってジュネは微笑んだ。そうか、俺はそんなに成長していたのか…。

 訓練の時にはまだまだ敵わないと思っていたのだが、俺は自らの成長を嬉しく思った。ジュネも俺の成長を喜んでくれていのるのが分かる。

 俺はあることを思い出し、ニヤリと笑う。

「それじゃあ、あの時の約束は果たせそうだな」

「約束?」

「ジュネから戦闘で1本取ったら、受け入れOKってことだったよな?」

 冗談めかした俺の言葉に、ジュネは瞬時に頬を染め、あらぬ方向を見つめた。色白だから分かりやすいな。

「そんなこと、言ったかしら?」

「生憎と鍛えた〈知力〉で記憶力は抜群だ」

 俺はニヤニヤ笑いを浮かべたまま、ジュネをからかい続ける。ジュネはそわそわしながらも、何とかしようと言葉を重ねてくる。

「まだ、負けたわけじゃないから…」

「それじゃあ、今から闘ってみるかい? 俺は全然構わないぜ」

「いえ、私も忙しいし…」

「俺の話を聞くぐらいの時間はあるんだろう? なに、そんなに時間は取らせないさ」

「冗談の軽口を真に受けるなんて…」

「ジュネじゃなかったら、適当に流すよ」

 俺が言葉を返すたび、ジュネの顔はどんどん赤くなっていく。流石にからかい過ぎたか。俺は肩を竦め、話を終わらそうとすると、

「…分かったわ。良いわよ。受け入れるわ!」


 え?


「言っておくけど、私は負けず嫌いで独占欲が強いわよ。どうせあんたのことだから、色んな女性に優しくしているんでしょうけど、他の人に負けるつもりはないからね」

 顔を真っ赤に染めながら、それでもこっちをじっと見つめて、はっきりと言い切った。

 正直言って、この展開は予想外だった。冗談として流してくると思っていたのだ。

 だが、想いが嘘であるわけではない。世話にもなったし、彼女と過ごした3ヶ月間は、とても楽しく、充実していたのだから。

「あー、確かに今は懇意にしている女性がいるが、ジュネに対する気持ちも嘘じゃないよ」

「良いのよ。あんたの気持ちが重要なんじゃなくて、私の気持ちの問題だから。相手を攻めるより、自分を磨いて振り向かせるのが私の流儀」

 それじゃ、これから宜しくね! そう言って笑うジュヌヴィエーヴに俺は思わず見蕩れてしまう。ゲームの中とはいえ、こんなに女性と上手くいくなんて考えてなかった。

 現実世界でもこんな風にできるのだろうか? 頭に浮かんだ考えを即座に打ち消す。現実世界じゃ只の平凡な男でしかない。優れた身体能力もなく、頭だって普通だ。見た目も十人並み。誇れる趣味や技術もなく、現在は仕事もなく、好きなゲームをやるだけの生活で、そんな出会いがあるわけもなかった。

 俺が自分の考えに没頭していたことに不安を感じたのか、ジュネは眉根を寄せ、

「…もしかして、本当に冗談だったの?」

 と聞いてきた。俺は慌てて首を振り、

「御免、話が上手くいきすぎて、考え込んじまった。今までこんなに女性と仲良くなったことなんてなかったからな。言ってて悲しくなるが…」

 と言うと、ジュネは笑顔を浮かべ、俺の手を取り、

「そんなこと、気にしなくて良いの。男女の出会いは神様の計らい。恋は唐突に始まるものよ」

 と言い、宜しくね! ともう一度言うと、俺の頬に口づけをする。思わず硬直すると、ジュネははにかむ様に笑う。

「まずは、転移してからのことを聞かせて」

 ジュネの言葉に頷くと、俺は〈全贈匣〉から〈極光の宴〉と〈饗宴の食卓掛〉、〈グランダの鞍鞄〉を取り出し、鞍鞄からはテーブルと椅子を取り出した。

 儀式の間の片隅に準備を整え、料理を呼び出してから、腰を落ち着けた。

「次から次へと〈魔法の品物〉が出てくるし…。一体、どんな出来事があったのかしら?」

 魔法陣の仄かな明りを背景に微笑むジュネへと盃を渡しながら、あれから経験したことを話していく。

いつの間にか姿を現したスマラに驚くジュネに紹介しつつ、束の間の晩餐会の時間は、ゆっくりと過ぎていった。



「お疲れさまでした。無事変更できたようですね」

「ありがとうございます」

 諸々の手続きを終えてから合流するというジュネと別れ、儀式の間から出て、待っていた係の人と共にエントランスへと戻る。

 道すがら、係の人から〈探索証〉は、探索中必ず身に着けるようにと言われた。すでに身に着けてはいるが、探索中、運悪く命を落とした場合に、遺体から身元を確認するために、〈探索証〉を用いるためだ。

 俺たちPCには『蘇生』があるので、遺体の確認に用いることはそうそうないだろうが、〈現地人〉の探索者には必要な処置だと言える。

 探索者のランクは10等級から始まり、最高位の1等級まで「色」が割り当てられている。これは等級ごとにプレートが色分けされているので、〈探索証〉を見れば、すぐにその探索者が何等級なのかが分かる仕組みだ。等級に対応した色は以下の通り。


 10等級:白  9等級:黄

  8等級:緑  7等級:青

  6等級:赤  5等級:紫

  4等級:黒  3等級:銅

  2等級:銀  1等級:金


 となっている。俺は当然白いプレートになる。ゼファーとロゼも白プレートだ。エントランスに戻り、周囲の探索者を改めて見てみると、大半が白か黄のプレートで、少数だが緑や青、赤のプレートを持つ者もいる。

 紫以上の探索者の姿が見えないが、等級の高い探索者になると、ギルドから指名で依頼が入ることも増えるため、わざわざ依頼を探しに来ることは殆どないらしい。

 合流し、待っていたゼファーたちに質問してみる。

「ギルドのランクはどうやって上がるんだ?」

「ギルドから発行される依頼を達成していくことで評価されて、評価が既定値を超えると昇級試験を行って、合格すれば昇格となるらしいぜ」

「依頼はランクによって受領できるかどうか制限があるの。高いランクの仕事は実入りもいいんだけど、それに比例して危険も大きくなるわ」

 依頼に関しては、自分のランク以下であれば受けることができるが、自分のランクよりも低い依頼を受けた場合、評価はされないらしい。報酬は貰えるので、資金稼ぎと割り切り、低ランクの依頼を受け続けている探索者も存在する。

 また、パーティを組むメンバーのランクが異なる場合、依頼を受ける時には最もランクの高い探索者が基準となる。つまり高ランクの探索者がいれば、低いランクの探索者も上位の依頼に参加することができるわけだ。

 ここでのランクはあくまでも〈探索者組合〉での評価であるため、低ランクであっても強い力を持つ者は当然存在する。だが、高ランクの探索者はそれに見合った実力を持つので、ランクがある程度その探索者の実力を示すのは間違いない。

 早速依頼を受けてみたいところだったが、今はヴィオーラを待つ身だ。擦れ違いになっても困るので、自重する。代わりに街へと繰り出して、買い物をしよう。その前に、一度〈妖精郷〉に戻ってガデュス達を連れてくるか。

 〈探索者組合〉について、より詳細を確認しているうちに、手続きを終えたのか、ジュネが合流した。

「お待たせ! あら、その人たちは?」

「お疲れ。俺の仲間だよ」

「そっか。私はジュヌヴィエーヴ。〈現地人(アインハイム)〉の探索者よ。これから宜しくね♪」

 突然の登場に目を白黒させるゼファーたち。無理もないか。

「こちらは、〈はじまりの街〉の訓練施設で俺の教官をしてくれたジュヌヴィエーヴだ。儀式の間で偶然再会してな。故あって共に行くことになった」

「ヴァイナスとパーティを組んで探索していく予定よ。あんたたち〈異邦人(ハイド)〉の現状は聞いているわ。〈陽炎の門〉がどこにあるかは知らないけれど、探すのに協力するつもり」

 ジュネはそう言って微笑んだ。事情を把握したゼファーが早速声を掛ける。

「そうでしたか。改めて名乗らせてもらいます。私はゼファー。ヴァイナスとは戦友、といったところです」

 普段使わない丁寧な言葉に、隣でロゼが噴き出している。ゼファーは気にせず、優雅にお辞儀をした。

「あら、ご丁寧な挨拶痛み入りますわ」

 ジュネも丁寧な言葉で返している。ゼファーは微笑みを浮かべ、

「教官をされていたということは、腕前も確かなものなのでしょうが、それ以上に貴方のような美しい女性に教えを請えるとは、ヴァイナスも果報者ですね」

「お褒め頂き感謝いたします…。駄目だわ、堅苦しい言葉は舌を噛みそう。あんたのことはヴァイナスから聞いてるわ。結構な腕前らしいじゃない」

 ジュネの言葉に、ゼファーは笑みを深くする。

「お褒め頂き感謝致します。ですが、言葉だけでは分からないこともあるでしょう。宜しければ、お互いを良く知る機会を持ちたいところですね」

 ゼファーの満面の笑みに対し、ジュネはニコリと微笑むと、

「なるほど、自分の力に自信がある。顔も良い。人当たりも悪くない。ヴァイナスに聞いた通り、良い男みたいね」

 でも、とジュネは続ける。

「私は、何よりも私より強い人でないと、男として興味ないの。私に勝てたら、その時初めて男として見てあげる」

 そう言って俺の腕に手を絡めてくる。ゼファーは笑顔のまま固まり、ロゼとリィアの表情が変わる。

「不躾なのですが、レベルはお幾つで?」

 ゼファーの問いにジュヌヴィエーヴは軽く首を傾げると、

「レディーの格を聞くなんて失礼ね! 10よ」

 ジュネの答えに、ゼファーがガクリと肩を落とす。教官をやるくらいなんだ、低いはずがないだろうに。

「因みにヴァイナスとは…?」

「訓練時代にも結構善戦してたけど、今じゃもう勝てないわね。ヴァイナスとはそういう約束をしていたから、一人の魅力的な男として付き合っていくわ」

 そう言って更にしっかりと腕を絡め、身を預けてくる。今度はロゼが微笑んで尋ねてくる。

「それじゃ、私が貴方に勝ったら、大人しく身を引くってことですか?」

 微笑んでいるが、目は笑っていない。そんなロゼに対し、

「今のあんたじゃ無理だと思うけど。それに好いた男を巡っての勝負は力じゃないわ。どれだけ自分を磨いて振り向かせるか。相手の男の気持ちを、自分に惹きつけられるがどうかが大事なの。その男が誰に気持ちを向けるかが重要よ」

 ジュネの言葉に、目に灯った殺気を消し、代わりに熱い視線を俺に向けてきた。横で聞いていたリィアも無言のまま、俺に抱き着いて来た。

 肩を落として固まっていたゼファーは、恨めしそうに俺を見つめ、

「なぜ、何故ヴァイナスだけがモテるのか…。これが美少女ゲームの本場の実力か…」

 などと呟いている。別に美少女ゲームの本場だからって、女性に対しての手練手管に長けるわけじゃない。まぁ確かに、ゲームだからとこういったイベントを楽しむため、現実世界の日本ではあまり褒められたことではない、複数の女性と交際することを実践しているのだが…。

 〈現地人〉であるジュヌヴィエーヴやヴィオーラ、リィアとはこちらでしか会うことはできないし、これだけの不具合を見せたゲームなのだ。現実世界に帰ったら、次にこちらに来れる保証などない。

 それならばこちらでの生活を精一杯楽しもうと、現実世界では到底できないような行動を、積極的に行ってきたのは確かだ。

 その時その時に、俺がやりたいことをやった結果、今があるのだから後悔はしていない。オーラムハロムでハーレム状態? どんとこいだ。俺に出来る形で責任は取る。


 ていうか、ゲームじゃないとそんなことできません…。


 俺の内心を知ってか知らずか、ロゼはジュネとは反対の腕を取ってしがみついてきたし、リィアは俺の腰に抱き着いたまま、離そうとしない。

 このままでは動けないので、皆に離すよう促す。ジュネがあっさり腕を解くと、ゼファーの肩を叩き、

「私を振り向かせたいなら、頑張って強くなることね。ヴァイナスは半年で私を超えるまでに強くなった。あんたも頑張れば私を超えることができるかもよ?」

 と言って慰め? ていた。ゼファーは頷くと顔を上げる。そして、

「確かに。ヴァイナスもできたんだ、俺にだってチャンスはある。見ていてください、貴方より強くなって見せますよ」

 と言って笑う。ジュネも頷いている。ロゼとリィアも名残惜しそうに離れるが、それぞれ異口同音に「『負けないから』」と言っていた。

 彼女たちに想われることは男冥利に尽きるが、喧嘩だけはしないでくれよ…。

 贅沢な悩みであるのは重々承知しているが、そう願わずにはいられなかった。どうしても険悪になるようなら、俺も態度を改める必要がある。


 でも、皆魅力的だからなぁ…。


 取り敢えず、まだ起きていないことは後回しにすることにした。俺は改めて皆を見回し、

「登録も終わったし、皆を案内したい場所があるんだ。一緒に来てくれ」

 と伝える。俺の言葉に、ゼファーとロゼは顔を見合わせる。ジュネは微笑んでいた。リィアも不思議そうに見上げている。皆、どんな反応をするだろうな…。そんなことを考えつつ、俺は笑顔を浮かべた。


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