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―閑話― 幻夢(VR)でも草津の湯では治らない

「あのねスマラ」

「なあに?」

「ちょっと同じ女性として聞きたいんだけど、私ってそんなに魅力ないかな…?」

 先に上がったヴァイナスを見送り、私は共に残ったスマラに聞いてみた。あれだけ思わせぶりに接しているのに、彼は全く取り合ってくれない。あそこまで無反応だと、女性としての自信が音を立てて崩れそうだ。

 自慢ではないが、アル=アシの街では様々な男から声を掛けられていた。その中にはイーマンやクロスレィだっていたのだ。

 にも拘らず断っていたのは、それまでの男性には惹かれることがなかったからだが、ヴァイナスは違った。

 命を救われたこともあるが、それは後付けの理由に過ぎない。本当の理由は、彼と一緒にいる時に、素直な自分を出すことができたことだ。

 ヴァイナスには、飾ることのない素の自分を出すことに全く抵抗がなかった。私にとって、そんな異性は初めてだったのだ。

 強さに関しては文句のつけようがない。闘場で稼いでいるのでそれなりに裕福だ。身長や顔つきなどに目立つところはないが、はっきり言って優良物件である。イーマンの女奴隷達にも人気があったのも頷けた。

 とはいえ、ヴァイナスに横抱き(いわゆるお姫様抱っこ)され、毒で意識が朦朧としていた時に感じた幸福感は、今から思えば初めての体験だった。

 色々理由を挙げてみたけれど、要は惚れてしまったのだ。この歳(20歳が行き遅れであることは自覚している)になるまで恋愛らしい恋愛をしたことがない私は、好きになった相手にどう接すればいいのか分からないのである。

「種族の違う私には、正直言って良く分からないわよ。貴方が魅力的かどうかなんて」

 たっぷりとお湯を張った桶の中から顔を出し、スマラはそう答えた。スマラの答えに私は肩を落とす。

「彼、別に女性に興味がないわけじゃないんでしょう?」

「そうね、奴隷の娘を一晩買うくらいには興味はあると思うわ」

「ロゼって子だっけ? どんな子?」

「どんな子って言っても…。ダークエルフで髪は銀、瞳は赤ってことくらいしか分からないわよ」

「ヴァイナスと同郷なんでしょ?」

「そうらしいけど、良くは知らないわ」

 スマラは淡々と答えてくれるが、彼が私に靡いてくれない理由は分からないままだった。

「やっぱりエルフ好きとかそういうこと?」

「どうかしら? 好きかもしれないけど、関係ないかもよ? 〈海竜号〉に乗ってた時、エルフの女性と一緒になったけど、特に欲情してたとかはなかったし」

 一緒にいた男たちは皆欲情してたけど。スマラはそう言って桶の中に沈んでいく。顔だけ湯船から出して「ふにゃぁ~」と気の抜けた声を出していた。

 スマラの話を信じるなら、単純にロゼって子が好みだったということなのか…。様々な想いを抱えつつ、私は湯船へと沈んでいく。


 かなりの勇気を振り絞って行った一度目の頬へのキス。

 彼の胸に飛び込んで行った二つ目の頬へのキス。


 あれだけ頑張ったのに、ヴァイナスは一向に私を女性として扱ってくれない。いや、女性として接してはくれるのだ。何と言うか「女」として扱ってくれないのだ。

 彼になら何をされても許せる気がする。初めてではないのだから、きっと優しくしてくれるはずだ。それに…。

 私は湯船に浸かりながら、脳内に飛び交う妄想に悶えていた。はっと気が付くと、すでにスマラの姿はなく、周囲には場を弁えずに絡み合う男女や、身体を洗い合うと見せかけて、明らかに乳繰り合っている男女のカップルが複数組増えていた。

 私は慌てて湯船から上がると、周囲の人の邪魔をしないように避けながら、脱衣所へと戻る。

 彼もロゼって子とあんなことをしていたんだろうか…。頼めば私とも…。

 歩きながらまた妄想しそうになり、頭を振って振り払うと、私は着替えを終えて部屋へと戻ることにする。部屋に戻ったら、どんな態度を取れば良いのか考えながら…。

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