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19 幻夢(VR)でもDDTできますか?

 次の日、魔術師組合を訪れた俺達は、昨日の女性から残りの魔法を教わり、予定していた装備品を購入すると、宿へと戻った。市場中を周り、厳選した甲斐があって、良い物を揃えることができた。

 辺りは夕焼けに染まり、二つの太陽が水平線の彼方へと沈んでいく。この後は夕食を食べて、また温泉をじっくりと楽しむ予定だ。明日には〈海竜号〉に戻る予定なので、今日はふやけるまで温泉に浸かるのだ。

〈歌姫亭〉の扉をくぐると、酒場は大盛況だった。そこかしこで乾杯を叫ぶ声が響き、薄絹の衣を纏った半裸の女性たちが、忙しそうに給仕をしていた。

 今日は新しい女性が増えているようだ。昨日まではいなかった、様々な種族の女性たちが、必死に笑顔を浮かべながら、たどたどしい手つきで酌をしている。

『随分と混んでいるな』

『新しい女の子が増えたからかしら?』

 俺は混み合う店内を器用に抜け、奥まった場所にあるテーブルに座る。この辺りは宿に泊まっている客専用のエリアなので、比較的ゆったりと座ることができた。

『明日は船に戻るから、今日は少し贅沢するか』

『良いの? やった!』

 何しろ、明日からはまた船上生活になるのだ。しっかりと旨い物を食べておきたい。

『この後、温泉で蜂蜜酒を飲むんだから、食いすぎないようにな』

『分かってるわよ!』

 俺は近くを通った給仕の女性に注文をする。宿泊者の通常メニューに加えて、今日獲れたばかりだという、猪肉の香草焼きと、猪のモツのシチューを頼む。

 しばらくして、旨そうな匂いと共に、頼んだ料理が運ばれてきた。テーブルに料理が並べられると、俺は給仕の女性にチップを払おうとした。すると、女性が俺の顔を見て固まっていた。

 綺麗な銀髪をアップに纏めた、濃い褐色の肌のエルフだ。所謂ダークエルフというやつだろうか? 申し訳程度に身につけられた薄絹の下には均整のとれた、それでいて肉感的な肢体が隠されている。

「どうかしたかい?」

 俺が尋ねると、女性は慌てて首を振り、

「失礼しました」

 と頭を下げる。そのままおずおずと顔を上げ、

「あ、あの…。昨日はありがとうございました」

 と言ってきた。俺は首を傾げると、

「昨日、市場で助けていただいて…」

 と言われ、思い出す。

 転んだところを助けた女の子だ。

 奴隷市場で着ていたボロボロの服ではなく、綺麗な薄絹の衣に、アップに纏めた髪、化粧を施した顔と、全く印象が違ったため、気づかなかった。

 俺は突然の再会に驚きつつも、ああ、これはそういうイベントだったんだと納得した。割とベタなシチュエーションだけど、嫌いじゃない。

「今日からこの店で働くことになりました。ロゼって言います」

「ヴァイナスだ。よろしく。こいつは相棒のスマラ」

『よろしくね』

 スマラはネコ語で挨拶した。おそらくニャアとしか聞こえていないだろう。ロゼは恥ずかしそうに笑う。俺は笑顔を浮かべて、頼んでいた薄めの果実酒をコップに注ごうとする。すると、

「あ、あの、よろしければお注ぎしましょうか?」

 とロゼがお酌を買って出てくれた。そういえば、こういう店では給仕の女性に酌をしてもらうのがマナーだっけ。ゼファーが言っていたので正しいのかどうかは分からないが。でもまぁせっかくだし、

「じゃあ、お願いしようかな」

「は、はい。失礼します」

 ロゼはそう言うと、俺の横に座ると、陶製のデキャンタから果実酒を注いでくれる。長い褐色の耳がプルプルと震えている。

 その動作はぎこちなく、持つ手が震えていた。それでも何とか最後まで注ぐと、大きく息を吐いた。

 俺はロゼからデキャンタを受け取り、スマラ用に用意した浅めの椀に果実酒を注ぎ、空いているコップを取ると、ロゼに渡す。

「え? これは…」

「ささ、まずは一献」

「え? え? こ、困ります! 私仕事中ですし…」

 恐縮するロゼに笑顔を向けたまま、彼女の手ごとコップを掴み、果実酒を注ぐ。

「遠慮しないで。周りを見てご覧。酌をしている娘達は、皆飲んでいるよ」

 俺の言葉に、ロゼは周りを見回している。

 他のテーブルでも、給仕の女性たちがお客に酌をしている姿がそこかしこにある。そして、返杯を受けつつ接待している。中にはあからさまに「当ててんのよ」をやりつつ、客にしな垂れかかる給仕の娘もいた。

「ほら。皆やってるんだから、ロゼも一緒に、ね」

 俺はそう言って、コップを持つと、軽くロゼのコップと打ち合わせ、

「今日の出会いに乾杯」

 と言ってウインクをする。スマラが『私も!』と言ってきたので、お椀と軽く打ち合わせ、

「今宵の満月に」

 と言って乾杯する。その様子がおかしかったのか、ロゼはクスリと笑うと、

「乾杯…」

 と言って果実酒を飲んでくれた。俺も一息に杯を干す。

「わぁ、良い飲みっぷりですね」

「ありがとう。いやぁ、一日中忙しく動いていたから喉が渇いてね。もう一杯もらえるかな?」

「あ、はい! どうぞ」

 ロゼは慌ててデキャンタを取り、酌をしてくれる。

「よし、冷めないうちに料理も頂こう」

「あ、私が取り分けます」

「じゃあ、お願いしようかな。俺はその猪肉がいいな。スマラにはそのスペアリブの部分を上げてくれ。骨付きが好きなんだ」

「はい」

 少し打ち解けてきたのか、ロゼは微笑んで料理を取り分けてくれる。俺はお返しに、猪肉を取り分け、ロゼにも食べてもらう。

「頂きます…。わぁ、美味しい。こんなの初めて食べた…」

 猪肉を食べたロゼは、よほど美味しかったのか、あっという間に平らげてしまう。俺は楽しくなって、どんどん切り分けて、ロゼの皿に乗せていく。

「こ、こんなに駄目ですよ! 私給仕なのに…」

「いや、いい食べっぷりだからさ。どんどん食べてくれ。なに、また頼めばいいのさ」

 俺は通りかかった給仕に、猪肉のソテーと果実酒の追加を頼む。

「あ、料理の注文なら私が…」

「ロゼは今、俺の接待中。これも仕事だよ」

 慌てて立ち上がろうとするロゼの手を握り、席に着くように促した。ロゼは赤くなって座り直す。少し酔ってるかな?

「あ、そ、それじゃお注ぎします」

「ありがとう」

 ロゼに酒を注いでもらい、俺も返杯を返す。スマラの方にも注いでもらった。スマラには返杯はできないが。

 その後口直しに季節の果物の盛り合わせを頼み、三人で美味しく食べて、夕食を終えた。

 俺は楽しい時間を過ごさせてもらったロゼに、

「ありがとう。楽しかったよ」

 と言って、チップを払う。ロゼは笑顔で受け取ろうとして、

「あ、あのこれ、多くないですか?」

 俺が彼女に払ったチップは10ゴルト。安い宿屋なら食事つきで一泊できるくらいだ。

「楽しい時間を過ごさせてもらったお礼だよ。受け取って欲しい」

 返してこようとするロゼの手を握り、両手で金貨ごとロゼの手を包み込んだ。ロゼは酔いが回ってきたのだろう、頬を赤く染め、俯きながら、

「あ、ありがとうございます」

 と言って黙ってしまった。そんなロゼを見ながら俺は微笑むと、席を立ち、部屋へと戻ろうとした。すると、

「あ、この後はすぐお休みですか?」

「いや、ゆっくりと温泉に入って満喫するつもりだけど」

 とこれから温泉に入ることを告げる。すると、

「あ、あの…良かったらお背中流しましょうか?」

 とロゼが言ってきた。うーん、これもサービスなのだろうか?

「それじゃあ、折角だしお願いしようかな? いくらだい?」

「え、あの、お金はいらないですよ」

 サービスです。ロゼはそう言って笑っているが、後で念のため主人に聞いておこう。迂闊に頼んで変な追加料金を取られても困るし。



 食器を下げるロゼを残し、俺はカウンターに行き、主人から部屋の鍵を受け取る。その際、女の子に温泉で背中を流してもらうのにはいくら掛かるか確認してみた。

「それは、今夜一晩相手をさせるってことか?」

「いや、単に温泉で背中を流してもらうだけのつもりだけど」

「うちは、そんな限定したサービスはやってねぇ」

 デスヨネー。

 普通、こういった店の女の子と一緒に風呂に入る=一晩相手をしてもらうってことだよな。

 まぁ良いか。もう頼んじゃったし、正規の金額を払っておこう。余計なトラブルになってもつまらないし。

「分かりました。一晩幾らです?」

「今日来たあいつか…。まだ仕込みも終わってねぇ素人だが、良いのか?」

「構いませんよ」

 別に夜の奉仕をさせるわけでなし。

「…なら、100ゴルトだ」

 主人の言葉に、俺は100ゴルトを払うと、後で預けておいた酒をロゼに渡して持って来てほしいと伝え、温泉に入る準備をするために、部屋へと戻る。

 荷物を置いて、準備を終えると温泉へと向かった。

 夜とはいえ比較的早い時間ということもあり、温泉には何人かの先客がいた。こういった宿の特徴なのか、当然のように混浴だ。

 ロゼが来るまで湯船に浸かろうと、俺達はかけ湯をしてから、木桶にお湯を張り、スマラ用の湯船を作ると、湯船に身体を沈める。

 気持ち良さに思わず声が出る。少し離れたところで、別の客が湯船の中で女性の肩を抱き寄せながら、お酌をさせている。

『やっぱり温泉は気持ちいいわ~』

 スマラがぐでっとしながら温泉を堪能している。俺も同様に湯船の中に両手両足を投げ出して、蕩けそうになっていた。

『ねぇ、今夜はロゼとお楽しみ?』

『いや、さすがに背中流してもらうだけだよ』

『良いの? お金払ったんでしょ?』

『確かに払ったけど、まだロゼは客を取ったことがないみたいだからなぁ。俺、今までこういうことやった経験なかったからさ』

 俺の言葉に、スマラは呆れたように、

『それなら、尚更経験しといたほうが良いじゃない。もったいないわよ』

 スマラの直球な言葉に、俺は思わず黙ってしまう。

 猫とはいえ、女の子にここまで言われるとは…。

『別に、私は邪魔する気なんてないからね。部屋の隅で寝てるから、気にせず頑張りなさい』

 フォローまで言われてしまった。俺は苦笑を浮かべ、

『なんにせよ、ロゼの気持ち次第かなぁ。無理強いはしたくないんだよね』

『あの子だって仕事って割り切ってるわよ。それに満更でもないみたいだし』

 そう言ってスマラが視線を向けた先には、預けてあった蜂蜜酒の入った籠を持ち、小さな布で体の前面を隠したロゼが、恥ずかしそうに立っていた。

「あ、あの御届け物です」

「ありがとう。こっちに来て一緒に入ろう。気持ちいいよ」

「は、はい…。失礼します」

 端に置いてあった木桶に水を張り、中に蜂蜜酒の瓶を入れると、ロゼは恥ずかしそうに顔を逸らしつつ、静かに湯船に入って来た。そして、俺の隣に来ると、ゆっくりと湯船に身を沈める。

「あ、手拭いは湯船に入れちゃだめだよ」

「あ、そうなんですか? すいません」

 思わず日本の温泉の流儀を通してしまったが、ロゼが慌ててタオルを持ち上げると、形の良い双丘がプルンと揺れた。

 うむ、眼福である。

 思わずじっと見入ってしまった。ロゼは俺の視線が気になるのか、恥ずかしそうに身を縮めていた。

「あの、あまり見られると恥ずかしいです」

「あ、ごめん」

 俺は慌てて視線を逸らす。ロゼは手拭いをどうするか迷った挙句、俺がしているように、畳んでから頭の上に乗せた。そして、肩まで湯船に浸かると、うっとりとする。

 気持ちいいのだろう、長い耳の先がへにゃっと垂れている。そんなロゼの顔を見ながら、俺達はしばらく温泉を堪能していた。



 ふやけそうなくらい湯に浸かっていたが、ロゼが、

「そろそろ、お背中お流ししましょうか?」

 と言ってきたので、お願いすることにした。

 湯船から上がり、洗い場へと移動する。洗い場にはかけ湯用のぬるめの湯貯めとお湯を汲むための木桶、木製の小さな椅子がある。

 俺は椅子に座ると、ロゼが用意してきた石鹸を泡立て、

「それでは、失礼します」

 と言って背中を洗ってくれた。泡に包まれたロゼの掌が、俺の背中を優しく洗っていく。手洗いとは思わなかった。ロゼはそのまま首回りや腋の下、腕へと移りながら洗ってくれた。

 大人になってから、誰かに身体を洗ってもらうなんてことはなかったので、少々気恥ずかしいが、ゲームだと割り切って楽しむことにする。気持ち良さは仮想現実とは思えないのだが。

「うおっ」

 そこで不意打ちのように感じた感触に、俺は思わず声をあげてしまった。

 ロゼが俺の座った尻と椅子の間に手を差し入れて来たのだ。ロゼの手が擽るように股下の敏感な部分を洗っていく。

 下手に動くと余計な場所を刺激してしまいそうなので、我慢してされるがままになる。

 今まで感じたことのない刺激に、必死に声を我慢する。

 まさか尻の間まで洗われるとは…。

 ロゼの手が抜かれ、ようやく終わったかと思い大きく息を吐く。だが、まだ終わりではなかった。

「それでは、前も失礼します」

 ロゼの声に、いつの間にか瞑っていた目を開けると、そこには両手を泡まみれにし、頬を染めながら微笑みを浮かべたロゼが、全裸でしゃがみ込んでいた。


 月の光を浴びたロゼの姿は、とても美しかった。


 とてもCGとは思えない美しさに、思わず見蕩れてしまった俺の視線を受け、ロゼは恥ずかしそうに、

「し、失礼します」

 と言って俺の胸板を、両手で洗い始める。泡に包まれた掌が動くたび、擽ったさと気持ち良さが同時に押し寄せてくる。

 足を取り、腿を洗う。真剣に、それでいて乱暴にならないよう丁寧に洗うロゼの息遣いを間近に感じ、頭がぼうっとする。

 そしてロゼの手が、俺の股間を隠していた布を取り去る。

「…わ」「…」

 慣れない刺激に、俺の相棒は見事に存在感(プレゼンス)を放っていた。

「…し、し、失礼しましゅ」

 ロゼは咬みながらも、相棒にゆっくりと触れる。もう少し事務的にしてもらってほうがこっちとしても有り難いのだが、顔を真っ赤にして、目を瞑りながら必死に洗うロゼを見ていると、こっちも恥ずかしくなってしまう。

 ただでさえ、美しい女性に身体を洗われるという、生まれてこの方経験したことのない刺激のせいで、相棒が自己主張しているのだ。

 ロゼの柔らかい掌が優しく動くたび、相棒が反応してしまう。

 反応のたび、ロゼが耳をピクリとさせる。その姿に余裕のできた俺は急に悪戯心が湧き、意図的に相棒を反応させ、ロゼの長い耳が動くのを堪能した。


 エルフ耳フェチの気持ちが少し分かった気がする。


 ようやく身体を洗い終えたロゼは、俺の全身をかけ湯で流しつつ、「髪の毛はどうしますか?」

 と聞いて来た。折角なので、

「じゃあ、お願いするよ」

 と言う。ロゼは頷き、

「じゃあお湯を掛けますね」

 と言って、木桶で汲んだお湯を頭から掛けてきた。俺は目を瞑り、目や鼻にお湯が入らないように、少し頭を前に傾ける。

「失礼しますね」


 ロゼがそう言って頭を洗い始めた。

 それも前側に陣取って。


 ロゼが俺の目の前に立つと、座っている俺の顔が丁度ロゼの胸辺りになる。湯を浴びて火照ったロゼの体温を間近に感じ、俺は思わず目を開ける。

 俺の目の前で、ロゼの形の良い、それでいて豊かな双丘が揺れていた。滴る水滴を弾きながら揺れる褐色の双丘が、髪を洗う動きに合わせてリズミカルに動く。


 あかん、これはあかんやつやで。


 心の中で思わず変な関西弁になりながら、俺は慌てて目を閉じた。

「少し、頭を下げてください」

 ロゼの指示に、俺は無心になりながら、頭を傾けた。


 ふにゅん


 俺の額と鼻とが、ロゼの胸に触れた。押し付けられた額を通して、後頭部を洗うロゼの動きに合わせて動く感触に、間近に感じるロゼの甘い体臭に、俺は目を閉じたまま、平常心を貫こうと必死だった。

 これだけでこんなに刺激的とは…。アダルト系VRにハマるやつの気持ちが痛いほど理解できてしまった。特に嗅覚の刺激がここまでリアリティを生み出すのかと思うと、AGSでのアダルト系サービスが始まれば、他のサービスは消滅してもおかしくない。

 現実世界に戻っても、決してそっちには手を出さないようにしよう。期せずしてゼファーの気持ちが理解できてしまい、このままオーラムハロムで経験できてしまうなら、同じではないかと思いつつ、俺はこの甘い拷問が早く終わるように耐え続けた。


「終わりです。いかがですか?」

 至福の拷問タイムが終わり、頭から湯を掛けられると、布で頭を拭きながらロゼが話しかけてきた。

「ありがとう。気持ち良かったよ」

「良かったです。やったことがなかったので、粗相がなかったかと心配でした」

 俺の言葉に、ロゼがほっとしたように息を吐く。

「やったことがないって割には手馴れていたような?」

「犬や猫を洗うのには慣れていますけど、人間は洗ったことがなかったから…」

「なるほどね。それならスマラも洗ってもらった方が良さそうだな」

 ロゼの答えに、俺はスマラを洗ってもらおうとする。そこに、

『私の前に、ロゼを洗ってあげないの?』

 と心話が飛んできた。スマラはゆったりと湯に浸かりながら、冷やしておいた蜂蜜酒を開け、満月を見上げながら月見酒を堪能していた。俺の分も残しておけよ。

「よし、スマラの前にロゼの背中も流そうか」

「え? 私は結構です! お客様に背中を流してもらうなんて…」

「いや、多分それもサービスのうちなんじゃないかな」

 俺はそう言って周囲を見る。かなり人影は減っていたが、二組ほど俺達と同じように身体を洗っている人たちがいる。

 一組は男の方が女の子の身体を洗っている。泡立てた両手で、女の子の背後から両胸を揉みしだくように、っていうか揉んでるな、あれは。女の子の方も嫌がってはおらず、むしろ喜んでいるようなので、そういうものだと納得する。

 もう一組は女の子が男を洗っているのだが、全身を泡で包んで抱き着くようにして男の背中に豊かな胸を擦りつけていた。あー、なんか風俗とかでああいう洗い方があるって聞いたことあるな。

 俺の視線を追って、他の娘たちの様子を確認したロゼは、真っ赤になって俺を見る。

「あ、あの、それじゃお願いします…」

 どうやら女の子の身体を洗うのは、サービスの一環だと理解したらしい。

 俺は石鹸を手に取ると、両手で泡立て、そっとロゼの背中に触れた。そして両手を使って背中を洗っていく。

 掌に伝わるロゼの肌は滑らかで、手に吸い付くような感触だった。掌から伝わる感触は、やはりプログラムだとは思えない。

 俺は感動しつつ、ロゼが俺にしてくれたのと同じように、背中から首筋、腕を洗っていく。そして尻に手をやると、

「ひゃっ」

 と言ってロゼが身を竦ませた。そして恥ずかしそうに、

「あの、そこは恥ずかしいので自分で洗います…」

 と言ってきた。俺は頷き、今度は前へ回ると、泡立てた両手でロゼの胸を掴んだ。

「うんっ」

 ロゼは真っ赤になって目を瞑っている。俺はあまり執拗にならないように注意しながら、ロゼの豊かな双丘に掌を這わせた。

 心地よい弾力が俺の掌を押し返してくる。俺の指がロゼの敏感な部分に触れる度、長い耳がピクンと揺れる。俺はその反応が面白くてそのまま続けようと思ったが、目を閉じて必死に我慢するロゼを見て自重すると、腹部や太腿、足を洗っていく。

 そして最後に髪を洗ってあげる。ロゼの長い銀髪は、月の光を浴びてキラキラと光っている。お湯を掛け、石鹸を使って洗っていると、

「ヴァイナス様が身に着けている首飾り、素敵ですね」

 とロゼが話しかけてきた。俺はロゼの髪を洗いながら、

「ありがとう。探索で手に入れたものなんだ」

 と答える。俺は今、ムーン・ベネディクタと難破船で手に入れた〈刻の刻御手〉を身につけていた。どちらも月の光を浴びてキラキラと光っている。

「ヴァイナス様は探索者なんですね」

「ああ。色々あって今は探し物の途中かな…。そうだ、ロゼは〈陽炎の門〉ってどこにあるか知ってるかい?」

 俺がそう尋ねると、ロゼは一瞬動きを止め、ふるふると首を振る。

「申し訳ありません。知らないです」

「そっか…。ああ気にしないで。俺も探し始めたばかりで何も知らないんだ」

 俺がそう言うと、ロゼは小さく頷いた。

「ヴァイナス様はその〈陽炎の門〉を探してどうするんです?」

「ヴァイナスで良いよ。様はいらない。俺は〈陽炎の門〉を抜けた先の世界に行きたいのさ」

 ロゼの質問に答えると、ロゼは頷き、その後は特に会話もないまま髪を洗い終えた。

 ロゼは流した髪をまとめ、身体(の恥ずかしい部分)を洗い始めた。俺はスマラの所へ行き、ゴブレットに蜂蜜酒を注ぎ、湯船に浸かりながら杯を傾けた。


 旨い。


 蜂蜜特有の香りが鼻腔を擽り、強い甘みが舌いっぱいに広がった。そのままゴクリと飲み込むと、口の中には爽やかな後味だけが残った。あ、これはこのまま呑んでも旨いけど、炭酸水で割ったら更に旨いはず。

 俺は絶対に炭酸水を手に入れようと堅く心に誓った。

「スマラ様もお背中流しますね」

『お願いするわ』

 アップに纏めた髪を布で包んだロゼが、スマラの木桶に近づき、声を掛ける。

 ニャアと返事をして洗い場に向かうスマラ。それを追うロゼの形の良いお尻を眺めつつ、俺は蜂蜜酒を味わう。頭上から注ぐ月の光の中、俺は静かに温泉と酒を楽しんでいた。



「それじゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 温泉から出た俺達は、風呂の入口でロゼと別れ、部屋へと戻った。

 別れ際、何か言いたそうなロゼの表情が気になったが、ロゼが何も言わずに去ったので、確認することもできずにそのまま別れた。

 部屋へと入り、脱いだ汚れ物を椅子の上に投げつつ、俺はベッドへと倒れ込んだ。夜気を帯びた冷たいシーツが温泉で火照った身体に心地いい。

 今日は心行くまで温泉を堪能できた。明日からまた船上生活になると思うと微妙に憂鬱だが、船には船の良さがある。良いところを見ていくことにしよう。

「お酒もお風呂も堪能したわ~。これで明日からの生活も頑張れそう」

「そうだな。船の上じゃ経験できないこともしたし、リフレッシュしたな」

 スマラが俺の上に飛び乗って大きく伸びをする。俺はスマラを撫でると、頭の中で温泉での出来事を反芻した。

「それにしても、ロゼは初心だったなぁ。ゼファーには聞いていたけど、エルフの娘って皆あんな感じなのかな?」

「そんなことないんじゃない? 私は人間のことは良く分からないけど、私たち(グレイマルキン)だって色んな性格の者がいるわ。ヒューマンだってエルフだって大して違いはないと思う」

 文化や風習は違うでしょうけど、スマラはそう言うと俺の腹から飛び降り、部屋の隅に用意したベッド代わりの籠に入り、丸くなる。

 ロゼの反応はAIによるものとしては驚異的なものだった。会話もそうだが、プログラムによる動作だとは思えなかった。

 このゲームの製作者は、どれだけの熱意を持って性関係のプログラムを作ったのだろうか。まるでVR風俗系(実はよく知らないので妄想だが)とかを参考にしているのだろうか…。

 蜂蜜酒も呑んで、非常に心地よくなっている。俺はそのまま寝てしまおうと思い、服を脱ごうとした。そこに小さくドアを叩く音が響いた。

「すいません。ロゼです。まだ起きてますか?」

 さっき別れたロゼが何故か訪ねてきた。何か忘れ物でもあったのだろうか?

「ああ起きてるよ。どうしたんだい?」

「中に入っても宜しいですか?」

「別に構わないけど…。ちょっと待って」

 脱ぎかけた服を着直して、俺はドアを開けた。

 そこには、薄着の上から柔らかそうなショールを羽織ったロゼが立っていた。

「失礼します」

 ロゼはそう言って入って来た。俺はドアを閉めると、一つしかない椅子をロゼに進める。俺はベッドに腰掛けた。

「それで、こんな時間にどうしたんだい?」

 俺は改めてロゼに尋ねた。

「部屋に戻ろうとしたら、マスターからヴァイナス様が私を一晩指名されたと言われたので…」

 ロゼはそう言って恥ずかしげに俯いてしまう。なるほど、宿屋の主人から言われて来たのか。俺はこのまま眠るつもりだったので、

「確かにロゼを指名したけど、それはロゼが背中を流してくれるって言ってくれたから、サービス料が発生するかどうか確認しただけだよ。一応指名扱いになるそうだから、手続きを取っただけさ。無理にすることはないから」

 と言う。ロゼはそれを聞いて、

「私もこういったことは初めてなのですが、私のような素人を指名してくれることは殆どないそうです。相手に気に入られているなら、懇ろになっておけと言われました」

 と答えた。俺は苦笑する。

 ロゼは素直に答えているけど、そう言うことは客に対して言っちゃいけないだろう。ここは『貴方に気があります。可愛がって下さい』的にアプローチするところだろうに。

 まぁ、俺もこういったことはこの世界(オーラムハロム)でも現実世界でも初めてなので、手練手管に長けたプロよりも、ロゼのような娘のほうが、気楽に接することができるけど。

「それにしても、俺なんかで良いの?」

 背中を流してもらったことで満足しているので、無理強いはしたくなかった。俺はその辺りも含めてもう一度確認した。

 そりゃ俺だって男だし、ロゼみたいに可愛い娘とできるなら文句はない。けど無理矢理するのは遠慮したかった。特にロゼは奴隷として買われ、強制的に客を取らされているのだから。

 そういう設定だとしても、心情的には楽しめない。まぁ、そういうシチュエーションが良いという人もいるだろうから、これはあくまで俺個人の趣味趣向なんだけど。

「ヴァイナス様は優しいですね。私、最初の人が貴方で良かったと思ってるんです」

 ロゼはそう言って微笑んだ。様はいらないんだけどなぁ…。

「私は女給兼娼婦としてこの酒場で働いています。この宿屋の主人は比較的良心的な人で、客から指名が入らない限り、給仕の仕事だけで良いと言われています」

 ですが、とロゼは怯えたように自らの肩を抱きしめ、

「客の取れない女を主であるあの男、ゲイズは許しません。しっかりと客に媚びることができるように『仕込まれる』のです。手下の男たちを使って、徹底的に…」

 ロゼはそう言って健気に微笑んだ。

「私と共に買われた女性の一人が、目の前で『仕込まれる』のを見せられました。これが嫌なら必死に稼げ、と」

 ロゼの微笑む瞳から、一筋の涙が流れる。

「今日客が取れなければ、私は『仕込まれる』のです。あいつらにされるくらいなら、私は貴方に抱かれたい」

 ロゼはそう言って、ゆっくりと立ち上がると、ベッドに座る俺の膝に座り、両手を首へと絡めてくる。ロゼと触れ合う場所から感じる温かさと柔らかさ。そしてロゼは、

「私みたいな女で良ければ、抱いて下さい」

 と俺の耳元で囁いた。


 なんだろう、この状況。


 俺は置かれている状況のあまりの重さに、何と言っていいのか分からなかった。

 ゼファーに言われて軽い気持ちでNPCとの逢瀬を楽しもうと思ったのに、このイベントを考えた奴に大声で文句を言いたかった。

 泊まった宿屋での偶然の再会に、イベントだと思って浮かれていた時が、遥か昔に感じる。

 だが、いつまでも黙っているわけにはいかない。俺はロゼをそっと抱き締め、

「無理にすることはないよ。したことにして明日の朝、帰ればいいんだから」

 と言う。するとロゼは顔を上げ、

「やっぱり私じゃ嫌ですか?」

 と悲しそうに言う。俺は慌てて首を振り、

「そんなことはない。嫌だったら背中を流してもらったりしないよ。それに、月の光を浴びた君はとても綺麗だった…」

 と、思わずゼファーの口説き文句のような台詞を口にする。あまりの気恥ずかしさにロゼから目を逸らしてしまう。ロゼはポカンとした表情で俺を見ていたが、言われた言葉の意味が理解できたのか、真っ赤になって俯いてしまう。


 落ち着け、俺。


 ゲームでこんなにドキドキするとは思わなかった。VRの恋愛ゲームにハマるやつの気持ちが、また少し理解できた気がする。

 心の中で深呼吸をし、俺は、

「俺、今まで女の子とこんな風にしたことなかったんだよね。だから、何て言って良いのか分からないんだけど」

 と言って、もう一度しっかりとロゼを抱き締める。そして、

「お願いします」

 と耳元で囁いた。

ロゼの長い耳が、ビクリと大きく震えた。そして震える声で、

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 と言うと、腕を解き、ゆっくりと俺から離れた。そして、俺に背を向けると、静かに衣服を脱いでいく。


 ランタンの揺らめく光に照らされたロゼは、月下とは異なる美しさだった。


「あの、明かりを消しても良いですか?」

 背を向けたまま恥ずかしそうに尋ねるロゼに、

「構わないよ」

 とだけ俺は言う。ロゼは頷き、ランタンの灯を落とす。

 鎧戸の隙間から差し込む満月の光が、かろうじてベッドを照らし出す。

 暗闇の中、ロゼがベッドに近づくと、座ったままの俺の前に立った。俺は背後から差し込む僅かな月の光を浴びて佇む、ロゼの裸身を前に動くことができなかった。

「そんなに見つめられると恥ずかしいです…」

 小さく囁かれた言葉に、俺は慌てて視線を逸らし、服を着たままだったことを思い出すと、急いで脱ぎ捨てる。


 これって本当にゲームなのか?


 ズボンから足が抜けずに転びそうになり、余裕なんて全くない状態で準備をしながら、俺は今から起こることに必死に集中する。

 何とか準備を整えると、俺はロゼの手を取り、ベッドへと誘う。ベッドに横たわると、ロゼの長い銀髪が、ベッドの上にふわりと広がった。

「優しくしてくださいね」

 ロゼはそう言って微笑んだ。俺は頷くと、ゆっくりとロゼに覆い被さる。


 遠くから聞こえる波の音と、草木を揺らす風の音が、やけに大きく聞こえた。


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