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10 幻夢(VR)も現実(リアル)も可愛いは正義

 俺は安全を確認すると、改めて祭壇に向かった。生贄を助けるためだ。苦いと文句を言うスマラに傷薬を飲ませ、HPがほとんど残っていなかった俺はムーン・ベネディクタを使い全快させる。

 これでしばらく使い物にならない護符は、外して〈全贈匣〉に放り込んでおく。ついでにスマラに預けていた男から奪った刻御手を身に着けた。ダミーとしても有効だし、〈能力〉が強化されるしな。

 そうして準備を整えたところで、祭壇の上に被せられた黒い布を取り払う。先ほど微かに聞こえた声は、羊や山羊のものではなかった。おそらく幼い少女…。

 警戒しつつ、一気に布を取り去る。


 そこから現れたのは、一頭の〈一角獣〉(ユニコーン)だった。


 前後の足を縛られ、恐怖に身を震わせるユニコーンは、俺の姿を見て更に暴れ出す。予想外の状況に茫然としていた俺は、慌てて、

「落ち着け! 危害は加えない。今縄を切るから大人しくしてくれ」

 そう言ってミゼリコルドを抜くと、ユニコーンは殺されると思ったのか、一層激しく暴れ始める。このまま作業を進めると、ユニコーンを傷つけてしまいそうだったので、どうしたものかとスマラを見る。

「馬鹿ねぇ。共通語が通じるわけないでしょ? 私が話をしてみる」

 スマラはそう言って、俺の知らない言葉で話し始めた。後に聞いた話では、〈古代語〉と呼ばれる言語で、〈獅身女〉(スフィンクス)や先ほど戦った〈人喰獣〉(マンティコア)、〈複合獣〉(キメラ)といった古い幻想種が使う言葉らしい。スマラ達グレイマルキンも使っているとか。

 スマラの話を聞いたユニコーンは、落ち着いたのか暴れるの止め、俺が縄を切るときも静かにしていた。

 自由を取り戻したユニコーンは、祭壇から降りると、俺の腹に首筋を擦りつけてきた。どうやら礼をしているようだ。俺が優しく鬣を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。

 それにしても、この世界のユニコーンはこんに小さいのだろうか? 体高が俺の胸くらいまでしかなく、仔馬くらいの大きさしかない。スマラに聞くと、この子はまだ子供なのだという。

「生贄に選ばれるのは、穢れなき魂を持つ者が好まれるの。だから幼い子供が狙われるのよね。嘆かわしいことだわ」

 スマラはそう言ってため息をつく。それにしても、助けたのは良いが、この後どうしたら良いのだろうか?

 俺はスマラに相談すると、

「呆れた、何も考えていなかったわけ? 信じられない。ここに置いて行くわけにはいかないし、かといって探索に連れて行くのも危険よ。困ったわね…」

 悩み始める俺達を見上げるユニコーンは、無邪気に俺にじゃれついていた。

「仕方がない、一度入口まで戻って保護してもらおう。理由を話せば大丈夫だろう」

「待って、こいつらここまでどうやってこの子を連れて来たのかしら? 祭壇にあらかじめ連れて来ていたのかもしれないけど、そうでないならこんな大きな子を連れているようには見えなかったわよ」

 俺の提案に、スマラが別の疑問を口にした。確かに通路を歩いている時、この子を連れているような様子はなかった。こんな暑くて祭壇以外何もない場所に、長い時間放置されていたとも考え難い。

 俺は崇拝者達の持ち物を探ってみることにした。もしかしたら何か持っているのかもしれない。

「あ、こいつらの錫杖は触らない方が良いわよ。呪われてるわ」

 スマラの忠告に頷き、慎重に確認を進める。てゆうか、そう言うことは確認を始める前に言って欲しいんだが。危うく持つところだったよ。

 確認を続けていくが、それらしいものは見つからない。最後に儀式用の短剣を振り上げていた崇拝者を調べると、ローブの隠しから、1本の円筒形のものが現れた。表面には魔法文字が刻まれ、仄かに光を発している。

「あら、それって〈小さな魔法筒〉(マジック・シリンダー)じゃない。それよ。それを使って運んできたのね」


〈小さな魔法筒〉(マジック・シリンダー)。


 このマジックアイテムは、5立方メートルまでの生物をその中に納め、運ぶためのものだ。出し入れは筒を持った状態で、簡単な合言葉(コマンドワード)を唱えれば良い。市販されているものは、対象の同意がなければ出し入れすることができないが、中には強制的に「封印」できるものも存在するらしい。

 ちなみに、封印状態の生物は仮死状態というか時間停止状態となるため、封印されたまま老衰や窒息で死亡することはない。

 これも市販のもののようなので、ユニコーンが中に入るのを同意したことになるのだが、生贄になることに同意したとは考えにくい。そのことをスマラに聞いてもらうと、

「どうやら騙されて中に閉じ込められたみたい。遠い場所にいる兄弟に会うために必要なことだと言われたらしいわ。手足を縛られたのは、中で怪我をしないためだと言われたみたい」

 なるほど、人を疑うことを知らなかったんだな。今も無邪気に俺にじゃれつく姿を見ていると、これから先のことが、非常に不安に感じてしまう。

 これを使うのは良いとして、一度騙されたユニコーンが、ここに入ることを同意してくれるのだろうか?

「スマラ、もう一度これに入ってくれるのか聞いてみてくれ」

「分かったわ」

 スマラがユニコーンに話しかける。しばらく話をしていたが、

「別に構わないそうよ」

 あっさり同意されてしまった。良いのか? ちょろ過ぎるぞ。

「助けてくれたのだから、信じているって」

 うう、信頼が重い。

 万が一にも誰かに奪われないようにしないと。

 俺は頷くと、マジック・シリンダーを持ち、ユニコーンに向けると合言葉を唱えた。

 すると、魔法文字の一つが光り、ユニコーンは光の粒子となって筒に吸い込まれていく。無事に中に納まったのを確認した後、俺はマジック・シリンダーを〈全贈匣〉に納めた。なるたけ早く解放してあげたいものだ。

 それにしても、〈全贈匣〉の中に、大事なものが増えている気がする。まぁ、役に立っているので問題はないのだが。

「それにしても、さっきの戦いは危なかったわね。もう少しで死ぬところだったじゃない。いくら蘇生できるとはいえ、慎重に行動してよね」

 スマラはそう言って、もう先へ進みましょう、ここは暑くて堪らないわと影の中に入ってしまう。

 俺は苦笑を浮かべると、聖堂を後にした。まったく、探索者(プレイヤー)とのイレギュラーな出会いがあったとはいえ、このダンジョン、本気で難易度が高すぎる。もっとも、リスクに見合う報酬は用意されているようだが…。

 俺は気を引き締めると、元来た通路へと進んで行った。


 隠し扉のある通路へと戻った俺達は、崇拝者達が現れた北の通路へと進んで行った。しばらく進んでいくと、T字路に出た。

 どちらに進もうかを考え、足元を調べてみると、西側の通路から足跡が続いていた。どうやら西側の通路の先から崇拝者達は現れたようだ。

『後顧の憂いを断つためにも、西側を調べたほうが良さそうね』

『ああ、そうだな』

 スマラの言葉に頷き、俺は西へと歩を進めた、

 この辺りは崇拝者達の行動範囲なのか、松明が適当な間隔で設置されており、明かりには困らない。俺は自前の明かりを消すと、フードを被り、隠密状態で進むことにした。

 そのまましばらく通路を進むと、やがて木の扉が見えてきた。扉の表面には、崇拝者達のローブに刺繍されていたシンボルと、同じものが描かれている。そして成人男性の目の高さ辺りに覗き穴が設置されていた。覗き穴からは光が漏れている。どうやら中はかなりの明るさのようだ。

 ここは悪魔崇拝者に関連する場所らしい。俺は扉に近づき、罠を調べる。迂闊に覗き穴を覗きこんだりはしない。

 確認した結果、この扉には罠も鍵もないようだ。これだけはっきりと主張しているのに、不用心な気がしたが、とりあえず覗き穴から中の様子を窺うつもりで、手鏡で中を覗こうとした。

 しかし、手鏡には何も映らない。

 正確には、真っ暗なのだ。覗き穴からは光が漏れているというのに。これはおかしい。妖しすぎる。

 俺の動きに呆れたのか、スマラは俺の肩に乗り、覗き穴から中を覗きこむ。すると、

「ちょっと、見てみなさい! 凄いわよ!」

『おい、いきなり声を上げるな! 中に誰かいたらどうする!』

 俺は心話でスマラを諌める。慌てて扉の前から離れ、様子を窺った。スマラは俺の肩から降りると、

『ごめんなさい。でも大丈夫よ! 中を見てみれば分かるわ!』

 スマラは必死に中を見ろと言う。一体何なんだ?

 俺は訝しみながら、覗き穴から中を覗いてみる。

 俺の目に飛び込んできたのは、蒼白く輝く魔法の光に照らされた、財宝の山だった。


 山のように積まれた金貨。

 宝箱から零れ落ちるほどの宝石の数々。

 装飾も見事な鞘に納められた剣。

 魔法の光を受けて反射する鎧や盾。


 ここは、悪魔崇拝者の宝物庫か!

 俺は驚愕に目を見開いた。あいつら、こんなに貯めこんでいたのか…。げに狂信者とは恐ろしい。

『ねぇねぇ、これだけあれば一生遊んで暮らせるわよ! ああでもこんなに持ちきれないわね。どうしたらいいのかしら』

 スマラは興奮しているのか、俺の足元をぐるぐると走り回る。

 俺も思わず笑みを浮かべるが、頭の片隅を過ぎった違和感に、もう一度確認をする。

 自分の目で中を覗きこむと、先ほどと同じように財宝が見えた。

 そこで、もう一度手鏡を使い中を覗く。すると、やはり真っ暗で何も見えない。これはどういうことだ?

 肉眼で見ないと見えないようにする魔法でも掛かっているのだろうか? わざわざそんなことをする意味は?

 俺は疑問に思ったことをスマラに聞いてみた。

『そんなの分からないわよ。どうぜ狂信者なのだから、何を考えているかなんて考えるだけ無駄よ』

 それより早く中に入りましょう? スマラは早く扉を開けろと、木製の扉をカリカリと引っ掻いている。

 俺は取っ手を掴むと、扉を開けようとした。そこで違和感を感じる。なぜ宝物庫なのに鍵も罠もないんだ?

 俺は慌てて扉を開けるのを止める。しかし、スマラは待ちきれないというように、僅かに開いた隙間から中に入ってしまった。仕方なく俺も中に入ろうとする。その時、

「何これ? …だめヴァイナス、これは罠よ!」

 中からスマラの声が聞こえた途端、ごとりと何かが倒れる音がした。俺は扉に張り付き、手鏡を使って扉の隙間から中を覗きこんだ。

 部屋の中はひどく殺風景な部屋だった。煌々と照らされる室内にあるのは、床に転がる石像と、その石像をじっと見つめる1匹の蜥蜴だった。その石像には見覚えがある…。

 その時俺は気づいた。スマラがいない! そこで俺は更に気づいた。床に転がる石像、あれは猫の石像じゃないか…?

 俺の頭の中で、パチリとパズルのピースが填まる音がした。慌てて扉を閉める。あの蜥蜴の正体が分かったからだ。


 〈爬虫類の王〉(バジリスク)


 その姿を見た者は、須らく石化の呪いに掛かり、物言わぬ石像と化すと言う。また、その身に流れる血は猛毒であり、倒したとしても、武器を通して毒が伝わり、所有者を死に至らしめると言う。

 どうやら鏡越しに見る分には、石化はしないようだ。ただ、迂闊に攻撃すれば、毒によって死ぬことになるだろう。一体どうすればいい?

 スマラが石化したとすれば、俺もただでは済まないと思ったが、どうやら【石化】は状態異常であって【死亡】状態ではないらしい。安心すると共に、厄介なことに気づく。

 つまり、スマラは放っておけば、いつまでも石像のままだということだ。迂闊だったとはいえ、このまま見捨てるのは忍びない。何かの拍子に石像が破壊されれば、その時点で俺が死亡する可能性は非常に高い。


 いつ訪れるのかも分からない死の恐怖。


 俺を戦慄させたのはそれだけではない。【石化】状態になれば、幸運による蘇生もできないということだ。下手をすると、永遠に石像のままということも有り得る。

 そうなってしまえば、ゲームもへったくれもない。【消滅】ではないのでキャラクターを作り直すこともできず、誰かに石化を解除してもらうか、石像が破壊されて死亡するまで、何もできなくなるということになる。

 せっかく手に入れたAGSを、そのまま死蔵するのはあまりにもったいなさすぎる(今のところ、オーラムハロム以外のコンテンツが発表されていないので、まだ見ぬ新作を待ち続けるのは拷問に等しい)。それに、今の状況は余りにも惨め過ぎる。

 おそらく、パーティを組んで探索しているのであれば、大した問題ではない気がする。魔術師がいれば魔法を使って石化した仲間を治すことは(石化を治す魔法が使えるのならば)可能だろうし、思い切って壊してくれれば、幸運を使って蘇生することが可能だからだ。万が一消滅となってもキャラクターを作りかえればいいのだ。

 だが、俺はソロプレイの真っ最中だし、サポート役のNPCが石化してしまうというアクシデントに見舞われている。俺が何とかするしかないのだ。

 俺はこの状況を打開しようと、必死に考えを巡らせる。


 良く考えろ。


 下手な行動は「オーラムハロムからの引退」(ゲームオーバー)に繋がる。

 

 どうすればいい?


 どうすれば確実にこの罠を突破できる?


 バジリスクを見るのは論外だ。石化してしまうだろう。


 鏡を見ながら戦う? 可能だが勝率は低いだろう。


 バジリスクの毒が致死性のものだと誰が決めた?


 石化毒であった場合は同じく詰みだ。


 考えろ、考えるんだ。


 各行動を立案し、その成功率を検討する。

 思いつく限りの行動をシミュレートし、最も成功率の高い行動を絞り込んでいく。

 そして、現状で最も成功率が高いと思われる作戦を考えた。

 この作戦でも不安要素は残る。だが、そこは賭けるしかない。

 俺は準備を整えると、扉を開け、一気に飛び込んだ。

 バジリスクはこちらに気づくと鎌首をもたげ、威嚇の声を上げた。俺は鏡を通してバジリスクを確認、位置を確かめる。


 良し、まず最初の賭けには勝った。


 バジリスクが「視線」によって石化を行う可能性があった。この場合、視線を鏡などで反射すれば、バジリスクを逆に石化することもできたのだが、視線にそのような能力がなかった場合、目を瞑ったまま戦闘を行うことになる上、バジリスクが鏡を見て石化するところを確認できないという欠点があった。

 鏡が二枚あれば、片方で姿を確認し、もう一枚で視線を反射できたのだが、できないことを考えても仕方がない。

 刀身に姿を写せばとも考えたが、刀身は鏡のように綺麗な平面として磨かれているわけではないので諦めたのだ。下手をすると乱反射した視線の力で石化する可能性もあった。

 結局視線ではなく、直接姿を見ることで石化するタイプみたいだ。

 俺が完全に部屋の中に入った瞬間、後ろで勢いよく扉が閉まる。そして鍵の掛かる音。

 やはり侵入者を逃がさないトラップが仕掛けられていた。これは吊り天井の部屋にもあった仕掛けだったので予想済みだ。

 俺はバジリスクを無視し、真っ直ぐに床へ転がる石像へと向かった。案の定、石像は石化したスマラだった。驚愕の表情のまま石化している相棒を拾い上げると、俺は思い切り床へと叩きつける。

 石像が砕け散る音が響いた瞬間、俺の意識も暗転する。


 俺は死んだ。


 気が付くと、シンボルの描かれた扉の前に立っていた。足元にはスマラも復活している。

「ちょっと、何が起きたの?」

 蘇生するなり俺に質問を浴びせるスマラを制し、俺はその場に座り込んだ。何とか上手くいったらしい。

「ひとまず小休止だ。なんとか上手くいったな」

 俺は座り込みながら、スマラに説明をした。

 恐らく自殺をしても、スマラの石化は解けない。

 それは、スマラが石化したのに、俺が死んでいないことから、石化=死亡ではない、ということだ。この場合、俺がどれだけ死んでも、スマラの石化は解けないということだ。

 これはバジリスクの攻撃や毒によって俺が死んでも、スマラの石化は解けないということだ。始めからバジリスクとの戦闘は論外だったことになる。

 次に脱出不能のトラップについて。

 あの仕掛けがなかった場合、おそらく俺が死んでもバジリスクの部屋の中で蘇生することになる。その場合、蘇生した際は慌てずに目を瞑ったまま鏡を用意するところから始めなければならなかったが、あの手の致命的な罠に関して、このダンジョンは脱出不可能にしている可能性が高いと考えていた。それはこのダンジョンを製作した者の意図を感じたからだ。


 一言で言えばハイリスクハイリターン。


 罠に嵌れば即死、もしくはそれに類する状況に追い込まれる。

 代わりに突破すれば相応の報酬を与える。


 先達がリタイアしたのも頷ける仕様だ。ゲーム開始時から、こんな殺意の高いダンジョン攻略なんてしたくないだろう。俺だって本来ならもっと経験を積んでからリトライしたい。

 しかし、それができない仕様になっているのが嫌らしい。まったく、制作者の意地の悪さが透けて見える。

 まぁ、その辺りはともかく、つまりは鍵が掛かるのは予定通りだった。これで俺の蘇生ポイントは部屋の外になる可能性が高まったのだ。

 後は、スマラの石化を解くためにはどうすればいいか?

 簡単だ。スマラを殺せばいい。

 石化したスマラを殺すのは簡単だった。単に石化した身体を壊せばいいからだ。

 もちろん、石化した身体を砕いたところで【死亡】状態にならない可能性もあった。その場合は、スマラには悪いが、俺はバジリスクに殺されるか自殺した後、そのまま一人で探索を続けるつもりだった。

 石像の破壊=死亡とならない場合、スマラが死ぬことはないということになり、俺は自分の事だけを考えれば良くなる。

 残酷だが、罠を疑わずに部屋に入ったスマラが迂闊であり、自業自得なのでそこは諦めてもらおう。

 実際、このことを説明した時は、スマラは怒りのあまり飛び掛かってきたのだが、そのことを指摘すると、流石に迂闊だったことは認めるのか小さくなっていた。

 結果として賭けには勝ち、石像の身体が砕けた時点で死亡状態となり、契約状態の俺も同時に死亡、幸運を減少させて蘇生したというわけだ。

 俺は話しを終えると、通路に置いておいた荷物を回収する。あらかじめ蘇生場所が部屋の外、もしくは中になった場合に対応できるように、持ち物を分けておいたのだ。

 もちろん、その分け方だって十全ではなかったが、現状で出来る限りの想定をした上での判断だった。

 準備を終え、探索を再開しようとした俺に、

「ごめんなさい。迂闊だったわ…。悪魔崇拝者を倒して気が緩んでいたみたい。まさかあんな罠があるなんて」

「いや、俺も注意が足らなかった。宝物庫に罠も鍵もないなんて不自然な状況、もっと警戒して然るべきだった」

 なんにせよ、こんなことはこれから先いくらでもありそうだし、次から注意すればいい。

 俺はスマラを抱え上げると、喉の下をゴロゴロさせてあやした。

「とにかく、なんとか探索を続けられるんだ。気持ちを切り替えて頑張ろうぜ」

 ちょっと止めなさいよ、と口では嫌がりつつもまんざらでもない様子のスマラは、

「ええ、迂闊なことはしないと約束するわ。頑張りましょう」

 と言って、俺の肩に飛び乗り、頬を一舐めすると、影へと潜り込んだ。そして、


『ありがとう』


 と心話で呟くと、それきり黙ってしまった。どうやら照れているらしい。

 そんなスマラの態度に笑みを浮かべつつ、俺は気を引き締め直し、この殺意の高いデスダンジョンを攻略するため、奥へと歩を進めるのだった。


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