俺は必ず返り咲く
「あ、旦那さま。おかえりなさい。」
「ご主人様!遊ぼ!」
ティアとクルンは俺を迎えてくれたが、今の俺には返事をする余裕はなかった。
「……」
ボロボロのまま部屋に入り蹲る。アルに言われたことが頭から離れない。
『…力よりも心が弱くなっている。今の貴様は私の主殿ではない。当分家には行かない。…願わくば次会うときまで強き心のあなたに戻っていてくれ。』
心か……。
コンコン。
「ティアか。……どうした?」
「あ、えと旦那さまのご様子が少しおかしかったので……」
「入って。」
ティアを部屋に入れて大まかに説明した。
「……旦那さま。」
「……もうダメかもな」
自嘲気味に苦笑うことしか出来ない。
パシッ!
「私たちの旦那さまはその程度のお方でしたか?あなたはもっと強い殿方でした。」
「……俺はただ運が良かっただけだ。たまたま強いスキルとステータスをもらって、たまたまお前たちに出会った。そんな男のどこが強い?」
そう。俺は運が良かった。今まで努力という努力もしないで強力なステータスに胡座をかいていた。
「確かにそうでした。でも、あなたは自信に満ちていました。今回のことでその自信が砕かれたのですね…。」
そうだ。元の世界ではただの凡人だった俺がこっちでは英雄だ。それは自信もつくだろう。それは過信だったけどな。
「あなたが自分で掴み取った力じゃないから。だから一度の敗北で簡単に崩れ落ちる。」
ティア言うことはいつも正論だ。物事の核心を理解している。
「なら、今から強くなればいいじゃない。みっともなくても情けなくても、私は、私だけはそんなあなたを決して諦めない。例えあなたがあなたを諦めたとしても!」
「ティア…。ありがとう」
でも、それであいつに勝てるのか?ギルティはさらに俺の力も上乗せされている。神にも届きうる力だろう。
「いつまでもウジウジウジウジ情けなーい!」
バン!
クルンが扉をぶち抜いて侵入してきた。
「クルン?」
「そんな事言ってる暇があるなら強くなるためになんかしなさいよ!少なくとも私たちが奴隷のときは生きるために必死になってたよ!」
「……そうだな。お前たちに聞きたいことがある。もちろん強くなるためにな!」
「旦那さま…!」
「もちろんだよ!」
「まずはレベル等、種族値について聞きたい。種族ごとに限界値とかってあるのか?」
「あります。旦那さまはヒト族。ヒト族の限界値は最も低く、ステータスも低いです。魔族、獣人族は成長共にレベル、ステータスが向上します。」
なるほど。つまり、
「ヒト族は最弱ってこと。そして努力しても魔族、獣人族の成長率には遠く及ばない、ってことだな。」
「残念ながらそうなりますね。」
だったら。
「だったら人を超えればいいだけだ。ティア。魔具が封印されている地はどこだ?」
魔具は契約することで強力な力を与えてくれる。早い期間で強くなるためには一番の近道だ。
「今は東のクリーク山脈の洞窟。そして海底ダンジョンに確認されています。」
ティアはしかし、と付け加える。
「旦那さまの神殺星があるので不要では?」
「……こいつは今の俺は持ち主に相応しくないってよ。今のこいつはアクセサリーだ。」
神殺星は持ち主を選ぶ。まるで意思があるように、自らが認めた持ち主にしか力を貸さない。
「だが、魔具は最終手段だ。俺は自分の力で強くならないと意味が無い。」
「それでこそご主人様!」
「お前達のおかげだよ。クルン。ティアスタ。」
ヒト族の限界値はLv150。これは不変であり突きつけたれた事実だ。
けれど人間に不可能はない。
なぜなら人間は翼が無ければ飛行機を作り出し、力が足りなければ機械を作り出し、人手が足りなければロボットを作り出す。
そしてこの世界はそれらの代わりに魔力がある。レベルもステータスもスキルもある。それなのに不可能はあるのだろうか?
少なくとも今の俺には少しの希望がある。
なぜならティアスタとクルンと……アルフィナがいてくれる。そして音兎が待っていてくれる。
そんな俺に不可能はない。今はただのレオ。しかし、滅拳と呼ばれた俺よりも今の俺のほうが心が強固だ。
待ってろ。音兎。必ず助けに行くから。




