声
家に着き、散々だった1日を洗い流すように風呂から上がり部屋に戻ったその時だった。
突然、スマホから軽やかな音楽を流し始めた。
(…誰だよ?)
画面を見ると、まさかと思う相手からだった。
「もしもし?」
少しうわずった声で電話にでる僕。
「ごっごめんなさい。こんな時間に電話しちゃって…」
そう電話をしてきた相手は、美奈ちゃんだった。
「いいよ。ちょうど今風呂上がったばっかだから…」
「えっ?もしかして…」
そう答える美奈ちゃんが電話ごしでも恥ずかしくなってるのがわかった。
「あぁえっ?ちゃんと部屋着着てるから…」
「そっそうだよね…」
(話題を切り替えないと…)
「そうだ。今日はゴメンね。長々と昔話に付き合わせたり、恥ずかしい思いさせちゃって…」
「ううん。すごく楽しかったよ。カズ君の小さい時の話も聞けたし…」
(忘れて欲しい事ばっかりだったけどなぁ)
「そ、そっか。少しは楽しんでもらえたんだ。よかった。それにしてもあの席は美奈ちゃん嫌だったんじゃない?」
「ううん。カズ君こそ嫌だったかなって…」
少し間を空けて、そう美奈ちゃんは答えた。
「俺?俺は美奈ちゃんの隣で嬉しかったよ。」
「よかったぁ。私も…」
そう答える美奈ちゃんの声は聞き取れないほど小さかった。
「ううん。だふん沙っちゃんは、依り戻させたかったんじゃないかな?」
「えっ?」
「だって言ってたでしょ。沙っちゃんが、私がまだカズ君の事好きだって…」
「あぁ言ってたね。あっあのさ、あの時言えなかったけど…」
「えっ?」
「俺も美奈ちゃんの事、今も変わらず好きだよ」
「…あ、ありがとう」
そう言う美奈ちゃんの声は涙声に聞こえた。
「俺たち、もう一度…」
そう告げようとした瞬間、美奈ちゃんはこう続けた。
「でも、今はお友達で、カズ君の事いっぱい教えて…。美奈も美奈の事知って欲しいから…」
あぁ同じ相手に三回も振られてしまった。
「ははは、そうだよね。何焦ってんだろ、俺。バカだよなぁ」
「ううん。すごく嬉しいよ。ひどい振り方した私をそう想ってくれてて…」
そう言って無言になる美奈ちゃん。
何故か言葉の出ない僕。
続く無言を振り放すように美奈ちゃんはこう言った。
「ね、ねぇ、優奈ちゃんってすごくキレイだよね?」
「そ、そうか?普通じゃない?」
「そんな事ないよ。私の学校にはいないよー」
そう沙織と美奈ちゃんは、僕たちが通う学校とは違う女子高に通っていた。
「まぁクラスの男子は騒いでいたけどなぁ」
「えっ?…もしかしてカズ君…も?」
「あーないない。騒ぐようなんじゃないし、しかも中身はあの優奈だし(笑)」
「…ホントに?」
「あぁホントにホント」
「よかったぁ」
すごく安心した声を出す美奈ちゃん。
「美奈ちゃん?」
「えっ?あ、きっ今日はありがとう。ゴメンなさい、こんな時間に電話しちゃって」
すごく慌てている美奈ちゃん。
「俺の方こそ。遅い時間に長話してゴメンね。」
「ううん。」
「寝る前に美奈ちゃんの声聞けて、すごく嬉しかったよ」
「わ、私も…嬉しい。カズ君の声聞けて。じゃあ、カズ君、おやすみ」
「あぁ美奈ちゃん、おやすみ」
そう言って、今日一番の幸せな時間は終わりを告げた。




