思い出の場所5
突然の二人きりに僕と美奈ちゃんは、顔を見合せクスっと笑った。
「とりあえず座ろうか」
そう言って僕たちはベンチに腰をかけた。
「あ~今日は疲れたなぁ。」
「そうだね。優奈ちゃんが元気過ぎてビックリしたよ」
お互い顔を見合せ笑っていた。
「美奈ちゃんは、どうしてここを選んだの?」
僕は何気なく美奈ちゃんに聞いてみた。
美奈ちゃんは、少し俯き少し間をあけ、こう答えた。
「ここは…悪い思い出といい思い出があって…。皆と来たらいい思い出が増えるかなぁって思ったからなの」
そう答える美奈ちゃんはドキドキしているようだった。
「へぇそうなんだ。そういえば、俺も思い出っていうか印象深い出来事があったなぁ。あれは確か2年前だったなぁ」
何気なく話した僕の言葉に美奈ちゃんは驚いているようだった。
「あっあの、それって…どんな出来事だったの…?」
スカートを握り締めながら美奈ちゃんは尋ねてきた。
「ん~。ナイトパレードが終わって、悠太たちと帰ろうとした時だったかな。二人がトイレに行ってってさ。時間潰してブラブラしてたんだよ」
そう話始める僕をじっと見つめる美奈ちゃん。
「そしたら、女の子が1人でベンチに座ってたんだ。誰かを待ってるのかなって思ってたら、その子、急に泣き始めちゃって…。声かけようか迷ってたら、二人に呼ばれてさ。とりあえずハンカチだけ渡して去っちゃんだ。あの子あれからどうしたんだろ?」
あの出来事を思い出しながら僕は美奈ちゃんを見ていた。
僕の話がつまらなかったのか美奈ちゃんはずっと俯いたままだった。
「やっぱ、つまなかったよね…?」
すると美奈ちゃんは何を決心するように大きく深呼吸をした。
「美奈ちゃん?」
決心を決めた美奈ちゃんは、ポーチから、一枚のハンカチを取りだし
「あの時はありがとう。」
涙を浮かべながら美奈ちゃんはハンカチを僕に差し出した。
訳がわからなかった。
「えっ?もしかして…?」
そう僕が尋ねると、美奈ちゃんは小さく頷いた。
「いや、だって。美奈ちゃん俺と初めて会ったのはゴールデンウィークのバーベキューの時って言ってなかった?」
「言えなかったの。カズ君にとっては記憶に残るような事じゃないって思ってたし…。それに…髪型変わってたから、判らなかったのかな?」
髪を撫で舌を出してそう答える美奈ちゃん。
確かに、あの時、泣いていた子はキレイな長い髪の女の子だった。
今の美奈ちゃんは、肩で切り揃えた髪型だった。
そう、このハンカチを見るまでは僕は忘れていた。
(カズ君は女心がわかってない。)
優奈の言葉が胸をチクッと刺してきた。
「やっぱり来てよかった。あの時、カズ君に出会ってなきゃ、まだ来れなかったなぁ。」
笑顔でそう言った。
「おー悪い悪い。ちょっと買い物してたら遅くなった。」
そう言いながら悠太と沙織は、僕たちが座るベンチに向かってきた。