別れと再会
「ごめんなさい。私たち別れましょう」
暑い夏の夜、また僕は振られた。
昨夜を引きずりながら、高1の2学期の始業式の朝を迎えた。
教室で机に項垂れている僕は背中に熱い痛みを感じた。
バチン!
「よぉ!また振られたんだって?」
そう笑いながら冷やかしに来たのは、小学校からの幼馴染みの悠太だった。
「うるせぇ」と言い邪険にかわすと、悠太は被せ気味にこう言った。
「沙織がすげぇ怒ってたぞ(笑)今日という今日は朝まで説教だ!って(笑)」
そう聞いた僕の背筋は凍るように冷えていくのを感じていた。
彼の言う沙織とは、悠太と同じ幼馴染みの女の子だった。
いや女の子というには活発すぎる幼馴染みが激昂してるのには
それなりに理由があった。
そう、昨日振られた相手は、彼女の友人だったからだ。
「なぁ悠太…始業式って早退ありかな?」
下校時に起こる修羅場に恐怖を抱きつつ、恐る恐る尋ねてみた。
「何バカな事言ってんだよ(笑)沙織も口だけだって」
まさしく対岸の火事、悠太はケラケラ笑いながらそう答えた。
(人の気も知らないで…アイツはやるヤツだ)
そう思いながら睨んでいると、悠太はこう続けた。
「それに今帰ったら、この後の面白いモノ見れないぞ(笑)」
悠太の言葉に疑問を感じながら
「面白い事って何…」そう尋ねようとした瞬間、教室のドアが開いた。
聞きたかった事を聞けなかった僕を横目にニヤニヤしながら机に戻る悠太。
教壇に立つやいなや、胡散臭い関西弁を喋る教師はこう言った。
「喜べや、ヤローども(笑)今日からこの教室に天使が舞い降りるで(笑)」
訳がわからないままだが、男子達は歓喜の雄叫びをあげ、女子達は胡散臭い教師に文句を放っていた。
そんな生徒を放置したまま胡散臭い教師は手招きをした。
「おーい、入ってこいや」
そう言われ入ってきた転校生は、シルクのような長い髪をなびかせ淑やかに教壇に歩いてきた。
教壇に立った生徒が一礼すると、男子達は盛ったように歓喜の雄叫びをあげ女子達は憧れのような悲鳴をあげていた。
荒れた教室の中、彼女は黒板に自分の名前を書き、こう自己紹介をした。
「今日からクラスメートになります。榊 優奈です。宜しくお願いします。」
(ん?榊 優奈?)
聞き覚えのある名前に記憶を巡らせながら、天使のような転校生を凝視してると
「あっ!カズ君一緒のクラスなんだ。よろしくねー」と大きく手を振ってきた。
その瞬間、男子達の刺すような視線に死を感じる以上に手繰り寄せた記憶から驚きを感じていた。
「あー?えー?優…奈…??」椅子から立ちあがり指差し声を震わせていると
慌てている僕の横で、腹を抱えて笑っている悠太がいた。
「おい、悠太!お前知ってたのかよ!」と男子達の刺すような視線の矛先を変えようとした矢先、笑い泣きしながら悠太はこう言った。
「お前が振られてる最中に、沙織から聞いてたからなぁ(笑)お前の驚く顔見たくて内緒にしてたんだよ」
慌てている僕に向けられていた視線は、一瞬にして笑いに変わっていた。
「あー哀川が振られたのは、どうでもええが、榊さんは3年半ぶりにこの町に戻って来たんだから仲良ーしたれよ」と胡散臭い教師は笑いながら言った。
クスクス笑う優奈に、教師は笑いながら席を案内した。
「ほな榊さんの席は…振られた哀川の隣は危険やから、谷川の隣でええな」
教室中にどっと笑いが起こる中、赤っ恥に俯くしかできずにいた。
(よりにもよって優奈が帰ってきた時に何でこうなるんだよ…)
形だけの始業式も、転校生の紹介も終わりベタな2学期初日が終わりを迎えた瞬間、僕は赤っ恥より凄惨な修羅場に青ざめていた。
「なぁ悠太、俺、裏から帰るわ」そういい放ち、急ぎ教室を出ようとした時
「えーカズ君一緒に帰ろうよ」そう言う優奈は無邪気な笑顔を浮かべていた。
「まぁ、そうゆう事だ。観念しなよ、カズ君(笑)」と言い、悠太は笑いながら僕の肩に腕を回してきたのだった。
(あぁ俺の人生終わった…)
悠太と優奈に囲まれながら、正門に帰路を向けていると…
「かぁずぅ」と恐ろしい声で呼び正門で仁王立ちしてる沙織がいた。
(まさしく地獄の門番…)そう震えてる僕に一直線に突進し、胸ぐらをグィと掴み
「こらぁカズ!美奈の事泣かしたら許さないって言っただろ」
そう説教する沙織の瞳は涙目になっていた。
「沙っちゃん、振ったの私だし…カズ君悪くないんだって…」
興奮した沙織を元カノの美奈はなだめてくれ、一連の修羅場は治まる事になった。
落ち着きを取り戻した沙織は、悪魔のような微笑みを浮かべながら、
「なぁカズ、これから優奈のお帰り会のおまけで反省会しよっか?」
そう言いながら逃げられないよう首根っこを押さえてきた。
「なぁ沙織…さん?お帰り会とおまけの反省会は、今ここにいるメンバーで…ですか?」と聞く僕に沙織は
「そうだよ、何か問題でも?」と怖い笑顔で言いきった。
(優奈は主役だろうけど…なんで反省会に美奈ちゃんまで…)
困りながらも逆らえない状況を打開しようとしていると
「じゃあ今日はカズ持ちって事だな(笑)、さっ行こ(笑)優奈も美奈ちゃんもさ」
これから起こる惨めな会に笑いを求める悠太を先頭には足早にファミレスに向かうのであった。