あの日の想い出は涙に濡れる
題名は雰囲気のその場のノリでつけました!
何もかも上手くいっていなかった。どうしてこうも思い通りにならないのだろう、私以外の人間はどうして毎日があんなにも楽しそうなのだろう。羨ましすぎて反吐が出そうになる。
周りの人はもう私になんて興味を持たない。古くなったおもちゃに興味を示さないのは当たり前のことだけどやっぱり寂しい。
自分から行かないといけないのはわかってる、だけど拒否されるのが怖い。拒否されるくらいならこのまま一人きりで空気の様に生きていたほうがいい。
何で転校なんてしなければいけなかったのか。
転校さえしなければ私は仲の良い友達と離れなくてすんだのに……
神様は不公平だ。
「前の学校に戻りたいなぁ……」
帰りたい、あの小さな学校に……
会いたい、私の大好きな親友の音ちゃんに……
懐かしい声が遠くから聞こえてきた。幼い頃から何度も何度も聞いていた声。
「もう!早く起きてよ!」
体に小さな衝撃が走った。学校に行きたくないなと目を覚ますとそこには懐かしい顔が私の顔をのぞき込んでいた。
「え?何で音ちゃんがいるの?」
「……何言ってんのよ、寝ぼけてるの?」
「え?え?だって、私は……」
頭が混乱してきた。私は転校したはずなのに何で音ちゃんがいるのだろう、そういえばこの部屋にも見覚えがある。私が転校する前に住んでいた家だ。
いつまでも行動しない私に音ちゃんは怒った。
「もう!早くしなよ、七瀬!」
「う、うん!」
私は慌てて制服に着替える、あまり可愛くないと思っていた前の学校のセーラー服も今となっては懐かしい。
下に降りると母の姿も父の姿も見当たらなかった。おかしいなと思いながらも音ちゃんと外に出た。
あたりは妙に静かだった。まるで誰もいないみたいだ。
「今日はやけに静かだね」
「当たり前じゃん、あたしと七瀬しかいない世界なんだもん」
「は?何言ってんの音ちゃん」
「それはこっちのセリフ、ここはあんたが作り出した世界でしょ?」
「え?」
そんな世界作った覚えなどなかった。しかし、音ちゃんの目は真剣そのものだった。音ちゃんは冗談はいうけど人を困らせるような冗談は言わない子だった。
「あんたとあたしだけの世界を望んだのは七瀬よ」
「……」
「学校、馴染めてないんでしょ?」
「……うん」
「やっぱりね、そんなことだろうと思ってた」
いたずらっ子の様な表情を浮かべた音ちゃんには何も言えなかった。
「七瀬は人見知りだもんね、友達を作るのは大変だよねきっと」
それまでのいたずらっ子の様な表情が消え去り至って真剣な顔で諭すように音ちゃんは私に言った。
「でも、これから友達がいない方がもっと大変だよ」
「私には、音ちゃんも他の皆もいるから……」
「それじゃあダメなの」
「っ!どうして?」
「もう、あたしたちはあんたのそばに入られないの。友達だけど、でも、七瀬のいる場所には行けないの」
「音ちゃん……」
改めて私は本当に遠くに行ってしまったんだなと感じた。涙が滲んで音ちゃんの輪郭は朧げになる。
「大丈夫!七瀬なら今からでも友達ができるよ」
「無理だよ!もう、手遅れ……」
「そんなことない!まずは挨拶、笑顔でね、とにかく今のあんたは暗い!明るく笑顔で話しかけるの」
「……拒否されるのが怖い」
「そんなこと気にしていたら一生友達なんてできないよ!」
「……そうだね、頑張ってみようかな」
「応援してる、頑張れ!七瀬!」
そう言うとぐらりと世界が傾いた。ボロボロと端から世界は崩れていく。
ふと軽い衝撃が私を襲った。音ちゃんが私の体を押して突き落としたのだ。でも、それは悪意からではなくこの世界から、音ちゃんから私を解き放つ為だった。
「音ちゃ……!」
「バイバイ、七瀬」
ぐらりと世界が反転する。手を伸ばしても届かない場所から私を見ている音ちゃんは泣いていた、私も奈落のそこの様な闇に落ちながら泣いていた。
「私の親友は音ちゃんだけだよ!」
涙に濡れた声を上げた、聞こえたのかはたまた届かなかったのかわからなかったけれど音ちゃんは笑っていたから届いたのかなと思う。
きっと目が覚めればいつもの朝、けれど確実にいつもとは違う朝が私を待っているだろう。
少し不安ででも楽しみな朝はもう時期やってくるだろう。
「音ちゃん……ありがとう!」
ありがとう、私の唯一無二の親友。