幽霊に愛されて死にそうです…
死ぬ死ぬ発言多数につき注意
ハロー?
毎晩、毎晩電話が来る。相手はいつも同じだ。
「もう、毎晩電話かけて来ないでよ」
「えー、だって電話をかけなきゃ亜矢が心配するだろ?」
イケメンなことを言う彼…いや実際イケメンだったんだけど。その彼、健人は私、亜矢のことを好きだ。自惚れでは無い。だってこの電話の最後には「お休み、亜矢。愛してるよ」…って愛を囁くから。
彼と初めて会ったのは彼が死んだ時。横断歩道を歩いていた彼が車に轢かれる瞬間をたまたまみた。ばっちりとみてしまった。驚いて動けなかった。彼の時間が終わりを告げた瞬間は私の時間が止まった瞬間だった。周囲がざわざわとしているわりには動かない。鳴る音といえば救急車の音では無くカメラのシャッター音。彼らが手にしている携帯は、救急車を呼ぶのでは無くTwitterで呟く道具。…私は気が付いたら、彼の側に駆け寄り「大丈夫?今、救急車呼ぶね」と声をかけていた。
さっき彼のことをイケメンと評したが、あくまでその時見た顔での判断だ。(だって本当にその時に初めて会ったんだし)顔が血塗れではあるが、それでも怖いというより「あ、イケメン」と面食いな私は場に合わないことを考えていた。人間、驚き過ぎると逆に冷静になるものだ。今にも死にかけている人間のこれまた場違いな質問に淡々と答える。
「ねぇ、君名前は?」
「亜矢。」
「亜矢って言うんだ、可愛い名前だね。僕は健人。よろしくね!」
そんな感じに救急車が来るまで私のことを聞いてきてた。救急車に乗る直前の言葉は「またね、亜矢!」後で聞いた話によると救急車に乗って暫くしたら亡くなったらしい。何故かわからないけど笑顔で。
ぶっちゃけ、今にも死にかけている人間によろしくされてもなぁーなんて思っていた。冷たい?いや、だって本当に他人だし…
そんな訳でそんな事件のことは完全に忘れていた訳だが、ある日電話が来た。誰かなーって電話に出ると
「ハロー亜矢?僕、健人。元気にしてた?」
なんて夜にしてはテンションの高い人物からだった。「…どちら様で?」と答えると笑って「数日前に死にかけていたのを君に救って貰った人間だよ」と言う。死にかけていた人間なんて彼しかいない。少しぞっとしたが、私は恨まれる覚えなんて無い。恨むなら君をひいたトラックの運転手にしてくれ。
「何で私なの?」
何で私が呪われなきゃいけないんだという意味でいっそのこと本人に聞いてみた。
「君だけだっただろ?声をかけてくれたの。あの時に君に一目惚れした。」
私、生まれて初めて告白されました。それも幽霊に。
「…私、君に殺されるの?死んで一緒になろうってこと?」
「んー。君が死にたいなら今すぐにでも殺してあげるけど、君はまだ生きていたいだろう?」
えぇ、そりゃあまぁ。こんな所で命の大切さを学ぶとは思わなかった。
「でも、僕も君に恋人が出来るのをただ見ているだけじゃ嫌だし…うん、これはやっぱり勝負だね」
勝負?残念ながら私はゴーストハンターでは無い。彼を成仏させてあげられない。
「違う違う。君が僕のことを心配してくれるのは嬉しいけど違うよ。君が、自分から死にたいと思うようになったら僕の勝ち。その前に恋人が出来たら僕は大人しく引き下がって成仏するよ」
別に良いけど…私自分で死にたいなんて思わないし。……逆に何で私が死にたいと思うんだ?
「僕が亜矢を惚れさせて。…君、僕の顔好きだろう?だから見込みが無い訳じゃない。早く、君に触りたいな。幽霊と人間じゃ駄目だけど幽霊同士なら触れるし。」
……あ、コレまじだ。声がマジだもん顔見なくてもわかる。
恋人が出来る(ほぼ不可能)までイケメン幽霊に愛される約束をした私は今、死にたい程幸せなんじゃないだろうか?
亜矢ちゃんは事故の時に「可哀相だな」って思ったのがあるから、なんとなく電話に応じただけだったけど毎晩届く『愛の言葉』で絆されていく…