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鮮明

掲載日:2014/08/05

 ある日見た白い少女。俺は彼女に恋をした。

 出会いは何でもない授業中。ふと外を眺めたときに彼女は『降ってきた』

 きっとこの説明だと、俺が恋したのは天使かはたまた宇宙人か。俺は正気じゃないと思われるだろう。

 これは俺に与えられた超自然的な力に起因する事だから、無理もない。


 物心ついた頃からか、俺には限定的ではあるものの『人間の死』を見ることができた。

 限定と言うのはつまり、誰がいつ死ぬかとか、殺人事件で誰に殺されたとか。そう言うのはわからないって事。

 限定されることは『自殺』

 俺は過去や未来の自殺を見ることができる

 例えば毎日通ってる電車の踏み切りでは、黒い人影が仕事へ向かうリーマンを乗せた電車にはねられる

 電車は止まらず過ぎていくため、俺は次に開いた踏み切りを渡っていく

 近くの公園を見ると、また今日もいつも通り白い小さな体が木から降りたロープにぶら下がっている

 黒の死体は過去の自殺者。インターネットなんかでその周辺を調べると、自殺の記録が出てくる。まあ、山なんかだと発見されずに出ない場合もあるが、過去に俺が調べた結果だと黒は過去に死んだ自殺者で間違いない。

 白の死体は未来の自殺者。いつ死ぬのかはわからないけど、彼らの姿が黒で見えるようになった日は、その辺りは警察と報道関係者がやってくる。そして翌日にはインターネットで不幸な死を報じられる

 自分の意思とは関係なくランダムに、自殺が起きた場所、起きる場所であれば見えるので困ったものだ。

 そんなやたらめったら死ぬのは見えず、見ても10分に一度とかだけどな


 さて……話は逸れたが要するに俺が恋した『落ちてくる女の子』は未来に自殺する少女だ

 初めは普通に自殺者の一人として特に関心もなく無視していたが、同じ学舎で学ぶ人間が死ぬと言うことにささやかな興味を持った

 そして、見つけた



 ビビッ

 授業終了。昼休みになると同時にポケットの中で震えるケータイ

 教科書を閉まってからケータイを取りだし、新着メッセージを見る

『いつもの場所で』

 いつもの文だ

『了解(^-^ゞ』

 いつもの文章で返して、俺は静かに席をたつ

 背後、窓の外に落下する白の人影を一瞥したのち、屋上へ向かった



「センパイ!こんにちわ!」

「はろー」

 貯水タンクへと上る梯子を上って横側に一人の少女が腰かけていた

 上履きから後輩であることはわかるが名前は知らない

「センパイ!また今日もお弁当作ってきましたよ!」

「ありがとう。名前も知らないのに、世話焼きだな」

「だって先輩は私のお弁当を美味しいって言ってくれますから!頑張っちゃいますよ!」

「そうか。それじゃあずっとご馳走になっちゃうな」

 いつも貯水タンクの横に置いてある道具箱からブルーシートを取り出してその上で一緒に昼食をとっている

 彼女は俺の名前を知らず、俺も彼女の名前を知らない。


 飛び降り自殺の女の子のことが気になってある日の放課後、屋上に来て調べようと思っていた

 すると、見えた

 白い人影。屋上のベンチに座ってケータイに触っている

 だが、突如としてそのケータイも横におき、立ち上がって歩き出した

 落下防止用の柵の前で上履きを脱ぎ、そこに一枚の手紙のようなものをさしてから、彼女は柵を飛び越えた

 風が髪をなびかせ、彼女はスカートと髪を押さえて風がやむのを待った

 風がやむと一呼吸の後に彼女は両手を広げて――飛んだ。

 一瞬だけ見えた顔は何故か美しく、俺はそれに心打たれた


「んー!よく寝たー!」

 俺が看取って帰ろうと思ったそのとき、少女の声がした

「君は……」

「え!?人いたの!?全然気づかなかった!」

 降りてきた少女は長い髪と笑顔が可愛い女の子。

 俺がたった今、看取った子だった



「今日も見えますか?」

 生きている彼女との出会いを思い出していたら、声をかけられた。

「さっき見たよ」

「へへっ。てことはやっぱり、本当に自殺しちゃうのか!」

 彼女は無邪気に笑っている

 俺は初めて出会ったとき。いや、ここで初めてコンタクトをとったときに自殺について告げた

 彼女はその事に興味を持ち、俺の能力にも興味を持ったようだ

「俺はいっぱい人が死ぬのをみてるから言えるけど、死ぬってことはもうちょっと躊躇った方がいい」

「え?わたしってそんなに簡単に飛び降りちゃうんですか!?」

「いや、そうじゃなくて、今のだよ。自分が自殺するって聞いても笑って誤魔化すから」

「おお!なるほど!」

 本当に楽観的だ。

 まあ笑顔は可愛いんだけどさ。

「人間、いつかは死ぬじゃないですか。自分が制服を着ている頃に死ぬとわかった今、死ぬことを拒むよりも死ぬまでを楽しんだ方が得策と考えてるんです!」

「んー……面白い意見だ」

 全く考えてないと言うよりは自分の意見をもってる。と言うことか

「さあさあ!今日は先輩の好物の高菜のおにぎりありますよ!」

「お。ありがとさん」

 海苔で包まれたおにぎりを一つつかんで頬張る

 何故か満面の笑みでこちらを見てくる彼女に笑い返しつつ、飲み込む

「味付けを変えたんだね。美味しい」

「さすが先輩!よくわかりましたね!」

「んーと。塩昆布を混ぜた?」

「正解です!」

 誰でもわかるだろうに

「あ!そうだセンパイ!今日の放課後――」




 彼女と過ごす日々は楽しかった。

 この生活がいつか終わるとわかっていながらも、どこか終わってほしくないような感情が芽生え

 白と黒の自殺が見える世界で、色鮮やかな世界が広がった


 だけどある日を境に彼女は元気をなくしていた

「どうしたの?」と聞いても「何でもないんです」と答えるばかり

 事情はわからなかったが、脳裏に浮かんだことがあった

 彼女の死期が近い……と言う可能性。

 人間は順風満帆な日々を愛する反面、それらが崩れるときに心に大きな傷をおう


 ある日、下校中にケータイが震えてメールを見た


『助けてください』


 全身の血が抜けるような感覚。ふと脳裏に飛び降りる影がはっきりと、鮮明にフラッシュバックした

 気づいたら家を飛び出していた

 走りながらメールをして、彼女の身に何があったのかを知った

 黒と白の自殺が見える。

 首吊りも、飛び込み自殺も、車の中で練炭を焼く姿も。全てを横目に走り抜けた。

 やがて、学校に辿り着いた

 息がきれているなか、顔を撫でる風を大きく吸い込み、再び足にちからを込める

 説得はメールで行い、屋上にいくよりも先にグラウンドに向かう

『先輩は……わたしの妹が死ぬのを知っていましたよね?』

 俺は知らなかった

『どうして先輩は私に教えてくれなかったんですか』

 知らなかった!


 数年前、ギャンブルに負けて大きな借金を抱えた挙げ句に電車に飛び込み、命を絶った一人の父親がいたことも。

 その二人娘は苦しい生活のなかで暮らしていたことも。

 彼女たちの母親が借金を払おうと努力をした挙げ句、病死したことも。


『先輩が言っていたら。わたしも長生きできたのに』


 両親の他界に戸惑った、彼女の妹が公園で首吊り自殺をすることも。

 俺は何も知らなかった!


「おい!お前絶対に死ぬんじゃないぞ!」

 出せる声の限りを尽くして、放課後の校舎、その屋上へ怒号を叫んだ

『先輩。来たんですね。

 今更何のようですか?』

「止めに来たんだよ!お前、人はいつか死ぬって言ってたよな!母親が死んだくらいで自分の命を無駄にすんじゃねえよ!親父さん不憫だろ!」

『人はいつか死ぬ。ならば私が今死んでも先輩や父さんに文句を言われる道理はありません』

 くそ……!

 白の人影が飛び降りた。こんな時でも見えるのかよ

 俺に止めることはできないのかよ……!


「俺はお前の笑顔が好きだ!もう少しの時間、生きてくれよ!!」


『なんなんですか。今更』


 ケータイに届いたメッセージを一瞥。屋上を見上げるとそこには彼女の姿があった

 白の人影じゃない。彼女そのもの

「おい!マジで待てよ――!」


 突風が吹き荒れる

 彼女の髪が一気に舞い上がる


 髪とスカートを押さえる手。何度もみた光景。

「待てって!!」



 鮮明。

 白ではない。彼女の体が宙に放たれる

 恐ろしいほどにリアルで、手に握ったケータイが汗で滑り落ちる


 鮮明。

 一瞬だけ笑顔が見えて酷い音がした

 コンクリートで覆われた地面に血飛沫が跳ねる。



「死ぬなあああああああああああああああ!!」

 急ぎ足で彼女の元へ向かった

 赤の飛沫と、血だまり、内蔵と骨の色が見える彼女に近づく

 人生で初めて経験する他人の血の臭いの中で、息も絶え絶えの彼女を抱く

「なんで……なんで死ぬんだよ……!」

「せ……んぱい……」

「……!」

 腕の中の少女は、口から血をこぼしながら喋った

「せんぱい……」


 彼女の姿が黒に染まった


「おい……まさか……」

 ふと見上げると、空からは黒の人影が落ちてきた


 鮮明な世界は消えた。凄惨な血の中で、俺は彼女の亡骸から手を離した




 次に見上げると、白の人影が落ちてきた


 その手に小さな手紙を握り、落ちてきた

怖くないけど頑張って書きました。

読了、ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[良い点] 発想が面白いし、白・黒の分け方もはっきりして興味をひかれました [気になる点] 女の子の家の事情が唐突に感じられたのと、死ぬ動機に共感できませんでした。最後に落ちてきた白い人影は手紙を読ん…
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