きっと、一生
「何見てるんだ?」
「え?あぁ、ほら」
「高校のアルバムか…懐かしいな」
ぱらぱらとめくったページには、満面の笑みを浮かべた二人がいた。
お前と初めて話したのは、高一の四月。
困っているお前を何故かほっとけなくて、気付いたら話し掛けていた。
びっくりした様子で、でも笑って礼を言ってくれた。
クラスが一緒で、部活も男女の違いはあれ同じで。
ちょくちょく話すようになって。
男みたいに大声で笑うくせに、怪我した奴を手当てしたり弁当作ったり、ちゃんと女らしい一面もあって。
気付いたら、落ちていて。
それと同時に、失恋した。
『先輩が好きなんだ』
内緒よ、と口に人差し指をあてるお前の口を、自分の口で塞いでしまいたかった。
それから二年後、高三の秋。
お前は先輩に振られて、だけど弱ってる所に付け込むような真似はしたくなくて。
ずるずると友人を続けていた。
そんな時だった。
部活の大会で、福岡に遠征が決まった。
受験間近だから引退しろと親が五月蝿かったが、模試で安全圏の点数をたたき出したら大人しくなった。
現金なもんだ。
さて土産は何にするか、と思っていたら。
女子の方も一緒に行く事が決まって。
ガラにもなく浮かれていた俺は、いつもなら気付く筈の身体が出すサインに気付かなかった。
最後の試合が終了した瞬間、俺の意識は途切れた。
目が覚めた時、目の前にあったのは泣き腫らしたお前の顔だった。
「あの時、心臓が止まるかと思った。」
同じ事を思い出していたのか、お前が小さく呟いた。
「悪かった」
「心底腹が立ったわ」
…そんなに怒る事か?いや、確かに俺が悪いんだが。
「今なら絶対気付くのに。気付けなかった。」
「ばかやろ」
自分に腹立ててたのかよお前。
「あの時、気付いたんだよね。自分の気持ちに。」
「俺のドジも、満更無駄じゃなかった訳か」
「…馬鹿?」
呆れた顔のお前。
判ってるよ。
なるべく無茶はしない。
大丈夫だから。
「あんたの身体に関する『大丈夫』だけは私、一生信用しないから」
「表情から考えてる事読むなよ。」
エスパーかお前は。
「あんたが単純なだけよ」
だから止めろって。
顔を見られないように、アルバムを取り上げ胸元に抱き寄せる。
「…ねぇ」
「なんだよ」
「私より先に逝ったら、承知しないわよ」
「お前、家事出来ない俺を遺して逝く気か」
「馬鹿。そうじゃなくて」
お前は身体を離し、俺の胸元に手を当てて。
「一緒に逝くの」
とのたまった。
「ばかやろ」
ああ、ほんと。
お前には敵わない。
きっと、…一生。