死神少年と黒猫。
初めまして。
天音りと、と申します。
もし、私などの小説に興味を持って頂けたのであれば、この場でお礼を申し上げます。
大変有難うございます。
そして、申し訳ございません。
というのもこの小説、文章の描写の練習として書き始めたものでしたが、いつの間にかお気に入りの作品となってしまい、投稿に至った、というわけです。(どういうわけでしょう…)
そして、始めて書いたーーーしかも、今もまだ書き続けているーーー作品でもあります。
ですから、文章はかなり未熟です。
描写も下手です。
そんな小説ですが、どうぞお付き合いくださいませ。
目の前に迫ったトラック。
名も顔も知らない誰かの悲鳴。
次の瞬間、体を襲う鈍い痛み。
飛び散る紅。
俺、死ぬのか。
そっか。
別に、悔いなんて残ってないけれど。
でも、案外つまらない人生だったなーーー。
▽ ▽ ▽
ゆっくりと目を開けた。
俺の目に飛び込んできたのは、痛いほどの白。床も、壁も、天井も。全てが白で出来ている世界だった。
「ここは……何処だ?何で、俺はこんなところにいる…?」
目を覚ます前後のことを考え、すぐにハッとする。
ふと、事故のことを思い出したのだ。
先程から痛みの一つもない体の状態を、一応確かめる。不思議なことに、特に大きな怪我などはない。
しかし、学ランの下、ワイシャツを真っ赤に染めるおびただしいほどの鮮血。それが、あの事故が現実であることを物語っていた。
どうしようもない血痕のことなど、この際気にしない。
考えても頭がこんがらがるだけで無駄だろうし、寧ろ、この空間のことを考える方が重大な問題だ。
「よし」
そうと決まれば、取り敢えず動くことにする。
床らしきところに手を付け、それに力をいれた。そのまま立ち上がり、一歩踏み出してみる。
悩むより、取り敢えずは歩いて探検してみることにした。
先の見えない、というよりは見えるはずもない道の先に向かって、俺は足を進めた。
いく分か歩き続けたところで、遠く彼方、小さな物影らしきものが見えてきた。
喜び半分、不安半分でその物陰との距離を詰める。
「あれ………?」
およそ三分の二ーーーそのほとんどを黒が構成している塊。
真ん中から下に巻かれた黒い布。
そこから覗く、白っぽい何か。
「女の…子………?」
より近寄って見てみると、それは人影であることがわかった。
黒い塊と思っていた、ものすごく長い黒髪。腰に巻かれた布は、ゴシックロリータ調のワンピースだ。
「…ん…………」
と、俺の接近に気が付いたのか、その子がこちらを振り返る。
肩に掛かった黒髪を軽く払い、俺の顔をじっと見つめていた。
髪こそ黒髪で俺と大差ないが、俺を映しているその瞳は、言葉通り紅玉のようだ。肌なんて、血が通っていないのかと心配になるくらいに白い。
「…ねえ」
突然、少女が声を発した。清らかで澄んだその声は、小さいがしっかりと耳に届いた。
「何だ……?」
少女に目線を合わせ、聞き返す。
「…貴方が…今日…死んだ人………?」
「……!」
少女の予想外の問いかけに、一瞬、動きが止まってしまう。
「…君は?」
あえて質問には答えなかった。
「妾…?…チトセ……。千に……何歳の…歳で……千歳…。貴方は…何…?……名前…」
千歳は途切れ途切れに話す。顔の表情の変化もなく、感情が読み取りにくかった。
「俺は……ヤナギ シグレ。夜に凪ぐの凪で夜凪、時の雨で時雨」
「…時雨……じゃあ……時雨は…何で…死んだの…?」
千歳が、可愛らしく首を傾げて聞いて来る。わざと話を逸らしても、また元の話に戻されてしまった。
「…どうしても?」
「うん………覗くのは…嫌……だから…」
「覗く?それは…」
どういう意味だ…?
その旨を伝えると、千歳は戸惑いながらも説明をしてくれた。
「……えっと………覗くって……言うのは…アカシック……レコード…の……こと」
「アカシックレコード…?」
だが、千歳の話に出てきた聞き慣れない単語に、つい聞き返してしまう。
「…アカシック……レコードは…この…世界という……世界に…生きている……人の………全てが…載ってる………。…で………妾は…その…管理者………」
世界という世界。
それはきっと、地球だけではないだろう。
では、千歳はかなりすごい者、ということになる。それこそ、神様みたいなものじゃないか。
そんな千歳が選択肢を迫るということは、だ。
つまり、勝手に知られたくないなら自分の口で言え、ということだろう。そして、自身はあまり覗きたくない、ということも。
深いため息を漏らし、俺は口を開いた。
「その…トラックに轢かれたんだ」
「何で…?」
「………猫が、轢かれそうだったから」
言い終わった瞬間、顔が熱くなるのを感じた。
千歳がそんなことを笑う子だとは思っていないが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
しかし、千歳の一言でそんな気持ちは吹っ飛ぶ。
「…優しい…ね………時雨は……優しい……」
……!
優しい…?
こんな、俺が…?
「ありがとう…」
そう小さな声で囁き、俺は千歳の頭を撫でた。千歳の髪はすごくサラサラで、とても手触りが良かった。
彼女自身も猫のように顔を緩ませていて、その顔がとても愛らしい。
「…にゃあ……ねぇ…時雨……お願いが………あるの」
そのまま、千歳は上目遣いで頼んできた。
思わず抱き締めたい衝動に駆られるが、何とか平常心を保ちつつ、その内容を尋ねる俺。
「おっ…お願いって、何だ?」
訂正。つい、声が裏返ってしまった。
咳払いを一つし、誤魔化す。
幸いなことに、千歳はどうでも良かったようで、話を進めていった。
「…その……妾の仕事を………手伝って…欲しいの………にゃあ…」
「にゃあ!?…じゃない、いいよ別に…!」
俺の返事にニコニコと笑みを浮かべた千歳。
その場でくるりと回り始める。
フリルがたっぷりとあしらわれたスカートがフワリと舞い上がった。
そして、千歳の姿が消え、
「……ニャア」
代わりに、全身を黒い毛で覆った、一匹の猫がその場に座り込んでいた。
レースで縁取られた、チョコレート色のチョーカーが、紅い瞳にマッチしている。
そして、この突然現れた猫。
「…ニャニャーン……千歳………黒猫……バージョン……だ…ニャア」
なんと、千歳だという。
猫のよう、ではない。もはや猫だ。
「何で猫……?ていうか、手伝いって何すれば……?」
猫の姿になった千歳が、毛づくろいをしながら目を細める。
それを終えると、こちらを振り返った。
「……時雨は……死神に……なるのニャ…。それで…異世界で………アカシックレコードの……制作と……管理を…やって………欲しい…ニャ……」
死神………?
異世界に行く……?
アカシックレコード………は、分かる。
だが。
「俺、一人で…?」
しかも、行き先は異世界だ。一人で行け、と言われれば、泣き出せる自信がある。
そんな俺の情けない呟きに、即座に千歳が答えた。
「…妾も…行く……ニャ……」
異世界に行くという点は、これで大丈夫…だろう、多分。
しかし、死神と言うのが分からない。死神と言えば、ボロボロのフードを被り、鎌を振り回して命を奪い去る骸骨、というイメージしかない。
腕を組んで唸っていると、俺の考えを察した千歳がまたもや答えてくれる。
「…死神は……死神の鎌を…持つ者の……総称……だニャア…。異世界に行き……アカシックレコードを…作るのが………仕事…なのニャ…」
つまり、デスサイズーーー死神の鎌を持てばいい、ということか。
そう聞くと、千歳は「…ニャア」と一言呟いて頷いた。
「…死神の鎌は……後で…あげるニャ……だから…もう……行こう…ニャ」
「ああ、異世界だろ?ていうか、早いな」
「…うん………。じゃあ……れっつ…ごー……ニャア」
「お、おー」
千歳が前足を掲げ、俺もそれに習った。と言っても俺は手だが。
次の瞬間、一人と一匹の足元に、謎の言語で書かれた魔法陣が現れる。
そして、強い浮遊感が俺達を襲い、そのままその姿をかき消した。