第六話
1年以上も放置して申し訳ありません。
色んな作品のネタが浮かんでしまって収拾がつかなくなり整理しがてらFF14をやってたらこんな時間が経ってしまいました。
はい、言い訳ですねw
では取り合えず続きをどうぞ。
『異世界の姫君』
第1章~亡国の姫君、そして異世界~
第6話
再度庭へ出た二人は件の魔法陣跡の上に居た。
血が必要な為、誠二は指先を切るための果物ナイフを台所から持ってきていた。
「さて、じゃぁどうしようか。先に血を捧げてみる?」
果物ナイフを見せながらエリフィアにどうするかを尋ねる誠二だったが、エリフィアは首を横に振り否定の意を示す。
「いえ、祭壇では詠唱が全て終わったところで敵の襲撃がありました。その際に矢傷を受けたのでまず詠唱を終わらせてから試してみましょう。」
「わかった。じゃぁ俺は陣の外に出てるから詠唱が終わったら首を縦に振ってくれ。俺が指を切ってやるから」
言っていることは物騒だがエリフィアは意味がわかっているので真剣な表情で頷く。そして誠二が陣の外に出たのを確認したエリフィアは再度詠唱を始める。
歌うように、囁くように、朗々と詠唱を紡いでいく。二度目のそれを聞いていた誠二はあることを感じていた。
(なんか、どこかで聞いたことのある言葉だな……。どこだったかな。)
やがてエリフィアの詠唱が終わる。先ほどの打ち合わせ通り詠唱の終わったエリフィアは首を縦に振りそれを確認した誠二は陣のなかへ進んでいく。エリフィアの前まで進んだ誠二は彼女に手を出すよう指示した。
差し出された手を取り果物ナイフの刃先を添える。
「少し痛いかもしれないけど我慢してね」
エリフィアにそう忠告すると、誠二はナイフの刃先をエリフィアの指先へ持っていくと小さい切り傷程度になるよう力加減をして指先を切る。
エリフィアは痛みを我慢するように顔を顰めるが声を上げたりはせず切った傷口から血が浮き出てくるとエリフィアはその傷口を地面へ向ける。浮き出た血が傷口を離れ地面へと落ちていく。
血が地面に陣に落ちると徐々に陣が輝きだした。
だがそれも数秒のことですぐに輝きは消えてしまった。成功したと思った二人だったがすぐに消えた光に落胆する。
「ダメ、なの……。」
「……いや、反応はあったんだ。血を捧げるのは間違いじゃない。だけど、恐らく捧げる血が違うんだ」
「捧げる血が違う?」
「ああ……。」
そう言うと誠二は陣をもう一度観察した。何か違和感は感じないか、なにか見落としてることはないか。とにかくどんな事でも感じることを探っていく。
するとある一角に見覚えのある箇所を見つけるとそこに誠二は近づいていく。しゃがんでさらに観察すると誠二が声を上げた。
「なん、で。……これは、漢字?」
そう、魔法陣に描かれていた文字の一部は漢字で書かれていたのだ。
立ち上がってその周りの文字を見てみると同じような漢字が描かれていた。何故異世界の魔法陣に漢字が使われてるのか。考えても分からないだろうことは頭の隅に追いやって、誠二は描かれてる漢字をよく確認してみる。
すぐに分かったことが一つ。
見た目は漢字だが所々この世界の漢字とは違うところが見受けられる。しかしその部分を省いても何が描かれてるかは大体理解できると誠二は感じた。立ち上がって再度観察してみると、漢字で描かれてるのは陣の4分の1なのが分かった。他の部分はこちらの世界の文字ではないのを確認した。
(と、なると。この漢字の部分だけで陣の構成を理解出来るとは思えない。だけどこの部分に何が描かれてるかを理解出来れば何か分かるかもしれない。それで飛べれば万々歳。出来なくとも他の部分の文字をエリフィアに確認してもらえば転移魔法に何が足りないかを知ることができる)
口に手を当て思考の海に潜る誠二にエリフィアが声を掛ける。
「あの、どうかしましたか?」
その声にはっとなった誠二は再度陣全体を眺めてからエリフィアに振り返った。
「いや実は、ここの部分の文字なんだけど……」
そう言って漢字の部分を指し示す誠二。
「これ、この世界のある文化の言語なんだ」
「え……?!」
「ある文化というかこの日本で使われてる言語なんだよ」
そう言いながら誠二はポケットに入ってた携帯を取り出してメモ機能から適当な単語を入力してエリフィアに見せる。
「これはこの国の言葉で『朝食』って読むんだけど、陣のこの部分に書かれてるやつはこの漢字という言語にそっくりなんだ」
エリフィアは見せられた携帯の文字と陣に描かれてる文字を繁繁と見比べる。
「本当だ。似てますね。……でもどうして」
「それは俺にも分らない。でもこの部分の文字だけでも理解出来れば何が必要なのか分かるかもしれない」
そう言って誠二は再び漢字らしき文字を観察する。そして理解出来た文字を読み上げる。
「血」
「捧」
「者」
「世」
「界」
「渡」
「捧」
「血」
「其」
「世」
「界」
「血」
「也」
全て読み上げたところで頭の中で文字を繋げて文章にしていく。出てきた答えを再度声にだして読み上げていく。
「血を捧げる者世界を渡る。捧げる血は其の世界の血なり。……なるほど」
自らが読み上げた答えを頭の中で整理した誠二は納得の笑みを浮かべると徐に立ち上がりエリフィアの方を向く。
「なんとなく分かったよ、この陣の使い方が。」
「本当ですか!?では早速やってみましょう!」
誠二の言葉に帰れる希望が見えてきたのかエリフィアは急かすように陣の中央に向
かう。
「ちょっと待って、その前にそっちの文字がなんて書いてあるか分かるのなら調べてみてくれないか?俺の考えだけじゃ足りないかもしれないしね」
「あ、そ、そうですね。ちょっと急いてしまいました。」
そう言いながら漢字に酷似した文字が書かれてたところと反対にある誠二には全く読めない文字に向かうエリフィア。
陣の外周に書かれてる文字にたどり着くと、エリフィアはドレスが汚れるのも構わずにしゃがみこんで文字を眺めてく。
「見覚えのある文字なのですが。……すいません思い出せません」
「そうか、分かった。じゃぁ一端家の中にに戻っててくれ、俺は少し準備してくるから」
そう言い残すと誠二はそそくさと家の中へと引き返して行った。残されたエリフィアはポカンとした表情をしてたがすぐさま慌てて誠二の後を追って家の中へ戻って行った。
「あ、あの誠二さん!どこへ?!準備って一体なんのことですか?!」
家の中へ入り和室を通り過ぎ廊下へ出て階段へ進む誠二を追いながらエリフィアは問いかける。
「あの漢字のような文字で書かれてた文章。あれがもし本当に漢字を由来にした文字なんだとしたらあれはこう書かれていたんだ、……血を捧げる者世界を渡る。捧げる血は其の世界の血なり」
「其の世界の血……?」
階段を上りながら誠二は頷いて自らの答えを続ける。
「恐らく其の世界の血っていうのは術を行使する時いる世界の血ってことなんだと思うんだ。であるならば、今ここにいる、この世界の血を持ってるのは俺だけだ。俺の血を捧げなくては君を君の世界に帰せないなら俺も君の世界に渡る覚悟と準備をしようと思ってね」
それを聞いたエリフィアは困惑に顔を染めた。
「で、ですがそれでは誠二さんにご迷惑が……」
「俺の事は構わない。君を君の世界に帰すと約束したしね」
「そ、そうですが……」
「それに、俺にはそこまで重大な迷惑を掛けるような人は居ないし。なにより君だって急いで自分の世界に帰りたいだろう?」
「……」
そう言われてしまうとエリフィアにはなにも言い返せないのが現状である。
そうして話してる間に誠二はキャンプ用具の置いてある二階の自分の部屋へと着き部屋に入って準備を始めた。
父親の代から使い古した片手で持てる手鍋やステンレスのコップなど、あまり多くは持っていけないだろうから軽く野宿が出来る程度の物をリュックサックに詰めていく。そうしてる間もエリフィアはまだ暗い表情のまま何かを迷ってる様子だった。
それに誠二は気づいていたが敢えて何も言わなかった。
やがて準備の粗方終えた誠二が道具の詰まったリュックを持って立ち上がる。
「よし、こっちの準備はこんなもんだろう。あとは……」
そう言って誠二は未だ暗い表情のエリフィアに向かい声を掛ける。
「えっと、そうだなエリフィア、さん」
自分で言ってて恥ずかしいのか少し躊躇うようにしてさん付けでエリフィアのことを呼ぶ誠二だったが、当のエリフィアは暗かった表情はどこに行ったのか目を丸くして俯きがちだった顔を上げた。
「あ、いや、君のことなんて呼ぼうかと思ってさん付けでいいかと思って呼んだんだけどよくよく考えたら王女様なんだよな、王女様にさん付けは失礼か」
あたふたしながら早口で弁明なのか言い訳じみたことを捲くし立てる誠二だったが、その様子が可笑しかったのかエリフィアは少し笑った。
「ふふふ、大丈夫ですよ。ここは異世界ですからここでは私は王女でもなんでもない、ただのエリフィアです。ですからさん付けも要りません」
そう言って微笑みながら誠二に答えるエリフィア。
その答えを聞いて安堵したのかあははと空笑いする誠二だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
軽い旅の準備を終えた誠二は最後の準備をするために一階に降りていた。
「少し確認しておきたいんだけど」
そう言いながらエリフィアの方に向き直る誠二。
「なんでしょうか?」
「俺はさっきも言ったようにエリフィアを帰すなら世界を渡っても構わない。だけどそれにはやはり準備が必要だ。軽く旅が出来るような準備はしたけど最後に、準備の必要なことかどうかを確認したい」
そう区切って最後の確認を尋ねた。
「正直な話、そちらの世界は安全なのかどうかという確認だ」
そう、違う世界に行くということは自分の常識や認識の通じない世界に行くということだ。それは信じることのできるものがないのと同義だ。
この世界では多くの人間が差はあれど何かしらを信用してるからこそ流れてるもので溢れている。例えば通貨がそうだ。通貨は国に対する信用があるからこそ通貨足りえるのだ。国や社会などはそうやって多かれ少なかれ互いに信用をしてるからこそ成り立ってるのだ。
そしてそれは個人にも当て嵌まる。
個人に対する信用があれば人間関係は良好に運ぶだろう。だがそれは外に対してだけではなくその人が内心で信用してる事柄があればこそその人はその人足りえるのだ。
故に信じることの出来る事柄がないというのは異常であるとも言える。 誠二が尋ねた『安全』というのは治安であり情勢であり信用でもある。
もし安全であるのならば今してきた準備だけで十分であると誠二は考えていたが安全ではないとなれば話は別だ。
「安全、とは言えませんね。先ほども話したように私の国は敵国から襲撃を受けました。それだけでも十分危ないと言えますが、なによりも魔獣や魔獣人の脅威は世界のどこに行っても無くならないので防衛の備えのある場所以外では殆ど危険と隣り合わせだと聞いたことがあります」
大方の予想通りの答えではあったが誠二は気になるところがあった。
「防衛の備えのある場所以外ではって街中にその魔獣とかが入ってくるところもあるってこと?」
「はい。私は実際に見たわけではないのであまり詳しくは分かりませんが魔獣は定期的に人の居るところへ来ては人を襲うようです。何故そのような行動をするのかはまだ分からないみたいですが」
「ふむ、なるほどね。じゃぁやっぱり身を守る準備はしておいたほうが良さそうだな」
誠二はエリフィアの話を聞くと半ば独り言のように言うと母のコレクションの一部が置いてある和室に向かった。その後をエリフィアが着いて行きながら疑問に思ったことを遠慮がちに尋ねる。
「あの、失礼だとは思うのですが誠二さんは武術が出来るのですか?」
「以外だった?」
「は、はい。失礼ながら武術をしているようには見えなかったので」
エリフィアがそう申し訳なさそうに言うと誠二は苦笑しながら答えた。
「多分エリフィアが思ってるような武術はやったことないけど、子供のころからしばらくは剣道やってたから少しだけ心得はあるつもりだよ」
「剣道、剣を習っていらしたんですか」
「実戦的なものじゃないけどね。あくまで競技としての剣を習ってただけだから。素人に毛が生えたくらいの扱いしか出来ないけど、無いよりはマシっていう程度かな」
「それでも心強いです」
そんな話をしてる内に和室に着いて目的の物を持ってくる。
「それは?」
「刀という剣の一種だよ。日本刀とも呼ばれる片刃の剣なんだ」
誠二はそう言うと刀を鞘から抜いて見せた。
刃の部分に波を大きく表したような紋様がある刀身で柄の所には菱型を五つ重ねたような意匠が施された物だ。
「結構大きいのですね、それに随分剃りが深い」
「これは太刀という種類で普通に立ち回る際に扱う刀類では大きい方の物らしいんだ」
「らしい、とは?」
「母がこういうの集めるのが好きな人で色々聞かされてね」
苦笑気味に言う誠二だったがそれでもどこか嬉しそうに話すのを見てエリフィアは誠二も同じように好きなのだろうと内心微笑ましく誠二に話を聞いていた。
「さてそれじゃ俺が今必要だと思ったものの準備は終わったし、エリフィアの世界に行ってみるか」
誠二が元気良くそう言う傍らエリフィアはまだ誠二を巻き込む事に迷いがあるのか複雑な表情で頷いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「さて、じゃぁ早速始めようか」
「……はい」
庭に戻ってきた誠二は仮説を正解にするべく転移魔法の準備をエリフィアは促すがその返事は聊か芳しくない。恐らくまだ誠二を自らの問題に巻き込み過ぎるのを躊躇っているのだろう。それを見かねてか誠二が声を掛けようとするが。
「本当に、宜しいのですね……?」
俯きがちで暗かった顔を上げて真正面から真摯に誠二の顔を見ながらエリフィアが問う。
「もし渡れば暫くは誠二さんをこちらに帰す余裕はないと思いますし、帰れるという保障もないと思います。命の安全もないでしょう。それでも、私を帰す為に道連れになりますか?」
それは事実であり彼女の最優先事項が自分の世界に帰ることでそのためには誠二の事情を二の次にしなければならないことをエリフィア自身がよく理解してるからこその問いであったのだろう。
頭を下げて懇願し相手の承諾を得るのではなく相手の意思の基協力を得る。それは相手の意思の有無からくる信頼関係の差。物事を運ぶ際にそれがあるのとないのとでは雲泥の差がある。
エリフィアは自身がしようとしてることの重大さを理解してるが故に誠二に意思の確認をしたのだ。
「俺はやると決めた事はなにがあってもやり遂げる、そう決めてるんだ。今は君を帰すということを決めてる。何があろうともね。君を帰す為に渡ったあとどうするかはまたその時決めればいいよ。自分で選択したからには後には戻れない。それは君を帰すと選択したその時にはもう戻らないということだ。だから俺は君を君の世界に帰すよ、エリフィア」
誠二も正面から真摯な答えをエリフィアに帰す。
それを聞いたエリフィアの顔は目を閉じ暫し複雑な心を整理して気持ちを整えたからか、今の情況とこれからの事を受け入れる覚悟を決めた引き締まった顔に変わった。
「分かりました。では詠唱を始めます」
そう言い誠二が頷くのを認めたエリフィアはこれまで通り魔法の詠唱を始めた。
詠唱を聞くのは三度目の誠二だがやはりどこか聞いた事のあるような不思議なデジャヴのような感覚に包まれた。
歌うような囁くような叫ぶような詠唱を聞いてる内にどこかに行ってしまうような意識を引き込まれる感覚に襲われ、眩暈を起こす。
「ッッ」
ふらつく頭を振って引き込まれる意識を引き戻す。
(なんだ、今のは?詠唱を聞いてたらどこか遠い場所に連れてかれるような)
「誠二さん大丈夫ですか?」
そう呼ばれ意識が現実に戻った誠二はエリフィアを見てハッとなった。
「あ、ああ大丈夫だ。気にしないで」
「そうですか……。えっと、詠唱終わりました」
「そうか、分かった。……じゃぁ、やってみようか」
気を取り直して陣の中へ入りエリフィアの傍まで進む。
誠二はナイフを取り出して自らの指を切ると、切った指から血が染み出して珠のように膨らんできた。切った指を傾けると重力に沿って血が指を伝って下に向かい指を離れる。
珠のような血が地面に落ちた瞬間、魔法陣全体が眩しい程に輝き出した。
「これは、エリフィアが現れた時と同じ光だ!」
「ではこれで私の世界に」
エリフィアの台詞が終わるより先に光度が増し二人の姿は跡形もなく消えていた。後に残ったのは光が収まっていく魔法陣とジリジリと空気を焼く夏の日差しだけだった。
一応今回で主人公誠二は異世界へ行けたようですがまだ流れしか考えてないのでまた大変な時間お待たせするかと思います。
この作品を待ってくれてる方など居ないとは思いますがなるべく早く挙げられるようにします。