罰当たり
俺は、事故にあった。
いきなり左折してきた大型トラックに、衝突…するはずだった。
「おいっ、大丈夫だったか?」
「おお…村田か…」
「いきなりだったもんで、テンパっちゃってなぁ…会社には、一応連絡しといたよ。」
「サンキュー。でも、オレはこの通りかすり傷だけですんだから、会社にはすぐ行けるよ。」
そう…オレは、かすり傷だけですんだ。
医者にも驚かれたほどだった。
死をまねくほどの、大事故だったのに…
「でも、まぁとりあえず、入院することにならなくてよかったな。」
「村田…、まただよ。」
「何が?」
「オレ、また助けてもらったんだ…神様に。」
オレは確信している。
オレの身におきたすべての事故を助けてくれたのは、神様なんだ。
「そういえば、小学生の頃にベランダから滑って落ちた時も、高校の時にバイクにぶつかった時も、おまえは信じられないほどの軽傷だったよな。」
「全部、神様が助けてくれたんだ。」
「おまえ、いい年してまだ神様とか信じてんのか?」
信じてる…
だって、死ぬって思った時にいつもかすかに見えるんだ。
赤い着物の裾が…
それが、いつもオレの体をすーって持ち上げて、助けてくれるんだ。
過去の事故でも、今回の事故も…。
「あっ、ここのほこら、懐かしいなぁ。」
「そうだよ。覚えてない?このほこらには、本物の狐の神様がいるって、噂になっただろ?うわっ、ひでぇなぁ…」
ほこらは、めちゃくちゃに荒らされていた。
そういえば、覚えている。
オレの通ってた高校の通学路の途中にあるこのほこらには、本物の狐の神様がいるって、一時期噂になったなぁ…。
あっ…
どくん…
嫌な予感がする…
気持ち悪い…
「村田…オレ、もう帰るわ…今日はありがとな。」
「どした?顔色悪いぞ?気をつけて帰れよ。」
「あぁ…じゃあな。」
オレは、速足で帰った。
…間違いない…
あのほこらの石と石の間に、赤い着物の切れはしが挟まっていた…
オレをいつも助けてくれた、赤い着物の神様は、あのほこらの神様なのか…?
それに、あの嫌な感じ。
過去に何かがあった気がする。
あのほこらで…
その夜、オレはなかなかねつけなかった。
あのほこらが気になって、どうしても眠れない。
ガラガラ…ガシャーン…
なんだ?こんな夜中に…
誰かが、こんな時間に大掃除でもしてるのかな…
ガラガラ…ガシャーン…
…!!
オレは、急いで家を飛び出した。
思い出した…
オレは、ほこらの噂がたった時、本当に神様がいるのか試すために、あのほこらを荒らしたんだ…
荒らしたら、神様が罰を与えに来そうな気がして…
あの時、オレは毎日が退屈で、別に死んでもいいやって思いながらあんなコトをしてしまった…
なのに、今は神様が罰を与えるどころか、オレを助けてくれる。
あんなにヒドイことしたのに…
「あんなことをして、すみませんでした。」
オレはほこらに手を合わせて、本気で謝った。
反省してる…
反省してる…?
誰かの声がした。
ふと前を見ると、赤いボロボロの着物を来た、狐にも人間にも見えるような神様が…
「わたしは、あなたに罰を与え続けてきました。あの時のあなたは死にたいって思っていたので、生かしてあげ続けたんです。」
「もしかして、それが罰…?」
「えぇ。でも、もうそんな必要はないみたいですね。あなたは本当に反省をしているようです。ならば、もうこれで罰はもう与えません。」
「えっ…うわぁっ!!!!」
『3月23日、朝のニュースをお伝えいたします。
昨晩、山中のほこらの前で、男性の遺体が発見されました。
遺体には、赤い着物のような布で首を絞められていることから、警察は自殺とみて調査中です…』