一千光年の合い言葉
「地球帰還に向け、ワープ準備に入る。三、二、……」
もうすぐ帰るから。待っていて、地球、そして私の大切な人。
「別れよう、大地。もう会えないかもしれないから」
「星羅さん、そんなに危険な旅なのかい?」
「ううん。必ず帰ってくるよ。期間は三日だし」
宇宙物理学者の私に、念願の、恒星間ワープ探査、初回飛行のオファーがかかった。
「それじゃ、なぜ?」
「相対性理論の、時間の遅れって知ってる?」
「高速で移動している物体は、時間の進みが遅くなる」
「そう。今回のワープ航法は、途中、光速近くまで加速する。だから、帰ってきた地球だと、五十年経っている計算になる」
「それじゃ、星羅さんが帰ってくる頃には、僕はすっかりおじいさんだ。それでも、僕は君を待つよ。夢を追いかける君が好きだから」
「ふふ。大地らしいね」
「合い言葉を決めておこう。再会したとき、僕が年を取っていても、君が僕のことを分かるように」
そっと耳打ちされた合言葉、決して忘れない。
「異常発生、ワープ中止。再度加速を試行する。三、二、一」
地球が見えてくる。
着陸をすると、予想外の事態。再加速のせいで、二十年分、余計に時間が経っていた。出発から七十年、大地は百歳。また会おうね、その約束、守れなかったの?
しょんぼりと宇宙センターの客室へ。そこに待っていたのは、
「大地!?」
出発したときと同じ歳の大地。いや、顔立ち、少しだけ違う。
「はじめまして。僕は空也。大地大伯父さんの弟の孫です。大伯父さんの遺言を届けに来ました」
「それじゃ、大地は」
「十五年前、生涯未婚のまま、亡くなりました。」
「やっぱり、間に合わなかった」
ぎゅっと、唇を噛む。
「大伯父さんは、まだあなたを待っていますよ。大伯父さんが眠る納骨堂にご案内します」
空也は、ロッカー区画の扉を開ける。小型金庫が出てきた。
「七連式のダイヤルキーがかかっています。二人の合言葉を入力してください。開けられたら、その人が星羅さん。星羅さんに樹木葬にしてほしいというのが遺言です。ヒントは……」
合い言葉を入力して、ダイヤルキーを解除する。金庫の中には、骨壷と、年老いた遺影と、合言葉の続きを書いた紙。
「大地、帰ってきたよ」
長く待ってくれたその姿を抱きしめる。
あの日交わした言葉。
「星羅さんには、僕の生きる地球の、生命の循環に戻ってきてほしい。だから合言葉は」
「母なる地球で」
「あなたとともに」
「永遠に生きたい」




