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一千光年の合い言葉

掲載日:2025/12/06

「地球帰還に向け、ワープ準備に入る。三、二、……」

 もうすぐ帰るから。待っていて、地球、そして私の大切な人。


「別れよう、大地(だいち)。もう会えないかもしれないから」

星羅(せいら)さん、そんなに危険な旅なのかい?」

「ううん。必ず帰ってくるよ。期間は三日だし」

 宇宙物理学者の私に、念願の、恒星間ワープ探査、初回飛行のオファーがかかった。

「それじゃ、なぜ?」

「相対性理論の、時間の遅れって知ってる?」

「高速で移動している物体は、時間の進みが遅くなる」

「そう。今回のワープ航法は、途中、光速近くまで加速する。だから、帰ってきた地球だと、五十年経っている計算になる」

「それじゃ、星羅さんが帰ってくる頃には、僕はすっかりおじいさんだ。それでも、僕は君を待つよ。夢を追いかける君が好きだから」

「ふふ。大地らしいね」

「合い言葉を決めておこう。再会したとき、僕が年を取っていても、君が僕のことを分かるように」

 そっと耳打ちされた合言葉、決して忘れない。


「異常発生、ワープ中止。再度加速を試行する。三、二、一」


 地球が見えてくる。

 着陸をすると、予想外の事態。再加速のせいで、二十年分、余計に時間が経っていた。出発から七十年、大地は百歳。また会おうね、その約束、守れなかったの?

 しょんぼりと宇宙センターの客室へ。そこに待っていたのは、

「大地!?」

 出発したときと同じ歳の大地。いや、顔立ち、少しだけ違う。

「はじめまして。僕は空也。大地大伯父さんの弟の孫です。大伯父さんの遺言を届けに来ました」

「それじゃ、大地は」

「十五年前、生涯未婚のまま、亡くなりました。」

「やっぱり、間に合わなかった」

 ぎゅっと、唇を噛む。

「大伯父さんは、まだあなたを待っていますよ。大伯父さんが眠る納骨堂にご案内します」


 空也は、ロッカー区画の扉を開ける。小型金庫が出てきた。

「七連式のダイヤルキーがかかっています。二人の合言葉を入力してください。開けられたら、その人が星羅さん。星羅さんに樹木葬にしてほしいというのが遺言です。ヒントは……」

 合い言葉を入力して、ダイヤルキーを解除する。金庫の中には、骨壷と、年老いた遺影と、合言葉の続きを書いた紙。

「大地、帰ってきたよ」

 長く待ってくれたその姿を抱きしめる。


 あの日交わした言葉。

「星羅さんには、僕の生きる地球の、生命の循環に戻ってきてほしい。だから合言葉は」


「母なる地球(ほし)で」

「あなたとともに」

永遠(とわ)に生きたい」


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― 新着の感想 ―
夢と愛、どちらを取るか。 夢を追う星羅を応援する大地の愛、胸に沁みました。 樹木葬というのもいいですね……。 電子の海の海月さん、ありがとうございました。
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