第4話 初依頼、響いた声
森で薬草を集め、依頼を終えた私は、その足でギルドへ戻ることにした。
夕刻の風は涼しく、町の屋根の向こうでオレンジ色の陽が沈みかけている。初めての冒険で緊張していたはずの心が、今は少しだけ弾んでいた。
「キュイッ」
肩の上のコハクが鳴き、尻尾で私の頬を軽くくすぐる。まるで、労ってくれているかのように。
「コハク……今日はありがとう。ルゥも」
足元でスライムのルゥが「ぷるん」と体を揺らした。
薬草の入った小袋を抱え、ギルドへ入ると、いつもの喧騒が耳に飛び込んでくる。
冒険者たちは酒を飲み、剣を手入れし、今日の成果を自慢げに語り合っている。
そんな中、テイマーの私が入ると、何人かがちらりと視線を寄越した。
「お、テイマーの子じゃん」
「薬草採取とか、ほんと地味な依頼しかできねぇんだな」
「その狐? ただのペットだろ。かわいいけどな」
からかうような声が聞こえた。
悪意というよりは、鼻で笑うような――「最弱職」を見下す空気。
私は聞こえないふりをして受付に並ぶ。
今日の出来事を思い返した。
森に入ったとき、確かに私たちはゴブリンに囲まれた。
あの瞬間、心臓が凍るほど怖かったのに――
ルゥは私を守るように光り、コハクは誰よりも前に飛び出して威嚇してくれた。
その動きは、私の意思を汲み取ったかのようだった。
そのとき――
肩のコハクが、鳴き声ではない「声」を発した。
――アヤノ、怖いの? 大丈夫、ぼくがいるよ。
「……!」
気のせいかと思った。幻聴かと思った。
でも、コハクの赤い瞳が私を見つめたとき、確信した。
「……コハク、今……喋った?」
「キュイ?」
とぼけるように鳴いたが、尻尾がゆらゆら揺れている。
まるで「バレた?」と言わんばかりに。
(ルゥも、私の指示を待つだけじゃなく、私を守るように動いてくれた……)
けれど、その素晴らしさを、きっと誰も信じてはくれない。
案の定、後ろから声が飛んだ。
「おいおい、薬草採取でそんなに疲れたのか? テイマーの魔物なんて、すぐ逃げるだろ」
「狐とスライムなんかじゃ、ゴブリン一匹に勝てねぇよ」
私は苦笑で返した。
本当のことを言うつもりもなかった。
(……この力は、まだ誰にも信じてもらえない)
受付嬢が薬草を受け取り、微笑ましげに言った。
「お疲れ様でした、アヤノさん。無事に帰ってきてよかったですね」
「はい。なんとか……」
受付嬢は優しいが、それでも“普通の初心者テイマー”としての扱いだ。
ギルドを出ると、コハクが首をかしげて鳴いた。
「キュイッ?」
――気にしなくていいよ。ぼくがついてる。
また、心に直接語りかける声が響く。
胸の奥がじんと温かくなった。
「……ありがとう。コハク、ルゥ。
私、もう少し強くなりたい。みんなに笑われてもいい……でも、いつか必ず認めさせたい」
ルゥが「ぷるる」と震え、コハクが「キュイッ!」と鳴いた。
ギルドの外に沈む夕陽が、三つの影を長く伸ばしていた。
テイマーは最弱職。
ペット扱いの魔物しか扱えない――そんな偏見だらけの職。
でも。
(私たちなら、きっと変えられる)
そう、静かに決意した。次の日、ギルドに向かうと昨日とは違う視線が私たちに向けられていた———
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