第3話 初依頼、死の恐怖
ギルドに登録した翌日、私は初めての依頼を受けることになった。
掲示板には小さな紙が幾枚も貼られていて、「薬草採取」「簡単なモンスター討伐」「荷物運搬」とある。どれも簡単そうに見えたが、冒険者たちの緊張感を見ていると、決して侮れないことはすぐにわかる。
「……じゃあ、薬草採取の依頼から始めようかな」
コハクが肩で小さく鳴き、ルゥがぴょんと跳ねる。二匹の魔物と共に森の道を進む。
依頼先は町から北にある小さな森。薬草は珍しい花の根や葉で、町では高値で取引されるらしい。
森の入り口に立つと、空気がひんやりとしている。光は木々の隙間から差し込み、地面には落ち葉が敷き詰められていた。
「……ルゥ、行くよ」
スライムの体がふわふわと光る。コハクも身をかがめ、警戒の目を光らせる。
しばらく歩くと、草むらの奥から小さな影が動くのが見えた。ゴブリンだ。初めて見る生き物に、胸がわくわくする反面、ぞくりと寒気も走る。
「……大丈夫、私が守るから」
ルゥとコハクが私の周りに集まり、無言のうちに意思が通じ合う。ルゥの小さな体がふわりと光り、コハクは牙を光らせて低く唸った。
ゴブリンたちは四方から囲んできた。手には粗末な短剣や棍棒を持っている。
「……えっと、どうするんだっけ」
心臓が高鳴る。現実の日本では味わったことのない恐怖。ルゥの体温が伝わり、私に呼びかけてくる。
「……恐れているな」
その瞬間、ルゥの体が光を放ち、ゴブリンたちに向かってふわりと浮かぶ。まるで意思が宿ったかのように、彼らを押し退ける。私の言葉はほとんど必要なかった。ルゥはゴブリンたちの動きを読み、守るために動く。
「すごい……!」
コハクも翼を広げ、炎ではないが威嚇の小さな魔力を放ってゴブリンを追い払った。二匹の魔物の連携は完璧で、恐怖に震える私を守ってくれた。
戦闘が終わると、ゴブリンは森の奥へと逃げ去った。ルゥは光を静かに収め、コハクは私の肩に戻る。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
初めて実感した。心で通じ合った魔物が、私を守ってくれる。
「魔物の意思が、ちゃんと届いた……」
薬草を採取する作業も、ルゥが根の場所を教え、コハクが茂みの影から監視してくれるおかげで、順調に進む。森の中で見つけた小さな花や草の一つ一つが、冒険の証のように輝いて見えた。
夕方、町に戻る頃には日が傾き、空は赤く染まっていた。ギルドに報告に行くと、受付の冒険者たちが軽く拍手してくれる。
「薬草依頼、無事完了か。スライムと二匹の魔物か……面白いな」
笑われたこともあったけれど、今日の経験が私を少しだけ強くしてくれた。
「……明日はもっと、できるかな」
肩に乗ったコハクと、地面を跳ねるルゥを見ながら、私は小さな決意を胸に刻んだ。
初めての冒険は無事に終わった。だが、世界の広さと危険の大きさも同時に知った日だった。
これからの旅路は、決して甘くはない――けれど、二匹の仲間となら、どんな困難も乗り越えられる気がした。




