第9話 連携で挑む初戦──加護が示す本当の力
初戦の対戦相手は、ギルド内でも前評判の高い《魔法士&盾戦士》の二人組だった。魔法士の男は杖を軽く回しながら余裕の笑みを浮かべ、盾戦士は分厚い盾を地面に突き立て、観客席に向けてファンに手を振っている。まさに“優勝候補”という雰囲気だ。
「……いきなり、強敵かぁ...」
アヤノは思わず喉を鳴らした。
「大丈夫大丈夫! 俺、こう見えて“攻撃を引きつけるだけ”なら自信あるから!」
カイルは胸を張る。お調子者で軽いように見えて、実戦経験はそれなりにあるらしい。
だが周囲から聞こえてくる声は冷ややかだった。
「テイマー入りのチームって……」「あの子、一次選抜で受かったの?」「足、引っ張らないといいけど」
ゴングが鳴る直前、アヤノは深呼吸をした。
「二人とも……準備はいい?」
《もちろんだよ、アヤノ》
《任せてっ!》
コハクとルゥがそれぞれ体を小さく揺らし、光が淡く滲む。
その瞬間、アヤノの胸の奥で何かが弾けたように震える。
(これは……まさか……)
アヤノは手をそっと伸ばすと、コハクの頭に触れた。柔らかく温かい感触。
「……これって...加護?」
コハクは短く一声「キュ!」と鳴く。
その音がまるで言葉になり、アヤノの胸に響いた。
同時にルゥも手のひらに鼻先を押し当て、ぴょんと跳ねる。
《……アヤノ、私たちと“心を重ねる”覚悟はある?》
「うん……ある!」
光が二匹を包み、アヤノの手から体へ、そして意識の中へと温かく流れ込む。
胸の奥で柔らかく広がる感覚――それは、ただの連携ではない。
二匹の魔物が自分に力を託す、特別な“加護”。
視界が一瞬だけ変わった。
周囲の光景が少し滲み、二匹の存在が光の軌跡として見える。
アヤノは初めて、加護を体で理解した。
(私……二人の力を、直接使えるんだ……!)
「ありがとう……二人とも……!」
コハクが尾を大きく振り、ルゥが元気に跳ねる。
その瞬間、アヤノの心に確かな自信が芽生えた。
たとえ相手が優勝候補でも、二匹と一緒なら……必ず乗り越えられる。
コハクとルゥの小さな声が心に響き、背中をそっと押す。
「……作戦、立てよう。行き当たりばったりはダメだから」
「えっ作戦!? 俺、勢いで――」
「勢いで勝てる相手じゃないよ!」
カイルがたじろいだ瞬間、ゴングが鳴った。
◆ ◆ ◆
開始直後、敵の魔法士が詠唱に入る。
「《フレアショット》!」
火球が瞬時に形を取りかけたその時――
アヤノの意識の奥がふっと震え、視界がわずかに揺れた。
同時にコハクの体が柔らかく光を帯び、ルゥも小さく青白い輝きを纏う。
(……え? これは……)
初めて明確に感じる、モンスターから与えられる特別な力、《加護》。
アヤノの心に直接流れ込む感覚。体が軽くなり、反応速度が自然に上がる。
周囲の空気の音、敵の微かな足の運び、杖の動き――すべてが鮮明に、まるでスローモーションのように見える。
「ルゥ、回り込んで!」
ルゥの姿が光の帯となり、影のように滑り込む。火球の軌道は微かにずれ、爆風だけが弾けた。
《アヤノ、あの魔法士、詠唱の癖が強い。三拍置いて右足が前に出るよ!》
「……すごい……!」
コハクの体から炎がふわりと立ち上り、幻影の狼が盾戦士の横に浮かぶ。
実体はない。だが、盾戦士の視界と心理に確かな“存在”として働き、彼の足を一瞬止める。
「な、なんだこれ!?」
盾戦士が一歩を踏み出せず、軽く後ずさる。
アヤノ自身も驚いた。
(これ……私、今まで見たことない動きが、勝手にできてる……!?)
加護の力に導かれるまま、アヤノは最小限の意思でコハクとルゥを動かす。
まるで体の一部のように二匹が連動し、敵の攻撃の流れを読む。
カイルはその隙を見逃さず、盾戦士を横から押し飛ばす。
魔法士はルゥに詠唱を潰され続け、火球を放とうとしても軌道が乱れ、狙いが定まらない。
観客席がざわつく。
「……テイマーが詠唱を読んだ……?」
「いや、あの連携……人間だけじゃ無理だろ」
同時に盾戦士が前進し、カイルへ一直線に突撃してくる。
「うおっ!? 来るなら来いって感じだけど、重いぃぃ!」
押し負けそうになるカイル。
だが次の瞬間、コハクの炎が“幻影の狼”の形を取り、盾戦士の横へ飛びかかった。
アヤノの目には、炎が生き物のようにうねり、盾戦士の動きを遮る光景が映る。
「な、なんだこれ!? 実体は……ない!?」
ほんの一瞬のひるみ。だがそれで十分だった。
カイルが体勢を立て直し、アヤノの合図に合わせて踏み込み――
「たぁッッ!!」
盾戦士を横から弾き飛ばす。
魔法士はルゥに詠唱を潰され続け、起死回生の魔法も撃てない。
アヤノは胸の奥から熱いものが込み上げるのを感じた。
(私、今……何をしてるんだろう……。でも、すごい、すごく“繋がってる”……!)
やがて審判の声が響き渡った。
「勝者、アヤノ・チーム!!」
◆ ◆ ◆
戦いが終わった瞬間、アヤノは深く息を吸い、コハクとルゥを抱きしめる。
「二人とも……ありがとう。本当に助かったよ」
《アヤノのおかげだよ。君が“繋がって”くれたから力が出せた》
《うん、アヤノのおかげで、すっごい楽に動けたもん!》
加護――
それはモンスターが主に与える特別な力。
これまで感じたのは断片的な兆しだったが、今ようやく、はっきりとした形で現れた。
どうやらコハクが与えてくれた加護は――
火球が飛んできた瞬間、時間がわずかにゆっくり流れるように感じられた。反応が自然に早くなり、敵の動きを逃さずに捉えられる。コハクの加護は、瞬間的な判断と直感を強化する力だった。
そしてルゥが与えてくれた加護は――
戦場全体の情報が頭の中で整理され、敵の位置や味方の状況が手に取るようにわかる。ルゥの加護は、戦術的な把握力をアヤノに与える力だった。
二つの加護が合わさったとき、アヤノは初めて、自分がコハクとルゥと一体になった感覚を得た。
「……コハクは反応速度、ルゥは戦場の把握……二人の加護で、私、皆と一緒に戦えてるんだ」
胸が熱くなる。そんなアヤノの横で、カイルが親指を立てた。
「いやーアヤノ! マジでやばかった! 俺、君のこともっとすごい奴だってみんなに言いふらしてくるわ!」
「やめて……恥ずかしいから」
照れながらも、アヤノの顔はどこか誇らしげだった。
「自分がすごいんだったら.....この子達と自分で証明して見せる!!」




