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トレモロ 2  作者: 安之丞
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2巻 1章 6話

海の青がだんだん鮮やになり、潜水艇の船内が少し明るくなった。みな安堵した時、ハニが悲鳴に近い声を出した。

「クラウン!背中に矢が刺さってる!」


「え?え?うわ!」クラウンは自分の後ろを見ようとキョロキョロ。


「ここで抜くなよ!」スノーが運転しながら慌てて言った。


「クラウン痛くないの?」ブラストはクラウンの背中に刺さった矢を近くで見ながら言った。


「うん。へーき。」クラウンは普段通りだ。


「シシッ!ブラスト、矢の先を少し残して邪魔な部分だけ折ってやってくれ。」スノーは半笑いで話した。


「桜島に戻って手当しよ。あそこなら安全よ。」ハニは落ち着きを取り戻した。


潜水艇で桜島の病院に向かった。


⭐️


桜島で治療をうけたクラウンは全治2週間。

着物の女性は捻挫で全治1ヶ月。

2人とも1週間入院し、その後、里山村で療養する事になった。

黒神神社の下にある宿の温泉にもよく浸かった。ハニは里山計画を進めながら2人の面倒をよくみた。


ブラストはモジュール解析の為、チェリーブロッサム・アイランド・ステーションに戻った。


スノーは虎徹とゴーストと三輪バイクを1台レンタルし、斥候に出かけた。


⭐️


満月の夜、テントを貼って野営地を作る鬼達。

崖の上から様子を見ながら、スノーは静かに口を開いた。

「どうやってホマレに入ったんだ?」


挿絵(By みてみん)


「拙者、家は茶屋の嫡男。幼い時から大蛇退治を見て育った。憧れ、13歳で弟子入りを志願した。自然学、武芸、楽器を習得し、なおかつ師匠の許可がもらえるとHOMAREに入れる。今は家業を手伝いながら民を守っている。スノー殿はなぜにギルドへ?」


「気がついたら軍人になると当たり前に思ってた。オレの種族は戦場で重宝される。けど腑に落ちない作戦や任務がだんだん嫌になってmcsに入った。周りの仲間も同じ理由で、たくさんそこに居たんだ。ただそれも任務に納得できるってだけで、単調に思えたんだ。クラウンやブラストに会ってなんか違うって感じたんだ。自分らしく、楽しそうに見えた。」


「私らしくか。」虎徹はしみじみ言った。


「侍に飽きたら、ギルドに来い。シシッ!」


2人は立ち上がると、バイクに乗り走り出した。


⭐️


山から朝日が登り、里山村は活気に満ちていた。ハニが里山計画にスカウトしてきたメンバーが新たに加わった。


「ハニいい?絶対に乗ろうとしちゃダメだよ。あと大人しくなるまで触らない方がいいかな。見るだけ、いい?」クラウンは注意深く話した。


「もったいつけずに早く見せてよー。」ハニは腰に手を当てた。


「ナイトメア!」クラウンは呼び出した。


ダダ、ダダ、ダダ。

漆黒の馬が木の影から走って来た。


「カッコイイ〜!」ハニは興奮を抑え囁いた。


ナイトメアはゆっくりクラウンの前で止まった。


「ルイージさんにも触らせてたから、ハニも平気かも。触っていいよ。」


ハニはゆっくりナイトメアを撫でた。

挿絵(By みてみん)


ブルブルいいながらナイトメアは大人しく立っている。


「私もとっておき見せちゃおうかな〜。こっち来て!」


鎮守の森に入って行くと斗鬼がいた。

「どうも。クラウンさん、調子はどうですか?」


「うん。もう治った。お見舞いのお礼です。はい。」クラウンは斗鬼に芋けんぴと書いたお菓子を渡した。


斗鬼は頬がピンク色になった。

斗鬼は何度も好物を持って見舞いに来てくれた。


「斗鬼、猫ちゃん見せて。おやつ持ってきた。」ハニはペットフードを取り出し歩き始めた。


「ハニ様が保護してから元気ですよ。」森の奥に2人は歩いて行く。クラウンとチョコはついて行った。


斗鬼が「ヒョーヒョー。」と奇妙な声で鳴いた。


森から黒煙が飛び出し現れた。

顔はフェネック、体は薄いベージュのヒョウ、白い大きなしっぽはスカンクの様な形をしていた。


恐ろしい顔と声で唸り出した。


ハニがペットフードを見せて「おやつ。」と一言。かわいい顔になった。

ハニがおやつをあげるとバクバク夢中で食べ始めた。


「どこが猫なの?」クラウンは引いていた。


「あはは。ぬえはキメラよ。」ハニはディスプレイを出しながら説明した。「分泌物を出してマヒさせるのよ。」


「クエストのやつ?」


「そう。クエストでまごろくさんとぬえを保護して、保護区を里山村に作る事になったの。その村で鬼兵に襲撃されたの。けど斗鬼のおかげで村人達のほとんどが生き残ったの。まごろくさんは斗鬼を斬らなかった。」


斗鬼は静かに小さくうなずいた。


「そこに鬼兵がまた攻めてきて、まごろくさんと戦ったんだけど、すごかった。みる?」


「うん。みたい。」


ハニはログを再生した。


「ぎゃう、ぎゃう。」ぬえのうなり声と風を切る音、ぬえの背に乗ったまごろくが鬼面姿で振り返った。


「ハニちゃん、ここらで行こか?」


「OK.」


「ハニちゃん、威勢が足らんで。さっき教えたやつや。」


「承知の助!」


画面はどんどん上空へ、地上ではまごろくがぬえに乗って、鬼兵隊にくないを投げながら、猛スピードで突っ込んで行く。


「行くで!」まごろくが気炎を上げた。


バフッ!ぬえから紫の煙幕がたち、鬼兵は硬直してバタバタ倒れていく。画面は地面に着地し、鬼兵に近づくと、殺気に満ちた顔で画面を睨みつけてきた。


「こわっ!」クラウンは背筋が凍った。


ちりんちりーん。

遠くから鈴の音が聞こえる。


「あ!行商人が来た、行こう。」ハニがディズプレイを閉じた。


「斗鬼も行こう。」クラウンは歩き出した。


小さなマーケットが公民館の周りに集まった。

斗鬼は道具屋に早速つかまった。


「ハニ様ー!大変でしたね。」

宝飾屋の店主がハニに手を振った。


「みんなも無事について良かった。」ハニは笑顔で手を振った。


「へえ。むしろこの旅のお陰で竜宮城から無事に逃げ出せたんです。誘ってもらって助かりました。こんな世じゃ秋まで身が持つか。ハニ様、早く鬼を追い払ってくだせい。」


「うん!がんばるね!」


「ハニ様、最高級の品です。見ていってくだせい。」


ハニは宝飾品を眺め指さした。

「これチャーム?」


「へえ。根付です。紐は選べますよ。」


「じゃ、これとこれと、ヘアゴムはある?」


「へい。ありがとうございます。お安くしときます。」


宝飾屋はヘアゴムを取り付けた。受け取ると、ハニはひとつクラウンに手渡した。


「はい、クラウン。」


手を開くとヒスイでできた馬の根付のヘアゴムだった。


「カッコイイ!ありがとう!」


「私のは猫ちゃんよ。」


2人はさっそく髪を結んだ。


「お似合いです。」店主は微笑んだ。


その後、クラウンは甘味屋で団子をたくさん買って、ブラストの帰りを待った。


⭐️


ブラストが夕方、帰ってきて、クラウンとハニとチョコと団子を食べた。


お茶を飲んでからブラストはディスプレイを出してハニに言った。

「モジュールの持ち主は潮汐ってやつで、鬼兵の司令官だった。またメッセージがあったよ。」


ディスプレイには潮汐の顔とメッセージが表示された。

ー目に見えないものを信じない者へ。災い来たる。エレメントは月から持ち出してはならぬ。引力を狂わせるものから我を守れ。ー


「じゃ月にエレメントストーンがあるって事?」クラウンはいきなり団子を頬張った。


「ま、可能性は高いわな。」ブラストはお茶を飲んだ。


「私の探してるやつじゃん!あー。シャトル持ってない〜。」2人の会話を聞いてハニは嬉しさと絶望が同時に来た。


「持ってるよ。スノーが。」クラウンはお茶を飲み干した。


⭐️


その晩、スノーと虎徹が斥候から帰って来た。


ハニは玄関まで駆け出した。

「スノー!おかえりなさい。見て!お願いがあるの。」


「帰ってそうそうなんだよ。おお!団子じゃん。」スノーと虎徹は居間に座った。


「おかえりー。」「おかえりー。」クラウンとブラストは笑顔で迎えた。


ハニは「月に連れていって欲しい。」とスノーに頼むと、スノーは素直に承諾した。


「今日は拙者も泊まり、これまでの話を師匠に話さねば。明日、師匠がこちらに立ち寄るまで、お待ち頂けませんでしょうか?」


ハニの話が終わるのを待って虎徹も頼んだ。


みな快諾した。


⭐️


翌日、昼食会と会議を合わせてする事になり、公民館に集まった。

座敷に仕出し屋が弁当を運んでいる。


公民館前でクラウン達はたむろっていると天狗様の一行が来た。

村人達はお辞儀をして迎えた。


昼食会は和やかに進み、順々にされる報告や相談を天狗様は聞いた。

里山計画の山の管理、林業、インフラ、農業と生物、鬼兵との戦いなど色んな話が出た。クラウン達にも順番が回って来て、虎徹が代表で話した。


斥候の報告をしたあと一息おいて虎徹は話した。

「師匠、別件のお話が。」


「よー。言ってみい。」天狗様はお酒で顔がほんのり赤くなって来た。


「拙者、ギルドに参加して外の世界をもっと見てみたいのです。しばし参加を認めて頂けないでしょうか?HOMAREの為にも、もっと精進致します。何卒。」

虎徹は正座をして手を揃え頭を下げた。


スノー以外はびっくりしていた。


「よー。ハニちゃん、ええかの?」天狗様はハニに聞いた。


「はい!ギルドになるには適正をクリアしたら2000クレジットかかりますけど大丈夫ですか?」ハニは答えた。


会場がざわついた。


「よー。わしが払おう。」天狗様が言うと、横にいた侍が酒を煽った。「虎徹だけ孫の様に可愛がっておる!」


「よー。兼定、年寄りは若い者を応援せねばならん。」天狗様も酒をぐいと飲み干した。


兼定がガサゴソ、袋から箱をとり、ゆらりと立ち上がり近づいてくる。

白い肌に褐色のおかっぱ、灰色の目で虎徹をぎょろっと見てしゃがんだ。


「わしからも小遣いじゃ。精進せい。虎徹をよろしくな。」少し寂しい目をして千両箱を置いた。ふたを開けると1000クレジットカードが3枚入っていた。


食事会は2時間ほどで終わり、最後に一本締めをして、みな解散した。


クラウン、ブラスト、スノー、ハニ、虎徹、チョコ、ゴーストはサイプレス号へ向かった。



⭐️


続く。

絵:クサビ

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