2巻 1章 5話
天狗様と虎徹ともう一度、お別れの挨拶をした。
天狗様が四角を指でなぞり、クラウンはディスプレイを出した。
「よー。よーやった。」天狗様はHOMAREから特別報酬のサインをしてくれた。
別れ間際、虎徹はスノーの肩に腕を回し「ギルドにあきたら侍になれ。」と誘っていた。
海底寺に向かう潜水艇をレンタルする為、チェリーブロッサム・アイランド・ステーションに戻る事にした。
お昼に出港する客船に乗り、食堂に駆け込んだ。「オレ、唐揚げ!」「僕、ごぼ天肉うどん!」「サバ定食ください。シシッ!来た時と同じだな。」
⭐️
船着場を降り、神社にお参りした。クラウンは声を出して祈った。「ハニがみつかりそうです。お稲荷さん、ありがとうございます。」
新緑の美しい木々を抜けて、サイプレス号に帰り着いた。
⭐️
「ブラスト!zoneかして。」クラウンは部屋に駆け込んだ。
「いいよ。買っといて良かったー。ブッチさんがカバー取り付けの時、空きスペースに3dプリンターもつけてくれたからね。」ブラストは満足気だ。
「アイツそーゆーとこ、マメだよな。シシッ!」スノーはキャビネットを開けた。
「久しぶりの我が家、落ち着くー。」ブラストは椅子に座って伸びをした。
「ご飯ご飯。」スノーは犬達に久しぶりのドライフードをあげるとガツガツ食べ始めた。
クラウンは家庭用ポッドzoneに入って、オレンジ色に輝くエレメントストーンをポッドの中に置いた。
アビリティが上がり、ロージーが連打できる様になった。
ディスプレイには両手でロージーを連打している姿がループしている。
「やった!スタミナがなくなるまで打てるんだ。」
宙族の撃破。桜島、島民の救出。文化の保全活動とHOMAREから特別報酬。全身が金色に2連続光り、クラウンはレベル17になった。
zoneを出たクラウンは2人にも報酬を受け取れる様に言った。
ブラストはレベル22になった。
スノーはレベル11になった。
⭐️
ステーションの船着場で潜水艇のレンタルをして出航した。
海の淡いブルーに潜ると、気泡がドーム型の窓を包んだ。気泡が消えるとカラフルな魚、白い小魚の群れ、岩肌を覆う様にピンクのイソギンチャク、珊瑚、ヒトデ、美しい絶景を眺めた。
海底寺までのルートは難しく、スノーとブラストの予想通り、途中ルート検索に何度も止まった。
海亀がゆっくり目の前を泳いで行く。
「ここで止まってても仕方ないし、ついて行ってみるか。シシッ!」スノーが操縦を手動で始めた。
だんだん景色も暗くなっていく。
力なく泳ぐ海亀。
「泳いでるっていうより、流されてない?」ブラストは目を凝らした。
海亀と同じ海流に乗って流されて行く。
海亀は海底洞窟に入って行った。
「えー?!大丈夫かな。」クラウンは不安そうな声で言った。
「一応目的地に近づいてはいるな。」スノーは冷静だ。
「さっきから海亀動いてなくない?」ブラストも不安そうな声をだした。
海亀は洞窟の広い部屋に入ると窪みに沈んで行った。
「スノー、下を照らして。」クラウンは立ち上がった。
ライトゆっくり下に向けると、海亀の死体、骨の山があった。
「わあ!」クラウンは驚き、隣に座っているブラストと身を寄せ合った。チョコも2人の間に身を押し込む。
「海亀の終の住処だったな。」スノーは静かに言った。
スノーは窪みからゆっくり浮上し、そのまま洞窟を進んだ。
洞窟の先は少し明るくなって、クラウンはその光に安堵した。
洞窟を抜けると、海の中は街になっていて、海中タクシーや潜水艇、崖の段差にはお店の提灯が並び、タワーマンションも連なっていた。
近代的な暮らしとは無縁の星かと思っていたが、クラウン達は海の街の様子に一気に興奮した。
ナビが再びルートをみつけ、海底寺は崖の上にあった。寺専用のコンテナ駐車場に入ると数台と一緒に水抜きされ、潜水艇のドーム型の窓が開いた。
暗い駐車場の扉をでると、明るい廊下が眩しかった。
右、飲み屋横丁、竜宮城。左、海底寺と看板があった。
海底寺の本堂の前に池があり、金色の鯉、白に赤い模様の鯉が優雅に泳いでいた。整えられた庭を通り、お守り売り場にいた僧侶にハニの画像を見せて訪ねた。
少し沈黙して、横にいたもう1人の僧侶とひそひそ話しをした後「いません。」僧侶は返事をした。
クラウンは閃いて小声で聞き直した。
「あの、まごろくさんに内緒って聞いたけど、僕らはハニの友人です。」
僧侶は一礼して奥に行き、和尚を連れて戻って来た。
和尚は別院の入り口まで案内し、木の戸を開けた。
「お好きにお探し下さい。」
和尚は別院には入らず戸を閉めた。観光客も僧侶もおらず、静まり返っている。
波模様に砂利が敷き詰めてあり、石で出来たお地蔵様がポツンと中央に立っている。
チョコがかすかに光り出したが、珍しく迷っているようだ。
3人と2匹は手分けして探すことにした。
お地蔵様の先には五重塔や茶室、宝物庫、さらに奥の院には離れの家が何軒かある。
クラウンは離れの家を見て回り、気になる家があった。
門の横の木戸にブルーのリボンが結んであった。
クラウンはハニを思い出して、門をくぐって玄関で呼んだ。
「ハニー?いるー?誰かいますかー?」
奥からしゅるしゅるしゅる、何か擦れる音が近づいて来る。
「はい。」
着物を着た女性が出てきた。
「あの、ギルドのクラウンといいます。ハニはいますか?」
「お待ちください。」着物の女性は小さく会釈して奥に戻った。
「え?!クラウンが来てる?」ハニの声がする。
ドタドタドタ。
「クラウン!すごい、気づいてくれたんだー。」
ハニに再会した。
「うん!ブルーリボン!」
「わあ、やったー!1人で来たの?」
「ううん。ブラストと友達も一緒!今呼ぶね。」クラウンは2人を呼び出した。
チョコは尻尾を振ってハニに近づくと、ハニはチョコを抱えた。
「チョコ〜。あ!前とボディが替わってる。車にひかれても大丈夫になったね。よしよし、いい子だね。」
ハニはチョコをおろしてクラウンに声をかけた。
「中でゆっくり話そう!」
「うん!お邪魔します。」
⭐️
縁側にみな集まった。
ハニはブラスト、クラウンと三角になって手を取り合って再会を喜んだ。
「2人とも背が伸びたんじゃない?えへへ。」ハニは嬉しそうだ。
「紹介するね。スノーとゴースト。」クラウンは紹介した。
「初めまして。オレはスノー。シシッ。」
「ハニです。来てくれてありがとう。よろしくね。」
挨拶がすむと着物の女性が、お茶とらでん細工の漆の箱を持って来た。
ふたを開けるとモジュールが絶縁テープでぐるぐる巻きになって入っていた。
「再会したばかりで悪いけど、後で解析お願いね。それと謝らなくちゃ。連絡取れなくて本当にごめんなさい。」ハニは謝った。
「無事で良かったよ。何があったの?」ブラストが聞いた。
「里山計画のクエスト中に妊婦さんを助けたの。そしたら事情のあるお姫様で身代わり役をしながら逃亡を助けたの。素性を隠す為、強い防壁を張ったら連絡できなくなっちゃったの。ごめんね。それでね、今朝、無事に赤ちゃんが産まれたの!」
「良かったね!僕たちも里山村に行ったんだよ。」クラウンは笑顔で言った。
「斗鬼にも会った。名付け親だって?」スノーも嬉しそうだ。
「まごろくさんにも会った。」ブラストも笑顔だ。
「えー?!そうなの?みんなもどうやって来たか教えて!」ハニも笑顔になった。
縁側に並んでアースでの話に花が咲いた。
⭐️
2時間後ー。
お互いのこれまでのクエストの話はつきなかった。
着物の女性が廊下を走ってきた。
「ハニ様、追っ手が掛かりました。姫様達は地下から逃しました。私達も急いで逃げましょう。」
「追手?竜宮城は?」ハニは真剣な顔になった。
「うう、お落城です。」着物の女性は涙を流した。
「ヤバい。みんな逃げなきゃ。」ハニは和室の障子を勢いよく開けた。
「おらくじょう?って何?」クラウンは聞いた。
「お城が落とされたみたい。みんなが来た道から逃げよ。」ハニは支度をしながら答えた。
「潜水艇を海底寺の専用駐車場に停めてある。」スノーとブラストは立ち上がった。
ハニは赤いギルドスーツの上から着物を羽織り、着物の女性が素早くハニに帯を巻いた。長いシースルーの絹がついた山傘をかぶった。
ハニが絹の間から手を差し出した。
「おー!」3人は手を重ねワッペンを押した。
⭐️
表に出ると五重塔に火矢が飛んでいくのが見えた。
門を出ようとした時、無数の火矢が一斉に飛んできた。門に結んでいたブルーリボンがあっと言う間に燃え尽きた。
「あー。」ハニは残念そうな声を出した。
火矢のリロードのタイミングを見て、スノーとゴーストは走り出した。続いて、ハニと着物の女性、チョコ、後ろからブラスト、クラウンが追いかけた。
別院を全力で駆け抜けた。本殿前やお守り売り場から人は消え、防火シャッターが降りていた。
屋根の下に隠れながら駐車場をめざして走る。
庭が見えた時「きゃ!」ドタッ!着物の女性の草履の鼻緒が切れ転倒した。クラウンとブラストはすかさず起こし、着物の女性の両脇を抱えて走り出すと、火矢が一斉に飛んできた。
クラウンは振り返って撃った。
「ロージー!」
バボウ!バチバチ。クラウンが迎え撃って飛んできた火矢は燃え尽きた。
ダスダス!残りの火矢は建物や地面に勢いよく刺さって燃えている。
駐車場の扉の中からスノーが手招いてる。クラウンはブラストと着物の女性の背中を後押しした。
入り口に着いたハニが警告した。
「クラウン危ない!」
もう一矢来た。
「ロージー!」
ドスドスドス!ガキン!広範囲に火矢が落ち、クラウンのドクロの髪留めに当たりクラウンの髪が解けた。
非常灯を頼りに廊下を走り、駐車場まで切り抜けた。
⭐️
潜水艇で海にでると、海中タクシーなどが逃げまどい、数カ所で爆発も起きている。海の街はパニックになっていた。
潜水艇は崖の下から側溝を進み、洞窟に入った。海亀の終の住処へ潜水艇は暗闇に消えた。
⭐️
続く。
絵:クサビ