2巻 1章 4話
クラウン達は悲鳴がする方へ走り、霧の中に入った。
霧は濃く、前を走るスノーを見失いそうだった。
少し先に走り出したはずの天狗様の法螺貝の音は、かなり遠くから3回聞こえた。
ブオオー!ブオオー!ブオオー!
法螺貝の音を頼りに進んでいく。
緩やかな登り道を進むと、風が吹いた。
霧が薄くなると村人が数人倒れていた。
木の家が3軒並んでいる。
一番奥の家から、野太く嫌な笑い声と女の人のおびえた声がした。
スノーはゴーストを連れて、戸の開いた家に静かに入ると、大きな背中の青い鬼兵が土間を物色するのに夢中になっていた。
スノーは「シェル」と、つぶやき、後ろから鬼兵を殴って倒した。
2階に音を立てずに上がり「フリーズ!」大きな音がゴン!ゴン!と響いた。スノーは女性を抱え、家から飛び出してきた。
クラウンはイカロスを使ってマップを見ると、畑の先の民家周辺に20個程のマーキングポイントがついた。それぞれが大混線している動きに見えた。
ブラストが村の外れの民家2軒に6つのマーキングポイントを見つけ、行こうとクラウンを誘った。
「先に行け!」スノーは女性を抱えたまま2人の後を追った。
切り株がいくつかある木材小屋の前で鬼兵達がたむろっていた。
「ハズれの家じゃねーか!」
「ん?ガキが向かってくるぞ。」
「ガキじゃねーギルドだ!」
座っていた鬼兵が慌てて槍を持ち立ちあがろうした時。クラウンとブラスト、チョコは一斉にパワー使った。バーン!爆発アタックで5匹の鬼兵は倒れた。クラウン達は大きく息を吐いた。「ふー!」
「こっちに来て下さい!早く!」窓の柵から男の声がした。
小屋の横の小さな家に入り、スノーも駆けつけた。土間の奥から背中を丸くした青い鬼が現れた。
クラウン達はビクッ!!と身を引いた。
「おろして下さい。この鬼は違うんです!勘弁してやって下さい。」
スノーは抱えていた女性を下ろした。女性は鬼の横に並んで、鬼と一緒に何度もお辞儀をした。
クラウン達は鬼から事情を聞いた。
「噴火警報が解除されると、鬼兵隊が攻めてきました。さっき増援の鬼兵が来ると話していました。保護区の里山村を乗っ取るつもりです。」
「う、うん。なんで鬼が隠れてるの?」クラウンは率直に聞いた。
「おい。」スノーが止めた。
「失礼だぞ。オレも思ったけど言わなかった。」ブラストも気になっていた様子だ。
鬼は気まずそうに話し出した。
「私は脱走兵です。この国に来て自然の素晴らしさを知りました。貴方達と似た赤い服を着た女の子に命を助けてもらったんです。」
「ハニ!?」
「そ、そうです。」鬼は驚いた。
「そうよ。ハニちゃんよ。この斗鬼はね、ハニちゃんに助けてもらって、この村の里山計画のメンバーになったんだからね。ようやく住み良くなってきたのに、また鬼が来るなんて!」女性はぶ然とした。
やっぱりハニはここにいるんだ。とクラウンは内心、安心した。
「斗鬼さん、オレたちは天狗様や虎徹さんの支援に行きます。」スノーは後方支援に行くつもりだ。
「誰も巻き込みたくないです。どの辺りが戦うのにいいですか?」ブラストはディスプレイを出した。
「この公民館です。ここに村人達はいません。」斗鬼がマップを指した。
「うまい事5、6匹を誘い込まなくちゃ。」クラウンは俄然やる気になった。
「さっきと同じ作戦で行こう。」ブラストはスノーを見て言った。
スノはー小さくうなずき「攻撃範囲まで引きつけてアタック、もし追撃にあったら、ゴースト、オレの順に行く。もし崩されたら退却して、アビリティが復活したら、アタック。危ない時は構わず退却しよう。」スノーは作戦を告げた。
「よし!」ブラストは気合を入れた。
「うん!」クラウンとチョコも気合十分だ。
「待ってください!」斗鬼はみなを呼び止めた。
「私が増援をうまく散らしましょう。1部隊5鬼編成です。そこの鬼兵の胴当を着て引きつけます。」斗鬼は協力を申し出た。
「うーん、じゃあ、お願いしよっかな。斗鬼さんは危なくなったら、女性を連れて火山洞窟まで逃げてください。小さい崖をいくつか登ると黒神神社に抜けられます。」ブラストは女性の方を見た。
「天狗様が来てくれたならきっと勝てます!どうか無事で、無事で。」女性は合掌し目をつむり強く祈った。
斗鬼の準備ができた。
「行くぞ!」スノーが合図した。
公民館の先の畑は合戦になっている。霧の中から10匹以上の鬼兵がぞろぞろやって来た。
斗鬼は公民館の前に飛び出した。
「こっちに来てくれ!こっちだ!斗鬼は1部隊を呼び寄せ、公民館の裏に走った。鬼兵が公民館に向かって来るタイミングをみて、クラウン、ブラスト、チョコは飛び出した。バーン!爆発アタックは成功した。
クラウンは待ち伏せにドキドキして肩で息をしている。
「クラウン、深呼吸しろ。天狗師匠に習ったろ。」ブラストが落ち着かせてくれた。3人はアビリティが回復するまでの間、向かい合って手を握り、深呼吸した。
「よし!」ブラストは再び気合を入れた。
「行くぞ!」スノーの合図で出発した。
日が高くなり澄みきった風が霧を少しずつ晴らして行く。
畑の真ん中で虎徹が槍を構えた鬼兵に囲まれていた。
「オレが先行する!」シェルを使って、石肌になったスノーが猛スピードで駆け込み、鬼兵2匹にラリアットして倒した。スノーを見た鬼兵は慌ておののいた。
「スノー殿!?」虎徹は目を見開いた。
「虎徹さん!オレを信じて!」スノーは虎徹を抱えて走り出すと、クラウンとチョコ、ブラストが両脇を走り抜けた。スノーの背後は数秒後、大爆発した。
バーン!
公民館まで走って戻り、スノーは虎徹を下ろした。
「待たれ!」虎徹が斗鬼を見るや刀を構えた。クラウン達は焦り「斗鬼は違う。」「大丈夫です。」「味方だ!」口々に言った。
虎徹は険しい顔のままだったが、3人の曇りなき眼を見て刀を下ろした。
「山から増援が来る。皆、逃げなさい。」虎徹はスノーを見た。
スノーは首を横に振った。「一緒に行く。稽古場で見せてくれた、連撃やってくれよ。」
ゴーストが虎徹に頭をくっつけ、虎徹はゴーストをなでた。
スノーはマップを見ると、里山の入り口のマーキングポイントは慌ただしく動きまわり、数は減ってきていた。
「天狗様は?」クラウンは虎徹に聞いた。
「師匠は山中で戦っておられる。」
虎徹はスーッと鼻で息を吸って言った。
「スノー殿。一度きりぞ。」
山から、こちらに向かってくる5つのマーキングポイントに虎徹とクラウン達も向かった。
「ここで待ってて。」クラウンは虎徹に合図し、農作業小屋に隠れて待った。
「こっちは制圧できてるな!ダハ!」鬼の嫌な笑声が近づいてきた。
ゴーストは姿勢低く忍び寄っていく。
「見ろ、変な野良犬か?」
「お前も殺してやるよ。」
タ、タ、タ。
ゴーストが近づくと鬼兵は槍を前に向けた。
「フリーズ!」
鬼兵5匹はスローモーションになった。
「参る!」声高らかに、虎徹は連撃で鬼兵隊を斬った。
刀のあまりの速さにクラウンは身動きできなかった。
「スゲー。ゴーストいらなかったんじゃね?」ブラストも見とれた。
虎徹は血振りして刀を鞘に収めた。
山から鼓が鳴り響いた。馬のいななきもかすかに聞こえ、虎徹は横笛を取り出し吹いた。吹き終えると、法螺貝の音が返ってきた。クラウン達は天狗様が無事だとわかり喜んだ。
山から慌てふためいた鬼兵1部隊が降りてきて、姿が見えたとたん地面に崩れ落ちた。
もう1部隊も出て来ると、天狗様は木の上から飛び降り、連撃で斬り、刀をかがけ最後の鬼兵に突き刺した。
天狗様は法螺貝を吹いた。ブオーーーーー!
虎徹が小さく「終わった。」と言って、天狗様の元へ歩き出した。クラウン達もついていった。
天狗様が法螺貝を吹き終わると、馬に乗り甲冑を着た侍がぞろぞろと降りてきた。
クラウン達はびっくりした。虎徹に一騎、駆け寄ってきた。
「わはは!虎徹ー!生きてたか!」腰に鼓をつけた侍は大きな声で話しかけてきた。褐色の肌、グレーの髪、グリーンの目をした侍は馬から降りると虎徹の肩に腕を回した。
「まごろくも元気そうだな!」虎徹はまごろくの背中をポンポン!と叩いた。
「北で鬼兵船を燃やしてから来たから、これで一安心や。んん?」
まごろくはクラウン達の背後をみるや、くないを握ったが、斗鬼が慌てて胴当てを脱ぐと、大きな声で言った。
「斗鬼かー?」まごろくは鬼の名前を知っていた。
「へい。」斗鬼はお辞儀した。
「元気でやっとるな。くなーい飛ばすとこやった。わはは!」まごろくは陽気だ。
「知っていたのか?」虎徹は呆れた。
「まだ渡辺様に許可をもらっておらぬ。いい日和や。斗鬼、来い。渡辺様ー!」まごろくは大きな声で呼んだ。
天狗様は歩いてきた。
まごろくは天狗様の斜め前に立ち、その前に斗鬼を座らせた。
「こちらにおわすは、親日本侍連合『HOMARE』の長、渡辺トキオ様や。斗鬼は先月、わけもわからぬまま連れてこられ、仲間の残虐さに愛想をつかせ、村人をかくし守ったんや。全部の鬼が悪ではないと示した。」
「よー。」天狗様はいつもの相槌をした。
「里山計画で来とったギルドのハニ殿が、勇敢で広い心の持ち主やと、斗鬼と名付けた。嬉し泣きした斗鬼を見て、里山村の人びとは心を打たれた。里山計画のメンバーになって鎮守の森の番人になったんや。な?」
「へい。」斗鬼は静かに答えた。
「鬼兵隊を撃破したゆえ、ここを立つ。これからも里山に力を貸してくれな。家もいい空き家があるんや。」
「せっかくですが、今の木材小屋で満足しています。あまり人目に触れたくない。だれも怖がらせたくない。このまま美しい自然に囲まれて暮らしたいだけです。」斗鬼は切実に話した。
「よー。まじめにやっとったら誰もそんな目で見やせん。斗鬼、免罪符を渡す。家にちゃんと住みなさい。」天狗様は懐から木札を出した。
「一件落着!」まごろくの大きな声に生き延びた村の人たちも集まってきた。
「あの、すみません、ハニに頼まれて来たんですけど、会えなくて探しています。居場所をご存知ですか?」ブラストがまごろくに話しかけた。
「拙者、まごろくと申す。ハニ殿は今、海底寺にまだいるんとちがうか?内緒やで。わはは!」
「ありがとうございます。ブラストって言います。」お辞儀した。クラウン、スノーも同様に挨拶した。
まごろくはみなに挨拶して馬にまたがった。
出発間際、振り返って言った。
「おい!虎徹ー!秋の合戦まで死ぬなよ!海の中道でまた会おうや!」
「まごろく!秋まで達者でな。」虎徹は見送った。
⭐️
続く。
絵:クサビ