2巻 1章 2話
ハニからの返事はないまま、数日かけてチェリーブロッサム・アイランド・ステーションに到着した。ギルドの加盟国ではあるが、ここのステーションにギルドの施設はなかった。
「一応ハニに連絡したよ。」ブラストはディスプレイを閉じた。
ステーション周辺で3人と2匹は待ちぼうけをしていた。
「探しますかっ。」クラウンはフレイヤを呼び出せそうな神社の横の開けた所まで歩いた。ピンクの花を咲かせた木々が並んでいた。
「スゲー。」自然と声が上がる。
満開の桜を見上げ、胸が躍った。
スノーは神社の鳥居の前でディスプレイを読み上げた。「シシッ!探し物が見つかるお稲荷さんです。だって。作法も書いてある。やってみようぜ。」
「じゃ、お稲荷さんに祈ろうかな。」くるっとお稲荷さんの鳥居に向きを変えた。
3人は手を合わせた。
桜が満開で心地よい風に花びらが舞った。
「よし!」クラウンは神社の横の開けた所に走った。
「フレイヤ!ハニを探して。」
炎の女神ははるか高く飛び上がり、くるんと縦に回り、横に回り、斜めに回り、そのまま時間切れになり空中で消えた。
「あれ?お稲荷さんに祈ったのに。あー、もしかして水の中。」
「そうかもな!海洋国だしな。」スノーも納得した。
「チョコは?」ブラストが指差した。
みなでチョコをみると尻尾を高速で振っていた。
「チョコ、イカロスを使って。ハニどこー?」
クラウンの呼びかけにチョコは光らなかった。
しかし、違う何かを発見した。
クラウンはディスプレイを立ち上げた。
桜島火山にエレメントを発見した。
「あ!アビリティ強くできるエレメントストーンだ!やった。」
クラウンは目を輝かせた。
「それ探しに行こーぜ。」待つのに飽きたスノーも乗り気だった。
「スノーがいたら心強いよ。」クラウンは桜島火山にチェックを入れた。
2人は桜の花びら舞う中、ノリノリでステーションに戻った。
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「トレモロ 2」
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桜島火山を目指して3人と2匹は出発した。
客船乗り場に人だかりができていた。
アナウンスが流れた。
「今日の便は欠航です。ホテルのみ、ご利用の方は宿泊券をお求め下さい。」
スノーがキョロキョロ見回していると、人だかりを避けて黄色の肌、長い黒髪に琥珀色の目をした男が近づいてきて声をかけて来た。
「拙者、虎徹と申す。よそから来たならホテルをとった方が得策。では。」
それだけ言って虎徹は船に乗り込んで行った。
スノーは素直にディスプレイを出し、ホテルの部屋を取るために手続きを始めた。
「だれ?」クラウンは横から話しかけた。
「虎徹だって。歩き方からして何かやってるな。よし、ホテルとった。」スノーは顔を上げた。
「火山活動のせいで欠航だって。火山から煙出てる。」ブラストもディスプレイを閉じた。
3人と2匹は乗船した。
部屋は4人部屋で向かいあった2段ベッドにそれぞれカーテンが付いていた。
「オレ上ー。」
「僕もー。」
クラウンとブラストはそそくさとベッドに上がって行った。
スノーが犬たちに下のベッドのカーテンを開けてあげると、白髪の老人が寝転んでいて目があった。とっさにスノーはカーテンを勢いよく閉めた。シャッ!「ヤバ。」
「うわっ。」一瞬、老人が見えたクラウンは驚き声が出た。「何?何?」ブラストは小声で話したが、みなに聞こえている。
老人はカーテンを自分で開けて起き上がってきた。
「よー。こっち来なさい。」
犬達は黙って老人の両脇に座った。
ブラストは下を指差しながらスノーを見た。
「すみません。いると知らなくて。」スノーは申し訳なさそうに合掌した。
「観光かえ?」老人は気にした様子はなく話した。
「はい。明日、桜島火山に。」
「よー。それはいかんよ。まずは祈りに行かんと。」老人は指でなぞり四角を何度か作ってみせた。スノーは不思議そうな顔で老人を見た。
クラウンは、はっとして、下に降りてディスプレイでマップを出し、スノーの横に座った。
「わしも明日ここに行く。」老人はディスプレイの黒神神社をちょんとタッチした。
ブラストは上から顔を出して老人に挨拶して言った。
「あの、祈りにわざわざ反対側まで行くんですか?」
「よー。祈らんと、火山には上がれんよ。なんでか聞きたいか?」老人は言った。3人はお互いの顔を見ながらうなずいた。
「食堂が開いたから、そこで話そ。」老人はベッドから立ち上がり、白髪のロングヘアーをお団子結びにして部屋から出て行った。
みなもついて行った。
慣れた様子で食堂に着くと老人はお酒を注文した。
食べた事のないメニューに迷っていると、老人はみなの好みを聞いて唐揚げ、ごぼ天肉うどん、焼きサバを頼んだ。
不思議なテンポで落ち着いた会話が心地良く、老人もお酒がすすみ顔が赤くなった。食事も美味しく、みながばくばく食べる様子を嬉しそうに老人は見ていた。
「ここにいたんですか。」虎徹が現れた。
スノーと目が合うと虎徹はお辞儀した。
「師匠、探しましたよ。ずっと食堂に?」
「よー。この子らと同部屋じゃ。」
「師匠、部屋が違います。お酒もほどほどにせねば、また皆に天狗が出たと笑われますぞ。」
「よー。わしの部屋はどこじゃ?」老人はゆっくり立ち上がり、虎徹に手を添えられて自分の部屋に帰って行った。
「オレ、ベッド4つ予約したのあってたんだな。シシッ!」スノーが笑うとつられて、クラウンとブラストも笑った。
「結局、なんで祈るか聞けなかったけど、蛇の話とか面白かったね。」クラウンは老人の話を気に入った。
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日の出と共に汽笛がなり、客船は桜島に向けて出港した。
みな目を覚まし甲板に見に行った。
甲板に出ると犬達が老人を見つけ駆け寄った。
「よー。」嬉しそうに老人は犬達をなでた。
その隣で虎徹は長い黒髪をお団子に結び、マットの上で胡座になり目を閉じている。
「何してるんですか?」クラウンが小声で老人に聞くと「ヨガと瞑想じゃ。お前らもせい。朝日を浴びて大きく10回深呼吸してみい。」
すー。はー。すーはー。10回くらい深呼吸した。なんとも清々しい気持ちになった。老人は静かにうなずくと自身も目を閉じた。
クラウン達は邪魔しちゃいけない気がして、食堂に下りて行った。
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到着したクラウン達は、精算をして船着場を降りた。
他の乗船客もぞろぞろと黒神神社の方へと向かって行く。
スノーはマップを見た。
「みんな同じルートで登って行くんだな。気持ちいいし神社の下の宿場町まで歩くか。」
遠くまで田畑、桜が見える。
1時間ほど歩くと赤い傘の茶屋があり、3人は吸い込まれた。
赤い布がかけられたベンチに座り、クラウンは置いてあったメニューを取った。
「草もち?みたらし団子?きな粉もち?いきなり団子?うわー全部食いたい。」
「全部セットになさいますか?お得ですよ。」女性店員は注文を聞いた。
「じゃ5セットお願いします。」
「はあい。」気さくな女性店員は笑顔で注文をとった。
葉の皿の上に並んだ4種の団子をペロリと平らげた。
「よー。もう休憩かえ?」
「あ、天狗師匠!」ブラストが席をつめてベンチを開けた。
「よー。わしにも芋もちくれ。」老人は静かに座った。
「はあい。店長、天狗様いらっしゃいました。」
奥から店主が芋もちと急須を持って来て、クラウン達にもお茶を継ぎ足した。
「天狗様、上は通行禁止になってますよ。」
「よー。宿場町におるかの。酒も宿に頼めるか?」
「へえ。ぜひオカモチバイクご利用ください。」
店主は頭を下げて店に戻り、酒の手配にはりきった様子だ。
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宿に向かう道すがら、老人は何かを発見する度に「よー。」と言いながら草むらに消え、何か採取しては戻ってきた。
草むらから白い髪を揺らして出てくる姿が、犬に似てるとクラウン達はクスクスした。
「さっきから草を集めてるんですか?」クラウンが老人にたずねた。
「よー。フキにタラの芽、桜の葉っぱ。くわんか?」
「食べれるんですか?」
「よー。天ぷら、フキは炊いて食うと美味いよ。タラは棘があるから気いつけよ。」
船で老人のオススメを食べた時、美味しかったので、美味いに違いないと確信したクラウン達はついていった。東側の土手の日当たりの良い所で探すように言われ、食べれる野草を夢中になってとった。
「よー。空気が湿ってきた。行くよ。」老人が呼んだ。
食べれる野草を採取しながら、あっというまに宿場町の宿につくと、雨が本当に降ってきて、クラウン達は感心した。
「天狗師匠スゲー。」ブラストはすっかり呼び名が気に入っていた。
「最初なに拾ってんだって思ったけど、案外面白かったな!シシッ!」スノーは採った野草を見て満足気だ。
老人は宿の人にみなで採った野草を渡し、クラウン達の世話をする様に話をつけてくれた。まだ酒が届いておらず、老人は「よー。よー。」と残念そうに言いながら、2階に上がって行った。
クラウン達は2階の部屋に案内され、開いた障子から火山を見ると霧が立ち込めていた。
雨の音、下から三味線のゆったりした音色。
クラウンとスノーはうとうと。昼寝が心地良さそうだ。ブラストは時々、ハニからの連絡がないかチェックしたり、火山への道中が長引いてもいい様に、ブラストの宇宙船に回収品を置ける様に設定していた。
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まだ日は高いが早めの夕飯にすると宿の人が呼びに来た。
「天狗様の隣にお席つくりました。若い人のお口に合うと良いのですが。」
木の床に座布団、囲炉裏、足のついた赤い盆の上には、フキに味噌が乗っていた。
デニムの作務衣に着替えた老人は、ヤマメに串をさし囲炉裏の前に座っていた。クラウン達を手招きした。
老人はお酒を飲みながら、ヤマメの向きを変えたり、炭の世話をした。
「これは何の魚ですか?」クラウンは囲炉裏をのぞいた。
「よー。川魚のヤマメじゃ。ほれ座れ。」
囲炉裏を囲むと揚げたての天ぷらが運ばれ、想像以上に美味しく、桜の葉は甘くさえ感じた。
「うまいか?」老人がヤマメをクラウン達に配った。
「天狗師匠、美味いっす。」天ぷらを頬張ったブラストが答えた。
「よー。」酒で顔が赤くなってきた老人は満足そうだ。
「ヤマメもふっくら柔らかくて美味しいです。」スノーはヤマメにかぶりついた。
「さっきとって来た。もちっと食うか?」酒を美味そうに飲み干し、ヤマメを桶からとって器用に処理して、串にさし、炭の近くに立てた。塩が白く焼けていく。炭火がパチ、パチ、ヤマメが焼けるまでの待ち時間も心地良かった。
食事もゆったりできた。
顔がすっかり赤くなった老人が教えてくれた。
「露天風呂が近くにあっての。日が落ちてから提灯かりて、行ってみい。」
日が落ちると雨は止み、3人と2匹は提灯と浴衣を借りて露天風呂に向かった。
看板に沿ってスロープを上がり、竹キャンドルが岩場に並んで幻想的だ。
温泉の作法をクラウンが読み上げ、流し場で3人は身を清めてから温泉に浸かった。体がじわーっと緩み、雲の切間から星空も見え、開放的な気持ちになった。温泉で体も心も癒された。
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浴衣の着方は誰も知らず、ギルドスーツの上から浴衣を羽織って降りようとした時、暗闇から提灯が揺れながら近づいてきた。
宿の主人だった。必死な形相だ。
「天狗様ー!天狗様は?」
「い、いません。」クラウンが返事をした。
「どうしましょう?蛇が出たんです。あ、ああ、妻が見当たらないんです。あ、ああ、拐われでもしたら、、ああ。」
「落ち着いて下さい。蛇はどこに出たんですか?」スノーが声をかけた。
「宿の裏の蔵です。」
「行こう!」
提灯を持って蔵に行くと、あたりは酒くさく、蔵の中の酒樽が壊され、ライトで照らすと女性物の雪駄が片方落ちてあった。
「ああ、妻の物です。うう。」宿の主人は泣き崩れた。
「奥さんの写真ないですか?すぐ探します。」ブラストが主人の肩を優しくさすった。
「うう。写真?へい。」顔を下にしたまま主人は宿に写真を探しに行った。
「クラウン、見てみろ。地面にでかい何かを引きずった跡が藪に続いてるぞ。」スノーは地面を照らすと、ぬかるみに70cm幅くらいのうねった跡が残っていた。
「お酒の匂いしない?すんすん、風上から?」クラウンは酒の匂いを感じた。
「写真ありました。」慌てて宿の主人は戻ってきた。
クラウンとチョコは宿の奥さんの写真を見て、イカロスを使った。
チョコからプリズムが出た。
「やった!奥さん探せるぞ!」クラウン達は慌てて浴衣を脱ぎ「探してきます。」と告げ、ワッペンをぶつけ合い、藪に中に消えていった。
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続く。
絵:クサビ