2巻 3章 9話
朝日が登り、ジャングルのあちこちで煙が上がっている。
ヴァルはヘリで偵察に向かうと、報告通り、川の南側の数カ所の違法業者達は逃げ出していた。ログに残し、自警団本部の運動場にヘリを着陸させ、みなの帰還を待った。
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クラウン達も無事に自警団本部に帰還した。改めてヴァルとの再会を喜び、新たな仲間達にも紹介した。
ヴァルはレイブン・ステーションで稚魚を世話している仲間達と、明日から作業に入る。クラウン達も手伝う事にした。
ミゲルの連絡を受けて、警察ロボや輸送車、行政の役人達も現場に入って行く。これから、しばらくは規制線が張られる。自警団本部にはマスコミも多数押しかけた。
ミゲルから知らせを聞いたラファエルもカメラを持って自警団本部にやって来た。ラファエルは各チームに取材しながら、キングの村が無くなった経緯を聞いた時は涙を流した。
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自警団本部で解散となり、ミゲルはすべてのチームにもう一度感謝を述べて、讃え合い、クエストにサインした。
武将と忍チーム、mscチームは報酬を受け取り、レイブン・ステーションへ向かった。クエストの報酬とは別に、国から特別謝礼金とカカオの実も全てのチームに贈られた。見送りに、虎徹とスノーもそれぞれ応援に来てくれた仲間に感謝した。武将もジュニアも「困った時はお互い様。」と言ってくれ硬い絆を結んだ。
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「みんな、まだ興奮してて寝れないでしょ?僕が今ドッキングしてる宇宙船に遊びに来ない?」ヴァルの誘いにのって、レイブン・ステーション内を6人と2匹は歩いた。
「あれだよ。」ヴァルは自分達の宇宙船を指差した。たくさんの宇宙船とドッキングしてできたテディベアの形をしていた。
クラウン達は度肝を抜かれた。「これが宇宙を飛んでるなんて、なんかカワイイ。」クラウンは少し笑った。
「クマのしっぽが僕らの活動エリアね。明日から手伝ってくれるんでしょ?魚や植物を一回見といた方が作業が早い。行こう。」ヴァルはしっぽの入り口を開けて、みなにどうぞのジェスチャーをした。
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クラウン達は思わず声を上げた。
「すごーい!」「キレー!」「木もいっぱいある!」
いけすがたくさん並び、水の音が心地いい。
ヴァルはいけすの縁に立って歩きながら説明してくれた。
外来種に駆逐されつつある在来種も、多種多数泳いでいる。魚だけじゃなく、餌となる植物、水を綺麗にする植物、魚を病気から守る植物、まるで熱帯の植物園の様だ。
2階の回廊からエプロン姿の女の子達が手を振ってくれた。「明日、また紹介するからね〜。」ヴァルはウィンクした。クラウンとブラストは手を振り返し、わくわくした。
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明日の段取りを簡単に聞き、心地良い空間がリラックスさせ、クラウン達は徐々に眠気がして来た。ヴァルがクラウンの眠たそうな顔を見て、ヘリで自警団本部まで送った。「明日の朝、またここで。お疲れっ、ゆっくりおやすみ〜。」
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国からお礼にもらったカカオの実を少し食べて、クラウン達はログハウスで爆睡した。
クラウンは夜に目を覚ました。
外はまだ慌ただしく作業に追われている。
クラウンはお腹が空いて、外の炊事場に食べ物がないか見に行った。チョコも物音に気づいて、起きてついて来た。
ミゲルやキング、キャメロン、カルバン、自警団員や地元の戦士達は酒盛りしていた。肉の塊が美味しそうに焼かれている。
クラウンがふらふらと匂いに誘われ近づくと、キングが声をかけた。「ブラザー!さっきノックしたけど、爆睡かましてたな。腹減ったなら一緒に食うか?ロングハウスの族長からの差し入れだ。」クラウンとチョコは焼けた肉に、茹でたポテトをガツガツ食べた。
「まだ残って、稚魚の作業まで手伝ってくれんだって?若いのに感心するよ。」ミゲルはクラウンにおかわりの肉をよそった。
「すぐサヨナラなんて寂しいじゃねーかー。」キャメロンは気持ち良く酔っている。
「ギルド!ギルド!」カルバンが酔って酒を片手にみなをあおった。戦士達は大合唱で乾杯した。
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翌朝、みなも腹ペコで起きた。ミゲルやキング達は朝から自警団の任務に出ていて、外の炊事場にはキャメロンお気に入りのカフェの具沢山なサンドウィッチがたくさん用意されていた。
クラウン達は感謝して食べた。ブラストが昨日、シャトルから着替えをいくつか持って来ていて、クラウンとブラストはオシャレ服に着替えてヴァル達が来るのを待った。
いけすや植物を積んだトラックが何台も自警団本部にやってきた。ヴァル以外は魚、動物、植物の専門の学者達でエプロンをつけた研究員達を紹介してくれた。
クラウンとブラストはエプロンを渡され川辺の植物の苗植え、スノーと虎徹は違法伐採されたエリアの植樹と動物の為のフルーツの苗木植え、ハニはギルドスーツ着用でいけすを運び稚魚の放流、3チームにヴァルは分けた。
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クラウンとチョコ、ブラストは研究員達と車に乗って、最初にクラウン達が解放した川の上流を目指した。浄化装置がついた川は透明度も上がり少しずつ綺麗になっていた。
専門家の指示のもと、クラウン達は魚と川の為の苗を植えた。チョコも穴掘りしては、女の子達になでられて嬉しそうだ。クラウンとブラストは張り切って楽しくクエストをこなした。
ヴァルは稚魚だけでなく、植物の提案も国にして、新たなクエストを正当な値段で交渉していた。
それから数日間、みな良く働いた。明日ついにクエストが終わる。
北エリアのジャングル復活祭として、お祝いをする事になった。ミゲルが代表で感謝を述べ、キング達も南側の警備の任務から戻り、最後の夜を存分に楽しんだ。
陽気な音楽、ダンス、甘いフルーツ、この国の豊かさを見た。
ヴァルはご馳走をお皿に山盛り持ってクラウンの隣に座った。クラウンのパワーアップも見込んで、再びクエストに誘った。今度はクラウンも断る事はせずに、みなも一緒に行くと返事をした。
学者や研究員の数名は定期的に稚魚や植物の経過観察と、新たに水質が安全になったエリアの復興クエストをする事になった。
「えっ、ここに残るの?」ブラストが研究員の女の子達に聞いた。
「そうよ。ヴァルの交渉が上手くいったから、ケンタウリcとdを行ったり来たりって感じ?」
「僕達これからdに行くから、じゃー、すれ違いか。」クラウンは残念そうだ。
「dでもがんばってね。またdに戻った時に会えるかもしれないし。ね。」研究員の女の子同士は手を握り合っていつも仲良しだ。
「また一緒に働けたらいいな。2人は本当、仲いいね。」クラウンは仲睦まじい2人に微笑んだ。
「私達パートナーだから、ずっと一緒に働けたらどこでも幸せなの。」研究員の女の子達は見つめ合って幸せそうな笑顔だ。
クラウンがあわわわ。
「クラウン、トイレ行こう。」ブラストがクラウンの肩に手を回した。お互いまっすぐ前を向いて歩いた。
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翌朝、クラウン達はログハウスの部屋を綺麗に片付けた。ハニの車に荷物を積み込み、ミゲル、キング、キャメロン、カルバンに見送られた。
ヴァルはヘリでレイブン・ステーションに戻りアンドッキングし、スノーのシャトルにドッキングして待った。
レイブン・ステーションのギルドに向かって、報酬を全て受け取った。みなポッドで全身が金色に3連続光った。
クラウンはレベル29
ブラストはレベル34
スノーはレベル23
ハニはレベル41
虎徹はレベル11
になった。
ギルドを出た後、ラファエルが迎えに来た。
ヴァルの出身である隣の惑星、プロキシマケンタウリdへ行く前に美容室に行く様に勧められ、ラファエルが見送りがてら、行きつけの美容室について来てくれた。
ラファエルの母親も途中、美容室に訪れ、クラウン達にポンデケージョをたくさん持って来てくれた。クラウンはケープをつけたまま、ラファエルの母親とハグした。
みな髪を整えて、さっぱりした。
ラファエルともお別れのハグをした。
「君達ギルドの役に立つ情報が入ったら、知らせるよ。」
みな元気に手を振った。
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スノーのシャトルにヴァルが自身の宇宙船をドッキングしていた。外で操作していたヴァルが声をかけた。
「おかえり〜!グリーンプラネット・ステーションに行くよ。僕の本体がそこで待ってる。」ヴァルは振り返って言った。
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みな驚いた。ハニは知っていたのか、小さくうなずいていた。
「へ?ハニは知ってたの?」クラウンはハニを見た。
「前に生え際にうっすらラインが入ってるのを見て、聞いたら、ヒューマノイドだって言うから。パーソナルな話だから、自分から言ってくれて良かった。」ハニはほっとした。
ードッキング完了ー
ブザーが鳴り、ヴァルは一番乗りでサイプレス号に乗り込んだ。
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完。
⭐️⭐️
ジョーです。
トレモロ2を読んで下さり、ありがとうございます。心から厚く御礼申し上げます。すでにヴァルは登場しましたが、3巻はヴァル編です。楽しんで読んで頂けたら幸いです。
安之丞
絵:クサビ
あとがき
ゲームの中でも現実でも、新しい仲間ができる経験は、わくわくして楽しいので物語でも描きました。2巻でクラウンは14歳になりました。現実では16歳になるとバイクの免許が取れるようになり、世界が広がります。私が16歳になり、すぐバイクを手に入れた頃、嬉しくて無茶をして家族に呆れられたり、出先で新たな発見があったり、友人とツーリングしたり。
地図の外側にあった場所が、手の届くところに変わっていきます。自由って、ちょっと怖いけど、すごく楽しい。今回は自由をテーマに新たな仲間と共に世界も広がりました。シリーズを通して、自由を履き違えた犯罪についてもクラウンは仲間達と一緒に対峙していきました。
そして毎話、クサビ先生の挿絵作品が物語を盛り上げてくださり大変感謝しています。言葉で書くのは簡単ですが、挿絵の表現力、世界観やアングルまでオシャレで美しい。
文と絵をぶつけ合ってトレモロ2巻が完成しました。この様な場所があり、読んで下さった方、絵をみて下さった方、改めて感謝。
安之丞