2巻 3章 5話
クラウンはゴールデンベビーの送り先を決めた。
ひと呼吸し、スターベビー社、宇宙ステーションをタップした。そのまま入力操作を行った。みなクラウンの決断を見守った。
褐色の美女はギルドスーツのお直しの予定時刻を入力した。「送り先、承りました。スーツすぐ直しますね。スノー様のスーツのカスタマイズとワックスも一緒にレイブン・ステーションのシップにお送りします。」「はい。お願いします。」クラウンは返事をすると褐色の美女は微笑みカウンターの奥に入って行った。
「スーツできるまで時間あるし、ママさんのポンデケージョ買いに行っていい?」クラウンは無性に食べたくなった。
「いいね!ログハウスに持って行く物を買い物に行こう!」ブラストはクラウンと肩を組んだ。
「じゃっ私の車で行こう!」ハニも買い物と聞いて乗り気になった。
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ショッピングを楽しんだ。
ゴールデンベビーの卵くらいのカカオ、晩白柚、パラミツ、大きな果実を面白がって買い込んだ。
クラウンはお待ちかねのポンデケージョを買いに行った。
「あらー!会いたかったわー!」
ラファエルの母親とみなハグをした。
自警団のログハウスに行く事や運河の安全対策をやる話をした。
「貴方達が魚を食べれる様にしてくれるのね。嬉しいわ〜。がんばってね!応援してる。」
話してる内にお客が増え始めたので、クラウンはポンデケージョをたくさん買い込んだ。おまけもたくさんもらった。
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シャトルに戻るとスーツやワックスが予定通り届いていた。
ギルドスーツに着替え、車に乗り込んだ。船着場で車を運べる船に乗せ、
自警団のログハウスに出発した。
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ログハウスに到着し、荷物を運び入れた。
自警団本部に釣り禁止の看板など備品が届いていたので、再びハニの運転で設置に出かけた。
マップを見ながら最初の釣りスポットに着いた。白髪の老人が1人釣りをしていた。
誰が話しかけるか、もたつき、ハニと虎徹で説得に行くことになった。残った3人はその辺りに釣り禁止の看板を立て始めた。
スノーのハンマーはパワフルで、あっという間に看板の設置が終わった。しかし、釣り人は去って行く様子がなく、クラウン達は近づいた。
「そんな事を言われても、今日は魚を食べて生きるしかねーのよ。」老人の話が聞こえた。
「じゃあ、今日はこれ食べたら?」クラウンはポンデケージョを1袋差し出した。
「おお!ありがとう。」老人は素早く受け取り、そそくさと帰って行った。
ハニは心配そうな顔で老人を見送った。
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次の釣りスポットに着いた。
若者が3人、すでにたくさん釣り上げていた。ハニが丁寧に事情を説明すると、3人は快く理解してくれて立ち去った。「周りにもこの話を広めとくよ。」頼もしい言葉にハニの心は救われた。
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次の釣りスポットには、ボートの側で網をかけて中年カップルが昼寝をしていた。ハニの説明を聞いても「証拠は?」と、女性は信用してくれない様子だ。虎徹が「汚染された魚を食べ続けると体に異変が起こる。」と、話すと「脅すのか?」と、男は言い寄ってきた。
気づいたスノーはハンマーを担いだまま走り寄ると、男は慌てて「ボートに乗るのは自由だろ?!」と、言い分を変えた。スノーが「すみませんね。魚食べたいだろーけど、食べると危ないから頼みますね。シシッ!」ハンマーを地面に下ろして、軽く会釈した。中年カップルは渋々帰り支度を始め、ボートで川を下って行った。
ハニは去って行くボートをみてぼやいた。「このクエスト地味に大変ね。」
「じゃ次は、僕が説得するよ。」クラウンとスノーが説得役に交代した。
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中年男性2人が並んで釣りを楽しんでいた。
クラウンは看板を釣り人に見せて話かけた。「すみません。ここの魚から病気がみつかったので回収させて下さい。あ!これ病気のやつだ。食べる前で良かったー。」
スノーも調子を合わせて「シシッ!これも病気のやつだ。」桶の魚を指差した。
その後も、どうやって食べるのか?どれが美味しい魚か?などポンデケージョを釣り人にも差し出し、食べながら世間話をした。
「じゃあ、兄ちゃん達がんばれよー。」釣り人達は魚を置いて帰って行った。
「上手く行ったね!」クラウンはスノーと笑った。
釣りスポットの残りの2ヶ所も釣り人と世間話をして、ポンデケージョを配り、病気の魚を回収と言って説得を続け、看板も全て設置した。
夕暮れの運河に沿ってドライブし、昨日の採掘場を見に行った。
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夕日で運河はピンクに染まっている。大きな網を何隻もの船で引いている。運河に合流する川は小舟で網を引いている。
車の側で、みなでポンデケージョをつまみながら運河をぼーっと眺めた。
まったり過ごしていると、しばらくしてミゲルから連絡が来た。
スノーがディスプレイを出した。
「クエスト報告、了解。今、サインした。次のクエストは、うちのチームと本部で合流し、先住民のロングハウスに向かってくれ。ロングハウス周辺の違法業者から嫌がらせを受けている。頼んだぞ。」
「任せてくれ!シシッ。」スノーは嬉しそうだ。
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自警団本部に戻った。
まだ自警団のチームは来ていない様だ。
しばらく犬達とくつろいでいると、ヒップホップがどこからか聞こえて来た。
「来たか?シシッ。」スノーが起き上がった。
ジープが一台こちらに向かってくる。
「あ、グラディエーターだ!」ハニ好みの車が来た様だ。
夕暮れにシルエットが浮かぶ。
車の荷台に1人立ち、もう1人は車の横に乗り出して、こちらを見ている。
「カッケー!」ブラストは立ち上がった。
車が駐車スペースに停まった。
運転席から降りて来た男は手をあげた。
みなも挨拶した。
運転していた小さめアフロに整えた口髭のキャメロン。
横に乗り出していたのは、三つ編みおさげにバンダナを巻いたカルバン。
荷台に立っていた、生え際きっちり坊主に細い金の王冠を被った元先住民の長、通称キング。
キングはクラウンと挨拶し、名前を知ると「ブラザー。」と言っていた。クラウンはポンデケージョを勧めると3人ともこぞって食べた。
ハニのカエサルを見てキャメロンは「いいね!」とお互いの車を褒め合った。車の趣味が合うようだ。
打ち解けた所でカルバンが「ロングハウスに行って飯を食おう!」と誘い、2台で夜のジャングルに出発した。
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ジャングルの中でも開けた道が続き、小さな村に着いた。
小さな電飾で飾られたスタンドショップ。
松明の着いた、ロングハウス。
先住民達は楽器を持って酒盛りしていた。
自警団員達は挨拶をし、ギルドのみなを紹介してくれた。ロングハウスに入ると、大鍋に長机、ジョッキが転がったテーブル、奥に族長の椅子が見えた。
長机で待つように言われ、大鍋から豆のスープが振る舞われ、バナナや茹でたイモなど振る舞ってくれた。
食べ終わると族長が椅子に座り、みなで椅子の前に座る様に言われた。
「キング、お前の村はまだ取り戻せないのか?」族長はキングを見た。
「木が夜中に盗まれたあげく、そのせいか去年、土砂崩れも起きて、村は潰れたまんまだ。もう村は戻らねー。今日はその話じゃねー。どこやられたんだ?」
「本当に残念だ。この村も危ない。南の川が血に染まっている。狩りに出た者が殺された。死体を返して欲しければ南の川のエリアをよこせと伝えて来た。畑も川も近くなもんで、重機が来て一気に荒らされてしもうた。そんな所だ。」
「南だな。畑見に行ってくる。行くぞ。」キングが立ち上がった。
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「ここからは徒歩だ。」キング達を先頭に南に向かってジャングルに入った。
後ろを歩いていたクラウンは、歩いて数分で村の小さな灯りが見えなくなって、全身ぞわぞわした。
キョン、キョン、キョン、キョン。
ガサガサ。
パキパキ。
ブォーン、ブォーン、ブォーン。
ヒャッハ!クワーッ!
ホウホウホウホウ。
グルルルル。
夜のジャングルの賑やかさにクラウンはキョロキョロしたが、肉眼では何も見えなかった。ギルドスーツ内蔵のヘルメットを装着し、ナイトモードを使って、ようやく気持ちが落ち着いた。
「もうすぐ畑に着く。明かりを消せ。」キングが振り返った。
「静かに着いて来い。」キャメロンが木に登り、蔦をぶるぶるっと揺らして、ぐっと引き寄せ、そのまま蔦に捕まり次の木に飛び移って行った。
みな真似をして進み、キングがクラウンに蔦を渡した。「結構、距離あるからな。思い切って行けよ。あっちでカルバンが掴まえてくれる。行け。」
「え、えっ。でも切れたらどーしよー。ここ崖?」クラウンは下を覗き込んだ。
「ブラザーよりデカい奴も行ってんだ。下見るなー。待ってるみんなを見て行けっ。」
「う、うわーーー。」クラウンは叫びながら崖から飛び出した。
8m程先で「オラッ!」カルバンが掴まえてくれた。
虎徹は犬達を抱え、飛翔を使って飛び越えた。「イエー。サムライ!」キングも飛び移って来て、虎徹のジャンプに手を叩いた。
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開けた場所に出た。
畑があった場所の様だが、何も無い。畑は荒らされて無くなっていた。
クラウンはチョコのイカロスを使った。
マップのさらに南にマーキングポイントがいくつか付いた。
キャメロンがチョコをなでてマップを良く見た。「グッドボーイ。いいね。ここかー。こっちから行こう。」
2〜3mはある、大きな葉がたっぷり繁った場所に着いた。
自警団の3人は急にリズムを取り始めた。
「これが4ビートだ。」キングは頭を縦に小さく振り、カルバンは太ももを叩いた。キャメロンもだらんと体を揺らしている。
「このリズムで葉っぱの上を走れる。沼に足を取られるなよ。長く足をつくと滑り落ちるからな。練習しよう。」
キャメロンが口でリズムを取り、ハニとブラストは上手くリズムに乗った。だんだん盛り上がり、みな笑顔になった。犬達もテンションがあがり、チョコはくるんとクラウンの前で回って見せた。
「そのままレッツゴー。」カルバンが先行した。
クラウンはリズムに合わせてチョコと飛び跳ねながら進み、やがて楽しくなって、渡りきると、もう一回やりたい!と思った。
みなテンションが上がり声をあげた。「フォー!」ブラストはカルバンとハイタッチし、ハニはトランポリンの様にしなやかに飛んだ。ゴーストもハニを追いかけ、ジャンプしながら交差したり、みな泥沼を渡りきった。
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草をかき分け薮の中を進む。
キング達は急に立ち止まった。「不吉だな。」落胆のため息をついた。
クラウンはぶつかり「あ、ごめん。」と、顔をあげると、うっそうとした木々の間に人らしき影が無数にぶら下がっていた。
クラウンは人影にぶつかると、クラゲが泳ぐ様に上昇して行った。
「うわっ。」「キャッ。」「おわっ!」クラウン達はおののいた。
「落ち着け、ペッパークラゲだ。ジャングルが破壊や汚染されると生えてくるんだ。」カルバンが教えた。
スノーが近づいて見ると、木の枝から糸を垂らして人型の植物がぶら下がっている。
「ビビったー。シシッ!」スノーがつつくとペッパークラゲはスイーっと上がっていき、細い手足に見えた実ははじけて種を飛ばした。
パチパチパチ。
「あいつら、この辺の木を勝手に持っていってるな。ペッパークラゲがこんなに生えるなんて。」キングは自身の村も違法業者に伐採され悔しさが募る。
キャメロンがはじけ飛んだ種を踏み潰した。「ペッパークラゲは見つけたら燃やさないと。あー、あいつらに全部ぶつけてやりてー。」
「ん?!それ、やろーよ。できるよね?クラウン!ハニ!」ブラストは振り返った。
「だね!僕もハニと一緒ならできると思う。」クラウンはハニを見た。
ハニもうなずいた。
キングは「斥候に来たのにいいのか?ま、追い払えればいっか。」と、カルバンに指示を出した。
カルバンは木に登り、ペッパークラゲの糸を切り落とした。
「こんな数いけるのか?」
「まだいけると思う。」ハニは返事をしながら実を運んだ。
「拙者も切り落とそう。」虎徹は素早く刀を振り、スノーがキャッチして運んだ。
時々、弾ける実もあったが、30個ほど刈り取れた。集めた実はとても不気味だ。
キングは作戦を伝えた。
「陽動作戦を開始する。全部で14人いるな。あいつらを脅かしてやろう。キャメロン、カルバン、逃げる奴を数人捕まえてくれ。ロングハウスに連れて行く。」
みな気合いを入れた。
クラウンは構えた。「ロージー!ロージー!ロージー!」3発撃って、山積みのペッパークラゲに引火した。
ぼうぼうと燃え始めると、ハニは構えた。
「タクシス!」燃える人影が浮かび上がり、違法業者の小屋に向かって一斉に飛び出した。
ハニは魔法をかけるような手つきで操り、数秒で小屋から悲鳴が聞こえた。
「ぶわー!なんだ!」
「助けてー!来るなー!」
「ギャー!熱い!熱い!」
違法業者が大騒ぎして次々に外に飛び出して来た。逃がさないように、追いかけ回し、ペッパークラゲが弾け、種が火の雨となって降りかかった。
恐ろしい光景に、違法業者の数人は身をかがめ、燃え落ちたペッパークラゲの下敷きになり、小屋の周りで転げ回った。
燃え盛るペッパークラゲが襲いかかり、弾け飛ぶ種に当たり気絶する者、叫びながら逃げる者。キング達は見た事のない光景に見惚れていた。
時間切れになり、ぼたぼた、ドタン。ドタン。ペッパークラゲが一斉に地面に落ちた。
キングは、はっとして「捕まえるぞ。」と声をあげ、背負っていたバズーカを構えて撃った。ドン!ネットがパッと開き、倒れた違法業者3人を捕らえた。
カルバンが地面に寝転び、両足を上げると、その上にキャメロンが飛び乗り、飛び上がったキャメロンは回転した。回転しながら腰ベルトの手榴弾を投げつけた。ゴムの様な粘着成分が広がり、走って逃げる違法業者達の足にベッタリと当たり、転び、やがて両足は速乾し固まり、身動きが取れなくなった。さらに5人捕らえた。
武器を振り上げ向かって来た3人は、ブラストのショックウェーブをくらい吹き飛び、気絶。
虎徹とスノーは、遠く逃げていく違法業者を追いかけた。ゴーストが追いつき、フリーズで動きを止め、スノーはスリープスタンプで1人捕まえ、虎徹は瞬足で横に追いつくと、刀を抜き、鞘で顎を下から叩き上げ、気絶させた。スノーと虎徹は違法業者を引きずりながら、小屋に戻って行く。
チョコが吠えながら、小屋の方に駆けて行くと、裏からエンジン音が響き、木を積んだ長いトラックが走り出した。
ネットに捕らえられた違法業者3人を踏みつけて逃げ出した。
「チョコ下がれ!フレイヤー!止めろ!」クラウンは叫んだ。
フレイヤは浮かび上がり向かってくるトラックにドロップキックでフロントガラスを突き破り、そのまま運転手の顔面を蹴った。トラックは激突して止まった。
トラックを運転していた男と車にひかれた3人は死んでしまったが、10人は生きたまま捕まえた。トラックに乗せ、スノーはスリープスタンプを押した。キングはミゲルに連絡し、トラックを走らせ、ロングハウスに向かった。
⭐️
続く。
絵:クサビ