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トレモロ 2  作者: 安之丞
21/27

2巻 3章 3話

昼下がり、乾いた風がパーゴラの白い布をゆらゆら。その下のベッドで元首長はオイルマッサージを受けている。


「虎徹さん、準備いい?」


「ブラスト殿、ワッペンオフでも思いっきりやってくれ。よいな?」


高台の上でブラストと虎徹は互いに肘を曲げ、がっちり握手した。

「虎徹さん、エステティシャンが足元に行ったよ。」ブラストが合図した。


虎徹は刀を抜き、助走をつけて飛び出した。

ブラストは虎徹めがけて放った。

「ショックウェーブ!」


虎徹は回転しながらパーゴラ目がけて飛んでいき、そのまま回転斬りで元首長の首を斬った。


ザンッ!!


「キャーッ!」エステティシャンは座り込み悲鳴をあげて怯えた。

「お静かに。」虎徹は兎の兜の緒を締め、兎の目から赤い光線を出し、刀を血振りをした。

「飛翔。」と呟き、塀から塀を飛び跳ね反る様にパーゴラのあるテラスから姿を消した。



⭐️


クラウンとスノー、ハニ、犬達は小舟を1隻レンタルしてエステ店手前の橋元で合図を待っていた。


「ラファエルさんも準備できてるって。うわー、めっちゃ長文のお小言メールだ。」けれどクラウンは置き手紙が伝わって嬉しそうだ。


「ラファエルに子供扱いすんなって言っとけ。シシッ。」スノーは小舟のパドルを掴んで川底に立てた。


「虎徹さんから合図が来た!」ハニは小舟の前方に犬達と座った。


スノーが小舟のロープを解き、パドルで川底を押しながら、小舟を出した。

橋のアーチをくぐり、エステ店が見えると速度を落とした。クラウンはマップを確認して、エステ店2階の無人のテラスの部屋に向かって構えた。


「ロージー!」バリーン!ボウッ!

エステ店2階の窓ガラスを吹き飛ばし、カーテンが燃え始めた。


「ロージー!」バン!ジリリリー!

もう一発放つと、火災報知器が鳴り響いた。


「よし!次だ。gogo!」クラウンは小舟の真ん中に座ってパドルを漕いだ。


⭐️


ラファエルは小型のカメラを持ち、エステ店の入り口が見える所で張り込んでいる。

ジリリリー!!火災報知器の音がマーケットに鳴り響いた。ラファエルは置き手紙の通り、消防に連絡した。エステ店から、ごろつき達とエステティシャン達が一斉に出てきた。そのまま逃げ出して行く様子を、ラファエルはシャッターを何枚もきった。


5分後、消防士達が到着し、消火活動が始まった。黒煙をあげて2階は丸焦げになり、1階は煙が充満している。


ブラストと虎徹がエステ店に到着し、消防士に話しかけ救助活動の参加を申し出た。

ブラストがラファエルを呼び込んだ。


「え?!君達と一緒に行くの?」ラファエルが駆け寄った。


「ラファエル殿、これ。」虎徹は使っていないギルドのヘルメットをラファエルに渡した。


「行くよ!」ブラストを先頭にエステ店の地下に降りて行った。虎徹、ラファエル、消防士2人と続いて降りた。


地下の部屋はマッサージオイルや香料の瓶、タオルが大量に棚に並んでいる。電気は点滅し、奥の棚が扉の様に開いていた。


棚の奥に入っていくと、古めかしいレンガの通路が狭く続いている。アーチ状に柱で区切られた地下倉庫を進むと、倉庫の扉の先は運河になっている。


ブラストはマップを見ながら倉庫の壁に沿って歩いた。


虎徹は倉庫の扉をあけて外を見渡し戻ると、ブラストは「虎徹さん、もう一回扉開けてから閉めてみて。みなさん静かに。」と言った。


虎徹はブラストの言った通りにやってみせた。


ラファエルのシャッターの音が止まると、ビョーー、隙間風の音がした。ブラストが脆くなった壁を撫でてマップをもう一度みてから構えた。

「みんな離れてて。」


虎徹達は倉庫の真ん中まで下がった。


「ショックウェーブ!」ドン!ガラガラガラ。レンガの壁が崩れ、その先には実験室の様な部屋が見えた。


ブラスト達は崩れたレンガの壁を乗り越えて部屋を見回すと、天井には人が檻に入ったまま吊るされていた。


消防士達は声をかけながら檻のリフトのボタンを押した。


4つの檻が一斉に降り始め、ラファエルはシャッターを切る手を止め、ヘルメットを取り、一つの檻に駆け寄った。「アルか?アルなのか!」


「ゔーう、あー、ラフ?、、ラフー。」げっそり痩せた男は涙を流して縛られた両手を小刻みに揺らした。


チョコのプリズムの正体は行方不明になっていたラファエルの幼馴染で、サッカー選手のアルトゥールだった。写真のおもかげはなかった。


他の檻の1人は衰弱してうめくので精一杯、もう1人は目と口が気力なく動くだけ、もう1人は亡くなっていた。


消防士は救急に連絡し、生き残った3人は救出された。ラファエルはアルトゥールに付き添って救急車で病院に向かった。


ブラストと虎徹は運河に沿って出発しようと地下倉庫の扉をでると、目の前をジェットスキーに乗ってサングラスをかけた大男が中指を立てて猛スピードで走り去った。


「な!外道め。」虎徹は言いながら階段を駆け上がった。ブラストと虎徹は運河の橋まで走った。停めておいた虎徹のバイクに2人乗りし、走り出した。


⭐️


クラウン達を乗せた小舟は違法採掘場の手前、運河の二股に近づいた。


「おい!それ以上近づいて来たら、ぶっ殺すぞ!」ツルハシやクワ、ドリルを持ち、身なりも貧しく泥まみれの違法業者達が4人威嚇して来た。


ハニは小舟の先頭で胡座で座ったまま構えた。「タクシス。」


違法業者4人は体が宙に浮くと騒ぎだし、二股の反対側の川まで放り投げられ、流されて行った。


ハニは振り返った。「静かになったから行こ。」


小舟は違法採掘場に到着した。

採掘場の前の開けた場所、そして運河沿いの土手にもクレーンとショベルカーが数台停まっている。


違法採掘場の脇には洞窟が見えた。偵察時にブラストと虎徹が、エステ店から運ばれた箱は、洞窟へ持って行ったと話していた。


クラウンはイカロスを使って洞窟内のマーキングポイントをチェックしてから、洞窟に入って行った。


坂道を下り、見張りが奥に1人見えた。

スノーはゴーストに小声で「行け。」と合図した。ゴーストは静かに坂を下りると、違法業者の男が気づいた。

「ん?犬か?チッチッ。こっち来い。」男はしゃがみながらツルハシを地面につき、ゴーストを撫でようと手を伸ばした。

「フリーズ。」止まった男めがけてスノーは坂道を走った。ラリアットの姿勢をとったが、撫でようとした手に気づき、スリープスタンプを押した。下り坂で勢いがつき、男を後ろに突き飛ばしてしまった。


ガラーン!バタン、バタン。足場に立てかけてあった資材やテーブル、手押し車が音を立てて散らばった。


奥から声がする。「大丈夫か〜?」「おーい!どしたー?」2人の違法業者が駆け寄って来る。


やって来る入り口を挟む様に、壁に背をつけクラウン達は待った。2人の男が入って来て眠った男に駆け寄った。「おい!んん?寝てるのか?!」スノーとクラウンは背後から忍び寄りスリープスタンプを押した。


奥に進むと小さな階段とスロープがあり、登った先には、採掘した鉱物の板や棒がたくさん積まれた部屋になっていた。


その先は壁に沿ってロフトデッキがあり、その下には青緑に輝く水面が見えた。スノーのディスプレイに危険を知らせる警告が表示された。「キレイな色してるけど劇薬だな。」スノーは躊躇せずロフトデッキの奥に進んだ。


最奥部には祭壇や炉があり、開けたホールになっていた。装飾された柱や石レンガの壁があり、大きな水槽タンクの水は黄色に光っている。


50cm程の卵型の培養タンクには小さな胎児が入っており、金の天使のオブジェがついていた。


挿絵(By みてみん)


「ゴールデンベビーだ。」クラウンは近づき取り出しスイッチを押した。培養タンクが作動した。


ハニも培養タンクを眺めながら話し出した。「この先は排水路でスノーには汚染ゾーンだし、出口には違法業者も結構いるから、入り口に戻ろ。」


「そうだな。」祭壇を見ながら歩くスノーは賛成した。


「今の所、誰も来てないね。ここ、壊してから出よーよ。」クラウンはマップを見ながら言った。


「そーだな。」「それがいい。」2人も納得した。


「卵、あと数分で取り外せそう。」クラウンは卵型の培養タンクの残り時間のゲージを見た。


祭壇前に座っていた犬達の耳がピンと反応し立ち上がった。こもった低い声と銃声が聞こえて来た。どんどん近づいて来る。


「スノー、ゴースト、行こっ。」ハニは小声で手招きした。


「クラウン、頼めるか?」スノーが聞いた。


クラウンはうなずいた。


「スノー、鉱物を積み上げてた部屋に行くよっ。」ハニはそう言って先行した。


マップにはマーキングポイントはつかないが、すぐ近くで銃声が何発か聞こえた。


「さっきまで寝てたやつらのポイントが消えたぞ。」スノーはマップを見てショックを受けた。


ハニは黙ってうなずいた。

部屋の入り口から大男の陰が見えた。「でてこいよ。」腹の底から響く様な声、ショットガンを構えた大男が現れ、引き金を引いた。


ズバン!ズバン!ズバン!ズバン!

カラン、カラン、カラン、カラン。


部屋に向かって無作為に4発撃ってきた。


銃撃で積まれた鉱物の板が雪崩を起こし、スノーとゴーストは埋もれてしまった。


装填しながら、大男は壁際に隠れた。

ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ。


ハニは装填の音が聞こえると、山積みになった鉱物の後ろに素早く隠れて構えた。


大男が部屋に入って来た。

「タクシス!」

ハニは山積みになった鉱物の板や棒を浮かせ、一斉に大男に向かって放った。


ドダ、ドダ、ベチベチ!


大男は全身に浴びながら、押し出され、勢いよく後ろに転がっていった。


スノーとゴーストは起き上がり、息を荒くして追いかけた。


血を流し横たわった大男の足首にゴーストが噛みついた。

ガブッ!

大男はなんの反応もせず、気絶していた。


スノーは大男を抱えて坂を登り、入り口の広場に着いた。スノーは大男を下ろし、ハニに話かけた。「シシッ。アビリティ復活するまでハニは見通しの良い所で隠れてろ。もうすぐクラウンも来るだろーし。」


「はーい。」ハニはマップを見ながら広場の足場の階段を登っていった。


ハニは足場の上から見渡した。崖は削られ、採掘機からは汚染物質が流れ、水際に漂っている。一番大きな運河はいくつもの川とも繋がっていた。大きな運河にモーターボートが数隻の小舟を取り囲んでいる。


「スノー!ジャングル自警団のマークがついた船が協力してくれてる!」ハニは足場のてっぺんで小さく何度もジャンプをして興奮している。


「シシッ!ラファエルやるじゃねーか!ぐはっ!?」背後から目を覚ました大男が、スノーの首を締めて来た。


ゴーストが大男の太ももに噛みつき、全身を揺さぶった。


スノーは体を脱力させ、締め技から抜け出し、大男の片足を持ち上げ放り投げた。


大男は飛ばされながら、ゴーストの首を掴み、ジャングルの茂みに高く放り投げた。後ろに停まっていたショベルカーに、大男は頭からぶつかった。頭を押さえながら立ち上がり、スノーにタックルしてきた。


ハニはバケツやピッケルを足場から投げつけたが、危うくスノーに当たりかけた。


「シェル!」

スノーの肌は硬化して石になった。

大男のタックルを受け、大男のパワーも強くスノーと掴み合い、殴り合いになった。

大男の大振りなパンチをスノーは避けた。

大男は攻撃をくらいながら体を押し付け、スノーは顔を掴まれショベルカーに押し付けられ、大きな拳を2発くらった。


ハニはアビリティの回復を待つ間、血の気が引き息が止まった。その時だった。


ドカーン!!

ハニは横から爆風を受け、足場に座りこんだ。


ハニは慌てて立ち上がり、下を見るとスノーは大男に浴びせ蹴りをしていた。


「クラウン?!」ハニはクラウンの攻撃かと思ったが、採掘場が爆発した。


ドカーン!!

ドカーン!!


続けて爆発が2度起きて、採掘場は大炎上している。


「クラウン!!」ハニは座り込んだまま名前を呼んだ。


爆風は下で戦っていた2人を吹き飛ばした。

大男は熱い風を避ける様にショベルカーまで這った。


大男はショベルカーに乗り込み、スノー目掛けてショベルを下げ始めた。ハニは震える声で言った。「タタ、タクシス。」


スノーの岩肌は崩れた落ち、ショベルが近づく。ハニが構えた手を組んでショベルカーを掴んだ。ハニは足場でくるん、くるん、くるんと回り「ううー。」力を込めて体を唸って、ショベルカーをジャイアントスイングした。


ショベルカーは運河に投げ飛ばされ、流されながら、沈んでいった。


ハニは足場を駆け降りて、スノーに走り寄った。スノーはめまいを起こして、すぐには起き上がれないが、無事だった。


ハニはディスプレイを出して、クラウンに呼びかけた。応答は無かった。


ハニはマップを見ながら、ジャングルの茂みに飛ばされたゴーストを探した。胸の動悸がおさまらず、息が上がった。

高い木が重なった辺りから、ゴーストの鳴き声が聞こえ、タクシスを使って、ゴーストも無事に救出できた。


燃え続ける採掘場の広場に戻ると、ジャングル自警団のモーターボートが1隻こちらに向って来た。

スノーは座りこんだまま、起き上がり、駆けて来るゴーストを抱きしめた。


「ハニ、ありがとう。シシッ、シー。自警団の船がこっちに来てる。」スノーが暗い顔で礼を言って、ゴーストに携帯させていたウォーターボトルを開けて浴びた。


ハニはスノーの横で力なく座り込むと、涙が溢れだした。


「ハニ!船、見てみろ!」スノーは船を指差した。


船の先端でクラウンが手を振って立っていた。チョコもブラストも虎徹も一緒に乗っていた。


スノー、ハニに笑顔が戻り、元気に手を振った。


⭐️


続く。

絵:クサビ

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