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トレモロ 2  作者: 安之丞
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2巻 3章 2話

クラウン達はラファエルから情報収集のクエストを受けた。ラファエルは「ギルドのみんなを家に連れて帰るから。」と言いながら連絡すると、スピーカーから元気な女性の声が漏れ聞こえた。ホテル代が出ない代わりに、ラファエルの家にお世話になる事になった。


ホテルのチェックアウトを済ませ、ラファエルのバンに乗って、都会的な街並みから、ベージュの石作りの家が並び、道路がまだ舗装されていない道に入った。周辺は1階建ての四角い石をくり抜いた様な家が並び、カラフルな旗がマーケットに沿って見えた。


「家はここなんだけど、今の時間は車で入れないから駐車場から歩こう。」


駐車場で降りると、草が少し生えた広場では子供達がサッカーをして遊んでいる。犬達ははしゃぐも、マーケットに向かうみなの後を追いかけた。


路地を3本入るとマーケットについた。陽気な音楽に、シャッターには発色の良いカラフルなグラフティーが書かれている。


挿絵(By みてみん)


日用品、雑貨、果物、ジューススタンド、スパイスなど通りは活気があり、キョロキョロしていると「着いたよ。ママー!ただいまー連れてきたよ。」ラファエルは両手を広げて母親とハグをした。


「みんなよく来たわね。自分の家だと思ってくつろいで。ほら、できたてよ。」クラウンは小さくおじきしながら、手渡された袋を受け取った。ラファエルの母親も陽気で楽しそうな人だ。袋の中身は丸い直径5cmくらいのボール状のパンがたくさん入っていた。


みなが挨拶してる中、クラウンがひとつつまんで食べると、衝撃が走った。


「んんー!今まで食べた事ない。うますぎる!」目を丸くしたクラウンはラファエルの母親を見た。


「あら!嬉しい。ポンデケージョっていうのよ。私の先祖代々伝わる、伝統的なパンよ。」


虎徹が横から手を出して、袋からひとつ取って食べ、同じく目を丸くした。「んー!新食感の饅頭。本当に美味しいです。」


「あらー!嬉しいわ。良い宣伝になって、幸運が来たわ。」


振り返ると、店の前で騒ぐので、いつのまにか行列が出来ていた。「後でゆっくり話そう。ママ、お店頑張って。」ラファエルはみなを部屋の奥に押し込んだ。


⭐️


ジャーナリストの部屋らしく、カメラや機材が並び、ボードにはジャングルの自警団やサッカー選手とラファエルが一緒に写った写真がたくさん飾られてある。ハニはボードの写真や本棚の写真集をパラパラ開いて、興味深々だ。


「もう一部屋あるから女の子はそっちを使って。あとはこの部屋か広間も自由に使ってくれ。食事はママがたくさん作り過ぎるから、食べてもいいし、マーケットも美味い店が夜には開くからご自由に。で、冊子読んでくれた?」


クラウンだけうなずいて、あとは誰も読んでいなかった。


「冊子も参考にしてくれ。さっき送ったログの男達を探して欲しい。君達なら特別に見れる情報も多いだろ?けど危ないマネはしないでくれよ。どこにいるかとか目撃情報が分かればいいんだ。」そう言うと、ラファエルは雑誌社に出勤した。


クラウンは冊子に書いてあった廃工場を見に行こうと提案した。


ー「忘れ去られたスターベビー」よりー


「首長が遺伝子の違法改造などの汚職で失墜した際、スターベビーの工場は廃止になった。それから2年、住民の話しでは時々、廃工場に電気がついている噂が広がっている。まだ工場内に残されたスターベビーが違法改造され、ゴールデンベビーとなって眠っているのかもしれない。因果関係は不明だが、事件当時、行方不明者が急増したが今は落ち着いている。」


⭐️


歩いて20分ほどで噂の廃工場に到着した。チョコのイカロスを使ってみたが何の反応もなかった。


「あ、扉開いてる。」スノーが嬉しそうに振り返った。工場内に入ると棚が並び、不用品はそのまま放置されている。崩れた箱や空き箱も散在している。奥のラボ室内はステンレス製の棚机にビニールを被った機械が並び、一つだけ、小さい緑のランプが点灯していた。ブラストがビニールの上からログを撮って首を傾げた。「ここだけ綺麗なままな感じがしない?」バン!上の部屋から金属の重たい扉の音がして、クラウン達は息をのんだ。


ダン、ダン、ダン、鉄の階段を降りて来る音が響く。


虎徹が小声で話した。「誰か来る。体が大きいな。」


スノーがラボの机の下のキャビネットを開けて指差し、小声で言った。「隠れよう。」


机の下にそれぞれ身を潜めた。冷たいステンレスの机の中でクラウンはチョコを抱え、心臓のバクバクなる音に力み、自分の腕を掴んで息を殺した。


足音は近づき、カチャカチャ、何かを探る音がした。ハニは扉を少し開けて緑のライトが点滅していた機械の方を覗き見て、ログを撮影した。


作業着姿の大男は黄色の液体が入った試験管を取り出し、空の容器を並べ、また機械を作動させて、立ち去った。


バタン!ガチャ。扉が締まり、大男は外に出て鍵をかけた。


スノーが立ち上がり「チョコと追跡頼む。ゴーストと上見てくる。後で合流しよう。」スノーは上のフロアに向かった。


スノーはゴーストと管理室に入った。使い古したパイプベッドに作業服や派手な色のジャージ、細身のデニム、大きなシャツなどサイズの揃わない服が山積みになっている。スノーはログに残し、もう一つのベッドを触るとまだ温もりがある。先程の大男はここで仮眠していた様だ。


スノーはマップを見ながら、みなを追いかけて合流した。


作業着の大男は工具ケースを持って、マーケットから山手に上がり、エステ店に入っていった。入り口が見える所に到着するとチョコからプリズムが出た。クラウンはイカロスを使った。エステ店の建物の中と地下にもマーキングポイントが複数見えた。


「私、アルバイト探してる感じで潜入捜査しようかな。」ハニがマップから顔を上げると、みなが一斉に「ダメ!!」と、一喝した。


みなで話し合って、ブラストと虎徹はエステ店の周辺をぐるっとみて回った。エステ店の建物の裏は、バルコニーから下の運河まで階段で繋がっていた。時々、日用品や荷物、花を積んだ小舟が通った。


ブラストと虎徹は運河の橋を渡って、反対側からエステ店を見張っていると、バルコニーが開き、2人のエステティシャンが箱を抱えて運河まで下り、荷物を小舟に乗せてエステ店に戻っていった。そのままブラストと虎徹は小舟を追った。


クラウン達はエステ店の入り口を見張っていると、1時間後、別人だが同じくらい大きい男がエステティシャン2人を連れて店からでて来た。エステティシャンは道具を入れたバスケットとタオルや花を入れたバスケットを持っている。


シャツをラフに着た大男と山手に向かって3人で歩き出した。クラウンとチョコ、ハニで追跡すると、15分程歩いて豪邸に入って行った。


クラウンがイカロスを使うと、複数マーキングポイントがついた。豪邸の中を3つのマーキングポイントが屋上に上がって行く。ハニはタクシスを使って、屋上が見える高台まで移動した。


屋上のテラスにはパーゴラという木の格子に布が垂らしてあり、中年の男がバスタオルを腰に巻いて出てきた。パーゴラの下のベッドでうつ伏せになり、エステティシャン2人がかりでオイルマッサージを始めた。大男は部屋の中に戻って行った。


クラウンがログを撮っていると、チョコからプリズムが出て、ベッドで寝ている人物が判明した。元首長を発見した。


「あ!1人みっけ!討伐対象になってる。相当、(ワル)だね。今やっちゃう?はは。」クラウンは冗談を言ってハニを見た。


「気持ちはわかるけどー、うかつに手は出せないよね。あの大きい人だけマーキングポイントつかないね。なんでだろ?」廃工場の大男に続き、ハニは不思議に思った。


⭐️


やがてエステ店の閉店時間となったが、作業着の大男は出てこなかった。見張りをしていたスノーがメッセージを送り、みなエステ店に集合した。チョコは到着するとまたプリズムが出た。


マーケットも閉店しはじめ人気も減り、見張りがやりにくくなったので、ラファエルの家に戻る事にした。


ラファエルの家に戻ると、ラファエルの母親が煮込み料理、フェイジョアーダをたくさん作ってくれていた。一緒に夕飯を食べて、クラウンは売れ残ったポンデケージョを全て買った。お風呂上がりにラファエルの母親とハニは顔パックしたり、この国の人気歌手を色々聞いたりしているとラファエルが帰宅した。


「無事だな。どうだった?何か噂は聞けた?」ラファエルは夕飯をよそっている。


「うん。元首長みつけたよ。」クラウンは返事した。


「おい、ウソだろ?大人をからかうなよ。な?」ラファエルが皿を持って振り返り、指についたソースを舐めた。


ブラストはラファエルと一緒に食卓についてディスプレイを出して見せた。ラファエルは食い入るように見た。


「なんて幸運なんだ!ママやったよ。君達最高ー!」ラファエルはスプーンを持ったまま、その場でくるくる回った。つられて犬達もはしゃいだ。


スノーも食卓について「聞きたい事がある。」と切り出した。


ラファエルはログチェックしながら興奮が収まらない。「信じられない。廃工場の中に入れただって?ん?バッチリ証拠撮れてるー!」


スノーはディスプレイを指しながら言った。「この大男だけ検索に引っかからないんだ。エステ店に入ったきり見失った。けど、あのエステ店には探してる誰かがいるのは間違いない。よく似た感じの大男が気になって、つけたら元首長の家を偶然見つけたんだ。大男に心当たりないか?」


ラファエルはもぐもぐしながらゆっくり飲み込み、首を横に振ると腕を組んで考え込んだ。


ハニはパックを剥がしてラファエルの部屋の鏡でお肌を整えた。何気なくボードの写真を見た。


「あー!これ、そうじゃない?」ハニはピカピカになった顔で写真を一枚持って来た。


ハニはラファエルとサッカー選手が一緒に写った写真を食卓のテーブルに置いた。「スノーこれ。同じジャージじゃない?」


ラファエルはログをスワイプして、ベッドに山積みの服の写真と見比べた。「2年前から行方不明の親友なんだ。しかも代表のジャージだから可能性は、、なんで巻き込まれたんだ。」ラファエルは声が少し震えていた。


ラファエルの母親もパックを剥がし、ラファエルの背中を抱きしめた。「幼馴染なのよ。それと、そのエステ店は元首長の家よ。まだ悪さしてるのかしら。」


「ラファエルさん、まだ報告あるけどいい?」ブラストはログをラファエルに見せた。「エステ店の外から運河を使って荷物を運んでた。下流の先は違法採掘場だった。そこで荷物を回収してた。」


虎徹は険しい顔で言った。「違法採掘場と運河の脇に洞窟もあって、武装した業者が数人いて入れなかった。ブラスト殿と運河を辿って採掘場の先にでると、排水口の溜まりには大量の魚が死んで腐敗していた。水質汚染してるから、この辺で獲れる魚には気をつけた方が良い。」


「やだー市場の魚はほとんどそうよ。親戚や友達に連絡しなくちゃ。」慌ててラファエルの母親が連絡しようとすると、ラファエルが言った。「ママ、理由は伏せて注意だけにして、もう少し事件を追ってみるから。」


ラファエルは少し考え込んで、情けない笑顔で言った。「サインするよ。すごい成果だ。君達ギルドは最高で、この国は最低だ。」


ラファエルはそう言ってサインした。


⭐️


ラファエルはキッチンで編集長に連絡して、あれこれ聞いていた。

編集長の考えでは、大男は元首長の下で働いていた元処刑人のクレーン操縦士ではないか?と話していた。処刑人の身元は公表されない様に守られている。個人情報を昔は削除していた。今の首長になって公開処刑の制度は無くなっている。


真夜中まで、ラファエルは編集長と話し、大物に手を出すな、とかジャングル自警団と勢いだけで動くなとか、後半は口論になっていた。ラファエルの訴えは届かない様だ。クラウンは心の中でラファエルを応援したが、うとうとやってくる眠気に誘われ、やがて眠りに落ちた。


明け方、まだ外は暗い。クラウンは目を覚ました。作戦を思いつき、みなを起こして、置き手紙をして、みなとシャトルに戻った。


虎徹は鎧箱から兎の兜を出し、その前に胡座で座り瞑想した。シャトルの窓から日の光りが船内に差し込んだ。


⭐️


続く。

絵:クサビ

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