2巻 2章 3話
アースを出発して数日後。
ジュピター・ステーションに到着した。
5人と2匹はドックに降り立った。
「っしゃ!オレらギルドにスーツ持って行ってくる。」ブラストが言った。
「私もギルドに用事あるから行く!」とハニもクラウン達について来た。
「オレら先にブッチの店に行ってるぞ!」ブッチと聞いてはしゃぐゴーストをスノーはなでた。
⭐️
全てが広く無機質なジュピターステーション。「宮殿すごーい!」ハニははじめて見る水素工場の宮殿にテンションが上がった。
「僕ら中に入ってクエストやったんだよ!ハニと虎徹さんいたら、もっと奥まで行けそうだよね〜。」クラウンは柵越しに、宮殿の庭を見ながら言った。
「高額報酬クエストないかな〜。ガリレオさんに廃品回収ないか連絡して聞いてみよー。」ブラストの目が輝いた。
「いいね!」クラウンもテンションが上がった。
「高額報酬?あとで過去ログ見てみよー。」ハニも興味を惹かれた。
⭐️
ジュピター・ステーションのカウンターでギルドスーツを2着だした。モニターにギルドスーツの有料お直しメニューも表示された。クラウンはナイトメア騎乗時に伸縮ストールをポケットから出してチョコを抱えていたが、肩から腰に伸縮ストールがワンタッチで出てくるスリング仕様にカスタマイズした。
その間、ハニはモニターでクエストを確認したり、その後のアースでの里山計画が順調か、レポートなど調べ物をした。
クラウンとブラストがカウンターで申し込みを済ませ、モニター前にいるハニに声をかけた。
「お待たせ!」
「できた?」
「うん。今日中にサイプレスに届くって。」
「良かったね。ねえ、これ見て?さっき言ってた宮殿のクエスト無かったから検索したら、受注中になってる。」
「そっかー。残念。」
「免許がんばろっ。」ハニは明るく言った。
「ウッス!」ブラストは気持ちを切り替えた。
⭐️
3人はブッチの話をしながら、お店に向かった。
「え?うふふ。何あれ?凶々しいやつ。」ハニはブッチの工場にある魔改造された宙族船を指差した。
「あれ?アースに向かう前に襲ってきた宙族船。まだあるんだ。」クラウンは嫌そうな顔をして言った。
「あれに襲われたの?ヤバー。無理矢理大砲くっつけてる。うふふ。」ハニは笑った。
「ビンテージの船なんだよ。」ブラストが言った。
3人は話しながら歩いた。
3人が仲良く話しながら歩いて来るのにブッチが気づいた。
「おい、どっちの彼女なんだ?」ブッチがスノーに聞いた。
「ん?ただの仲間だろ。」スノーはあっさり返事した。
「ブッチさーん!」ブラストとチョコは駆け寄った。
みなブッチとハグして再開を喜び、ハニと虎徹を紹介した。免許合宿をブッチの店でやる事に決まった。
「今日、休みだから、もうメシにするか!」ブッチはBBQの準備を始め、みな手伝った。
⭐️
火を起こし、ブッチは肉の塊に遠くから塩を投げて豪快に料理した。ブッチが肉を焼く様は、なぜが見応えがあった。
みなで談笑しながら、美味しい時間は続いた。
「おい、クラウン。デートした娘はあれからどーなった?」
「え!?」クラウンはビクッ!とした。
「デートしたの?」ハニはクラウンを見た。
「ご、ご飯食べただけだよ。」クラウンはたじたじになった。
「相手もギルド。」ブラストが小声で付け足した。
「そーなの?」ハニが聞き、ブッチも聞いた。「あれから連絡してねーの?」
「とくに。用ないもん。」クラウンは目を逸らして言った。
「せっかくカワイイ娘だったのに。クラウン、マメにしないとモテねーぞ。」ブッチは言いながら、骨付き肉を配った。
「うーん。」クラウンは気のない返事をして骨付き肉のおかわりをもらった。
クラウン、ブラスト、虎徹、ブッチの4人は骨付き肉に一斉にかぶりついた。美味そうに食べている。
「シシッ!黒髪ロン毛衆、むっさい4人だな。」スノーが笑った。ハニもうなずき笑った。
「オレは明日、髪切るよ。免許取る時、証明ログ、登録するからね。」ブラストは言った。
「オレはロン毛じゃなくてウルフカット。今日休みだから髪セットしてないだけ。スノちゃんは全身トゥルトゥルでラクそうすね!」ブッチは冗談を言った。
「ブファッ!」みな笑った。
⭐️
夜、ブッチの行きつけの理髪店に黒髪ロン毛衆は行った。
「オレ、センターパートでお願いします。」一番奥の席にブラストは座った。
「俺、髭剃り頼みまーす。」ブッチが隣に座った。
店長がクラウンと虎徹を見た。
「あ、店長あとの2人は長いままがいいらしいんだけど、整えてやって。」そう言うと、ブッチはさっさと漫画を読み始めた。
クラウン、虎徹の順に並んで座った。
伸び放題だった髪は綺麗に整えられた。
⭐️
翌朝。
ブッチが車で免許センターに送ってくれた。スノーは欲しい免許は全て取得済みの為、犬達を連れてブッチと遊びに行った。
教習所のロビーでベーシックコースのクラウンとブラストが呼ばれ、教室に入って行った。
「虎徹さん、船と潜水艦は一緒に行こう。」ハニが誘い、虎徹はうなずき一緒に教室に向かった。
⭐️
ベーシックコース教室。
クラウンとブラストは横に並んで座った。席がだんだん埋まり、女の子がキョロキョロしながら、座れる所を探している。
「ここ空いてるよ。」ブラストが自分の前を指差した。
気づいた女の子はブラウンのワンレン、ロングヘアーに黒いワンピースを揺らし、ブラストの前の席に座って振り返った。「ありがとう。」
「はじめて?」ブラストは聞いた。
「うん。14になったからベーシック取りに来たんだ。」
「僕も!」クラウンも話しかけた。
「オレはブラスト、15。友達のクラウン。よろしくね。」ブラストは自己紹介した。
「私デビー。よろしくね。」
教官が部屋に入って来て、スケジュールなど説明が始まった。
⭐️
チャイムが鳴って、色んな説明を一気にされたクラウンは頭がいっぱいになり、一週間後のテストが恐ろしくなった。
ブラストはずっとニコニコして、チャイムが鳴った瞬間、デビーを誘ってカフェに行った。クラウンも誘われたがカフェを断った。
⭐️
クラウンはナイトメアに乗って、スペースパラダイスカフェジュピターに帰りついた。部屋で1人、トロピカルジュースを飲み、疲れて寝た。
⭐️
スノーとブッチ、犬達が帰って来て、クラウンは一緒に夕飯を食べた。
ブラストからメッセージが届いた。ー「ご飯食べて帰る。明日、また教習所で!」ー
ハニと虎徹は夜まで教習所にいたので、ご飯は食堂で済ませ、ブッチの店に帰って来た2人も、クラウン同様疲れていた。
⭐️
翌朝。
ブラストはオシャレしてウキウキで教習所に向かう。クラウンは気が重く、だるかった。
しかし、今日は座学とシュミレーションで終わり、楽しかった。思っていたより早く終わったので、クラウンはゲームをしに部屋に戻り、ブラストとデビーは遊びに出かけた。
夕飯には、みな揃い、勉強会をブッチのガレージでやりながら、くつろいだ。
「僕、一緒の方が勉強はかどるかも。部屋で1人だとゲームばっかやっちゃうよ。テストどーしよー。」クラウンはソファーで伸びをした。
「クラウン、前日にテストの問題データを売ってる所知ってるぞ。」ソファーの横に座っているブッチがニヤニヤして言った。
「僕、それ買おうかなー。違法じゃないの?大丈夫?それ本当に大丈夫なやつ?」クラウンはブッチのタトゥの入った腕を掴んで揺らした。
「おいーブラスト、なんかお前だけ、ずっと浮かれてんなー。」ブッチは揺らされながら言った。
「うっ!するどいスね。えーあっと、ガールフレンドが出来ました。」ブラストは照れながら言った。
「わーお!!」みな驚き喜んだ。
みなが一気にあれこれ聞いて、ブラストは一言で答えた。
「彼女ちょっぴりイカれてて、そこがいいんだ。」
ハニが閃いて、手を合わせて言った。「明日、教習所終わったらガールフレンドも誘ってみんなでBBQしない?」
「連絡してみる!」ブラストは嬉しそうにディスプレイを出した。
⭐️
翌日。
教習所が終わり、みなで買い出しにでかけ、ブッチのガレージに集まった。
「デビーの黒いアイメイク、カワイイー。」ハニはデビーとすぐ仲良くなった。
ガレージにお菓子を広げ、問題を出し合いながら勉強をした。ひっかけ問題にクラウンとデビーが苦戦していると、虎徹が優しく教えた。まるで禅問答の様な感じになって、周りで聞いていた者を和ませた。勉強に疲れると、誰ともなく音楽をかけては息抜きした。勉強がひと段落するとBBQを楽しんだ。
花火をして騒いでいるとブッチが飲み物を持って来た。
「ブラストがガレージでキスしてた。今、行っちゃダメだぞ。クラウン、空気読めー。」
「僕だって空気読めるよー。」クラウンはガレージの方を見たり、見るのをやめたりを繰り返した。
「落ち着けって。シシッ!」
スノー、虎徹、ハニはそわそわするクラウンを見て笑った。
⭐️
教習所の後、デビーは家の手伝いを2日間行い、テストの前日にまたガレージにやってきて、勉強会に参加した。
⭐️
テスト当日。
みな気合十分で免許センターの会場に向かった。ブッチ、スノー、犬達が見送った。
午前は座学試験。各自モニターをタップして、クラウンはひっかけ問題に注意しながら時間内に解答を終えた。
昼食は食堂にみな集まり、午後のシュミレーションまで励ましあった。
⭐️
すべてのテストが終わり、数時間後の発表まで免許センターで待った。
アナウンスとブザーがなって、合格者の受験番号が一斉に発表された。
ハニ、虎徹が自分の番号を見つけてハイタッチで喜んだ。「ハニ殿、やりましたな!」「うん!クラウン達も取れたかな?見に行こう。」2人は会場の隅の方にいる3人を見つけた。
ブラストがクラウンとデビーを励ましている様子だ。
「どうだった?」ハニがブラストに声をかけた。「2人とも上級手動コースは番号がないって。けどベーシックはみんな受かったよ。とりあえずは取れたんだから、落ち込む事ないぜ!」
「ベーシックが取れたなら大丈夫。自動運転ついてる機種には乗れますぞ!」虎徹も励ました。
デビーは一息ついて言った。「ふー。そうだね。ベーシック取れたし、いっか。」
クラウンはうなずいて顔をあげた。「手動むずーい。」
⭐️
合格祝いをブッチのガレージでやろうと話は盛り上がったのだが、デビーに父親から連絡が入った。父親の仕事の都合で来ているデビーは「また家の手伝いがある。」と、残念そうにブラストを見た。「また今度パーティやろうよ。」とブラストは優しい笑顔でデビーの頬を撫で、デビーを見送った。
⭐️
ブッチとスノーと犬達が車で迎えに来た。ステーション近くまで戻ると、車や人がたくさん集まって集会している。通路に沿ってフェンスが立ち、デモ隊が通る場所は足場が組まれ壇上になっていた。壇上に登ったデモ隊は旗やボードを掲げて水素工場の中庭に向かって抗議している。
「なんだあれ?」スノーはブッチに聞いた。
「また水素工場へのデモだろ。今日、明日はメイン通り封鎖だろうな。裏から帰ろう。今日はお祝いに、ばあちゃんがご馳走作って待ってるよ。」
⭐️
ブッチの実家にお邪魔した。和室の大きなテーブルの上には野菜の煮物、肉の角煮、ポテトサラダ、漬け物、赤飯、手料理がたくさん並んでいた。
ブッチのばあちゃんのご飯を食べた虎徹はアースを思い出して感動した。ばあちゃんも「若い時のじいさんに虎徹がどこか似ている。」と、虎徹にだけ肉の角煮を大盛りによそった。
ブッチの店はメイン通りに面しているので、夜遅くまで、デモ隊の声や何かを叩く音がずっと聞こえて来た。
⭐️
翌朝。
ガリレオからメッセージが来た。「ブラストくん、連絡ありがとう。先に廃品回収のクエストを受けたギルドが昨夜から行方不明になったので捜索を頼みたい。君達に正式にクエスト受けてもらえないかな?」
みなはクエストを受けることにした。
⭐️
デモ行進の中、サイプレスに戻るのは一苦労だった。ギルドスーツに着替えて、水素工場へ向かった。
水素工場に近づくと人の多さは増し、フェンス越しに、水素工場の労働者とデモ隊がお互いの言い分をぶつけ合い、ヒートアップしている。水素工場の中庭の門の柵までデモ隊は押し寄せていた。
「ブラスト!ブラスト!」ブラストは呼ぶ声を探して、フェンスの上をみた。デビーがデモ隊の中に立っていた。
「デビー!」
ブラストはフェンスに駆け上がって、片足をへりにかけて座った。「明日、ガレージで会おうよ。」ブラストは笑顔でそう言い、行こうとした。
「待って!ブラストってギルドだったの?」
「ゴメン。まだ言ってなかったね。」
デビーはブラストの肩に腕を回し、顔を近づけて言った。
「光るスーツカッコイイ。」
そう言って、デビーは口角を少しだけ上げ、キスをした。
「オイ!デビー!!そいつから離れろ!ギルドの野朗と仲良くするな!来い!」
デビーの父親が後ろからデビーを引っ張り、2人を引き剥がした。デビーの父親はブラストに手を払うジェスチャーをして「あっち行け!」と威嚇した。
ブラストは身を引いて、フェンスから下に飛び降りた。
「パパ!やめてよ!」デビーは抵抗したが、父親に引っ張られた。「こっち来い!」悲しい目をしたデビーは人混みにまぎれ見えなくなった。
ブラストは人混みに流され、そのまま水素工場に向かった。
⭐️
中庭の門の先に入ったクラウン達はブラストを見つけた。「ブラスト!こっち!」
ハニはタクシスで最前列のデモ隊を押し戻し、その隙に案内ロボが門を開け、ブラストは門を通り抜けた。
「デモ、ヤバイね。」クラウンが興奮気味に声をかけると、ブラストは気のない返事をした。「あ、うん。」
⭐️
水素工場の工員達は道具とカギを持って、クラウン達とジュピターラビリンスまで降りた。
「我々はここで待っています。制御室の先にある、サーバールームの先で連絡が取れなくなって半日以上経っています。気をつけて。」工員が鍵を開け、扉が重々しく開いた。
⭐️
続く。
絵:クサビ