2巻 1章 11話
武道場ではお囃子の音が響く中、勝った5人に金メダルがかけられ閉会のアナウンスが流れた。
クラウン達がまごろくに呼ばれて武道場に降りると、ハニと虎徹が首から金メダルを下げて立っていた。
みなハイテンションで喜んだ。
ハニは自慢気にクラウンに金メダルを見せた。「ビックリした?」あどけない笑顔のハニ。
「したよ〜!ハニでるなら教えてよ〜!」クラウンは少し拗ねた。
「ごめ〜ん。渡辺様と内緒の約束だったから。」
「虎徹も知ってたのか?シシッ!」スノーは笑って聞いた。
「すまぬ。」虎徹はぺこりと一礼した。
ブラストは興奮冷めやらず「カッコ良かったー!みんなでログ撮ろ!」と声をかけディスプレイを出した。
天狗様を中心に集まり、記念ログを撮った。
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船の連結が解かれ出航の準備が整った。
「オレらまだ復興のクエストやったり、里山村の空き屋をまた借りたから、落ち着いたら顔見せろよ。シシッ!」スノーは虎徹とハニに声をかけた。虎徹とハニはうなずき手を振って、侍達と黒船に乗り込んで行った。
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里山村。
収穫にはハニと虎徹も駆けつけ、クラウン達は村人達と一緒に竜宮城の話しや秋の合戦の話しをしながら、稲刈りをした。
刈り取り、干して乾燥、脱穀、もみすり、精米まで2週間以上かけてお米ができた。
収穫祭の長テーブルにご馳走が並び、クラウン、ブラスト、スノー、犬達、斗鬼の姿があった。
塩おむすびをクラウンは頬張った。
「銀シャリうまー!僕、前世、日本人だった気がする。はは。うまうまー。」もぐもぐもぐ。
「アース人はオレらの先祖の星なんだから、そーかもな!オレら髪黒いし、ここの人も黒髪多いなーって。」
「え?そーなの?ご先祖様なの?」
「大昔、アース人がマーズに移住して、今のマーズがあるんだって。クラウンもマーズ人でしょ。」ブラストは昆布のおにぎりを取り頬張った。
「なんだ、オレと一緒じゃん。シシッ!」スノーは鮭おにぎりを頬張った。
「同じマーズ人でも生体タイプが違うでしょーが。ま、どの種族も皮を剥げは結局一緒か。」ブラストは食べながらうなずいた。
「ときどきパンクな事ゆーねー。」クラウンは笑った。
村人達がざわざわした。
「ハニ様!虎徹様!」
2人は英雄として迎えられた。
「ハニ様!収穫の時はありがとうございました!助かりました。さあこちらへ。」
クラウン達の前にハニと虎徹が座って、村人達と竜宮城戦や秋の合戦の話しで盛り上がった。
「そうだ。クラウン、和尚様が会いたいって言ってたよ。」ハニは言った。
「あ!僕さー、海底寺の仏像、探せないかなー?って。」
「良いアイデアね!私達もフリーになったから、合流したいなって思ってたの!」ハニは笑顔で言った。
虎徹は横でうなずいた。
「えーっと、和尚様に会いに行ってー、チョコとフレイヤで探せたらいいよね!」
「うん、いいね。」みな口々に言った。
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クラウン達は海底寺に向かった。
「わ!いるー!巨大ワニ!」クラウンは海底溝の前でログを撮ってはしゃいだ。
「ちなみにここ海水だから、ワニモササウルスな。シシッ!」スノーは潜水艇の操縦席で笑った。
「ハニ!襲ってきたら頼むよー。」ブラストは背中を丸めゾクゾクした。
「あの、一応、竜宮城の守り神的な存在です。グワっと鳴きます。」虎徹は言った。
クラウンとブラストとハニはグワグワ言い始めた。
「あんま、刺激すんなって。」スノーはスピードを上げた。
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海底寺。
「和尚様!」
「お、クラウン君!悪いね!」
「落ち着いたから、そろそろ仏像探しに行こっかなと思って。」
「あ、悪いね。写真持ってくるから、客殿で待ってて。」
和尚様は写真や宝物庫にあった図録と一緒に山ほどお菓子を出して来た。
「これ、帰りに持って帰って。私、1人で食べ過ぎも良くないし、クラウン君、甘い物大好きでしょ。これで呼んだのに、悪いね。」
和尚様は合掌してウインクした。
ブラストとハニと虎徹は興味津々で図録を眺めてはお菓子を食べた。
クラウンとスノーは長い絵巻を腹這いになって見ながら、楽しそうにゴロゴロしてはお菓子を食べた。
図録をダウンロードし終わると、和尚が出て来て、クエストにサインした。クラウン達は仏像を探しに出発した。
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サイプレス号。
ジャンケンして誰からzoneに入るか決め、クラウンが勝った。
クラウンはポッドに入った。
アースでの里山計画、ハニからの依頼、密猟者逮捕の特別報酬、竜宮城奪還、海底寺の復興、全ての報酬を受け取り全身が金色に6連続光った。クラウンはレベル23になった。
ブラストはレベル28になった。
スノーはレベル17になった。
ハニはレベル35になった。
虎徹はレベル5になった。
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クラウン達は仏像を探して出発した。チョコのイカロスで探したが、桜島から近い寺に到着した時は、よく似た仏像で手に乗せた宝寿がなかったり、さらにそこから近い山寺では、同じ仏師が別の寺に納めた仏像だったりと、簡単には見つからなかった。
フレイヤでは探せずに、各地の海の街でチョコのイカロスを使っては不発に終わった。探しながら、どんどん北上していった。
トウキョー・ステーションのギルドに相談に行く事にした。
5人と2匹はカウンターで待っていると、ギルドの犯罪専門家が出てきた。国宝品は普通のお店で売る事ができないので、闇ルートの可能性が高いと教えてくれた。
そう聞いたブラストはギルドのカウンターのモニターで検索を始めた。闇ルートのネットショッピングに、よく似た仏像が売約済となっていた。
仏像の画像をみたクラウンは違和感に気づいた。「微妙に手の大きさや光背が違う?なんか全部バラバラに見えない?」
犯罪専門家とブラストはハッとなって、話し始めた。専門用語だらけの会話に誰もついていけなかった。プレイスメント、、レイヤリング、、インテグレーション。
犯罪専門家は検索画面を見ながら砕いて話してくれた。「要するに仏像は分解され、マネーロンダリングに使われています。まだアース内にある可能性が高まりました。」
クラウンはまだ良くわからない顔でいた。
ハニがアースの背景など教えてくれた。
「貴重な土地資源を滅ぼさない様に、地上は古文化の生活に制限しているでしょ?そういった古文化を支えるシンボル、仏像の価値は重要文化財級に高まっているのよ。美術品を購入して、お金の流れを複雑化させている。」
「そうです。不当なお金が商品売上のお金にすり替わります。」犯罪専門家が言った。
クラウンはようやく理解できた。
検索を続けていたブラストが顔を割り出した。
闇ルートのバイヤーは鬼だった。
ディスプレイをみて虎徹が言った。「肌色の鬼、星熊童子。」
「有名な鬼なの?」クラウンは聞いた。
「有名といえば有名。悪名高い四天王の鬼です。まごろくが合戦で斬った熊童子も四天王でした。」
犯罪専門家は星熊童子のクエスト推奨レベル20を指差した。「討伐対象ですね。」
「そーなんだ。じゃあ、アビリティ室でチョコとフレイヤで探してみよう。」
犯罪専門家はクラウン達をギルドのアビリティ室に案内した。フレイヤが星熊童子の居場所を見つけた。新宿にマーキングポイントがついた。
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トウキョー・ステーションからは一度、地下深くまで進み、地下鉄、大江戸線で小滝橋に着いた。海上の大都会では色んな種族が行き来している。チョコからプリズムが光った。追いかけ、すぐ近くの大きな交差点の角にある無人の銀行金庫の前に着いた。「着いたー。緊張する〜。」クラウンはチョコをなでた。
「銀行を襲う側になるなんて。」ハニは乗り気じゃなかった。
5人は肘を曲げ、ワッペンをたて、手の甲でグータッチした。
正面から銀行に入った。ブラインドは全て閉まり、利用客はいなかった。
地下2階の無人カウンターはモニターが並び、広告が流れている。
廊下に進むと金網で仕切った小部屋が並び、ロッカーや荷物が並んでいる。チョコは薄暗い廊下を光りながら4つ目の小部屋の前で止まり、案内は終わった。
「なんだ、誰もいねーな。マーキングポイントと一致してるけどな。」スノーは言いながら、警報が鳴らない様に金網を剥がし、キャスター付きのカートにディスプレイを向けた。犯罪専門家が貸してくれたスキャナーでスキャンし、中身は海底寺の図録の一部と一致した。
マーキングポイントが周辺にたくさんあり、ブラストは星熊童子の情報と図録の一覧をディスプレイに出しチェックを始めた。小部屋の奥の扉が開き、ディスプレイの星熊童子の顔と本人が重なった。
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ブラストと見合った瞬間、星熊童子は持っていたカートをブラストめがけて持ち上げた。
慌ててブラストは構えた。「ショックウェーブ!」ドン!衝撃波に警報が鳴った。吹き飛ばされた星熊童子や鬼達は階段下まで吹き飛ばされ、転がりながら逃げ出した。
「ゴースト!追え!」ゴーストが駆け出した。スノーは非常口の階段を全飛ばしして飛び降り、虎徹も一緒に追いかけた。
ゴーストが最後尾の鬼に噛みつき、倒れた鬼の上にスノーが飛び乗りスリープスタンプをドン!鬼は眠りに落ちた。
その前を走る鬼に虎徹はスリープスタンプをくないの様に投げ、当たった鬼は眠り、階段をそのまま転げ落ちていった。
鬼達は2手に分かれて、降りる鬼達をスノー、虎徹、ゴーストが追いかけた。
地下8階から通路に逃げ出した鬼達はクラウン、ブラスト、ハニ、チョコで追った。非常口の通路を出ると搬入口の広間から、地下鉄に向かってスロープがジグザグに続く。キャスター付きのカートを押しながら逃げて行く鬼達。
スロープの手すりを飛び越え、クラウンとブラストは距離を詰めて行く。地下鉄に行かせない様に、クラウンはフレイヤを呼び出した。「フレイヤ!防火シャッターを塞いで!」
フレイヤは広間の上空から火の玉を火災報知器に当て、逃げ道を防火シャッターで塞いだ。フレイヤは急降下して挟みうちにする様に下から鬼達を追う。
ハニは見渡せる所で、スロープの手すりの上に立ち上がって集中力を高め構えた。「タクシス!」キャスター付きのカート全て引き寄せた。
鬼達が慌て、挟みうちになった瞬間、クラウン、ブラスト、チョコは一斉にジャンプし大爆発で鬼達を倒した。
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地下に逃げる星熊童子は銃を撃ち、スノーはシェルを使って弾丸をはじいた。そのままタックルし、銃を踏み壊した。階段の上から倒れた星熊童子の姿が見えた瞬間、虎徹が飛翔を使って飛び降り、星熊童子を斬った。
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待機していた犯罪専門家、警察ロボ、検察官、税務調査官が銀行金庫の捜索に入った。回収したカートは全て防弾防火のハードケースだった。カートの中を開け、クラウン達は仏像の一部を取り戻した。
現場は慌ただしく専門家達の調査が続く。
30分もしないうちに別の犯罪専門家が来た。
「お疲れ様です。違法の武器もみつかりました!美術品、兵器はやつらの収入源になっています。魔の巣を突いたので、おかげで場所も特定できました。我々は向かいますが一緒に行きませんか?」
犯罪専門家が目を輝かせ、クラウンの顔を覗き込んだ。クラウンは「えっと、」言いながらみなをチラチラ見ている。
「大門のビルに武器商人の隠れ家があります。このままクエストを受けて一緒に行きませんか?」
「う、うん。仏像、コンプリートしたいから行こっかなー。みんなは?」クラウンはみなを見た。犯罪専門家もみなを見た。誰も目を逸らさなかった。犯罪専門家の熱意の様なものに押され、みなクエストを受けた。
「さあ!行きましょう!」犯罪専門家達と西新宿のビル街のヘリポートに向かった。ヘリで移動しながらディスプレイにロールプレイが流れ、作戦が伝えられた。
犯罪専門家は「テロリストマシーンがいたら手榴弾を搭載しているので、最後は自爆します。下手に刺激しない様に。」と教えてくれた。
クラウンは鼻にシワを寄せた。「じゃあ何かあれば爆発するって事だよね?さっきと違う作戦にしていい?」
ハニが手を挙げた。「はい!賛成ー!私も1個言っていい?」
クラウン達は話し合って、違う作戦を提案した。犯罪専門家達は息をのんだ。
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海の側に浜松町のターミナルが見えた。レンガの街並みに高層ビル、コンテナ街。港には帆船が停泊している。
ヘリは大門埠頭にあるビルに近づいた。
「チョコ!イカロスを使え!」
ビルの2階に3個のマーキングポイント。10階は多数のマーキングポイント。屋上のコンテナハウスは5個のマーキングポイントがついた。
ヘリの扉を開けて、特殊チームの4人がロープ降下して地上から2階に向かった。
ヘリはビルの10階まで浮上。クラウンは構えた。「フレイヤ!10階の武器商人のフロアをぶっ壊して。」
フレイヤは窓ガラスを派手に割って突入した。
ヘリは屋上まで浮上。ハニは構えた。タクシスでコンテナハウスを浮かせて持ち上げた。異変に気づいた鬼達が窓から外を見て、こちらを指差した。鬼が窓を開けようと鍵に手をかけると、ハニは手を回しコンテナハウスをぐるぐる回した。部屋の中の鬼達も回った。ハニは掴む力を少し緩めて一気に地上にコンテナを降ろした。中の鬼達は気絶していた。
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ヘリは大門埠頭のヘリポートに着陸した。
2階のアーミーショップに突入した特殊チームは客に向かって警告した。「動くな!違法だ!武器の密輸で逮捕する!」
カウンターにいた3人の店員は、カウンターの下からこっそり武器を取ろうとするが、特殊チームの4人と状況を理解した客にも銃を向けられた。
店員3人は大人しく連行された。フレイヤも討伐完了し爆破音とビルの火災報知器のベルが鳴り響いた。
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犯罪専門家達の調査が始まった。
防弾防火のハードケースに入ったものは無事に回収された。
クラウン達も立ち会い、仏像の一部を回収した。
犯罪専門家からクエスト完了のサインをもらった。
仏像はまだ揃っていない。
別れ間際、クラウンは犯罪専門家にヒントがないか聞いた。
「あくまで、これは我々の見解ですが、鬼達は北上していると見ています。桜島は海賊船で攻められています。秋の合戦以降、不法滞在している鬼兵の残党は北上しながら逃げているという噂があります。ここから北上したアップル・ステーションから海賊船の目撃情報がありました。」
クラウン達はお礼を言って、仏像の一部を追ってさらに北上した。
その日、初雪の予報がアップル・ステーションに出ていた。
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2章に続く。
絵:クサビ