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トレモロ 2  作者: 安之丞
11/27

2巻 1章 10話

奪還成功した日から、ハニと虎徹はHOMAREの会議や復興など、連日呼び出されて忙しそうだ。


クラウン達は海底寺の復興のクエストを受けた。以前ハニが泊まっていた、海底寺の別院の家で、秋の合戦までお世話になる事になった。


鬼達は海底寺の建物を壊し、中の物を盗み、庭を荒らした。ゴミのポイ捨て、落書きまで悪行三昧の後始末をクラウン達はグチりながら行った。


「なんでこんな所に、ゴミを捨てるかなー?」

「下品な落書きしやがって。字、間違ってるし!」

「鯉が全部食べられてる!?そんなー。」


2週間も経つと新しく、より強化された防壁シャッターが入り、庭師の手入れ、落書きは全て消し去った。美しさが次第に戻った。クラウン達の気持ちも晴れた。


「掃除して綺麗になるって気持ちいいね!」

「新しい玉砂利が届いたぞ。運ぶぞ!」

「和尚様が新しい鯉を見に行こって!」


クラウン達は海底寺の復興クエスト完了のサインを和尚にもらった。心も晴れ晴れしていた。


「みんな!アイス買って来たよ!うわー。もうこんなに綺麗になったのー?すごーい!」差し入れを持って来たハニは大喜びした。


本殿の庭に並んで座って、一面ハスの花の池を眺めてアイスを食べた。


和尚が来て「今夜、灯籠流しをするから参加しないか?」と誘われた。

みな、その文化の事は知らなかったので、和尚にたずねた所、死者の魂を弔って海に灯籠を流す行事だと教えてくれた。灯籠作りにクラウン達は向かった。


海に溶け、魚の餌になる素材でできた灯籠に思い思いの絵や文字を書いた。


竜宮城の海上部、夜の海にみな灯籠を持って集まった。


「スノー殿!」虎徹が声をかけた。

「久しぶり!あれから忙しそうだなシシッ。」スノーと虎徹はハグをした。

「みな秋まで留まって頂き感謝いたす。見届けて下さい。」

「これを見ずに帰ったらダメよ。」ハニがつんとした顔で言った。

「うん、秋の合戦の応援に行くよ!」クラウンは言った。


和尚達の声明(しょうみょう)が終わると、一斉にたくさんの慰霊の灯籠が、温かい光を放って海に流されて行った。


クラウン達はこれまでの事を自然と思い出し、静かに手を合わせ灯籠を見送った。


⭐️


数日後、「夜の海に出かけよう。」とハニからみなにメッセージが来て、みな夕飯を食べてからギルドスーツに着替えて出発した。


星月夜の海。たぷたぷ。穏やかな波の音。


待ち合わせの駐車場にハニと虎徹は到着した。「拙者もこれを着るのか?随分ペラペラだな。」


「そうよ。みんなの分も水着借りて来た。修行も大事だけど、集中力を高めるにはリラックスが大事だって。息抜きになるスポットを兼定さんが教えてくれたの。」


「ん?兄さんが?拙者、そんなスポット初耳だ。」


「うふふ。だから誘ったのよ。あ!ブラスト達来た!こっちだよ〜。」


みな着くなり、水着に着替えた。

「ついて来て。落ちないでね。崖沿いの階段を降りるよ。」ハニは先導した。チョコはハニの後ろで光って足元を照らしながら、細い崖の足場をついて行く。クラウン達は最初乗り気ではなかったが、険しい道にいつの間にか夢中で崖を降りた。


階段の踊り場から海に繋がっている。

「チョコちゃん、ライト消して。」ハニは言った。

「えーなんで消すの?」クラウンは怖がった。


「行くよ!」ハニは海に飛び込んだ。バシャ!バシャ!ハニの周りが青く光った。

チョコ、ゴーストも飛び込んだ。

クラウン達も次々に飛び込んだ。

「わは!」「あはは!」「おー!」「キレー!」水を掻くたびに青く光った。

みな星空を見上げて泳いだり、チョコとクラウンはパシャパシャ光らせるのに夢中になった。「海ほたるか!」虎徹が顔をあげて言った。


「あっちにダイバースポットがあるから、下の方が淡く光ってる。」ハニが指差した辺りにダイバー達はライトを沈めて遊泳していた。「ホントだ!下の方で誰か泳いでる!」ブラストは潜って見た。


しばらく、海の絶景に感動し、開放的な気持ちで海に浮いた。


「そろそろ、上がってスイーツタイムしよ!」ハニが指差した。少し先の浜辺に海の家が見えた。


スノーと虎徹は競争する様にすごいスピードで泳ぎ出した。泳ぐのに疲れたクラウンはゴーストに、ブラストはチョコに捕まって泳いだ。その周りを、青い光りをまとったハニは様子を見ながら泳いだ。


挿絵(By みてみん)


⭐️


海の家でみな好きなものを注文して食べた。

夕飯を食べたのに、男子達は焼きそばを頬張った。ハニはフルーツフラッペを食べながら、焼きそばを一口クラウンにねだった。

浜辺の椅子に座り、まったり過ごせた。

駐車場までゆっくり歩いて着替え、みないい笑顔で解散した。


⭐️


それから数日。

久しぶりに虎徹に起こされた。

「支度されよ。」


海底寺、本殿前。

侍達が集まって必勝祈願に来ていた。大勢の海の街の人々と一緒にお参りした。本殿の仏像は盗まれたまま、仏様の姿は無かった。風が冷たかった。


ついに明後日から秋の合戦の準備が始まる。


⭐️


親日本侍連合の加盟国全ての黒船20隻が、海の中道の海上に集結した。

黒船が連結し、真ん中の大型サルベージ船が海底から武道館を引き上げ、ステージができた。サルベージ船の乗組員達はステージの清掃を始めた。


⭐️


クラウン達は秋の合戦の応援の為、里山村に斗鬼を迎えに行った。里山村には澄みきった涼やかな風が吹き、黄金色に輝く田んぼ、秋桜がたくさん咲き、穏やかな村の暮らしぶりが広がっていた。


⭐️


秋の合戦の幕があいた。

虎徹に招待された観客席は武道場の最前列だった。クラウン、ブラスト、スノー、斗鬼、犬達も胸が高鳴った。


反対側の観客席に柄の悪そうな鬼達がぞろぞろやってきた。武道場にゴミを投げ入れた鬼は奉行達にすぐ連行されて行った。クラウン達はハニの姿を探したが見つからず、下の関係者席から手を振るハニに気づいて、みな手を振った。


しばらくすると、軽快な口調で大会の説明をするアナウンスが流れた。


アナウンサー「世界中の皆さま、こんにちは。これより鉄槍王鬼軍 対 親日本侍連合HOMAREの秋の合戦を始めます。王鬼軍は先の戦で2名の司令官を失った為、今回の団体戦は5番勝負を行います。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将から構成されるチームです。それでは秋の合戦、スタートです!」


音楽が武道場に鳴り響いた。


観客席の鬼達は一斉に足を踏み鳴らし、野太い声の怒音が響いた。「怒、怒、怒、怒。」


アナウンサー「両者入場です!」


親日本侍連合は自陣前に立ち、全員構えた。

「カッコイイー!」「カッケー!」「頑張れー!」歓声が上がった。


「あれ?ハニじゃない?」クラウンが指差した。

「うお!本当だ!」スノーが身を乗り出した。

「ハニどうしちゃったの?大丈夫かな?」ブラストはおろおろした。


アナウンサー「両者代表、一言!」


鬼の大将にマイクが向けられた。「皆殺しだ!」

天狗様にマイクが向けられた。「成敗する!」

鬼の大将がマイクを奪った。「捨て大将で来たか!」マイクを床に投げ捨てた。


「よー。」天狗様は自陣にさっさと座った。


アナウンサー「先鋒、温鬼(うら)対、虎徹。」


両者構えた。

刀と刀がぶつかり、虎徹は切っ先を下にして防御した。お互いに身体で押し合い、鍔迫り合い。虎徹は素早く下がり、打ち込んだ。温鬼も刀で防ぎ、虎徹が刀をぐっと下げ抜き取る瞬間、温鬼の刀を巻き上げ、刀を空に吹き飛ばし、横一文字に温鬼を斬った。


アナウンサー「巻き上げ一文字斬りで虎徹が勝ちました!」


クラウン達も立ち上がって、みな大歓声をあげた。


アナウンサー「おっと、壁に刺さった刀が抜かれ、HOMAREに返還されました。かつてHOMAREの侍から奪った名刀の様です。」


会場に拍手が沸いた。


アナウンサー「次鋒、熊童子(くまどうじ)対、まごろく。」


まごろくは左手に刀、右手にくないを二刀流で構えた。巨大な鬼、熊童子は鉄槍を構え打ち込んで来た。まごろくは刀を頭の上にかかげ、くないで攻撃を受けた。くないで相手の切っ先を少し下げた次の瞬間、両手で回し斬り。

「ダハ!かすり傷じゃー。」斬られた熊童子は助走をつけ槍を構えて走り出した。まごろくはかがんでくないを横にして受け、槍の下を掴んでくるっと回して槍を奪った。槍を奪われ横に転がった熊童子の脳天に、まごろくはくないを撃ちつけた。熊童子は膝をつき、空を見上げたまま動かなくなった。


アナウンサー「くない一本!まごろくが勝ちました!」


大歓声が上がる。


アナウンサー「中堅、獄卒(ごくそつ)対、兼定。」


両者構えた。

獄卒は鎖鎌の分銅を3回まわして踏み込んだ。兼定は上手く避けながら下がった。

兼定が滑り込む様に下から刀を振り上げた。獄卒は鎌で刀を受け、分銅を横から水平に投げた。

兼定はしなやかに反り返りながら刀を鞘に納め、肘を床につき足をふわりと持ち上げ、肘倒立をした。両足で獄卒を挟み、締め、身体を捻った。フランケンシュタイナーで獄卒は投げ飛ばされた。兼定は大きく一歩足を前に踏み込み、刀を掴んだ。片膝をつき刀を振り上げ抜刀、獄卒の首を斬った。


アナウンサー「見事なフランケンシュタイナーからの抜刀術!兼定の勝ちです!」


大歓声が上がる。クラウン達は手を取り合って喜んだ!


アナウンサー「副将、阿黒羅王(あくらおう)対、渡辺。」


両者構えた。

天狗様が軽く面を打つ仕草をした瞬間、阿黒羅王は小手を狙い、天狗様は小手胴で鮮やかに斬った。


アナウンサー「面見せ小手胴で渡辺が勝ちました!過去、最速タイムだー!」


鬼達は地団駄を踏み始めた。観客席にいる前列の鬼達は怒り、いつの間にか武器を握りしめ、今にも襲いかかって来そうだ。


スノーが周りを見ながら言った。「試合後、何かあればゴーストを使ってハニを守るぞ!」クラウンはうなずいたが不安でいっぱいになった。「ハニ!がんばれ!」クラウンは胸が張り裂けそうになって叫んだ。


大歓声と怒音が響いた。


アナウンサー「大将、天邪鬼(あまのじゃく)対、ハニ。」


ハニは両手で印を結び構えた。

天邪鬼は横に唾を吐き悪態をついた。「コノヤロー!バカヤロー!」

ハニは静かに言った。「タクシス。」

天邪鬼は身動きが取れなくなった。ハニは集中力を高めると、黄緑色のオーラは観客席まで伸びていき、観客席の武器まで引き寄せ集め、鬼達はさらに怒り出し悪態をついた。


「復興に助力すると誓いなさい。」ハニは天邪鬼に聞いた。


「コノヤロー!ふざけるな!全部、ぶっ壊してやる!」天邪鬼が「バカヤロー!」と3回連続で言い放った。


ハニが集めた直径5mはある武器の塊を、天邪鬼の真上に落とした。天邪鬼は武器の山に潰され、見えなくなった。


挿絵(By みてみん)


アナウンサー「何という事でしょう。ギルドからの使者が大将を討ちました。ハニが勝利し、鬼は敗れた!鉄槍王鬼軍は敗れましたー!」


大歓声が上がり、観客席も沸いた。クラウン達も抱き合って喜び、拍手した。


武器を取り上げられてた鬼達は不服そうな顔で退出させられた。出港の準備から1時間もかからず、鬼ヶ島に引き返していった。



船を見送ると天狗様は法螺貝を吹いた。

ブォーーー!!

侍達は甲板の上で各自の楽器を奏で、お囃子が武道場に響いた。


⭐️


続く。

絵:クサビ

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