2巻 1章 9話
朝焼けの岬。
まごろくの一陣が到着した。
ぬえに乗った、まごろく、ハニ、斗鬼は岬から海を眺めた。
岬を見渡すと下の砂浜に鬼兵の野営地、浅瀬に槍投機を積んだ船が4隻停泊している。
「行くで!」
「承知の助!」ハニ、斗鬼、侍達は下半分の鬼面を着けて奮い立った。
ハニの目の前に火薬樽が6樽、荷車で運ばれた。ハニはたいまつを侍に借りて火薬樽の導線に火をつけた。「タクシス。」ハニが構えると火薬樽の荷車が黄緑色のオーラに包まれ、岬の先から真っ直ぐ前に浮いて進んだ。
突風が吹いてハニはよろけたが、火薬樽の荷車は並んだ4隻の船のど真ん中へ。
ハニが構えを止めると、火薬樽の荷車が落下した。
ボカーン!
鬼兵の槍投機の船は大爆発し大炎上した。
駆け寄ったぬえにハニも乗った。
ぬえの先頭に乗ったまごろくは侍達に言った。「風上の岩陰で待機や。鼓を待て。」
ぬえの前足をまごろくが足で摩ると、ぬえは駆け出した。岬の下の浜辺に向かって駆けて行く。まごろくが腰を浮かせ膝でぬえの背中を挟むと紫の煙幕が立った。浜辺に着くまで、ぬえは4回麻痺の紫煙を出した。まごろくは、くないを人差し指に引っかけて水平回しし、紫煙の外にいる鬼兵をくないで仕留めた。
波打ち際まで行くと、濡れるのを嫌がったぬえはぐるっと向きを変えて立ち止まった。ハニは来た道を振り返ると、痺れて倒れた鬼兵が岬に続いている。
ハニはぬえから飛び降りて「おやつ!」と言って、ぬえにペットフードをあげた。ぬえはムシャムシャ食べている。
「ダアーッ!」籠った声が岩壁の洞窟から響いた。残りの鬼兵が襲い掛かって来る。
斗鬼はぬえの両脇に下げた、くない袋の紐をほどき、砂浜に大量のくないを落とした。
ドチャドチャ。
ハニは再び構えた。「タクシス!」
大量のくないは黄緑色に包まれ、天高く昇って行く。
「ハニちゃん、斗鬼、慌てんでええ。わしが防ぐ!焦らず行くで!」
「承知の助!」
洞窟から数人の鬼兵がうっすら見えた。
まごろくはくないを投げ、斗鬼が次々とくないをまごろくに渡す。まごろくは受け取ると反回転させ、くないを投げた。
3人はぬえの近くまで徐々に下がった。まごろくは兜の緒を引くと、ホログラムの狛犬が3頭浜辺に現れた。
洞窟から出てきた7、8鬼の鬼兵達は狛犬に翻弄されると、鬼兵隊長が大楯を持って浜辺に出てきた。ハニは両手を下に振り下ろし、くないの雨が降った。
ドスドスドスドス!
翻弄された鬼兵達は倒れた。
くないを大楯で防いだ隊長をハニはタクシスで持ち上げ、まごろくはとどめのくないを両手で2本投げ鬼兵隊長を倒した。鬼兵隊長は浜辺に落ちた。ハニは座りこみ、まごろくは鼓を鳴らして、麻痺した鬼兵を捕らえさせた。
まごろくは兜を光らせ、レーザー光線の合図を送った。HOMAREの士気が上がった。
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参戦したHOMARE所属の戦艦3隻は、竜宮城に向かう最中、鬼兵の2隻の戦艦を砲撃し撃破した。港を開放した。
3国の侍は港奪還の知らせを送り、HOMAREの士気が上がった。
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ブラストと天狗様の一陣は潜水艇で海亀の終の住処を抜け、暗い海を進む。
海底寺の地下の逃げ道に到着し、知らせを受けた。
「よしっ!天狗師匠行きます!」ブラストは潜水艇をゆっくり浮上させる。
「よー。」天狗様は十一面観音の兜をかぶり緒を締めた。
兼定は三日月の兜をかぶり、静かに座って目を閉じている。
海底寺の地下の隠し駐車場に到着し、潜水艇を降りた。
階段を上がって行くと、海底寺、別院の五重塔の下に着いた。
兼定がブラストを呼んだ。
「ブラスト殿が破城槌となって、道を開ける。開門したら行くぞ!よいな!」
「はっ!」侍達は気合充分だ。
ブラストは侍達に送り出され、閉ざされた扉の前で構えた。
「ショックウェーブ!」バゴーン!
扉が四方に吹き飛んだ!
天狗様はハシゴを駆け上がり扉の外に出て、法螺貝を吹いた。侍達が次々に刀を構えて走り出して行く。兼定も出陣した。
「わー!」「ダハ!」鬼兵の野太い断末魔や叫びがあちこちで聞こえ、ブラストの手は勝手に震えだした。
ほんの数分でチーン!チーン!兼定のティンシャの音が響いた。
天狗様とブラストは海底寺の本殿の門に向かった。
宝物庫の防壁シャッターは無理矢理こじ開けられシャッターは歪んでいた。仏像や宝物は盗まれ、かつての整った庭は荒れ放題になっていた。
海底寺、本殿の門も施錠されており、侍達はブラストと天狗様が近づくと、門からさっと離れた。
ブラストは深呼吸して構えた。「ショックウェーブ!」
バゴーン!門の扉は吹き飛び、門の柱は折れた。
その先に大きな曲がり刃を持った鬼兵隊長が鬼兵達と待ち構えていた。
兼定と侍達は声を上げて一斉に鬼兵達に斬りかかった。
天狗様は折れた門柱に軽やかに飛び乗り、舞う様に刀を振って、鬼兵隊長に一太刀浴びせた。鬼兵隊長は大きな曲がり刃で防いだが腕は裂けていた。もう一方の手に大きな曲がり刃を持ち変え、天狗様目掛けて真下に振り下ろした。地面を転がり天狗様はかわした。転がった天狗様は鬼兵隊長の腰に刀を突き刺した。鬼兵隊長は刀を抜かせない様に血まみれの手で刀を押さえた。その手を天狗様が軽く触れた瞬間、鬼兵隊長の体は崩れ片膝をついた。天狗様は軽やかに飛び上がり、脇腹から突き出た刀の先と、柄に足をかけて踏ん張り、腹を斬った。天狗様は刀を拾い、苦しまない様に鬼兵隊長の首を斬った。
海底寺、本殿にいる残りの鬼兵が槍を構えて走ってくる。
ブラストが気付き、門の入り口に大量のマキビシを撒いた。兼定はタイミングを見てティンシャを鳴らした。
天狗様は鬼兵達の方を向き、兜の緒を締めた。兜から観音が現れ眩い光の中、鬼兵達は目が眩んだ。侍達は門を壁にして、一斉に下がり、地面に伏せた。
「ショックウェーブ!」
ビシ!ビシ!ビシビシ!
残りの鬼兵はマキビシを全身に浴びて倒れた。天狗様は法螺貝を吹き、兼定は兜を光らせ、レーザー光線の合図を送った。HOMAREの士気が上がった。
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スノーとゴースト、数名の侍は潜水艇で岬の近くに到着した。潜水艇が海上に浮かぶとスノーは屋根の扉を開けた。爆破された船から煙が上がっていた。
浜辺ではハニとまごろくが、斗鬼とぬえ、侍達に別れを告げ、タクシスで自身を浮かせまごろくと一緒に潜水艇の上まで飛んできた。
「やったな!シシッ!」
「うん!まごろくさんも猫ちゃんもすごかったよ。」スノーとハニ、まごろくはハグして潜水艇に乗り込んだ。
「みな来とるか?どや?」まごろくが扇子をパタパタ仰いだ。
「クラウン達は遠浅の浜辺を走って向かってる。さっきブラストからも海底寺奪還。戦艦は港を解放して天狗様と合流するのに竜宮城へ向かってる。シシッ、来る途中、竜宮城の正門見たらバリケードあったぞ。作りは安いがデカかった。海亀の終の住処のルートから行くか?」
まごろくは扇子を閉じてポンと手を叩いた。「スノちゃん、ここおもろいやつおるんやで。ハニちゃんに気張ってもらおか。」
スノーとハニは頭に?が浮かんだが、まごろくの自信に満ちた表情に納得してしまった。
10分後、海底溝。
「ギルドやから、この道に規制がかからんみたいやけど、普通はここを通らんのよ。君ら海底溝を何度も通って会わんかったか?ほら、朝イチおるわ。」
まごろくの指差す方にスノーはゆっくりライトを当てた。
巨大なワニの目が光った。
ゴーストが吠えた。
「ええやん。もっと吠えて。」
ゴーストはドーム状の窓の前で左右にウロウロしながら吠えた。
大きな前足が1歩、2歩。砂煙をあげて巨大ワニがのっそり出てきた。
「ハニちゃん、力試しや。そいつでバリケード行くで!」
「まじで?!」ハニは慌てて構えタクシスを使った。巨大ワニは黄緑色に包まれ、巣穴から引きずり出された。全長30mはある。まごろくの扇子の指す方へハニは巨大ワニを押し出した。
巨大ワニは体を左右にくねらせ海底溝を進み、追いかける様に潜水艇はついて行った。バリケードが見えた。巨大ワニはバリケードに体当たりして、海底溝にまた潜っていった。
「おもしろいやつの次元じゃねーだろ。シシッ!」スノーは笑いながらゴーストをなでた。竜宮城へ入る正門を突破して、竜宮城へ到着した。
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侍達が竜宮城内の海中エリアを制圧したと連絡が入った。
海底寺から竜宮城へ天狗様一陣も合流した。
竜宮城の大広間に侍達は大勢待機していた。
ハニは大広間の柱の下で座っているブラストを見つけ、声をかけた。
「ブラスト!」
「ハニ!スノー!ゴースト!」ブラストの顔は途端に明るくなった。
3人は手を取り合って再会を喜んだ。
ゴーストはブラストの足に前足を上げて飛びついた。
「よしよし、ゴーストも無事だなー。」
ゴーストは尻尾を大きく振った。
「オレ、途中で手が震えちゃったよ。」ブラストが力なく言った。
「私は腰がぬけて座り込んじゃった。あは。」ハニも元気なく笑った。
「立派にやったな!最後の作戦、決めるぞ!行けるか?シシッ!」スノーが2人の背中をぽんと優しく叩いた。
2人は大きく息を吸って「承知の助!」元気に言った。
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兼定がティンシャを2回鳴らした。
大広間は静かになった。
「これより最後の作戦に打って出る。いざ天守閣へ!」
「はっ!」「おー!」「承知の助!」みな決意の声を上げた。
侍達は大きな声を出しながら、天守閣に突入して行く。
「援軍を呼んだってもう誰もこねーよ!」
「全部落としたぞー!」
「大将でてこいやー!」
兼定は縄を投げて大楯を構えた鬼兵を転がし、引きずりだし刀を刺した。まごろくは矢を構えて引こうとする弓兵に、くないを素早く投げヘッドショット。多くの鬼兵は槍を構えて走ってくるが、狭い廊下では侍達の刀捌きになすすべもなかった。天狗様は壁を走ったり、鬼兵の頭に飛び乗ったり、斬りながら天守閣へ駆け上がって行った。
最上階の奥の部屋を開けた。
ドタドタドタ!バン!
そこには誰も居なかった。
天狗様、兼定、まごろく、侍達は黙って窓を開け外をみた。
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クラウンはナイトメアに乗り、虎徹はアドベンチャーバイクで遠浅の砂浜を走っている。朝の時間だけ、遠浅になり無人の小島にたどり着ける。朝日が反射し、輝く浜辺を必死で駆けた。
虎徹が目を細めて言った。
「クラウン殿、あそこです。」
「まぶしいな。小舟のある、あれね!」
モーターボートの近くにナイトメアを待たせた。
バイクは茂みに隠した。
「クラウン殿こちらへ!」
「うん!」
小島の洞窟の穴は真下に伸び、ハシゴをかけてある。茂みにクラウン、虎徹、チョコは潜んで待った。
クラウンはマップを確認すると、障害物を関係なく真っ直ぐこちらに向かってくる4つのマーキングポイントと、マップ通りに動き回る7つのマーキングポイントが見えた。
クラウンが空を見て笑顔になった。
「みんな!」
ハニのタクシスで到着すると、みな声をひそめて再会を喜んだ。
「スノー、もうすぐ来るよ!ナイトメアもスタンバイok!」クラウンは目を輝かせた。
「来た。」スノーが待ての合図をした。
「ダハッ!」鬼の嫌な笑い声が聞こえてきた。
大きな青い手が見え、次々に鬼兵が出てきた。鬼兵大将と精鋭部隊の7鬼。無事に逃げ出せたと思っているのか、ゆっくり膝の砂を払ったり、笑いあっている。
「行くぞ!」スノーがしげみから飛び出した。虎徹も続いて「参る!」クラウン達も「承知の助!」と続いた。
鬼兵達は洞窟に落ちない様、慌てふためいた。
クラウン達は鬼兵に向かって作戦インパクトを発動した。
「ロージー!」「ショックウェーブ!」「シェル、フリーズ!」「タクシス!」「飛翔!」
ジャンプと同時に光りだした岩の炎の塊が鬼兵に激突し、鬼兵達は燃えながら洞窟の穴に落ちて倒れた。
ボムッ!!!
ボロボロと岩肌が落ち、みな笑顔で成功を喜んだ。
「拙者、星になった。ふうー。すごいな。」
虎徹は驚きの表情のまま、兜の緒を締めて光らせ、レーザー光線の合図を送った。
天守閣から法螺貝の音が響いた。
ブオーーーー!!
「奪還したぞー!」「えいえいおー!」
侍達の勝どきが竜宮城に響いた。
2時間後。
竜宮城の港から 3国の戦艦の監視の下、天狗様は高速クルーザー船に乗り出航した。要請を受け、鬼兵が丸腰で白旗を掲げてモーターボートで到着した。
捕らえた鬼兵を2人だけ返し、天狗様は私掠免許を叩きつけた。
「来る秋、海の中道で決戦いたす。」
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続く。
絵:クサビ