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フィラデルフィアの夜に 噂

作者: 羽田恭

 フィラデルフィアの夜に針金が密集しています。


 薄暗くなった昼と夜の間頃、一人ぽっかりと空いた穴へと向かわされています。

囃し立て、脅す子供たちが同じ年くらいの痩せた子供を、無理にその穴へと向かわせているのです。

 使われなくなった下水なのか索道なのか、乾いた昼の明かりの下に、湿り暗く粘りついた水が延々と垂れ流れ続けている穴へ。

壊れた立ち入り禁止の柵の、その向こうへ。怪物がいると言う噂のある穴へ。そのうわさが本当か確かめるために。

無理矢理に。


 一歩一歩怯えた足取りで、暗い中へ入っていきます。

一度入ったら二度と戻れないという噂もある穴へ。

薄くなった昼の光は、穴の闇に阻まれその子が奥へ行くたびに照らすのを少しずつ諦めていきます。

 もうすっかり、陽の光にも奥へけしかけた彼らにも見えなくなって少し経った頃。


 ぎゃあ


 ただ事ではない叫びが穴の中で反響しました。

大急ぎで戻って来る何か。

怯える様にさらに薄くなる陽の光と、彼らは見ます。

顔の半分に隙間なく太い針金が突き刺さっている、穴の奥へ追いやったその子を。

そして、その針金が穴の奥へ長く長く、繋がっている事を。

 その子は言葉にならない呻きだけを上げながら手を伸ばしてきます。

その子に刺さる針金の部位は爆発的に広がっていき、気が付けば体の全てが密集した針金に覆われていったのです。

 日没のわずかな光の中、けしかけた彼らは一目散に逃げだし、一瞬振り返って見ると、針金があの穴の中へ戻っていったのを見ました。

あの子の姿はもうありませんでした。


 流れる。

流れていく。

水の中を流れていく。

薄暗い中を、流れていく。

青の光の中を、流れていく。


暗い中を流れていく。


微かな光を目指して、流れていく。




 子供がひとりいなくなったと大騒ぎになるも、あのけしかけた彼らは青白い顔のまま、黙り込んでいる。

何も、誰にも出来事を話さなかった。


 流れる。

流れていく。

水の中を流れていく。

薄暗い中を、流れていく。

青の光の中を、流れていく。

光を見つけ、流れていく。


 彼らが街中を俯き歩いていると。

地面が急に湿り気を増していく。

石畳の隙間から、アスファルトのヒビから、コンクリートの割れ目から。

あの穴みたいな水が湧き出てくる。

あの穴から伸びていた様な針金が噴き出してくる。

 混乱が急激に周囲を覆い、針金があらゆるところに、水が全てに忍び寄ってくる。


 流れていく。

光と共に。


 彼らは足元に眼球が転がっているのを見つけた。

ぎょろり、と見るそれに、急激に針金が密集してくる。

瞬く間に顔を形成し、体が、腕が、足が針金によって作り上げられていく。

光り輝く針金によって、あの痩せた子供の体ができ上がっていく。


排水溝よりその時来ていた服が流れ込んで来て、針金に引っ掛けられ、着せられていく。

水が吸われいき、元の人間の外見へと、あの時そのままの姿へと戻っていく。


 衆人環視の街の中で。


「ああ、気持ちよかった」

その痩せた子供は言いました。


 よく分からない出来事の後、諸々の話を聞かれた後、脅されたその子は大人たちに散々怒られてきた彼らにこう言います。

「あの穴には怪物がいる。噂は本当だ。でもそれは僕たちの正体が怪物という事だ。

あの穴に入れば僕たちは本当の姿にされてしまうという事だ。」

 もう二度と行くわけにはいかないけれど、僕の本性になる事は気持ちよかった、と続けました。


 あの穴の入り口は、埋められてもう覗き見る事も出来なくなっています。


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