よくあるセリフから即興で小説を書いてみよう!第一作「お……お前は……誰だ!?」
新天地で高校生活を迎えるべく鮫島市に引っ越してきた遠野公平は、高校の入学式で小学校の卒業式以来の幼馴染、高崎詩織と偶然再会する。それから10か月、何事も起きないよう、細心の注意を払ってきた遠野だったが、ついにその平穏が崩される時が来た……。
「お……お前は……誰だ!?」
目の前にいる幼馴染の女子高生に、俺はこう言った。
「おっはよ~!公平君!今日も元気かね?」
そういって勢いよく肩を組んできたのは俺の幼馴染で現役女子高生、高崎詩織だ。
こいつは小さいころからよく俺に絡んできては騒動を起こし、小さな揉め事を可能な限り最大化し、最終的には俺を巻き込んで解決させる、典型的なトラブルメーカーだ。正直、今後、もう二度と俺の前に現れないでほしい。
「んん~?いつも通り覇気がないねぇ。それじゃあ群がる海賊を気合だけで気絶させることなんてできないぞ!」
「海賊に群がられるような人生は送ってないし、気合で人は気絶しない」
「そんなことはないぞ少年。修業を積めば、だれでもかめはめ波は撃てるのだ!あ、おはよー!」
最後の一言はそこの曲がり角から出てきた同級生の女子二人組にかけたもので、詩織の親友だ。
そのまま二人の方へ走っていく詩織を見送って、俺はまた一人静かに登校を再開する。
鮫島市立第3高等学校1年C組遠野浩平。それが今の俺だ。それ以上でもそれ以下でもない。名探偵でもないし、格闘家でもないし、もちろん海賊王を目指しているわけでもない。中学までは隣の南風原市にいたのだが、事情があって高校からこの鮫島市に引っ越してきたのだ。まさかそこに小学校の卒業と同時に転校した幼馴染が住んでいるとは知らずに。新天地で静かに余生(?)を送るつもりだったのに、高校生活初日にして人生設計は崩壊してしまった。それから10か月。長かった一年目もようやく終わりが見えてきたところだ。否。千里の道は九百九十九里をもって半ばと心得よ、という格言もある。気を抜かずに、今日も教室の端の席で本を読んで目立たぬように過ごすとしよう。
放課後。
「ねえ、遠野君て、ほんとに詩織の彼氏なの?」
「ん?ほんとだよ?でも欲しければあげるよ?」
「それってホントに彼氏なの?」
一年C組の明るいほうの部屋の端で、佐賀深雪、高崎詩織、長浜博絵の三人が談笑している。
「じゃ、じゃあさ、遠野君に、チョコあげても、いい?」
「ああ、そーゆーことね。全然OKでしょ。っつっても『ありがとう』の一言で終わると思うけどね」
佐賀の頭の後ろには、言葉の前半でキラキラが飛び出していたが、後半で黒い縦線と渦巻き模様に変わった。
「深雪にゃ脈なし、ってこと?」
と長浜が追い打ちをかける。
「うんにゃ、毎年誰かしらからもらってるみたいだけど、全員対応は同じだったって言ってた」
「え?うそ。それまじ?人でなしすぎん?」
「そーゆーやつなんだよねー。でも、「渡す」ことはできるし「ありがとう」は言ってくれるから、それでもいいなら渡してもいいと思うよ。実際、それで満足するやつもいるみたいだし」
「イケメンだし、友達いないってのがミステリアス感出しまくりだし、そういう趣味の子には刺さるんだろうね」
と、当の佐賀を置いて二人で話が進んでいく……。
日が傾き始めたころ、校内放送で一人の生徒が呼び出された。
「一年C組の長浜博絵さん、一年C組の長浜博絵さん。お迎えの方がお越しです。正門までお願いします」
「あちゃー、もうそんな時間か。じゃ、お開きにするか」
長浜博絵は現鮫島市長の娘であり、プロのeスポーツ選手だ。トレーニングのある日(月火木金)は車で学校からトレーニングセンターに移動することになっており、学校もそれを許可している。市長の職権濫用といわれることもあるが、現役女子高生のプロスポーツ選手ともなれば、そのくらいは許されてしかるべき、という意見も少なくはない。
「じゃ、あたしらはチョコの催事場巡りでもしますか」
「え?う、うん、ありがとう!」
三人は席を立つと、談笑を止めることなく教室を出て行った。
教室の暗いほうの端で受験用参考書の誤字探しをしていた遠野公平は、窓の外から長浜の姿を見かけた運動部の男子生徒が彼女を応援する声を聞くと、参考書を閉じて窓辺に行き三人の姿を眺めた。正確には三人の中の一人を、だが。
やがて三人が正門に差し掛かると、視線を門外に停車する黒いセダンとその隣に直立不動で立っている男に目をやった。
そしてすぐに視線を詩織に戻したがその瞬間、違和感を覚え再び車と男の方に視線を戻す。
「詩織!そいつら星神教だ!」
公平の怒鳴り声が学校中を震わせると、車の隣に立っていた男は即座に三人に向かって動き出した。
ここからでは遠すぎる!
そう頭の中で考えた時にはすでに体は階段の方へ、昇降口の方へ、正門の方へ動き出していた。
一方、高崎詩織は遠野の声を聞くや、長浜と佐賀を正門の方に押し返すと男との間に立ちふさがった。
武道を習っているわけでも、護身術を身に付けているわけでもないが、とにかく持ち前の漢気によってとっさに取った行動だった。そしてその次の行動は本人も考えていた行動ではなかったが、それが逆に男にとっても不意打ちとなった。
手に持っていたカバンを思いっきり投げつけたのだ。
「かめはめ波ーーー!!!」
と絶叫しながら。
それも意図してかせずかは分からないが、カバンのフタが開いていたため、中身が散乱し予想外に高い足止め効果を発揮した。
その間に長浜と佐賀は校庭の中ほどまで走れたため、活動中だったサッカー部の男子生徒たちに保護された。
かめはめ波を撃った後、高崎は男がひるんだ様子を見てから振り返り、二人が安全圏に脱したのを確認すると、自分も校舎に向かって一目散に駆け出した。
が、一歩目を踏み出し、二歩目が地に着く前に腕をつかまれた。
博絵を狙っていたと思い込んでいたため、自分が捕まるとは思っていなかった。その驚きが体を固くし、そのすきを狙って男は詩織のみぞおちに拳を叩き込んだ。
「!」
ようやく昇降口から出てきた公平は男の腕の中に落ちる詩織の姿を見た。
「詩織!」
昇降口から正門までは50mはある。走ってる間に詩織は連れ去られてしまう。部活中の生徒は教員の指示で校舎の方に避難している。誰も詩織に近づこうとする者はいない。星神教徒は自爆テロの可能性がある。教員であっても、あるいは警備員や警官であっても近づくことに躊躇いを覚えたとしても一方的に非難することはできないだろう。
だめだ。詩織が攫われる。あの時みたいに。
そう思った時、公平の体は動いていた。
走りながら両の掌を20センチほど離して向かい合わせ、腰だめに構える。
手の中に生まれる光球。
走っている勢いをすべて込めて震脚。
その力をすべて手の中の光球に込め、両腕を突き出す。
「ハッ!」
光球は光の尾を引き、公平の手を離れ、込めたすべての力を乗せて男へと迫る。
公平は魔法使いである。
両手の中に魔力を込めると光の弾を作ることができ、両腕を突き出す速さでその弾を打ち出すことができる。ただしこの光球は公平にしか見えない。
そしてこれは決して「気」や「オーラ」ではなく「魔力」である、と公平は思っている。
なのでこれは決してかめはめ波ではない。
「魔力」の「弾」を打ち出す魔法。ゆえに公平はこれを「魔砲」と名付けている。
しかし公平の放った「魔砲」は、走りながら、そしてかなりの遠距離だったこともあり、狙いが外れ、男の腕をかすめて背後の壁に衝突した。壁はダイナマイトが爆発したかのように吹き飛んだ。
突然爆発した壁に、その場に居合わせたものは全員驚いたが、詩織を抱えた男はいち早く立ち直り、そのまま車で逃走した。
公平は際限なく力を込めた「魔砲」を放った反動で、その場で意識を失った。
その夜。
公平は自宅の自分の寝室で目を覚ました。
「詩織ちゃんはまだ鮫島市から出ていないよ。公平君が星神教だと叫んだおかげで、緊急手配ができたんだ。だからこれは君の功績だ」
枕元には公平の父がおり、目を覚ますとすぐにそう声をかけてくれた。
遠野家は父と子の二人家族で、父親は警察官をしている。それも公安の。星神教は公安の指定団体であるため、公平の父がこの件に関わるのは当然の流れだった。
「犯人の居場所はわかるかい?」
公平の「魔砲」は副次効果とでもいうべきものがあり、命中した際に公平の魔力がマーキングされるのだ。それはおよそ24時間で消えてしまうが、それまでは方角と距離が公平には手に取るようにわかる。
父の問いに対して、公平ははっきりと答える。
「わかる」
「自分で行くかい?」
うなずいて答える。
「なら、公安は朝まで待つ」
「わかった。それまでにケリをつける」
公平はベッドを抜け出し、制服に着替える。鮫島高校はブレザーだが、今着替えているのは学ランに近い。国家公安委員会直轄の下部組織「魔法事件処理担当課」の隊服である。
昨今、不可解な事件が増え始め、世間は魔法の存在を噂し始めたところだが、この国はいち早くそれに気づいており、魔法がらみの事件を解決するために魔法使いで編成された特別チームを作った。それがこの「魔法事件処理担当課」だ。もちろん公に認められている組織ではない。
そもそも、魔法という存在も「現在の科学では解明できない現象」という認識であり、それに対応するために「現在の科学では解明できない能力を持ったもの」たちで組織されたチームなのだ。故に年齢や性別も区別なく編成されているわけだが、彼らはこの組織に属さなければ最悪の場合科学実験の実験材料にされる可能性がある。「魔法」という現象を「科学」が解明するための贄とされるのだ。
だが、公平はそんなネガティブな理由とは関係なく、魔法の力を人類のために役立てたいと思っている。そのために与えられた力なのだと。
「じゃあ、父さん。先に行ってる」
「いってらっしゃい」
そんなどこにでもある親子のやり取りを交わすと、公平は玄関から家を出た。
都市の地下には「廃坑」というものがある。地下道や地下街を作ろうとして途中で廃棄されたものや、地上の建築を進めやすくするために一時的に作られた地下道で、そのまま廃棄されたものなど、理由はいろいろある。おそらくその中のどこかに、例の男が潜んでいるようだ。
公安の持つデータベースから一般には公開されていない「廃坑」の地図を取り出し、自分の距離感と重ね合わせる。地図上で居場所を特定が完了したら、そこへと至る最短ルートを検索する。
次に、その場所からの逃走ルートを想定し、公安の権限で各ルートにロックをかける。事実上の一本道の行き止まりという状態にしたところで、公平は最短ルートに乗り込んだ。
「廃坑」はその名の通り、電気が通ってなかったり、空調がなく換気がされていないところもあるが、ここは人間が生活できる程度の最低限の明かりと換気はされているようだ。
ターゲットの位置はわかるが、その周りがどうなっているのかはわからない。罠があるかもしれないし、複数の人数で待ち構えているかもしれない。できるだけ暗いところを選んで、音をたてないように慎重に進んでいく。
結局目的地までは罠どころか見張りの一人もいなかったので、後から見れば徒労ではあったが、それは結果論でしかない。注意に注意を重ね、ようやくたどり着いたその部屋に、さらに慎重に近づく。
男の反応は部屋の奥にあり、全く動いていない。座って作業しているのか、もし寝ていたりしたら一番都合がいい。
部屋の扉は引き戸になっていて隙間がない。中の様子をうかがう為に魔法事件処理担当課の7つ道具の一つ、「透過ファイバーカメラ」を制服から取り出す。
魔法事件処理担当課の職員にマジックアイテム作成者がおり、その人が開発した現代科学では再現できない特殊な道具が制服に内蔵されている。その一つがこれで、通常のファイバーカメラはわずかでも穴がないと通すことができないが、この透過ファイバーカメラは厚さ15センチ程度の壁や扉なら物理的な障害を無視して中に送り込むことができる。
扉の端からカメラを中に送り込むと、眼前のホロモニターに中の様子が映し出される。
部屋の中には……何もない?
男は……部屋の隅で倒れている!?
詩織は……詩織は……いた!部屋の隅で……膝を抱えて座っている?
それ以外のものを見つけられず、危険はないと判断した公平は扉を開け、中に入った。
「詩織!無事か!?」
膝を抱えて座っていた少女は、その呼びかけでゆっくり頭を上げた。
「遠野浩平」
いつもの快活な口調ではなく、深く暗い闇の底から漏れ出るような声でその名を口にした。
「……詩織?」
呼びかけには答えず、少女はゆっくりと立ち上がる。
その立ち上がる、という日常の動作が、詩織のものではない、と公平は思った。
半歩下がり、両手を腰だめで向かい合わせに構え、戦闘態勢をとる。
「お……お前は……誰だ!?」
「私は」
「たかさき」
「しおり」
「星神教の」
「教導員」
文節ごとに一呼吸の間を開け、とてもとてもゆっくりと言葉を紡いだ。
「詩織が……星神教の……教導員……だと?そんなことあるわけないだろ!!」
語尾は声にならない絶叫だった。
「詩織は小学校の卒業式の時、星神教に殺されかけたんだぞ!」
「あの時公平が私を助けなければ、こんなことにはならなかったの!」
公平の絶叫に、今度は詩織が金切り声を放つ。両手に練り上げられていた光球は霧散した。
「え?」
かぶり気味に放たれた叫び声に公平は虚を突かれた。
「あの時、公平が私を助けてくれて、中学は離れ離れになって、それから3年間……地獄だった」
詩織が独白する。
「新しい土地で、友達作りから始めなきゃいけない時に、必死になって友達作ろうとしてたら、いつの間にかに私の周りは教団の人ばっかになって、人間の醜さを見せつけられ続けたの」
俯き、静かに語る。
「人間が嫌いになった。でも公平は好きだった。お父さんも好き。でも人間は嫌い。深雪と博絵は好き。でも人間は嫌い。……心が二つに割れちゃったの」
「日常生活を送る高崎詩織は今まで通りの私。明るく元気な女子高生」
「星神教の教導員の私は多禍裂死澱。私は人の名前を記憶できない」
「多分、人間ていう抽象的なものが嫌いで、一人一人のことは好きなの」
「だから、遠野浩平は好き。でも人間は嫌い」
「だから人間は滅ぼすの」
「だから助けて」
「だから死んで」
二重人格となった「たかさきしおり」の意識が両方同時に顕在化し、一つしかない器の中でお互いを鬩ぎ合い、お互いと器が壊れ始めていた。
しおりの手にはナイフが握られていた。
それを両手でつかみ体の前に突き出し、そして公平に近づいてきた。
「死んで」
「助けて」
ゆっくりと近づいてくるしおりを、公平は両腕を広げて迎え入れた。
「わかった。俺はしおりを受け入れる」
ナイフが刺さる。
両腕でしおりを抱きしめる。
ナイフを持つ両手に公平の温かい血が流れ続ける。それを詩織の涙が薄める。
少女を抱きしめる少年の腕は強く、優しく、離すことはない。
長くはない静止した時間が過ぎ、やがて二人ともその場に崩れ落ちた。
後日。
「あんたバカ!?ナイフおなかに刺さったら死ぬでしょ!?普通!!」
「バカってなんだよ。セカンドチルドレンかよ。腹は鍛えてるから詩織の力じゃ奥まで刺さらないかなって思ったんだよ」
「あの状況でそんな打算してたの!?最っ低!」
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
市立の公安の息のかかった病院の一室。
怒っているのは言葉の内容だけで、声も表情も明るく笑っている。
「あ、ところで、詩織、死澱は……もういなくなったのか?」
「死澱ね。多分、眠っているだけ。何かきっかけがあれば、もしかしたらまた起きるかもしれない」
「そうか……」
二人の間に沈黙が下りる。
そのすきを狙ってか、病室の扉がそろそろと開けられ、二人の女子高生が顔をのぞかせた。
「あの~、そろそろいいですか~?」
佐賀深雪と長浜博絵だった。
「わ、遠野君、もう起きても大丈夫なの?」
「わざわざありがとう、長浜さん、佐賀さん。もう全然平気だよ」
「あ、あの、差し入れとか持ってきたんですけど、もう、何を食べても大丈夫なんですか?」
「うん、内臓まで達する傷じゃなかったからね、むしろ栄養のあるものをいっぱい食べなさい、って言われているよ」
深雪の頭の後ろにまたキラキラが浮かび上がる。
「じゃ、じゃあ、これ、受け取ってください!」
深雪は、二週間かけて選び抜き、自らの手でラッピングし直した渾身のチョコレートを差し出した。
「ありがとう」
と言って公平は受け取り、サイドテーブルに置いた。
「うわあ、ほんとにひとでなしだぁ……」
博絵が思わず声を出してしまった。
「ね?言ったとおりでしょ?」
詩織が呆れたように続いた。
「う、うん……」
深雪の頭の後ろに黒い線が伸びる。
「え?なに?おれ?」
公平は何もわからなかった。
そして4人は笑った。
冬の澄んだ空に明るい声が響く。
完
タイトルの通り、よくあるセリフから、イメージを膨らませて即興で書いた小説です。
世界観は以前から脳内にあったものを流用しましたが、話は完全に描きながら考えました。
いずれはラノベみたいのを書きたいと思っていますが、設定廚なので、いろんな設定はぱっぱと出てくるんですが、文字に起こすのが苦手で、今はとにかく、数を書いて文章力を上げたいな、と思っています。
しばらくはこのスタイルで行こうと思っていますので、もしお付き合いいただける方がいらっしゃいましたら、今後とも良しなにお願いいたします。