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第48話 種麹の入手

 それからも私とマシューさんは定期的に手紙のやり取りを交わした。勿論内容はカビについての話題ばかりだ。


 そして何度目かの手紙のやり取りをした頃、マシューさんにお願いしていたコウジカビが手に入ったとの知らせが届いた。


 ちょうどお米を収穫し終えたタイミングだった。麹を作るにはいいタイミングだ。


 是非ともコウジカビを譲ってほしいとお願いすると、マシューさんは手紙や郵送ではなく、自らコウジカビを持ってブルーフォレスト家にやって来た。



「ラウル様、エルシー様、お久しぶりです。……約束していたコウジカビがようやく手に入りましたよ」


「ああ、マシュー。よく来たな」


「わざわざ御足労いただきありがとうございます。ぜひ拝見させてください」



 私とラウル様は応接室でマシューさんを迎え入れる。マシューさんは懐から袋を取り出すと、私たちに見せた。


 私は思わずごくりと喉を鳴らす。そんな私の様子に気付くことなく、マシューさんは口を開いた。



「僕の同志である菌類愛好家の人脈を使って手に入れました。いやあ、僕も今回初めて知りましたが、菌類愛好家の中には未知なる菌類を求めて北の果てから南の外れまで、西の果てから東の外れまで足を運ぶ者もいるようです」


「それは……すごい情熱ですね……」


「ええ、僕もそう思います。……いやあ、僕も負けていられないなあ。僕もいずれはエラルド王国を飛び出して、自らの足で新種の菌類を見つけ出し培養に成功させたいものです」


「おいおい、それではブラウン男爵家の跡継ぎがいなくなってしまうぞ」


「それもまた一興。ブラウン家は相応しい誰かに継いでもらえばいいのですから」



 マシューさんは本気とも冗談ともつかない様子で言う。それからマシューさんはコウジカビが入った袋を、私に差し出した。



「ではどうぞ、お受け取りください。エルシー様がお望みのコウジカビですよ」


「ありがとうございます!」



 私はワクワクしながらそれを受け取ると、まじまじと見つめた。ついに手に入れた……コウジカビ! 夢にまで見たコウジカビだ! ふふふふふ……!



「ついでに菌類愛好家の話を聞いたところ、やはり東方の小国ではエルシー様が言うような使用法がなされていたようで……『種麹』の作り方も教えてもらい、加工しておきました」


「え!? 種麹を作ってくださったのですか!?」


「はい」



 マシューさんは無表情で事も無げに言った。私は嬉しさのあまり卒倒しそうになる。なんなの、この人は。天才ですか? 天才なのですか?



「ありがとうございます!! 本当になんとお礼を言ったら良いか……!」


「いえ、お気になさらず。僕としてもコウジカビの生態と種麹には興味がありましたので……」



 まさかこんなにもとんとん拍子で種麹が手に入るとは……これも全てマシューさんの手腕のお陰だ。本当に頭が上がらない。



「ではマシューさん、種麹の代金は――」


「いりませんよ。言ったでしょう、僕としても興味があったと。だからお代はいりません」



 マシューさんは無表情のまま静かに首を横に振る。



「僕はお金のことよりも、その種麹がもたらす効果を早くこの目で見たくてうずうずしているんです。噂に聞く種麹の発酵とはどんなものですか……!? 一体どんな食品に加工できるというのですか……!? ああ、見たい、見たくてたまらない……!! ラウル様、エルシー様、金勘定などどうでもいいから早く僕に種麹の効果を拝ませてください……! くふ、くふふふふ……!」



 マシューさんは目を輝かせて笑顔を浮かばせる。


 どうやら私が思っている以上に、コウジカビに興味津々らしい。……うーん、これはもう種麹の代金は受け取らないだろうな……。


 ここまで言っている以上、代金を渡して終わりにするよりも、実際に種麹を使った加工の現場を見せてあげた方が遥かに喜ぶだろう。隣に座るラウル様を見ると、彼も深く頷いた。



「そうか、分かった。まあ礼は改めて行うとして……今日のところの礼は、お前の望み通り種麹の効果を見せてやろうじゃないか。なあ、エルシー?」


「はい! ちょうどお米も収穫できたばかりなので、是非ご覧ください!」



 それから私たち三人は揃って厨房に移動する。厨房はちょうど空き時間だ。今なら邪魔にならないだろう。


 一応近くにいたメイドさんに厨房を使わせてほしい旨を伝えてから、私たちの麹作りが始まった。

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