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第21話 ダニー・スカーレット男爵令嬢の野望

 その頃、スカーレット男爵家のサロンでは一人娘のダニーが荒れていた。



「昨夜の舞踏会、ちっともいい殿方がいなかったわ! いつもいつも、わたくしに寄ってくるのは程度の低い男ばかり……!  わたくしが理想とするような殿方は、既に相手がいる方ばかり……! ああ、どうしてこの世はうまくいかないのかしら!?」



 スカーレット男爵家の本家筋で、従姉のエルシーを追い出した後、ダニーは晴れてスカーレット男爵令嬢を名乗るようになった。


 しかし男爵令嬢として晩餐会や舞踏会に参加しても、声をかけてくるのは位の低い貴族や、あるいは裕福だが身分は平民の商人ばかり。


 ダニーが理想とするような、伯爵以上の高位貴族からは見向きもされない。



「ダニー、いい加減結婚相手を決めたらどうだ? この前の晩餐会で熱心にお前に声をかけていた商人はどうだ? 手広く商売をしているらしいから、結婚したらいい生活をさせてもらえるぞ」


「まあ、お父様ったら! 平民の商売人に嫁ぐなんて断じて嫌ですわ! わたくしは貴族の令嬢ですのよ!!」



 見かねたダニーの父が声をかけてくるが、ダニーは聞く耳を持たない。


 父であるスカーレット男爵は、額に手をあててため息をつく。



「貴族とはいうが、私たちは本来スカーレット家の分家筋。お前も私も数年前までは平民同然の暮らしをしていたじゃないか」


「でも今は違いますわ! お父様はスカーレット男爵で、わたくしは男爵令嬢ですのよ。令嬢たるわたくしが平民と結婚だなんて、考えただけでゾっとしますわ! せっかく上流階級に属しているんですもの、素敵な殿方を捕まえて上昇婚を狙わなければ損というものでしょう?」



 いくら貴族の地位があっても、その性根が卑しいということにダニー本人は気付いていない。


 彼女は自分を客観視できない。地位や肩書でしか人を判断できないから、自分のことも正確に判断できない。


 そんなダニーに比べればスカーレット男爵は客観性のある人だが、娘を愛するあまり強く出られないでいた。



「そうだ。結婚といえばブルーフォレスト家に嫁いだエルシーから手紙がまた来ていたな」


「エルシーから?」


「ああ。国王陛下の生誕祭に、ブルーフォレスト辺境伯共々招かれたそうだ」


「へえ、そうですの」


「なんでもブルーフォレスト領で農業に励んでいるらしく、大豆やビーツの加工に成功したとも書いてあったな」


「大豆にビーツぅ~? そんな家畜の飼料なんかに関心を持つだなんて、いかにもあの地味で泥臭いエルシーらしいですわ! 王国貴族で一番醜いと噂される辺境伯とお似合いですこと!」



 ブルーフォレスト辺境伯。


 地位だけなら文句なしの上位貴族だが、その容姿は国内の貴族の中で一番醜いと評判だった。


 最初はダニーに縁談が来たのだが、その名前を聞いた瞬間に断った。そんな醜い辺境伯に嫁ぐなんて、考えただけでゾッとする。いくらいい暮らしが出来るとしても願い下げだった。


 だがブルーフォレスト家との繋がりができるのは望ましい。資金援助を受けられる可能性が高まるからだ。


 そう考えたダニーとスカーレット男爵の共謀により、縁談はエルシーに押し付けられた。


 エルシーとラウル・ブルーフォレストが結婚すれば、スカーレット家にも援助の資金が入るだろう。スカーレット男爵はそう期待している。


 いくら貴族といえども、スカーレット家は貴族の中でも弱小の下位貴族に当たる。


 自分の領地を経営するだけでも大変だし、貴族間の付き合いには多額の金がかかる。


 だからこそスカーレット男爵は、娘のダニーには金のある商人と結婚してほしいと思っているのだが……彼女は頑なに首を縦に振らない。


 貴族階級の身分があれば、伯爵や公爵と結婚できるものと夢を見ている。



「そうだわ! 国王陛下の生誕祭にはエルシーたちも来るのかしら?」


「ブルーフォレスト辺境伯と彼の婚約者だからな。当然招かれているだろう」


「うふふふふ、久しぶりにストレス解消……じゃなかった、エルシーに会いたいですわ、お父様! わたくしも連れていってくださいまし!」


「いや、しかし、ドレスを新調するとなるとまた出費が……」


「よいではありませんの! 上位貴族が集まる舞踏会や晩餐会も催されるのでしょう? 素敵な上位貴族の殿方に見初められるチャンスかもしれませんわ! 投資だと思って新しいドレスとアクセサリーを仕立ててくださいまし!」


「わ、分かった、分かったから服を引っ張らないでくれ、服を……!」



 こうしてダニーも国王陛下の生誕祭に参加することになった。


 スカーレット男爵は急な出費に寒々しい思いを抱くが、これも愛娘の為だから仕方がないと割り切る。


 そしてダニーは、エルシーがどれほど醜い辺境伯に嫁いだのか想像するだけで胸が躍る。



(久しぶりに思いっきりバカにしてやりましょう! いくらお金持ちで上位貴族でも、醜い男と結婚するなんて御免ですものね! こちらの婚活がうまく行っていないストレス解消に、思いっきり笑ってやりましょう!)



 そしてダニーはスカーレット男爵に連れられ、国王陛下の生誕祭に出席する。


 そこで予想外の光景を目撃することになるのだが……それはもう少し先の話である。

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