かつて“ひと”だった“きみ”へ
拝啓 かつて“ひと”だった“きみ”へ。
これが初めて君に中てて書く手紙だと思う。そして、これが最初で最後の手紙だと云うことも解かっているのだけど。どうしても、書かないといけないと思ってしまったんだ。
きみはとても美しかった。きみは公爵令嬢で、ぼくは伯爵の次男坊。父同士が幼なじみと云うこともあって、身分の差がありながらも一緒に育つことが出来た。
幼い時は良かった。毎日のように庭で走り回って遊び、笑い、そしていろんな話をした。きみは本がとても好きで、いつも1冊は本を持って来ていて。遊び疲れた時には、きみが本を読んでくれたのを覚えている。きみはとても、博識で。ぼくはいつも追いつこうとして必死だったよ。
きみが7歳になった時、王族との婚約が決まり、それからきみの生活は変わってしまった。まだ、7歳なのに、毎日のように王族としての勉強が始まって、王城に通うようになり、ぼくとは会うこともできなくなってしまっていた。それでも、遠くで見るだけはできていたから。日に日に幼きながらも、やつれていくきみを見て、とても心を痛めていたのを思い出す。
見ていられるだけで良かったんだ。きみを見守っていられるだけで。それだけで良かったんだ。だからこそ、騎士学校に入った。きみを一番近くで守れることが出来るようになるように。と。
騎士学校は全寮制で、とても厳しかったけど。出発前に見送りに来てくれたきみの姿を思い出して、毎日頑張って厳しい授業と体術と剣術に励んだ。励んで励んで、15歳の時にようやく騎士学校を卒業し、騎士団に入った。そして、そこでも頑張って階級を上げて、皇族直属の騎士団へと入ることが出来た。
ようやく、きみを守れると意気揚々に、挨拶に行ったのだけど。皇子の横にいたのは、きみではなく、見たこともないひとだった。どうして、一体ナニがあったのか。ぼくは、必死に情報を集めた。そして、皇子が学園を卒業する時に、きみを貶め辱め嵌めて、婚約を破棄し、きみを奈落の底へと陥れたと云うことを。
ぼくの中で、なにかがぷっつりと切れた。
わたしは、チャンスを待った。皇子とその横にいるモノに忠誠を誓いながらも。国王と王妃を守りながらも。わたしは、待った。チャンスを待ち続けた。そして、そのチャンスをようやく掴んだ。
まずは、手始めに、きみときみの家族を嵌めた国王と王妃の寝首を獲った。騎士団への扱いがとてつもなく悪かった王族への反逆は、とてつもなく。あっという間に、あたりは血まみれになった。国王と王妃の首は、城壁にさらし首になった。あの皇子と横にいるモノも、時間の問題。が、どうやら、王族しか知らない隠し通路があったみたいで。逃げている脚音が、響いていて笑いを必死に堪えた。
追い詰めた皇子が、どうしてお前が。と叫んでいる。その横でモノも、どうして!? こんなことを!? と叫んでいた。どうして? だと。良くもそんな寝言が云えたものだ。貴様らは、貴様らの欲のために。公爵一家を嵌めて、奈落へと堕とした。その罪を、償う時が来たのだ。ただ、それだけだ。
元皇子と元モノを捕らえた。簡単には、死なせはしない。まずは、腹を引き裂き、内臓を引きずり出した。凄まじい、化け物かと思うほどの絶叫が響いていたよ。流石に、その所業は、騎士たちも眼をそむけ、手を止めていた。わたしは、その様子をあざけ笑って見ていた。元2人は、わたしを見て懇願していたが。ナニを懇願しても無駄だ、と次から次へと死なない程度の拷問を咥えていた。
だが、叫び声が聴こえなくなった。2人を見たら、既にこと切れていた。くだらない。わたしは2人の首を刎ねるように命じ、それを持ち騎士団から去った。
さて、話しが長くなってしまった。いまから、きみへプレゼントを持って行くよ。もう、見たくはないとは思うけど。滅んだ国のモノなんて、ね。
廃屋と化した、公爵家の前で2人の人の首を掲げて見せる。音も無く、鉄門が開く。わたしは、中に入った。誰もいないはずの屋敷の中からは、数年前から声がする。と。夜中に、屋敷の灯かりが点き、パーティーをしている。と。幽霊屋敷と化していて。わたしは、躊躇することなく、かつて毎日のように来ていた扉を叩いた。
かつて、“ひと”だった“きみ”に、その2つを見せた。きみは、とても嬉しそうにその2つを受け取ってくれた。そして、わたしを迎えてくれた。わたしは、ようやく、きみと一緒にいることができた。なにも、後悔なんてしていない。
わたしは、やっと、きみを手に入れることが出来た。
さぁ、2人でいままであったことの話をしよう。面白おかしく、わたしは騎士学校と騎士団の話を。きみは、貴族学園でのことを。誰にも邪魔されずに、永遠に。
敬具
急に思いついた、手紙風のひとり語り。