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間諜皇女 ~スパイ・プリンセス~   作者: 藤花チヱリ
番外編&日常編
27/47

葵の事件ファイル その一

昨日お知らせした通りの、番外編的なエピソードです。時系列はあまり考えていません。

本編ともあまりかかわりがないので、謎解きエピソード、として寝落ちのお供にしていただけると嬉しいです!

「知ってる?」


「知ってる、知ってる。怖いよねえ」


禿たちがざわざわと騒ぎ立てている。


妓女や禿は妓楼という名の檻の外に出られることなど基本的にないので、御客が持って来た話や噂話が話の種になりやすい。


この時の葵は気にも留めなかったが、実はこの時話していた禿たちの噂が、後に大きなヒントとなるのだが…


ちなみに何故、この時葵が気にも留めなかったのかというと、その前に接待していたとある若い御客のせいである。



〇●〇


「…それで?」


「女を落とすにはどうしたら良い?」


(知らないよ)


今すぐここで知りません、と切り離したいところだが、お金は前払いされている。


はなから答えるまで離さないつもりだ。


「その女性の好きなものを送るのは?」


「好きなものがない、と言われた」


「文を送ってみるのは?」


「二度と送ってくるな、と返された」


「食事に誘ってみては?」


「一緒に食べたくない、と言われた」


「…嫌われているのでは?」


「断じてそれはない」


(いや、絶対嫌われてるよ)


なぜこうも嫌われていない自信があるのかが分からない。


こんな調子が一刻も続いたのである。


〇●〇


(ようやく解放された)


葵は次の旦那様の待つ部屋へと足を向ける。


(女の口説き方の教本を誰か早いうちに書いてくれないだろうか)


ゆえに、噂に耳を傾ける余裕などなかった。




〇●〇



その日の御客はこの辺りでは知らない人などいないに等しいほど、裕福な旦那だった。


「泥棒?物騒ですわね」


葵は切れかかった香を足しながら、旦那に相槌を送る。


「ああ、最近多いんでな。ちとばかし困っている。」


旦那は葵に一気飲みして空になった盃を向ける。


「具体的に何を盗られるんです?」


葵は酒を注ぎながら尋ねる。


「それがなあ」


旦那は頭を人差し指でポリポリと掻く。


「庭で育てた野菜に、漬物、後は塩、と言ってる奴もいたな」


葵はてっきり金銭を狙われているのかと思っていたので、拍子抜けした顔をする。


そんな葵の顔を見て、旦那は破顔する。


「不思議な話だろう?」


「ええ」


旦那に困ったような笑みを向けられる。


「飢えに飢えた末のことなのでしょうか?」


「さあなあ」


「旦那様の自宅も?」


「いや、俺のところはまだだ。ただ近所の殆どが被害に遭っているんでなあ、俺が何もしないというのもいかがなものか、と思ってな」


そう、何を隠そうこの旦那様はここらの土地を治める地主様なのだ。


「なるほど…他に手掛かりはありませんの?」


いくらなんでも取られたものが食料と言われただけでは解決には至れない。


「…漬物の壺に砂糖を入れられた、とか…」


「え?」


「被害しか分からないんだなあ、これが」


旦那は困った困った、と頭をかく。


「…また分かりましたら、文をくださいます?」


「ああ、そうするよ、頼むね」


旦那は金を払って妓楼を後にした。


●〇



「葵~、ちょっとちょっと相談があるの!」


丹華が葵の居る瑠璃の間を叩いたのは、それからほどなくしてのことだった。


丹華が普段過ごしている丹朱の間とはひとつづきになっているので、丹華はなにかと暇つぶしと称して瑠璃の間にやってくる。


「なあに、小姐。仕事は終わったの?」


「たった今終わったところなの。でね、旦那様がすっごく困ってらしたの。聞いて聞いて」


丹華がとりあえず話したくてしょうがない、といった様子なので、仕方なく耳を傾けることにする。


「旦那様にね、一人娘がいらっしゃるの。奥様は早くに他界されて、後は娘の花嫁姿と孫の顔が見れれば十分って言ってたんだけど…」


まあ、よくある話だ。葵は菓子をつまみながら、つまらないと言った様子で聞き続ける。


「ある日ね、その娘さんが夜中に出ていこうとしたから、こっそり後をつけたんですって。そしたら、なんとその娘さんが霊と会っていたらしいの!」


「霊?」


「あら、知らない?最近人魂がその辺をウロウロしてるって話。」


「いや、初耳だわ」


葵はいかにも知らない、という顔をする。


「そう。でもまあ良いわ。問題はその後よ。旦那様がその人魂を見た後、漬物に砂糖が入れられていたんですって!」


なんかどっかで聞いたことがあるような話だ。


「…それで?」


「本当はするつもりはなかったけど、娘さんに霊のことを聞いてみたんですって。そしたら、なぜか恥ずかしがった後にすごく怒っちゃって、家出したまま帰って来ないらしいのよ」


「ふうん」


葵は菓子を食べ終わった後の手を拭く。葵は未だ幽霊だとか化け物だとかを見たことがないので、人魂には少々惹かれる部分はあるが、親子間の喧嘩までは興味がない。


「ねえ、葵。娘さんどこにいっちゃったのかしらねえ」


「さあねえ」


泥棒に人魂に行方不明の娘。


なんとも物騒である。


「でもまあ、そんな遠く離れた場所には行けないでしょう?大荷物持って出て行ったわけじゃあるまいし」


「そうねえ、着の身着のままって感じだろうし」


「お腹空いたら帰って来るんじゃない?」


そう言って、葵は丹華に菓子を渡す。


だが、その予想は大幅に外れることとなる。


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