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ハゲピカチビボテ博士対怪盗カメレオン

ハゲピカチビボテ博士の家は郊外にたたずむ古い西洋館でした。


三角の屋根に三階建ての塔のような造りですが、壁には亀裂が走ってツタに覆われ、さながら幽霊屋敷のようです。


研究に没頭し、家の手入れにまで手が回らないのです。


博士は騒音や客などで邪魔が入らないようにと、地下室に研究室を作り、そこで毎日のように新しい発明品を生み出していました。


頭の両端に生えた髪は白くなり、しわだらけの顔は常に仏頂面。


両腕は便利なようにマジックハンドに改造しており、足もキャタピラ状にしてしまっているのでした。


奇怪な姿をした老博士は机の上に機械を並べて、熱心に機械の製作に勤しんでいましたが、やがて、木製の椅子の上に置かれた手紙を忌々しそうに睨んで口を開きます。


「ワシの家に犯行予告をするとは大胆不敵な奴じゃ。

しかし、ワシの発明品に勝てるかのう」


博士は口をキューッと上げて不気味に笑いました。


そうなのです。


実は先日、怪盗カメレオンから新発明を奪いに来るという予告が手紙でなされたのです。


『あなたの新薬を奪いに行きます。怪盗カメレオンより』


怪盗カメレオンは巷で噂の怪盗で、どんなものにも化けるといわれるほどの優れた変装術を得意としており、大人はもちろん、少年少女、老人、はては絵画や壁など、文字通りどんなものにも変身できるそうなのです。


しかし、それを知ったからと言って恐れる博士ではありません。


逆に闘志をむき出しにして、自分の発明品で怪盗を待ち構えます。


犯行が行われる当日になりました。


博士が二階の窓を開いて、どこから怪盗が現れるのかと顔を出して様子をうかがっていますと、正面玄関にひとりの男の姿が見えました。


緑色の髪をオールバックに染め、緑色の瞳、緑のスーツに手袋、靴、全身を緑に統一した三十代ほどの男です。


「誰じゃい、お前は」


「変幻自在、伸縮自在、神出鬼没の怪盗カメレオンとは俺のことさ」


「正面から挑むとは呆れたやつじゃの」


「堂々と姿をあらわした方がフェアだからね。で、どうする?

警察を呼ぶか? おとなしく新薬を手渡すかね?」


「馬鹿を言うな。お前など、ワシの発明品で消し炭じゃよ」


博士はニヤリと笑って手元のボタンを押すと、塔から大砲が出現。


標準をカメレオンに合わせて、砲弾を発射しました。


とどろくような音が鳴り響き、庭が跡形もなく吹き飛びます。


「この程度で参るとは情けない怪盗じゃ」


「ハハハハハハハハ……爺さん。勝利を確信するのは早いぜ」


声に驚いて博士が見回しますと、なんとカメレオンは塔にヤモリのように直立し、まるで道のようにゆっくりと歩いてくるではありませんか。しかも、服が茶色に変わっているのです。


博士は口に吹き矢のようなものを含んで発射します。


顔の前で破裂したのは墨で、カメレオンの視界を奪います。


すぐさま拭き取ると、今度は博士の両腕が伸びてきて、カメレオンの両頬を掴みました。


「どうじゃ。降参するなら今のうちじゃぞ」


「冗談は顔だけにしてくれよ」


カメレオンは胸の懐から取り出したのはクラッカーで、指を鳴らすと瞬く間に巨大化しました。


そして、発射口は博士に向けられているのです。


「パーティーの開始だぜ!」


紐を引くと爆発音と紙吹雪が飛び散りますが、博士は素早く窓を閉めて侵入を阻止。


すぐさまカメレオンは飛び降りて、玄関に突進し、西洋館の中へと入りました。


「さあ、爺さん。かくれんぼのつもりだろうが、俺にはアンタの居場所がわかっているんだ」


ニヤニヤ笑いながら、地下室への階段を見つけ、一歩踏み出した時です。


上から鳥かごを落ちてきて、カメレオンを封じ込めてしまいます。


どこかに設置されたラウンドスピーカーから、博士の声が響きます。


「これでお前はかごの中の鳥じゃよ」


「どっこい。俺はカメレオンでね。鳥と同じにするなよッ」


カメレオンは力で強引に鉄柵をこじ開け、今度こそ地下室へ足を踏み入れました。


そしてハゲピカチビボテ博士と相対します。


「どうだい。俺はすごいだろう? 俺の偉大さがわかったら、さっさと新薬を渡すんだな」


「……ホレ」


博士が投げた薬品のビンをキャッチすると、カメレオンは微笑しました。


「やけにあっさり渡すんだな。さっきの威勢はどうしたんだい」


「薬などまた発明すればいいだけじゃ。ところでお前さん、新薬の効果を試してみたいとは思わんかの」


「まあ、効果がわからねぇと困るからな。飲んでみるか」


疑いもせず、カメレオンは薬を飲み干しました。


しばらくして、カメレオンは交番の中にいました。


「なぜだ。俺は博士の家にいたはず……」


困惑するカメレオンに、警官が言いました。


「博士の報告では、お前が飲んだのは超強力な睡眠薬で、一度飲んだら一日目覚めないほど効果があるらしい」


「クソッ、あのじじい、俺を実験台に使いやがったのか」


地団太を踏んで悔しがりましたが、既に彼は交番の牢屋の中。


どうすることもできません。


こうして博士と怪盗の勝負は博士の勝ちに終わったのです。


おしまい。

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