2. 愛しているのはあなただけ
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「絶対に負けないバウ!」
倒れたこの人さんを取り込もうとする残った化け物の触手を、熊の獣人であるバウさんが鋭い爪で切断していったけど、幾ら切断したところでキリがない。
大元が死んでいないんだから、触手が消えるわけがない。幾ら切って行ったって延々に終わらないよ。
「まさかまだ生きていたのか?」
吉岡先生を抱きかかえていた腐の国の王が呆れた表情を浮かべながら振り返り、
「まさか・・・」
光の国の三人組を抱えていた闇の王と巨乳の秘書さんが、驚いた様子で上空を見上げている。
夜が明けて、空が紺碧の青から鮮やかな水色に変わろうとしているのに、太陽の光が伸びる地平線が血を滲ませたような深紅へと染まり上がっていく。
徐々に徐々に、染み込むように赤く染まる空を飛んでいるのは吸血鬼卿のレオニート君で、彼の隣には眠り込んだような状態の幼い少年が宙を浮いていた。
それは僕がプールの底で見た幼い子供で、真っ赤な髪が血に濡れたように濁り始めている。
「みんな逃げろ!」
神の針は柱並みの太さにすることが出来た僕は、壁を作るようにイメージする。
『ピロロロロ〜ン 効率を求める教師の要望により、神の柱を集結して神の壁へと変化します。その強度は思いの強さによって変化します』
誰が手配したのか分からないけれど、教会でゾンビになった生徒たち十二名がゾンビのまま運ばれていく姿が目に入った。
僕がどのくらい化け物の腹の中に居たのかは分からないけれど、色々と動いてくれていたわけだよね。
そんな訳で、戦闘が始まっているというのに、ここはリヤドナの街の入り口となるわけだから、ゾンビも骨の騎士も、腐の国の兵士も、かなりの数、集まっているわけだ。
しかも、先輩教師である吉岡先生に、生徒十二名、真っ黒になりながら助け出してくれたこの人さんは白目を剥いて倒れているし、バウさんは、正直に言って当てにならない。
「うぉおおおおおおっ!」
イメージ!魔法はイメージ!イメージが大事!イメージ!イメージ!
空から降るように落ちてきた柱で壁が出来るのと、赤毛の男の子が巨大な力を吐き出すのがほぼ同時で、渦を巻く巨大な破綻の力は僕が作った金色の壁にぶつかって大爆発を起こすこととなったのだ。
◇◇◇
骨の戦士の協力を得てプールの底から王子を助け出すことに成功をした火の国の王アムールは、ガラスの玉に封じられた我が子を見て、あまりの不憫さに涙を流してしまった。
火の国は力こそ全てと言っても過言ではない風潮にあり、火の国の王は国で一番のエレメント使いでなければならなかった。
強大な力を持つ父の元に生まれながら、アムールの力はそこまでの物ではなく、他の兄弟にしても、他国と比較をすればそこそこの力ではあっても、父と比べればそれほどのものではない。
父も力の強い子供を得るために多くの妻を娶ったが、王として選ばれたアムール自身も父と同様に多くの妻を娶ることとなったのだ。だけれども、真実愛したのは八番目の妻だけ。砂漠を移動する部族の長の娘だったけれど、アムールは彼女の自由と強さを愛したのだった。
結果、アムール王は八番目の妻との間に、父をも凌ぐ力を持った王子を授かった。力こそ正義の火の国なのだから、恐ろしいほどの力を持つ我が子を喜ばれこそすれ、恐れられる謂れはないと思ったものの、
「陛下、御子は破綻の力を持つ者であると判断します。今すぐに殺してしまわなければ、いずれ禍となりましょう」
臣下の言葉が理解できない。
あれほど強い力を求めていた者どもが、強大な力を前にして恐れを抱く。
「その方の力はエレメントの力ではありません」
「途方もないほどの破綻の力なのですから」
「貴様ら、膨大な力を持つ王子を排除する光の国を腰抜け扱いし、あれほど馬鹿にしていたというのに、貴様らこそが同じようなことをしているではないか!」
「陛下、違うのです。カリム王子の持つ力は全くの別種なのです」
「エレメントとは相容れない力なのです」
「火の国の王として理解して頂かねば困ります」
「火の国の王として理解するだと?火の国は力こそ正義、強い力を持つ者こそ何よりも尊ばれるというのに、何を寝惚けたことを言っておるか!」
王子は確かに膨大な力を保有している、父親の自分ですら触れることの出来ない鋭く刺すような力を持ち、世話が出来るのも八番目の妻だけ。
「いいではないですか、貴方が触れられなくても私は触れられるのですから」
妻は愛おしい我が子の髪を撫でながら笑顔を浮かべた。
「愛する貴方と私の子が、道を外す訳がありませんもの。正しく導けば大きな力は私たちを助けてくれる力にもなりますでしょう?」
八番目の妻を殺害し、王子の誘拐を手引きしたのは二番目の妻だった。
「だって、化け物が同じ国内に居るだなんて恐ろしいじゃないですか!」
二番目の妻は涙ながらに訴えた。
「私にだって貴方との子供がいるのに、貴方は見向きもしない。貴方は多くの妻を娶ったのだから、妻と子をみる責務が存在する。だというのに、八番目が子供を産んでから貴方は責務を放棄したのよ」
ああ、なんと生きづらい世界なのだろう。
愛する人を亡くしたというのに、他の女を無理やり愛せというのか。
そんなこと出来るわけも無い。
真実、愛したのはたった一人の女だったのだから。
街から移動した際に、夜行の死霊に連れ去られた我が子を追ったアムールは、光輝く巨大な壁を発見した。
その壁の前には、吸血鬼と息子が並んで浮かんでいる姿が目に入る。吸血鬼は完全に夜行の死霊の支配下となって、司令塔の役割を担っている事が遠目でも分かった。
息子の放つ膨大な魔力を金色の壁が受けた際に、衝撃波で一瞬の隙が出来るのは分かっていた。その一瞬の隙を突いて、少年の姿のままの吸血鬼を捉えて胸に炎の剣を突き入れていく。
炎の剣の業火は魂をも燃やし尽くすものであり、火の国では禁忌として使うことを禁じられた技でもある。
吸血鬼に纏い付くのは何千何万と言っても良いほどの魂の塊となっている。それだけの魂が、苦悶に喘ぎ、呪いを吐き出し、孤独に苛み、苦しんでいるのが良く分かった。
「燃えろ!燃えろ!全て燃えて浄化してしまえ!」
「「「「ぎゃあああああっ!」」」」
上空に炎が巻き上がる中、死霊の数が目に見えて減っていく。その塊の奥底に核があり、それを破壊さえすれば、全てが終わるはずだった。
あともう少し、あと、もう少し。
後もう少しで核が露出するところまで行ったところで、
「パパがパパじゃなかったら良かったのにね」
宙を浮いていた息子が破綻の力を練り上げてアムールの体にぶつけて来たのだった。
アムールは引き裂かれるような痛みに耐えながら我が子の体を引き寄せると、
「ああ・・パパがパパで悪かった・・ごめんね」
ぎゅっと、力を込めて生まれてはじめて息子を抱きしめたのだった。
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