8. 光の戦士オイヴァ
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光の国の騎士団長の息子として生まれたオイヴァは、片腕しかない見るからに貧相な男が『夜行の死霊』と同等以上の戦いをするとは思いもしなかった。
光の国の王すら殺した『夜行の死霊』は光の力で消滅させない限り、この世に残り続ける忌まわしきものだ。そのため、最大の敵である光の国をまずは滅ぼそうとしたのだろうが、その時に『夜行の死霊』の暴挙を阻止したのが、膨大な光の力を持つエリアスと聖女ユイだった。
ここが吸血鬼のみが優位の世界となる『過ちの世界』だからこそ、これほどの戦力差が出てしまうのか?光の国で相対した『夜行の死霊』はここまで強大な敵ではなかった。その強大な敵に対して効率よく打倒しようとした男が、今、飲み込まれてしまった。
騎士として鍛錬を積んできたオイヴァには敵の強さを把握する能力がある。この吸血鬼王の屍から生まれ出た化け物は、絶対にエリアスでも倒せない。聖女であっても対抗するのは無理だろう。
「このままでは・・この世界が滅んでしまうのか・・」
巨大な力は世界に歪みを作り出す。幾億と集った怨念の塊は巨大な力となって自分たちの前に立ちはだかる。
「あなたたちは逃げなさい」
蝙蝠を握り潰した聖女が、よだれを撒き散らす巨大な何かを見上げながら言い出した。
「とにかく、何処でもいいから逃げなさい」
「逃げる場所なんてないバウ、ここは吸血鬼たちによって作り出された異界バウ。この異界を作り出したレオニートを滅ぼすか、外部から圧力をかけてこじ開けない限り、この世界から逃げ出すことは出来ないバウ」
殿下を抱えていた熊の獣人は大きなため息を吐き出すと言い出した。
「聖女様は清楚で可憐と相場が決まっているバウけど、今代の聖女様は完全なる武闘派バウ。だけど聖女様、本来なら貴女自身が戦う必要なんて全くもってないバウよ」
「戦う必要がない?」
聖女ユイの形の良い眉がクイッと上がる。光の国に来てからというもの、戦い続けているユイにとっては理解できない言葉だったのだろう。
「怠惰な光の国に行ってしまったのが運のツキバウ。自分たちには特別な力があるからと言ってレベル上げを怠った国の末路は哀れバウ。自分たちを遥かに凌ぐ力の持ち主が生まれたら、大切に育てるのが当たり前バウけど、危ないとか危険だとか言って破棄してしまう愚かさったらないバウ」
クマの暴言はあまりに的を得たものだったため、オイヴァは自分の唇を噛み締めた。騎士団長の息子という身分から伝説の大剣を与えられたものの、この剣を使ったところで何も倒し切っていやしない。レベルが250程度で慢心していた自分が哀れでならなかった。
貧相な男のように、結界で聖女を守って自分だけが前に出て戦うやり方など、今まで一度としてした事がない。いつだって最前線に立って戦っていたのが聖女で、彼女からの指示を受けて戦っていたのがオイヴァたちなのだ。
「大丈夫バウ、もうこの世界は亀裂が入り始めているバウ」
クマが赤褐色に滲んだ空を見上げると、確かに空にヒビが入り始めている事に気がついた。言葉では言い表せないほどの圧力、膨大な力、エリアス王子とはまた別の破滅の力を感じたオイヴァが王子と熊を庇うようにして覆い被さると、パリンと音を立てて世界が弾けた。
「おーい!バウ吉!どう数えても数が足りないように思うのよネ〜」
ステッキをつきながらこちらの方へと歩いて来るのは狐の獣人で、骨の兵士に囲まれた向こう側にはゾンビが群れとなっているのが見えた。
「先生が化け物に喰われてしまったバウ、惜しい人を亡くしたバウ」
熊の獣人は小さく肩をすくめながらそう言うと、オイヴァとネストリの二人にエリアスを預けた。
「聖女様は引き続き、浄化を続けて欲しいのネ。後はそこの熊公が何とかするから、任せてしまえば宜しいのネ」
狐の獣人が手を翳すだけで、化け物の両手が崩れ落ちた。
「無理無理無理無理!僕だけの力じゃ到底無理バウ!だけど聖女様、『この人』が来たから大丈夫バウ。女は守られるものバウよ」
各国は名前を伏した能力者を四人まで確保することが出来るし、その名を伏した人々が『この人』『その人』『どの人』『あの人』と名乗りをあげることを許される。
光の国にも名を伏した人は四人居るが、有力貴族の子息というだけで特別な力など持っていやしないことを知っている。各国で確かに名を伏した人は存在するが、本当の力を持つ実力者は極々限られているのは間違いない。
狐の獣人の『この人』と言えば水の国の名を伏した有名人であり、王国の裏を取り仕切る役割を担いながら水の国の王セザール3世の懐刀とも言われる獣人となる。
「先生は引きちぎられて食われたのかネ?それとも丸呑みにされたのかネ?」
「丸呑みにされたから、急げば助かる可能性はあるバウ。それで、プールからの引き上げは出来たんバウか?」
「骨にかかれば問題ないネ、何とか引き上げは済ませて、骨の鳥を使って街の外へと運び出しているはずネ」
「僕たちで手伝えることがあれば協力します!」
宰相の息子であるネストリはレベル差が理解できないから、トンチンカンなことを言い出した。
「僕とオイヴァは光のエレメントを使うことが出来るので、夜行の死霊を倒すのに力になると思うんです!」
巨大な何かと向かい合った狐の獣人と熊の獣人はこちらを振り返ると、あははっはと笑い出した。
「寝言は寝てから言って欲しいのネ。お前らの光のエレメントの力?精進しない者の力などクソの役にも立たないものなのネ。せめてアロイジウス程度にまでなってから申し出て欲しいのネ〜」
「やっぱりアロイジウスを置いて来たのは間違っていたバウ。ウィルスだか細菌だとかが出てくるんバウから、絶対に氷の力が有用だったバウ」
全く相手にされないネストリがブルブルと震え出すと、見かねた聖女ユイが声をかける。
「そこのキツネくんに任せれば何とかなるんだろ?だったら、邪魔になるから行くぞ!」
「聖女様は浄化を進めなければならない、ネストリ!行こう!」
見る限り、周りには何千というゾンビの集団が集まっている。聖女にはこのゾンビに浄化をかけてもらってから、早急に住民を街の外へと誘導しなければならない。
「ネストリ!早く!」
オイヴァが振り返りながら声をかけているうちに、頭上から何かの塊が降り注ぐようにして降ってきたのだ。
それは腐り果てたドロドロの液体のようなものであり、オイヴァが最後に見たのは、ネストリだけでなく聖女までもが、ドロドロの塊に飲み込まれるところだった。
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