7. 僕は懲りずに失敗する
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これは後から知ったことなんだけど、この世界には異邦人として他の世界からほぼ強制的に誰かしらが運ばれてくることになる訳だけど、みんながみんな、順応できた訳じゃないんだよね。自分で希望してこの世界に残ったとしても、思っていたのと違ったとか、残るんじゃなかったとか、やっぱり元の世界に戻るべきだったなんて後悔する人は相当な数にのぼるらしい。
吸血鬼一族だとか、エルフの一族だとか、長寿な上に膨大な力を持つ人たちだっているわけで、エレメント優位の世界をぶっ壊して自分たちに優位な世界を作り出そうと企む輩はいつの時代でも出てくるらしい。
種族関係なく、このエレメントで出来た世界に恨みを持つ勢力は、世代を追うごとに弱体化していくことになったんだけど、恨み辛みを持って死んだ先祖の魂をも巻き込んで大きな力にしようと企む人たちの台頭によって、世界のバランスがおかしくなってきたらしい。
『夜行の死霊』と呼ばれる一団は人の心の闇に潜り込むのを得意とするらしいんだ。
レオニート君は吸血鬼卿の中では一番の若輩者、血筋を見れば正統な血統の持ち主だと言えるのに、吸血鬼王アダルブレヒトに心酔もしなければ、他の吸血鬼卿たちと迎合するわけでもない。彼には彼なりの信念があったわけだけど、若輩者というだけで全てを問答無用で押し潰されてきた。
彼が誤魔化し続けてきた部分は大きな隙となったのだろう。夜行の死霊に入り込まれたレオニート君は、吸血鬼王に好かれるにはどうすれば良いのか、どうすれば吸血鬼王を振り向かせられるのかと焦燥感を募らせる吸血鬼卿たちに囁いた。
強すぎる吸血鬼王を操ることはできないけれど、若輩者であれば如何様にも動かす事が可能である。より残虐な行いを吸血鬼たちに行わせ、世界から一族を孤立させていく。
「ああ、強すぎて今まで取り込むことが出来なかったアダルブレヒトをようやっと取り込むことが出来る・・・」
吸血鬼王の残骸の前へと現れたレオニート君は恍惚の表情を浮かべると、死体の山の中へと蛇のように体をくねらせながら飛び込んだ。
それは、あの高原湿地帯で、英雄王が現れた時と同じような感覚だった。
赤黒い肉塊が膨れ上がっていくと、無数の漆黒の蝙蝠が羽ばたき出す。これは幻覚でも何でもない、恨みつらみを持って死んでいった魂が蝙蝠となって羽ばたいたのだ。
そうして伸び上がる巨大な手、頭、肩、胴体、足まで露わになった時に、僕らは呆然と見上げることしか出来なかった。
10メートル級となった巨大な何かは、バウさんの結界に拳を落とす。その振動で吉岡先生が結界の外へと飛び出してしまったのだ。
「神の檻!」
地面の上に転がる吉岡先生の上に即座に神の檻を作ったけど、群れとなって襲いかかる蝙蝠が弾き飛ばされながらも、数羽、檻の間をすり抜けるようにして中へと入り込んでしまったようだ。
「吉岡先生!」
何千という蝙蝠が群れとなって上空へと羽ばたく中、巨大化した何かが僕らを包み込む結界を踏みつける。バウさんの結界は三度踏みつけられた後、あっという間に砕けて無くなってしまった。
「「結界術!」」
イケメン二人が即座に結界を張ってくれたけど、一回踏みつけられただけで砕け落ちる。
ああああ、マジでもう嫌だって!
この世の終わりみたいな展開、もういいです、本当にお腹いっぱい、なんでこんな危機に遭い続けなくちゃなんないわけ?
「西山先生!逃げろ!」
神の檻の中にいる吉岡先生は僕にそう声をかけてくれたけど、先生自体、蝙蝠と拳で勝負をしているから血だらけになっているじゃないか!
「神の針」
相手は10メートル級、足を上げて踏みつけようとするその足の裏を神の針で貫いていく。この巨体は、魔法が効かない。薄い膜で覆われているから間違いない。魔法が効かないのなら、神の○○シリーズを駆使して戦わなくちゃいけないわけだ。
「神の糸」
足を貫かれて倒れ込む巨体を、ガリバー旅行記並みに金のロープでぐるぐる巻きにしていく。千切られる端からぐるぐる巻きにしているんだけど、
「グァアアアアッ!」
暴れまくるから埒があかない。
「神の檻」
ロープでぐるぐる巻きにした巨体の上から、金色の柱が突き刺さるようにして落ちてくる。今まで神の檻は地面から伸び上がるのが常だったんだけど、空からどんどんどんどん、柱が落ちてきて、巨体な何かを拘束していく。
いつものパターンでいけば、ここで吸引魔法か。
ああ嫌だ、ドロドロのヘドロを吸い込むようなあの感覚が嫌だ。
巨体な何かは、大きさは英雄王とほぼ同じなんだけど、その素材は全く異なるもので出来ている。ドロドロのヘドロの塊と肉塊を煮詰めててんこ盛りにしたような奴で、人型なため、手足もあるし、胴体から首、頭もあるんだけど、真っ黒なミミズのようなもので覆われているように見えるわけだ。
言うなれば、腐り切った体に蛆虫とミミズで包み込んでいるような物であり、そのウジョウジョと動く虫たち全てに怨念が滲み出しているから、相当の精神力がなければ触れることは難しいだろう。
「あああ〜・・嫌だー〜」
僕の躊躇している時間がどれほどだったのかはわからない。だけど、ここでもまた、僕は同じ失敗を繰り返してしまったのだ。
「西山先生!」
「先生!」
僕はレオニート君の中に悪しき魂があると分かった上で吸引を最後までしなかった。吸血鬼王を目の前にした時にも、白髪のイケメンを僕は吸引しようとはしなかった。
そんな事だから、どうしようもない危機に瀕することになったというのに、僕はあの不快感を嫌悪して、再び吸引するのを躊躇してしまったわけだ。
金の柱を無理やり外して伸ばされた巨大な手は、僕を掴むなり、自分の身を引きちぎりながら起き上がり、まるでマシュマロを口の中に放り込むかのように、僕をその大きくてドロドロした口の中へと放り込んでしまったのだ。
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