5. 過ちの世界
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悪魔の実が注入されたことにより世界が隔離され、全体を覆い尽くす色自体が夜の漆黒の闇から、真っ赤な血を落とし込んだような赤褐色へと変化していく。ドロドロとした世界に埋没するような不快感、リスカム山で体験したあの恐怖が再び復活するのを感じて、僕は隣にいたバウさんの手を握りしめた。
バウさんの爪は長くて鋭いけれど、肉球はぷにぷにで、外側はもふもふなのだ。ああ、熊の手は食べると美味いとか滋養強壮効果があるとか聞いたことがあるけど、本当に美味いのかな?確か漢方とかそんなものにも利用されるんじゃなかったっけ?
「怖いことを想像しないで欲しいバウ!確かに片腕が無くなったのは申し訳ないと思っているバウけど、そこで僕の手を料理するのはまた別の話になるバウ!」
僕の手を振り解いたバウさんは、大きなため息を吐き出した。
「ああ・・来たくもないのに『過ちの世界』へと入り込んでしまったバウ」
「過ちの世界ってなんなんですか?」
「上位種の吸血鬼たちが作り出す特別な世界、この世界の中では全てが吸血鬼優位で進んでいくことになるバウ」
「ええー・・吸血鬼優位?」
見れば、馬車から飛び出してきたイケメンがショタ吸血鬼であるレオニート君の餌食となっている。後から追いかけてきた亜麻色の髪の男が、大剣でレオニート君に斬りかかったんだけど、レオニート君、親指と人差し指で大剣を止めちゃったよ。
そうして体格の良いお兄さんごと大剣を投げ捨てると、今度は白金の髪色の優男が振り翳すサーベルを片手で受けると、お腹を蹴飛ばして吹っ飛ばしてしまった。
ちなみに、二人の攻撃を受けている間も、レオニート君はイケメンの首から生き血を吸い上げ続けている。僕も経験があるから分かるけど、あれって吸い上げられながら、何か恐ろしいものを体の中に流し込まれているんだよね。
ああ、今でも思い出すたくない。あそこで悪魔の実を吐き出すことでボーナスタイムをゲット出来たけど、あれ、ボーナスタイムがゲット出来なかったらかなり危ない戦いを続けることになったよな〜。
「エリアスを離せ!」
吉岡先生は一見、可愛らしいお姉さんなんだけど、レディース上がりの武闘派だから、攻撃技がパンチとかキックとかになるわけだ。
吉岡先生のパンチは熊をも殺すと学校では言われていたからね、さすがに吉岡先生のパンチは食事をしながら躱せるほど甘い攻撃ではなかったため、レオニート君はイケメンを放り投げて、蝙蝠の羽を出して空へと逃げた。
すると、みるみる間に上空に何万という数の蝙蝠が集まり出して、その集まった蝙蝠の中から白髪を高々と結い上げたイケメンが現れた。
「吸血鬼王!」
「貴様の所業!光の国として許せん!」
体勢を整えた若いお兄ちゃん二人組が、お互いをカバーしながら吸血鬼王に襲いかかる。その横で、襲いかかってくるショタに対して容赦無く拳を振う吉岡先生、戦い方が全然聖女らしくない!
「先生、どうするバウか?」
「バウさん、僕のリュックは勝手に持って来ちゃっているんですよね?」
「もちろん持ってきているバウけど?」
血だらけで倒れ込むイケメンに駆け寄った僕は、グッタリとしたイケメンの口の中に指を突っ込んだ。
「今なら悪魔の実を腹の中で育成中なはずですから、僕の糸でぐるぐる巻きにして外に引っ張り出せるはずなんだ」
本来なら指を突っ込んだ僕の指はゲロまみれになっているはずなのだが、何故だか吐瀉物ではなくて、彼の感情のようなものが外へ外へと吐き出されていく。
それは物心ついた時から孤独に生きた少年の記憶だった。
母親にすら触れられず、侍女やメイドまでもが世話をすることを拒否することとなったエリアスは、腐の国から連れてきた奴隷に育てられることとなったのだ。
王家に生まれた王子とは思えないような、城の敷地内の外れに位置する小さな小屋で寝起きをして、食べる物にも困るような生活を余儀なくされた。
王子なのに破棄されているのも同じことであり、誰も彼もがエリアスを顧みることなどしなかった。そんなある日、自分を育てていた奴隷が殺される事件が起こったのだ。
母親代わりとなって育ててくれた奴隷を殺したのは光の国の貴族の男で、第二王子であるエリアスが王家の邪魔とならないように、第一王子の地位を脅かすかもしれないエリアスを殺しに来たのだが、エリアスを庇った奴隷が殺されることになったわけだ。
その時の精神的なショックで大爆発を起こしたエリアスは、保有していた魔力が霧散したと説明されることになる。そこでようやく王家から正当な保護を受けることとなったのだが、まともな扱いなど受けられるわけがない。
第二王子に相応しい待遇を求めたエリアスは、自分のレベルを上げるために王宮の外へと忍び出ることを選んだが、そこで魔獣に襲いかかられたネストリを助けるために、山ひとつを焼失させてしまったのだ。
無くなったと思われたエリアスの膨大な力を封じるため、両手と両足に戒めが施される。どこまでいっても認められない、孤独な王子。光の国は選民思想が強く、恐ろしいほどに排他的な国であるのは間違いない。
「バウさん!この人、魔力封じの拘束をされているんだ。今すぐ手足の拘束を外してくれない?」
腹の中でドロドロの塊となった悪魔の実を、崩れないようにそっと神の糸で包み込んでいく。
「了解バウ」
僕が吸血鬼王に使われたものと同系統と思われる魔力封じの輪が、イケメンの手足を戒めている。その戒めの輪をバウさんが鋭い爪で外していく間、僕は悪魔の実を胃から食道、食道から口へと、ゆっくり、ゆっくり引き上げていく。
「ぐはっ・・ゲホゲホゲホッ・・ゲホゲホ」
口から悪魔の実を引き摺り出すと、イケメンは胃液を吐き出しながら這いつくばっている。
「ポーション!ポーション!とりあえず悪魔の実を使われるとHP10以下にすぐになっちゃうから飲んで!今すぐ飲んで!」
やばい、やばい、やばい、僕の時も本当にヤバかったもの。イケメンにポーションが入った瓶を渡すと、イケメンはごくごくごくごく飲み出した。
次から次へと瓶を渡すけど、どんどんどんどん飲んでいく。挙げ句の果てには五本のポーションを飲み終えて、
「足りないーー・・まだ全然足りないーーー・・・」
と、言いながら、こちらに向かってきた吸血鬼王を弾き飛ばしてしまったのだ。
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