8. 腐の国の王サルマン
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腐の国の王であるサルマンは、自国が腐っていることについては知っている。汚職がはびこり、他国から逃げてきた罪人たちのオアシスとも呼ばれ、犯罪件数は何処の国よりも高いことも知っている。
この国では金が全てであり、物事は金持ちの都合の良いように動いていく。だからこそ、腐の国の王家は各国から槍玉に上げられることが多いのだが、金満国家としても有名なのだ。
そんな腐の国に、光の国に降臨したという『聖女』がやって来るという話を聞いて、サルマンは頭を抱えることとなったのだ。
この聖女、光の国にあるスナイフェルス山に突如、三十人の人族を連れて現れた異邦人だというのだが、強奪を謀ろうとした蛮族千人をあっという間に滅ぼした。癒しの力で病に倒れた姫を救い、僅か数ヶ月で『聖女』として認められた傑物だというのだ。世界各国を震撼させたのは間違いないのだが、その『聖女』が腐の国を訪れたいと言い出した。
何でも同族の異邦人がリヤドナのオークションに出品されると聞いたとして、同族を救い出すために、わざわざ光の国から腐の国へとやって来るという。
闇の国は正反対の属性とはいえ、光の国と上手く交易を行っているということは知っている。臣下の中には闇の国と同じように光の国と交易をすれば良いと言い出す者も居るのだが、サルマンは光の国の清廉潔白なところが酷く苦手でもあるのだった。
光のエレメントの元、悪しき部分を全て白日の元に晒されるような、恥部をジリジリと焼き尽くされるような、そんな感覚があるからこそ苦手で、国交自体、断絶したいと思っている。まあ、思っているだけで、断絶出来るわけがないのだけれど。
「まあ!あなたが腐の国の国王陛下なのですね!わざわざ出迎えてくださるなんて、恐悦至極に存じます!」
転移陣を利用して腐の国の王都へとやってきた『聖女』は、茶褐色の髪の毛を肩近くでカールさせた可愛らしい顔をした人族の女だったのだが、その後ろに連れているのが光の国の第二王子、騎士団長の息子、宰相の息子と、次代の光の国を担う面々で取り揃えられていた為、見かけは可愛らしくても、ただ者ではないと考えを改めることにした。
「うちの生徒たちがオークションにかけられると噂に聞いて、居ても立ってもいられなくなってしまって、ご迷惑をかけるとは思っていたんですけど、現地に来る事を決めてしまったんです!」
「聖女の望む通り、生徒たちの保護はすでに済んでいるのだろうか?」
「いやー・・それが・・・」
色白で白金の髪をもつ美形の第二王子に睨みつけられて、思わずサルマンは揉み手をしてしまった。年齢は自分の方が五つほど上のはずなのに、どうしても、光属性がサルマンは苦手なのだ。
「そちらからの話を受けてすぐにリヤドナに確認をしたのですが、知らぬ存ぜぬでシラを切ろうとするし、開催日を前倒しにして強行しようとするし、更にはそのオークション目当てで吸血鬼王やら火の国の王が参加するとのことで、本当にてんやわんやの状態だったんですけれど・・」
第二王子、宰相の息子、騎士団長の息子に睨みつけられて、サルマンの背中に嫌な汗が流れ落ちる。
「問い合わせにあった人族の保護している場所は確認致しましたし、神殿で保護をされているとの事なので、聖女様同行の上で引き合わせた方が良いだろうと判断し、あなた様方が訪れるのを一日千秋の思いでお待ちしていた次第です」
全く待ってもいないし、面倒臭くて、人族の保管場所だけ確認して放置状態なのだが、幸いにも光の神を祀る神殿だった為、聖女に自分で回収してもらうつもりでいたのだが、
「私も同道いたしますゆえ、共にリヤドナまで移動いたしましょう」
と言ってサルマンはにこりと笑った。
何でも、問題の吸血鬼王が火の国で生まれた『破綻の力』を連れてリヤドナの街に入っているという情報が入ったため、腐の国の王であるサルマン自らが出張らなければならない事態に陥っているのだ。
破綻の力が解放されれば、この世界は大穴をあけて滅びることになってしまう。王子誘拐に自国民が関わったとして、あの怠惰でやる気がない『闇の王』までリヤドナにやって来ると言っているのだ。腐の国の王であるサルマンが、面倒だからで王都に引きこもっていられるわけもない。
「馬車は用意しております、時間がありませんのですぐに移動いたしましょう」
そう言って、聖女と光の国の若手三人組とその護衛の者たちを連れて、火の国との国境にあるリヤドナまで移動することになったのだが、空を覆い尽くす炎の魔法陣を見上げたサルマンは思わず大きく項垂れた。
サルマンがリヤドナの街に到着したのは夜だったのだが、目の前でリヤドナの住民たちがあっという間にゾンビと化していくのだ。吸血鬼王が下法に手を出しているのは有名な話ではあるが、我が国でそれをやるか?
灰色の髪色をしたサルマンは二十八歳。面倒臭いからという理由で妃も置かず、後継は妹の子供で良いだろうと宣言している男なのだが、背は高く、鍛えられた身体つきをして武人そのものの様相を呈してはいるものの、彼は王国で随一の死霊術師でもあるのだ。
「光の小童どもよ、レベルは幾つだ?まさか30以下じゃあるまいな?」
人族であれば一生を鍛錬に使ってもレベルが30から50までしか上昇しないが、光の一族があまりレベルを重視していないことは周知の事実。
「吸血鬼どもが劣化版の同族を増やすためのウィルスをばら撒いたようだ。レベルに自信がないものは結界内へ移動しろ!ゾンビになりたくなければ馬車に引っ込め!聖女様をお守りしながら結界を何重にも張れ!世界を賭けた死闘に巻き込まれたくなければ、結界は厚めに設定しろよ!」
政治の上では腐の国は圧倒的な弱者、犯罪の上で成り立っているような国家であり、正常で真っ当な政治をしている光の国相手では、冷や汗かきながら揉み手をするより他ないのだが、これが戦いとなれば話は別となる。
「お前ら!火の国の王が国中に感染が広がるのを防いでくれていらっしゃる!その間に我らが手で大元を叩くぞ!」
腐の国は確かに腐っている、政治の上では腐っているが、防衛に関してだけは他の追随を許さない。この防衛力があるからこそ、犯罪者たちに国家が好きなように扱われるということがないのだ。
「了解です!」
「街の包囲は完了しています!」
「すぐに行けます!」
すでに街の外はアンデッド達により包囲が済んでいる。
百万という数の白骨が地面の中から湧き出てくるその上空を、怪鳥の骨に飛び移りながらサルマン王は羽ばたいた。
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