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5. 金玉じゃなくて神玉

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

『ブウウウウウウウウウウンッ』


 巨大な力を集めるような異様な音が響き渡ったかと思うと、生徒たちの悲鳴と共に天井が破壊されて大穴があいていく。ここはおそらく地下だと思うんだけど、遥か上にあるアーチ状の屋根が吹き飛び、漆黒の夜空に巨大な力が消えていく。


「「「きゃあああああっ!」」」

「「「助けてーーー!」」」


 頭上から降り注ぐ瓦礫の塊を体に打ちつけた生徒たちから悲鳴が上がっているけれど、僕の体は動かない。あちこち骨が折れているし、左手が欠損して肉が剥き出しとなった肩から血が溢れ出ている。


「おおおっと、先生、早急にこれを飲むバウ、追いかけてくるのが遅れて悪かったバウ。まさか先生の腕が捥げるとは思いもしなかったバウ」


 瓦礫に埋もれたままの僕を掻き出して助け出してくれたのが熊の獣人で、その肩には僕のリュックが引っかかっていた。その中からポーションを取り出して器用に僕に飲ませたバウさんは、

「欠損した腕を元に戻すポーションはないバウ」

と言って僕から視線を逸らした。


 ひ・・ひ・・ひ・・酷くない?

本当に酷くない?本当に酷いよね?絶対に、僕が誘拐されるのを分かっていて見過ごしたよね?その所為で、僕の片腕は消滅だよ?


 僕の肩の付け根は肉が盛り上がって皮に覆われたけど、貧血が酷くてクラクラする。水着にパーカーの上着を着ているだけの姿だから、薄着すぎる。足が裸足なんだけど、気が付けば周りは瓦礫の山となっていて、そこから逃げ出した生徒たちが僕の方へと集まってきた。


「先生!腕大丈夫?」

「先生!助けて先生!」

「僕たちどうなるの?」


 面倒くせーーーっ!


「ねえ、君たちから見て、僕、どんな状態になっていると思う?」


 片手を失った僕が残った右手で前髪をかきあげながら問いかけると、子供たちは顔を真っ青にして下を俯いた。

「君らがね、借金のカタとして連れていかれたって聞いたから、先生、カーンの街からここまで追いかけて来たんだけどね?君らが好き勝手していた話は聞いているよ?」


「先生!ごめんなさい!先生!」

「ごめんなさい!俺たちが悪かったです!」

「助けて!先生!謝るよ!謝るから助けて!」


 生徒たちが謝り倒す中、生徒の数を数えたら十一人、一人足りない。


「先生!美波が吸血鬼に捕まった!」


 見れば牢獄の向こう側で、土屋美波が女吸血鬼に足を持ち上げられて宙吊りとなっている。


「本当に面倒くせーーーっ!」


 貫通魔法が使えない僕は、神の糸を毛糸玉のように丸めて女吸血鬼に向かって投げつけた。今使えるのは神の〇〇シリーズだけだから、手間がかかる、面倒くさい、ああ、面倒くさい。


「バウさん!僕の首のチョーカー、魔力封じみたいだから外してくれない?」

 僕がお願いしている間に、バウさんが鋭い爪で僕の首のチョーカーを外してくれた。すると、弾けるようにして魔力が爆発していく。


「神の檻!」


 金色に光る塊の衝撃で女吸血鬼が手を離した。そのおかげで土屋美波が地面へと落下したんだけど、怒りの声を上げる女吸血鬼から距離を作るために土屋美波の前に金色の檻を出す。すると、そちらに向けて、吸血鬼王と対峙していた『この人』さんが手を拡げた。

 すると、再び、

『キュウウウィイインッ』

という異音と共に、強大な力が発射されて、女吸血鬼が空の上へと吹っ飛んで行ったのだ。


「奴ら、この人さんが僕と一緒に、腐の国に来たことを知らなかったみたいなんですけど?」

 吸血鬼王と対する狐の獣人『この人』を見ながら僕が問いかけると、バウさんはあっさりと答えたわけだ。


「幻覚魔法をかけていたから、僕らは他所者からは蜥蜴人にしか見えないようにしていたバウ」

「なんで僕も蜥蜴人に見えるようにしてくれなかったんですか?」

「だって、先生は囮・・・」


 出たよ、言葉を途中で止めたところで分かっているんだよ。このクソ熊野郎が、僕を囮に使いやがったな!


「先生!怖かった!私怖かったの!」


 ようやっとこちらの方まで走ってきて、僕に抱きつこうとした土屋美波を、生徒がいる後の方へ放り投げると、

「神の檻」

 金色の柱で生徒たちを囲むようにして前へ出る。


この人さんに上空へ吹っ飛ばされた短髪の女吸血鬼が反転して、物凄い勢いでこっちに向かって来る。その顔面をバウさんが捕まえるなり、地面に何度も叩きつけた。

その間、後頭部の部分に顔を移動させた吸血鬼がバウさんに噛みつこうとした為、バウさんはその吸血鬼の口に踵落としを食らわせて、拳で腹を突き破ったのだ。


 僕の方には金髪美人が向かって来たんだけど、サメみたいな歯を剥き出しにしてくるからめちゃくちゃ気持ち悪い。確かこの人、プールでバーテンダーをしていなかったっけ?


 鋭い歯が何百本と生えた口の中に、僕は神の糸をぐるぐる巻いて作った玉を投げ込んだ。すると、神の糸で出来た玉は口の中で無数の糸を伸ばし、口から内臓から、外側から、とにかくがんじがらめにした状態にしたわけだ。僕は残った右手で女の額を捕らえた。


「吸引魔法」

あああ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、ドロドロとした魔力という魔力を吸い上げていくこの作業が本当に嫌だ。


「いやぁぁあああ!やめてえええええ!」


 今までやめてと言われてやめたことがないような人達は、何で自分の時にはやめてくれと主張するのだろうか?やめてと言われてやめるわけがないだろうに。


 バウさんが倒した吸血鬼と僕に向かって来た吸血鬼が灰になるのはほぼ同時で、


『ピロロロロ〜ン 効率を求める教師の要求により神の糸を丸めて神玉としました。敵に投げつけることにより、神の糸による捕縛を可能と致します。吸引魔法、レベル10にアップしました。吸引速度が2倍になる付与が発動します』


 ピロロン、神の糸で輝く金色の玉を金玉じゃなくて神玉と命名したんだな!と、僕は心の中で雄叫びをあげたのだ。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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