7. 破綻の力
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エレメントの種類によって国が分かれているこの世界では、各国の王族はエレメントの象徴とされていた。
どれだけ様々な血が混ざっていたとしても、エレメントの素養がずば抜けている者こそが国を従える王の地位に就く。
国王として認められるには、国を統治するための能力はもちろんのこと、エレメントの力も重視される。どちらか片方を持っていれば良いというものではなく、両方持たなければ王たり得ない。
だからこそ、統治能力は無いけれど、エレメントの素養だけは飛び抜けてあるという場合は『名を伏した人』として国の庇護下に入るのだ。
火の国ギュイヤンヌの第八夫人は、砂漠間の交易で力をつけた一族の族長の娘であり、その保有魔力の多さを見込まれて、公王アムールに嫁いだのだった。
公王アムールは十人の妻を持ったが、第八夫人はその中で一番身分は低いものの、飛び抜けた魔力と武力の保有者でもあった。
第八夫人はその後、カリム王子を産んだのだが、このカリム王子の魔力量は火の国では見たことがないほど膨大なものであり、あまりの魔力の強さから公王すら近づけず、王子の世話は夫人のみしか行えない。
棘のように刺さり、身を蝕むような魔力の強さは異常なものであり『名を伏した者』にすらなりえない『破綻の力』と呼ばれるものとなる。
世界を破滅に追い込むことが出来るほどの力を、今は母である第八夫人が抑え込めてはいるものの、子供の成長に従い、国の重鎮たちは不安に最悩むこととなったのだ。
王都からも離れた場所にある、強固な結界に守られた離宮にカリム王子は母と共に入れられていたが、そんな恐ろしい力の持ち主など殺してしまった方が良いのではないかと言い出す者まで出てくる始末。
「この力はハジャナン神の力、無闇に人が裁いて良いものでは決してない!」
砂漠の部族が昔から信奉し続けている『ハジャナン』信仰では、邪を廃し、難敵を退け、新しい世界を築く力を説いている。大きな力は悪へと走れば世界を破滅させるが、良き方向へと導くことが出来れば、火の国に仇なすものを排除する力となり、新しき世界を築く礎にもなるだろうと、公王は辛抱強く周囲に語り続けた。
世論が落ち着くまでの間、カリム王子を火の国から一時的に遠ざけようと考えた公王は、移動先をどこにするかで悩んでいたという。そんな矢先に第八夫人が殺されて『破綻の力』を持つカリム王子が誘拐されたのだ。
捜査の末に、水の国のアンギーユという魚人と闇の国の吸血鬼王が関わっているという事が判明した。実行犯が魚人で、カリム王子誘拐の指示を出したのが吸血鬼王となるらしく、ここに来て、火の公王の元へ、闇の国の王と水の国の王の二人から急使が送られてくる事態となったのだ。
「あああ・・カリム・・なんて可哀想に・・カリム・・カリム・・・」
身を傷付けるような魔力を持つカリム王子を直接その腕で抱くことは出来なかった公王アムールだったが、王子と自分を繋ぐ呪術によって二人は常に繋がっている。
強力な結界によって王子の居場所はいまだに見つけられていないのだが、王子が傷つけられると、その痛みが刺青となって公王の体に現れる。
今も尚、腕に現れる刺青を見つめながら苦悶の表情を浮かべていたアムールは立ち上がると、
「今すぐ腐の国に急使を送れ!」
苛立ちの声をあげたのだ。
◇◇◇
「せーっかく、レオニートが居なくなって吸血鬼王様を独占できると思っていたのにぃ!なんでわたしらが餓鬼の世話をしなくちゃならないんだろうねぇ!」
吸血鬼卿のゾーヤが怒りの声をあげながら幼い子供を傷つけると、鋭い魔力を弾けさせながら子供は火がついたように泣き出した。子供の内包する魔力は煮えたぎるマグマのように激しいもので、下位種がその身に触れれば、すぐ様、弾け飛んで死ぬだろう。
だからこそ、子供の世話は上位種の持ち回り制となっているのだが、ゲラーシー、エメリヤン、カチェリーナが水の国を滅ぼすために出向いている最中は、面倒を見るのが吸血鬼卿であるゾーヤか、リュドミーラしかいない。
一番年若いレオニートは、吸血鬼王の移動を安全なものとするためにと腐の国へ前乗りしている状態であるし、最長老でもあるヴァレリアンは子供を視界に入れるのも嫌がるのだ。
自然とゾーヤが手をかけることが多くなるのだが、食べ物を与える以上に傷つけて楽しむのがゾーヤのやり方なので、まだ五歳にもならない火の国の王子は傷だらけの状態でうずくまっているのだった。
「リュドミーラ、ゾーヤ、子供の準備は出来たか?」
アダルブレヒトは始祖の血を濃く持つ吸血鬼の王であり、純白の髪を高々と結い上げた、凍てつくような美貌の持ち主でもあった。
色香を向けただけで殺戮に踏み切る気性の持ち主でもあるため、二人の女吸血鬼卿はすぐさまその場で跪いた。
「母親を目の前で殺した、毎日、最低限の食事を与え、暴力を奮い、心をへし折り、闇の奥底へと精神を落ち込ませていると報告では聞いたが?」
「はい、すでに子の心は絶望の中に沈み込み、闇の中へ堕ちております」
すぐさま答えるリュドミーラに、ゾーヤは顔を引き攣らせた。子供を傷つけていたのも、面倒を見ていたのもゾーヤなのに、自分の手柄のように言うリュドミーラの性根が気に食わない。
「我らが王よ、腐の国へ子を移動せずとも、我らが配下に面倒を任せれば何の問題もないと思うのですが?」
「必要ない」
アダルブレヒトは気を失った傷だらけの幼子を摘むようにして持ち上げると、持っていた容器の中へと入れてしまう。そうしてその容器を侍従へ渡してしまうと、
「腐の国リヤドナへ移動する」
とだけ言って、踵を返してしまったのだ。
吸血鬼王にとって雌は嫌悪すべき存在となる、本来であれば有能な臣下であっても雌など近くに寄せたくはないのだが、世界を変えるまでの我慢だと考えて、尊敬の眼差しを向ける二人の女吸血鬼卿に背を向けたのだった。
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