4. ある吸血鬼の訴え
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僕は知らなかったのだが、この世界には後見人制度みたいなものが存在するらしい。
カーンの街の市庁舎で僕の生徒たちの登録をする際に、
「彼らの後見人は先生で構いませんよね?」
と、問われた時には、
「はい、それでお願いします」
と、僕は答えていたのだが、その時の申請書類には、生徒三十人の後見人は僕という形で登録がされたんだってさ。
後からやってきた三年三組の生徒たちにしても、市への申請を済ませる時に、後見人を坂口先生から僕へと変更がされていたらしい。
そんな僕の後見人は誰になっているのかというと、なんと!なんと!ブルージュ王国の王様であるセザール3世がなってくれているんだって!その国王陛下に頼まれた形で、王の補佐として『この人』さんの名前が載っているんだってさ!知らなかったなー!
「つまりはね、黒髪、黒目のルーベに移動してきた異邦人は、同種ということもあって先生の庇護下に入っていることになるのネ。だから、勝手はするなとハムダンには注意をしておいたんだけどネ、奴は金の誘惑に負けて勝手に生徒たちをオークション会場に送り込んでしまったのネ」
「裏で吸血鬼卿の一人が動いていたのよ」
カジノのオーナーであるハサウェイさんが憂いを含んだ様子でそう言うと、
「僕じゃないよ!僕じゃない!僕じゃないってば!」
ハサウェイさんの隣に座る少年の吸血鬼が慌てた様子で言い出した。
「僕の伯父が今の吸血鬼王になるんだけど、吸血鬼卿といえば伯父の熱狂的な信奉者ばかりだから、伯父の代わりに復讐をしてやろうっ!みたいな感じで暗躍しちゃったんだと思うんだよね?」
今や七人になってしまった吸血鬼卿の一人となるレオニート君は、見かけは少年だけど御年196歳になるんだってさ!だけど、周りの吸血鬼卿は古参ばっかりだから、もっと年上で、196歳でも若輩者扱いなんだって!
「ごめんなさいね、この子が吸血鬼王を倒すほどの人物なら力試しをしてみたい!だなんて言い出して、私も強く止めれば良かったんだけど、一度言い出すと聞かない子だから」
ハサウェイさんはそう言ってにこりと笑いながら、周りの侍女たちにケーキをもっと持ってくるように指示を出している。
崩壊したと思ったカジノは元通りとなったので、僕らは要人を招いた際に使われるという豪奢なサロンまで案内されて、紅茶をいただくことになったのだ。
そこで、カジノのオーナーのハサウェイさんが、196歳のショタな吸血鬼に随分と親しげな様子なのを不思議に思っていると、
「ハサウェイ様はレオニートの大伯母さんになるバウよ」
と、隣に座っていた熊の獣人のバウさんが教えてくれる。
え?196歳のショタの大おばさんって・・・年齢はいったい・・・
「先生〜、女性の年齢を追求するのはマナー違反ネーー」
目の前に置かれた珈琲に口をつけながら、この人さんがちらりと僕の方を見る。
「エルフ族と同じで、吸血鬼族も寿命がとても長いのよ。アダルブレヒトも昔は良い子だったんだけど、いつの間にかあんなことになっちゃって」
えーっと、アダルブレヒトって今の吸血鬼王の名前じゃなかったのかな?
「ハサウェイさんは、レジェンド級の吸血鬼バウ」
心を読むバウさんが隣にいると、声を出さずに疑問が解消されていく事になるんだな。
心理を司るギフト持ちのバウさんは、他人を幻覚、幻聴で惑わせることが出来るし、他人の思考を読むことが出来るんだってさ。さっき、吸血鬼が僕の攻撃を弾き返して周囲の建物が壊れたように見えたのも彼の幻覚作用によるもので、この人さんが被害が出ないように結界を作り出していたそうだ。
そんなことは知らなくて僕はカジノをぶっ壊してしまったんだけど、
「そこはご愛嬌なのネ〜」
と、この人さんが言うから、それでいいんだろうさ。
「ちなみに、一つ疑問なんですけど、吸血鬼王を倒すやつを試したいって言いながら、何で僕に突っかかってきたんですかね?そこの意味が良くわからないんですけど?」
「だって!あなたはアダルブレヒトを倒すのでしょう?」
「伯父さんの暴挙を阻止してくれるって聞いたけど?」
「はい?」
いつから僕は『吸血鬼王は僕が倒す!』みたいなことになっているのだろうか?
「ちょっ・・と・・何を言っているのか分からないんですけど・・」
「分からないじゃないでしょ!あなたが吸血鬼王倒すって、闇の王から連絡があったから!僕は腕試しをした訳であって!」
「闇の王?」
なに?闇の王って?
「闇の王とは闇の国オプスキュリテのドゥンケル王のことバウ」
「ドゥンケルと僕は仲が良いんだけど、お互いに、最近の吸血鬼のやり方には疑問を感じていたんだよね!」
闇のなんたらと言うと、悪魔みたいな奴らの集まりなのかと僕なんかは想像してしまうのだが、聞いてみたら、闇のエレメントを司ることから光とかが極端に苦手なだけであって、出来れば闇の中で怠惰にゴロゴロ過ごしたい連中の集まりなのだとレオニートくんは言い出した。
「吸血鬼なんて、怠惰ゆえに番って繁殖するのが嫌いで、労せず仲間を増やすことが出来るという理由だけで血の継承をやっているような一族なんだよ?若い奴らが軟弱であればあるほど、嘆かわしい!我々の時代はそうじゃなかった!力が正義!とか言い出す年寄りが増えちゃってさ!やっぱり番って子孫を!とか言いながら、お前らがそもそも面倒臭いとか言ってやらなかったから、今現在、こうなっているんじゃないかと言いたいわけ!」
今更ながらではあるが、力を求める吸血鬼たちで番での繁殖を試みたところ、怠惰に過ごした期間が長すぎて吸血鬼自体が高齢化してしまい、なかなか子供が出来なくなってしまったのだという。
「僕も番って出来た子になるんだけど、本来、血を残すために頑張らなくちゃいけない伯父さんがあの調子でしょう?それで、周りの危機感が半端ないことになってきたというか、暴走し始めちゃったというか」
「吸血鬼の暴挙に非難が集まっていたところに、水の国の『あの人』を殺してしまうという取り返しのつかないことをしてしまったのです。今の吸血鬼王を廃すべきという声は世界的に高まっているのよ」
そりゃそうよ、だって、やっていることが残虐でメチャクチャなのは間違いないもんね。
「いや、だからってですね、なんで僕が吸血鬼王を倒すことになっているんですか?」
僕が年齢不詳でお上品な吸血鬼と、ショタの吸血鬼に向かって問いかけると、二人はお上品に笑いながら、
「だって先生なら出来るからぁ」
「ねえ!」
と、言い出した。
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