9. 脳筋教師の成れの果て
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翔平の両親は教師をしていた。
叔父と叔母も教師をしているし、兄も教師の道を目指したことから、自然と翔平も将来は教師になろうと考えた。
スポーツ関係はどれでも得意な翔平としては、数学とか国語などの教科の先生ではなく、体育の教師がいいだろうと考えた。
翔平の親の時代であれば、土日祭日が部活で潰れたとしても、夏休みや冬休みには長期間の休みが取れていた。翔平は子供の時には親の実家に二週間近くも帰っていたし、冬には二泊三日のスキー旅行にも出かけていた。
教師は給料も良いし退職金もしっかりしているので、地方公務員として人気の職業でもあったのだ。それが今は一変して、夏休み、冬休みの長期間の休暇取得は不可、実質、週休1日制度が常態化、夜の9時まで働いても残業代なし。
給料も手取り額がどんどんと目減りしていって、責任ばかりが大きくなっても安月給でこき使われるばかり。クレームを入れてくる保護者の対応をするのは当たり前、メンタルがやられる教師は続出し、退職していく教師も後をたたない状況となっている。
「いや・・俺ならやれる!俺ならやれる!」
不都合には目を瞑って、うまいこと教師生活を送って来たじゃないか!
教室内でイジメがある?仕方がない、仕方がない、思春期で精神的にも不安定な中学生だったら仕方がないって。
問題がある生徒がいる?仕方がない、仕方がない、保護者にも問題があるんだから仕方がない。教師が関わると言っても限度があるのは分かるでしょ?
もう!考えたくない!俺はやっている!俺は自分のできる限りのことはやっているよ!
門構えにも素晴らしい細工が施された高級カジノの前までやってきた翔平は、エメラルドに輝く椀状の屋根が、奥の方まで無数に連なる様に圧巻されていた。ルーベの一等地にあるカジノは会員制のため、今まで賭け事を楽しんできた翔平もここには入ったことがないのだ。
「俺は特別だよ・・だからこんな特別なカジノに出入り出来るようになったんだし・・」
このカジノは火の国の王族も通った事があるようで、中で働くディーラーは巨乳の美人ばかりだと噂話で聞いていた。飲み屋で知り合ったサルダナがこの高級カジノの会員だから、今度一緒に遊びに行こうという話になったのだ。
「先生、今日は存分に楽しみましょうね〜!」
まつ毛が長く、彫りが深いサルダナは、オリエンタル美人といった言葉がうまい具合にハマる容姿をしており、今日は夜まで一緒に遊ぶことを約束しているのだった。
今日がどれほど楽しい一日になるか激しく妄想していた自分を殴ってやりたい。
何故、自分は馴染みでもないカジノで大金を賭けるようなことをしてしまったのか。
「「「先生!助けてよ!先生!」」」
「「「先生!助けて!先生!」」」
賭け事に勝てていたのも一時のことで、後から、後から負けがこみ、あっという間に到底返すことが出来ない額の借金が積み上がってしまったのだ。
茫然自失する翔平の前に、十二人の生徒たちが連れられて来られて、借金の片として売りに出すと言われてしまう。金を払って雇った護衛は尻尾を巻いて逃げたらしく、裏で働く男たちに囲まれた生徒たちは怯えた表情を浮かべ、泣き叫んでいる子もいる。
「もはや、異邦人の子供を売るしかない状態ジャンねえ?ショウヘイの借金は多額だから、普通に売っても元が取れないジャン?だから身元を確かにしてオークションにかけるために、この売買契約書にショウヘイがサインをする必要があるジャンねえ」
そう話しかけてきたのは、大きな体つきをした顔が傷だらけの大蜥蜴の獣人で、生徒十二名の名前が記された書類に、後見人としての責任を放棄し、売買を許可する旨を記した上で、サインをするように命じてきたのだった。
三十人近くの大蜥蜴の獣人に囲まれた自分に一体何が出来たと言うのだろうか?
ナイフを首に突きつけられ、殺される寸前までいった自分に何が出来ると?
サインをしなければ自分が殺されていたんだ。これは異世界転移をしてしまったという異常事態の中で起こったことなんだ。自分は悪くない、絶対に悪くない。
檻に入れられて運ばれていく生徒たちを見送ると、
「まだショウヘイの借金は完済したわけじゃないジャン?」
と言われて、両肩を掴まれることになったのだ。
周りの人間や獣人が言うに、異邦人とは周囲に良い影響を与え、発展を促す存在であるべきなのに、遊ぶことばかりに夢中で、周りを鑑みなかったことが問題だったと。冒険者ギルドに通って魔獣を倒している間はまだ良かったものの、それもしなくなったとあればルーベの街としても利用価値はないと判断したらしい。
「ショウはカジノで用心棒として雇われることになったけど、瓶詰めにされるよりかはマシだったニャロ?」
下働きの大蜥蜴の獣人が真っ赤な舌をチロチロ出しながら言い出した。
「人族の内臓は、一部に嗜好品として人気ニャロ。オークションにかけられることになった雄の子は内臓を引き出されて瓶詰めにされるだろうし、雌の子はもっと悲惨な目に遭うニャロ。それを考えたら、ショウは運がいいニャロよ」
すると、鋭い眼をした大蜥蜴の獣人が言い出した。
「いやいや、今後はどうなるか分からないズン。何でもカーンに移動した異邦人の一団が吸血鬼卿を倒しちまったっていうズンよ?それで吸血鬼どもが怒っちまって、同種族を根絶やしにするって息巻いてるズンよ?今度のオークションに出すのも、吸血鬼一族の目をそっちに向けさせるためだって聞いたズン」
「うわー!吸血鬼に手を出すとは命知らずニャロ・・・」
「だからな、ショウだっていつまでも安泰だとは到底言えないズン」
用心棒として働くことになった翔平は、どうやら西山先生たちが水の国で吸血鬼卿を殺したのが、今回の騒動の一因となっていることを知った。
この世界には吸血鬼が存在して、その吸血鬼の王の怒りを西山先生が買ったからこそ、同じ異邦人である自分たちが吸血鬼に狙われることになったのだという。
吸血鬼は残虐で有名なため、目を付けられれば街全体が被害を受けることにもなるため、翔平を賭け事で借金漬けにした上で、同種の子供達をルーベの街の外に追いやった。
丁度、隣国の街リヤドナで奴隷売買のオークションが行われる予定であったため、これ幸いと火の国から追い出してしまったということになるらしい。
そこで何故、翔平だけが残されたのかというと、王家から御下問があった時に、異邦人として説明させるために置いているだけなのだとか。
「くそ・・くそ・・くそ・・」
西山先生が吸血鬼に手を出すというのが全く理解できないけれど、あの先生が変な事さえしなければ、こんな事にはならなかったのに。全て悪いのは西山先生なのだ・・くそ・・西山先生・・あいつの所為で俺の生徒が・・
「ねえ、力が欲しい?憎いやつを倒すための力が欲しくない?」
警備兵として立つ翔平に女が声をかけてきた、その瞳が怪しく緋色に輝いていることに翔平は気がついていない。
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