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2. あの人の候補

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 街の人たちは麻の生地に朱色や紺色の刺繍を入れたものを衣服にして着ているんだけど、ちょっとお金がかけられるようになれば、革を使ったジャケットとかズボンとかを着るようになるわけだ。

 手持ちの衣服がゴブリンの血液でドロドロとなってしまった僕は、カミーユさんに与えられた革を使った上等な服を今は着ている事になる。


 狐の獣人である『この人』さんは、紺色のスウェード生地のズボンに黒革のブーツを履き、純白のシャツに深緑色のウェストコート、コートを羽織っていた。僕らとは一線を画したファッションのこの人さんは、街の中心部にある冒険者ギルドへと僕を案内したわけだ。


 冒険者ギルドの一階は、昼間は誰でも利用出来る食堂として利用できるようになっているけれど、夜になれば蝋燭の灯りだけが灯される。大人の雰囲気に満たされたような会員制の酒場のようになっていた。


 カーンという街には表の顔もあれば裏の顔もあるようで、昼間になれば魔獣の討伐依頼や薬草の採取など、ある意味健全なクエストが発注される事になるけれど、夜ともなれば後ろ暗い者たちが集まり、表には出せないようなクエストの受注が行われることになるという。


「先生!やっぱりこんな夜は眠れないものでしょう!そんな夜は酒でも飲んで、嫌な事は全部忘れちゃいましょう!」


 冒険者ギルドの扉を開けると、まず声をかけて来たのがSランクの冒険者だというアロイジウスさんで、猫耳ウェイトレスのお姉さんに、僕の分まで勝手に注文を入れている。

 言っている事が完全に飲み屋で酒を飲んでいるサラリーマンみたいなアロイジウスさんだが、姿形は冒険者のそれだ。


 そんなアロイジウスさんがイエティになっちゃうんだもんな〜、本当に心の奥底から理解出来ないよ。


 この人さんは、語尾がバウでお馴染みのクマの獣人と何かを話しているようなので、僕は仕方なしにアロイジウスさんの向かい側の席に座ると、

「先生!先生のおかげで棲家を追われずに済んだですニャー、これはワッチからのサービスですニャー」

と言って、巨大な胸の猫耳獣人のウェイトレスさんが、ジョッキに注がれたエールと一緒に肉を揚げたものを置いてくれた。


 すると、同じように酒を飲んでいた人族や獣人族の人たちが、持っていた酒を掲げながら言い出した。

「先生ありがとうな!」

「先生のおかげでここに住み続けられるダン!」

「本当に助かったよ!」


 一通りお礼の言葉を浴びせられると、サラリと僕から向きを変えて飲みに戻るわけだから、これがここの流儀という奴なのかもしれない。


「それにしても、将軍ランクを含めたゴブリン千匹討伐に、英雄王(ゴブリンキング)の討伐に、吸血鬼卿(バンパイヤロード)とその下僕の討伐までしちゃうんだから、1日でこなす量じゃないよ」


 呆れたような様子でアロイジウスさんが言いながらニヤニヤ笑うので、僕はちょっと考え込んでしまった。


「S級であるアロイジウスさんがすぐそこまで来ていたのだとしたら、僕は何もせずに逃げ出しても良かったという事でしょうか?」


「いやー、実際問題、ゴブリンたちが直線襲撃(ストレイトアタック)を始めてしまったら、流石の俺も止めようないからなぁ。確かにカーンには『この人』さんが居たから、何とかなる可能性もなくはないけど、まず、街自体が跡形もなく無くなっていただろう」


「はい?」


 街自体が跡形も無くなるってどういう事でしょうか?っていうか・・


「この人さんって冒険者扱いだとやっぱりSランクって事になるわけですか?」

「この人さんがSランクのわけないよ〜」

 アロイジウスさんがワハハと笑い出す。


「先生はこっちの世界に来たばっかりだから、ここのシステムを知らないのか!そうだよね!他の世界ではあまり聞いた事がないって話は俺も聞いた事があるよ」


 アロイジウスさんの説明によると、各国では絶界級と呼ばれるレベルの人を4枠まで囲い込む事が出来るらしい。Sランクよりも遥か高みに居る存在で、修練によって辿り着ける場所には居ない人達という扱いらしい。

 遥か昔から絶界ランクは名を秘するものとされており、世界共通で『この人』『その人』『どの人』『あの人』という敬称をされる事になるという。


「この人さん曰く、先生は『あの人』候補らしいんだけどね?」

「何の冗談ですか?」

 意味がわからない。

「エグいほどの討伐数を見れば、誰しも納得すると思うけど?」

 いやいやいやいや。


「先生は、異邦人として異世界に到着したその日のうちに、アンギーユのクソ野郎を倒した凄い奴なのネ〜。丁度、セレーナが亡くなって、後釜を誰にするか揉めていた所だったから丁度良かったのネ」


 なみなみとウィスキーが注がれたグラスを片手にこの人さんが席につくと言い出した。


「セレーナは吸血鬼王(バンパイヤキング)に殺されたんだけどネ〜、その吸血鬼王の側近が、今日、先生が殺してくれた吸血鬼卿(バンパイヤロード)だったのネ。師匠の仇を討った先生は『あの人』への道をまっしぐらなのネ〜」


 猫まっしぐらみたいに言われても困惑だし、そもそも、そのセレーナさんは僕の師匠でも何でもないのだが。しかも大元じゃなくて側近を倒しただけだよね?


「よくわかんないんですけど、名を秘する者と言いながら『あの人』だった人の事をセレーナさんって呼んでもいいんですか?」

「死んだら絶界の呼称から解放されるから、死んだら名前で呼んでもいいのネ」

「えーっと・・・」


 死んだら呼んでもいいって言うのがよく分からない。そもそも、古くからの付き合いの人は本名を知っているわけだよね?だというのに、わざわざ名前を隠す意味が分からないんだけどなぁ。



ここまでお読み頂きありがとうございます!

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